協賛シンポジウム ヘルスケア分野のICT活用が可能にするQOL・QOD向上 浅沼一成厚生労働省課長他

本シンポジウムでは、健康・医療・介護の分野におけるAI・ビッグデータ等の情報技術の活用がQOLQOD向上のためにどう貢献できるかについて、国内・海外の先進事例の紹介も含めながら議論した。

主催:株式会社国際社会経済研究所(IISE)・アクセシビリティ研究会
協賛:特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム
開催日時:2019423日(火曜) 14:00-17:3013:30開場)
開催場所:大手町ファーストスクエアカンファレンス Room A
東京都千代田区大手町151ファーストスクエア イーストタワー2F 

以下、文責:山田 肇

基調講演では浅沼一成厚生労働省大臣官房厚生科学課長が次のように講演した。AIは患者に最適な医療を提供し、医療従事者の負担を軽減する。しかし、例えば画像診断であれば医師法でどう取り扱うか、機器であればどう承認するかという課題がある。これを解決し社会実装するため、規制緩和を含め、コンソーシアムを組んで検討している。コンソーシアムの主査を医療関係者ではなくソニーの北野氏(AI倫理にも関わっている)に依頼したのも、改革の意思を示すものである。

野﨑一徳大阪大学歯学部附属病院医療情報室副室長・病院准教授は、老化と共にどのように歯が失われていくか研究している。全国の歯科医師の診察がNDBNational Database)に記録され、パノラマX線写真もある。それらをAIにかけると歯科疾患の特徴が浮き上がっていく。このAIで新しい患者の情報を診断すると、その患者の疾患進行が予測できる。たとえば、スマートフォンで咬合状態の写真を取りAIにかけるだけで、歯が失われていくシミュレーション動画を添えて、指導できる。こうして歯科疾患の進行が押さえられるようになる。

萩原悠太株式会社PREVENT代表取締役は次のように講演した。企業の健康保険組合では5%の社員が52%の医療費を使っている。健康診断結果からこの5%に入るリスクが高い10から15%の社員を見つけ出し、それらの社員に健康指導するサービスを提供している。その結果、ほとんどの社員のQOLが向上するという成果も紹介された。生活習慣の改善を促し続けていくことで発症リスクが低下していき、社員のQOLが向上し、長期的には医療費が低減されていく。

遊間和子株式会社国際社会経済研究所主幹研究員は英国の状況を報告した。英国でも社会の高齢化が進展し、「ゆりかごから墓場まで」の社会保障が揺らいでいる。そこでICTを使った医療の変革に動き出した。たとえば、患者データを研究や保険政策立案にオプトアウトで活用できるようにした。ICT利用の一環として、終末期ケアに関する情報共有システムも動き出した。かかりつけ医、地区看護師、ホスピススタッフなど多職種の専門家が終末期の患者の情報にアクセスできる。情報には「どのような死を迎えたいか」という希望も書かれ、それが尊重される。希望を登録した後に死亡した2180名のうち75%は希望の場所で死亡できた。ケアに要した費用も、未登録者の年間平均2600ポンドに対して、登録患者は500ポンドと節減できた。

パネルディスカッション「ICTが可能にするQOLからQODへのシームレスな対応」は山田 肇東洋大学名誉教授がコーディネーターとなって実施された。パネリストは川添高志ケアプロ株式会社代表取締役社長、北見万幸横須賀市福祉部次長、野﨑一徳氏、萩原悠太氏、平尾 勇株式会社地域経営プラチナ研究所代表取締役(前松本ヘルス・ラボ副理事長)。

冒頭に川添氏が訪問看護で重要なのは多職種関係者の間での情報連携であると、訪問看護実務の関係者を対象にした調査結果を発表した。次いで北見氏が、連絡先も分からないまま孤独で死亡する人が増えている状況を説明し、リビングウィルも含め、終末期の意思の事前登録の重要性を講演した。

その後、議論が行われた。その中では、個人情報保護が今は強調されているが、個人の保護を優先して健康・医療・介護情報のマイナンバーを用いた連携を、リビングウィルも含めて行うべきという考え方が表明された。また、予防にAIが広く活用される可能性が見えてきたことを踏まえて、先進地域での小規模な実証実験を実施したのち、エビデンスに基づいて診療報酬制度を改定して全国拡大するのがよいという意見も表明された。

パネルディスカッションの最後で以下のまとめが提示された。

  • ICTの利活用は患者本人のQOLQODを向上させる効果がある。
  • 本人のQOL向上が家族のQOL向上に、さらに訪問看護師等関係者のQOL向上にもつながり、リビングウィルの活用などを通じてQODの向上に結び付く。
  • IoTなどによる個人の健康状態のモニターと、AIも活用したビッグデータの統計解析が両輪で、個別化医療・介護が実現する。
  • ICTを広く利用していくためには、米国「21世紀医療法」などに負けない革新的な医療ハードウェア・ソフトウェアの早期認可制度が必要である。