セミナーシリーズ第2回「デジタルファースト法はなぜ必要か」 小木曽稔新経済連盟政策部長

主催:情報通信政策フォーラム(ICPF
日時:416日火曜日1830分から2030
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目 会議室E
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6
講師:小木曽稔(新経済連盟政策部長)
司会:山田 肇(ICPF
定員:40 

小木曽氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、小木曽氏は資料を用いて次のように講演した。

  •  デジタルを阻む規制に最初に関わったのは医薬品ネット販売である。薬事法という法律に当時何ら書かれていないのに対面販売を強制する厚生労働省の省令はおかしかった。しかも、対面販売で薬剤師が確認すべき事項が因数分解して規定されていないから、それらの事項がネット経由では満たされないかも確認できない。2013年に最高裁で勝利したが、厚生労働省は要指導薬という新たな分類を処方薬と大衆薬の間に作りネット販売を妨害している。
  • 不動産の重要事項説明をネット経由でもできるようにするといった改革では、まずは社会実験をして問題がないかということの確認が必要という議論にならざるを得なくなり、解禁までには一定の時間を要している。
  • これらの経験から、インターネットとICTを活用して「新結合」を生み出す根本的な社会改革の必要性に目覚めた。デジタル化阻害五兄弟は、対面・面前原則、書面交付原則、印紙原則、押印原則、様式原則であるが、これらを打ち破る基本法が必要であると考え、安倍政権発足当初から提案してきた。
  • 今回のデジタル手続き法案は一歩前進だが、精神のみが書かれているので各府省は運用で安易な例外を作ってくるかもしれない。ここまでたどり着くのに六年もかかったのには感慨も深いが、あまりに遅すぎると思う。
  • 手続きにはいくつかの種類がある。官と民の間の手続きが今回の法案で規定されているが、地方公共団体については努力義務にとどまっている。民と民の手続きでも法律でこうしろと決められている場合がある。不動産の重要事項説明がその例だが、これを突破するには個々の事業法の改正が必要である。残念ながら今回の法案では一般的な見直し規定があるものの個別の事業法の改正が入ってるわけではない。さらに民と民の手続きで法律の規定もないものがあるが、これの多くは慣行に縛られている。このように分類すると、デジタル手続き法案は第一歩であり、まさにこの法案をもとにいかに次につなげられるかが焦点である。
  • シンガポールなどは国家ぐるみでスマート化に動いている。日本よりも中央集権的な性格が強いためと言えばそれまでだが、国主導で認証基盤やアプリケーションを整えていくのは、インドやシンガポールを始めとして世界の流れである。日本には立ち遅れるという危機感がない。
  • デジタルファーストをさらに進めるには、たとえば完全デジタル化で先行した地方公共団体や民間企業にはインセンティブが与えられるといった仕組みが必要である。マイナンバーカードの普及についても、スマートフォンのSIMカードに認証機能を搭載して生活のすべての局面で利用できるようにするといった利便性の向上が求められる。この部分は、閣法成立後の議員立法に期待する。
  • デジタルファーストが中小企業のバックオフィス業務を軽減するといったことについての広報も必要である。日本全体のバックオフィス業務は2兆円規模の生産性向上が可能であると新経済連盟は試算した。デジタルファーストは働き方改革にも役立つ。このような情報を広く伝えていく必要がある。
  • デジタル手続き法で、政府は「情報システム整備計画」を閣議決定することになった。この閣議決定にどの程度の力が生まれ、各府省の情報システム整備がコントロールできるかは、まだわからない。情報システム整備計画によって、紙による処理を残すなどの例外を極力排除させるなど、各府省をけん制できるようにならなければならない。情報システムの整備について、民間の知恵も入れて、政府として取り組むようになって欲しい。
  • デジタルファーストはデジタル基盤を新たな社会基盤にするという社会改革である。民間の知見も活用して、個人データと法人データを活用できる社会を構築していくべきだが、その全体像(グランドデザイン)やシステムアーキテクチャはまだ明らかになっていない。

講演の後、次のような質疑応答があった。

デジタルファーストへの支持拡大について
Q(質問):医薬品のネット販売など、いかに主張を支持するサポータを増やすかが課題だったはずだ。薬局・ドラッグストアは薬剤師不足で困っている。この人材不足がネット販売で解消されると訴えれば支持が得られたのではないか。
A(回答):その通りだが、実際には薬剤師会やチェーンドラッグストア協会はネット販売に反対した。医薬品の販売は、薬局を前提とした専門家の配置の規制になっているのでそこは現状の立て付けではクリアしきれない。
C(コメント):自動走行バスはバス運転手の人で不足を解消するという効果がある。医薬品販売とはアナロジーがある。
Q:すでに六年が経過したという話があったが、スピード感をどう捉えているのか。
A:人口減少社会の中では、デジタルファーストは日本が生き残るための重要な課題である。きちんとKPIを定めて、各府省・地方公共団体を動かしていく必要がある。期限を定めると動くということもあるし、期限がわかれば民間も予見できるようになる。だから、KPIを期限付きで定めるのがよい。 

情報システム整備計画について
Q:情報システム整備計画は政府内で勝手に決めるのではなく、国民の目に見える形で議論して決めるべきではないか。
A:その通り。民間が参画して、対面を残す理由を問いただしたり、新しい技術の採用を提言できたりすべきだ。 

地方公共団体でのデジタル手続き化について
Q:地方公共団体には努力義務しか課していないというのが理解できない。どんな努力をしているかもチェックすべきではないか。
A:官民データ活用推進基本法では、第五条で地方公共団体に官民データ活用施策を策定・実施する責務を定めている。地方公共団体の努力をチェックする仕組みは確かに必要である。
Q:地方自治の本旨というが、本当に地域の個性を発揮すべきものと、共通でも構わないものとを分けて考えるべきではないか。
A:その通り。情報システムは国内共通で構わない。地方自治の本旨に反しているとは思えない。
C:地方交付税交付金を用いて情報システムの整備を地方公共団体に委ねると、他に交付金が流用される恐れがある。どの方法で地方公共団体の情報システム整備を支援するか、考え直す必要がある。 

国際競争力について
Q:シンガポールやインドに対する危機感が不足している問題をどう解決していくのか。
A:各府省に任せるだけでなく、経済界としても危機感を国民に訴え、改革をリードしていく必要があるし、そのように新経済連盟は動きたい。
Q:デジタル基盤ではAIも活用されるのだが、AI社会原則を守ることも重要ではないか。
山田:欧州が先ごろAI社会原則を決定し、日本も最終段階に入っている。日本と欧州のAI社会原則は整合しているが、社会原則など無視して突き進む中国や、企業の自由度が高い米国をけん制しないと、日欧がデジタル基盤の活用に出遅れる危険がある。多国間でAI社会原則の順守について議論していく必要があり、G20などに期待したい。
Q:海外に対して日本がデジタルファーストに変わりつつあると訴求すべきではないか。
A:確かに弱い。対外メッセージの発信のためにも、グランドデザインをきちんと書く必要がある。