アクセス Windows 8のアクセシビリティ機能 加治佐俊一マイクロソフト ディベロップメント株式会社社長

今や、ネットなしでは、普通の社会生活が営めない時代になっています。高齢者・障害者を含め人々が情報社会の利便を享受できるためには、PCやタブレットといった、ネットと接続するデバイスのアクセシビリティが不可欠です。
ウェブアクセシビリティ推進協会(JWAC)と情報通信政策フォーラム(ICPF)は協力してこの問題を取り上げることにしました。
今回は、新発売されたOS Windows 8のアクセシビリティ機能について、日本マイクロソフト株式会社の加治佐俊一さんにご講演いただくことにしました。

月日:2013年1月16日(水曜日)
時刻:18時30分~20時30分
場所:文京区白山 東洋大学白山キャンパス6号館3階6305教室
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授)
講師:加治佐俊一(マイクロソフト ディベロップメント株式会社代表取締役社長 兼 日本マイクロソフト株式会社業務執行役員 最高技術責任者)

セミナーは58名と、ほぼ満室の聴衆を集めて実施された。最初に加治佐氏が概略次のような講演を行った。

講演資料はこちら

 1975年に創業されたが、当時のビジョンは「全ての机に家庭にコンピュータを」であった。また、ミッションは「世界中の全ての人々とビジネスの持つ可能性を最大限に引き出すための支援をする」ことであった。ビジョンやミッションに示す通り、アクセシビリティはマイクロソフトにとって中心的な方針の一つであった。

 マイクロソフトでは、開発の初期段階より、セキュリティ、プライバシー、信頼性、アクセシビリティを作り込むようにしている。2000年前半様々なウィルスが登場し、PCが起動すらできない状況になった。それまではセキュリティホールを迅速にふさぐという対応をしていたが、それでは間に合わなかった。全ての開発を止めて、アーキテクチャーを見直して、「そもそも」からやり直すことにした。このセキュリティと同列にアクセシビリティは位置付けられている。

 マイクロソフトではアクセシビリティに対する取り組みが1988年にスタート。Windows95でアクセシビリティ機能が初搭載された。アメリカにはリハビリテーション法508条があり、連邦政府の調達条件に対応して製品を作っていくという要請もあった。日本では98年より専任者による取り組みがスタートした。

 マイクロソフトには3万人を超える開発者がおりWindowsやOffice、Windowsサーバーなどのチームが分かれているが、それぞれのチーム内にアクセシビリティ担当者を置いている。それと同時に、全体を統括し、ガイドラインを作成するなどを担当する専門部隊がTrustworthy Computing内におかれている。Accessibility部隊の長はChief Accessibility Officerである。日本では技術統括室に担当者2名を配置。米国とも連携しながら開発している。

 支援機能としてナレーターという簡易読み上げ機能などをOS内に内蔵している。細かいところまでは行き届かないので、他社にスクリーンリーダを開発頂き、きめ細やかに対応する。Microsoft支援技術ベンダープログラムの下で、日本では30社ほどの企業と連携しながら、開発を進めている。

 日本のJIS X8341「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェアおよびサービス」、米ではリハビリテーション法508条と電気通信法255条、ヨーロッパではETSIガイドラインなどの国内・国際標準がある。それらを満たすために、社内でMicrosoft Accessibility Standardが用意されている。レベル0の基準については、従わないと出荷できなくなる。こうして、法的な規制に合致し、適切な製品を出すことができる。

 Windows8は、生まれ変わった新OSである。タイル・インタフェース、Windowsストアから購入する多彩なアプリ、いつでもどこでも同じように使える、より使いやすくなった機能と互換性といった特徴がある。

 Windows8にはアクセシビリティ機能として、ナレーター、拡大鏡、タブレットへの対応、スクリーンキーボード、簡単設定とコンピュータの簡単操作センターなどが備わっている。新しく機能を追加したというよりも、今までと同様にアクセシビリティ機能を確保している。

 UI Automationは、グラフィカルユーザーインターフェースにプログラマティックにアクセス可能である。支援技術製品のニーズに対応するために準備されている。ナレーターをショートカット(Windows + Enter)から起動できる。日本語の音声エンジン(名前は「はるか))が初搭載された。パワーポイントには、アクセシビリティへの充足度を“プレゼンテーションの検査”からチェックできるようになっている。代替テキストのない画像などが検出される。

 インタフェースはCUIからGUIへと変遷し、User Experienceを提供している。次はNUI(ナチュラルユーザーインターフェース)である。Kinectを提供しているが、Kinectを利用すれば、脳性麻痺など重度の障害がある人もコンピュータ操作ができるようになる。こうして、より大勢の人がコンピュータにアクセスできるようになる。

講演後、一時間にわたって、質疑応答が行われた。その概要は次のとおりである。

会社としてのアクセシビリティ対応について
Q:わが国には特例子会社制度があるが、米国には障害者と一緒に働く環境がある。マイクロソフトでも、各部署に障害者がいるのか。
A:アクセシビリティ専門家の場合もあるが、障害を持っている人が普通の職場で働いている。現地で採用を担当した際、応募書類では分からなかったが、実際に合うと筆談しかできない人がいた。障害があるからと言って、直ちにフィルターされることはない。採用する側は、障害を理解した上で、公正に判断しなくてはならない。
Q:もし障害者がマイクロソフトで働きたいと考えたとき、どのようなスキルを身につけるべきか。
A:障害を持っているからできない、ということをどれだけあるか。最近の働き方として、人と人が会わずにコミュニケーションする機会も多い。家ではたらくスタイル、障害があるだけでなく、介護など、制約があっても働ける状況は出てきている。障害の程度にもよるが、でも実際に障害者もコードを書いている。社会的にも理解をしていこうという流れになっているのではないか。
Q:アクセシビリティに関する社内標準でレベル0を満たさないと出荷できないと説明された。それでは、レベル分けはいくつくらいあるのか。
A:項目はたくさんあり、それぞれにレベル分けがある。具体的には508条、JISやISO標準が規定するものが入っている。レベルは3~4程度だろう。
Q:日本語読み上げが今度初めて入った。英語での読み上げは前からあった。読み上げ機能を提供することがレベル0だったとすれば、発売できなかったのか。
A:各国語版で読み上げ機能が提供されなければならないというのは、レベル0ではない。一方で、音声エンジンが調達要件ならば、マイクロソフト以外の音声エンジンをプリインストールして納入する、という形も取る。
Q:Microsoft社が他社のソフトを認定しているが、アクセシビリティに関する基準はあるのか。
A:従来は何も規定せず、アプリケーションロゴを与えていた。Windows8の新しいアプリケーションについては、アクセシビリティに配慮していることが条件で、満たしたものが、Windowsストアに掲載される。
Q:アプリケーションがOSのアクセシビリティを殺すことは許されないのか。
A:基本的にはそう。
Q:ユーザとの連携の仕組み作りが必要ではないか。Windows8ではベータ版のテストが中々できなかった。障害を持つユーザは少ないし、特殊な環境で利用するのでテスターを用意するのも大変だから、ユーザと連携すればよいのではないか。
A:Windows 8の開発段階では、これまでのWindows 7までのOSの開発段階と比較して、ユーザがフィードバックを送る機会が少なくなり、出荷前での情報提供が少なくなっていたとの声を多く聞きました。今後は、改善をしていきたい。Windows 8の製品版に対しては、たくさんのフィードバックを頂いており、今後のOSの開発の中で改善していきたい。Q:ユーザービリティラボはアクセシビリティについてもみるのか。ショートカットキーがころころ変わる、という苦情を障害者からよく聞く。そういう意味で、ユーザービリティ評価は大事だろう。
A: ユーザービリティラボでは、ユーザービリティ全般についてみている。アクセシビリティは、使い勝手が上がろうがどうしようが、そこの機能にアクセスできることを確保することなので、直接的に深い連携はない。正しいかどうかは別として、現状はそうなっている。ユーザービリティラボに近い組織として、直接次の製品になるかは別として、3年4年先を見据えた研究を行っているマイクロソフトリサーチが存在する。
Q:アクセシビリティについての認定制度が必要ではないか。障害を持っていてもパソコンを使えるということについて認知度が低く、また教えてくれる人も少ない。こうした認定をマイクロソフトブランドでやることには意義がある。
A:福祉情報技術コーディネーターというものはあるが、そのような認定制度は、今は存在しない。

Windows8のアクセシビリティ機能について
Q:アクセシビリティ化されたサイトを作る立場で質問したい。XPでもVISTAでも、7でも、サイトに到達したらスクリーンリーダが読んでくれるだろうと考えている。ところが、8ではタイルからのアクセスが前提となっている。タイルから入った場合と、デスクトップ形式からアクセスした場合で、IEのメニューバーが違う。そんなインタフェースで全盲の方が素直にアクセスできるのか。
A:IEのUIは大きく変化したが、スクリーンリーダの挙動という意味では、大きくは変わらない。モダンUI向けのスクリーンリーダを開発しているが、基本的には同じ順番で読んでいく。UIとしてどこに何があるかを意識せずに設計としてやっていく。読み上げる側が、IEの情報をどこからとってくるか。デスクトップ版IEと違和感のない開発を心がけている。
A:新しいUIは、現時点では、視覚障害者にのっては何の役に立たない。余計なものができた、これが真実だろう。だが、多くの人たち、特にタブレット使用者にとっては利用しやすい形である。
A:基本的な考え方は、タッチでできることは、キーボードでもできる。PCでもタブレットも同じ。Windows8でタブレットを利用するとき、キーボードがない場合には、ナレーターが立ち上がり、特殊なジェスチャーさえ覚えれば、視覚障害者もタッチで操作できるようになる。
Q:アクセシブルなウェブサイトを受注しているが、IE対応に苦労している。IE6に対応するのを前提とするサイトがいまだにたくさんあり、制作者は苦労している。
A:IE6は「撲滅」しなければならない(笑)。IE 10では、読み上げにおいて特段変わった要素はない。ただ、ウェブではHTML5が利用され始めようとしており、インタラクティブでビジュアル、リッチなモノが出てきたときに、アクセシビリティにどう対応するかは、業界として大きなチャレンジである。