電波 新しい電波利用:公共安全無線システムの革新

日時:11月6日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:Marcel Verdonk(Motorola Solutions, Senior Director of Strategy Asia Pacfic & Middle East)

冒頭、Verdonk氏は資料を用いて次のように説明した。資料はこちらにあります

  • モトローラ・ソリューションズは1928年9月創業。85年の歴史を持ち、日本における事業展開も50年を迎える。政府官公庁及び企業向けミッションクリティカル無線通信事業をグローバルに展開。警察、消防、軍などのパブリックセーフティ(以下PS)向け無線ソリューション事業をビジネスの中核としている。
  • いつでも使用でき、セキュリティが高い無線通信システムがPS機関として必要。過去は情報源である市民からの緊急電話連絡をパブリックセーフティの指揮通信室で受け、現場担当官へ無線によるグループ通信にて指示伝達する一方通行のコミュニケーションが中心。指揮通信室から現場担当官への連絡は、各国独自の無線規格によるアナログ・デジタル無線機、ダイレクトモード・トランキングモードで運用され、その他無線LANやブルートゥースも活用されている。
  • 9.11米国テロ発生における対応の教訓として、大型ファイルの送受信やビデオによる情報収集及び伝達の要求が高まり、マルチメディア機器とコラボレーションした情報伝達を実現すべく、PS向け無線ブロードバンド通信システムとしてPS LTEが誕生。PS LTE実現には2種類の構築方法があり、インフラも自前で構築する「プライベートPS LTE」システムと民間商用LTE網を活用した「PS Grade LTE」システムがある。また、これら両方のシステムを連携させたハイブリッドモデルも構築可能である。
  • 「PS Grade LTE」の一番のメリットはインフラ構築コストの低減。国土が広大な場合、インフラ構築コストに巨額の費用がかかる。また周波数がPS LTEに容易に割り当てられない場合も、民間商用LTE網の活用で低コスト、早期構築が可能となる。「PS Grade LTE」は、民間商用システムを活用するため、緊急時の優先接続アプリケーションの導入や瞬時に接続するためのPTTボタン(プッシュ・ツー・トーク、業務用無線の直接通信・ダイレクトモードのこと)、及び様々な通信機器との相互運用性の実現が必要となる。
  • PS LTEの構築要件は、広い通信カバレッジ、端末間同志(End to End)のセキュリティ通信、災害に強いインフラの構築、十分なUp Linkトラフィックの確保、過酷な環境でも使用可能な堅牢なハード端末などである。
  • PS LTEの導入が加速している。ブラジルでは陸軍がサッカーワールドカップ及びオリンピック開催に向けにPS LTEを導入。また韓国もフェリー沈没事故を契機に「プライベートPS LTE」構築を決定した。「プライベートPS LTE」システムは、イスラエル・シンガポール・ブラジル(陸軍)・韓国で、PS Grade LTEシステムは、西欧諸国・オーストラリア・ニュージーランドで、ハイブリッドモデルは米国・アジア諸国で採用されている。
  • 近年、日本では地震、台風による洪水や土砂災害、そして火山の爆発など大規模な自然災害が起こっている。またオリンピックも控えている。政府が次世代緊急無線通信システムとしてPS LTEの必要性を認識するならば、全国的エリアの構築と周波数割り当てを鑑み、NTTドコモ、AU及びソフトバンク等の携帯電話キャリアのLTEネットワークを活用した「PS Grade LTE」システムの導入を検討すべきと考える。これにより早期導入も視野に入れられる。

講演後、以下のような質疑があった。

PS LTEとダイレクトモード、既存のシステムとの共存
Q(質問):PS LTEでコアネットワークを使用すると、大規模自然災害でコアネットワークが故障すると使用できなくなる。既存の警察・消防無線のように、トランシーバ的なダイレクトモードがあるほうがよいという意見についてどう考えるか?
A(回答):既存の警察・消防ナローバンド無線でも、実は、コアネットワークのインフラを利用しているので、インフラが故障するリスクは同じである。また、ナローバンドの音声通信では端末間でのダイレクトモードができるが、LTEでもVo LTEでダイレクトモードが可能である。
Q:欧州でテトラシステムとPS LTE両システムを活用するという場合、テトラシステムをカプセリング化してLTEネットワークに接続できるようにするのか、又は1台の端末でテトラネットワークとLTEネットワークが使用できる形になっているのか?
A:両方のネットワークを、1台で活用できる端末で運用したいというのが、世界的な要望トレンドである。現在、テトラネットワークとPS LTEの両方を1台の端末で利用できる製品はないと思うが、近い将来どこかのメーカーが開発してくると考えている。現在は、テトラの端末よりPTTでPS LTEの端末に接続して利用することが可能となっている。その逆ももちろん可能。

日本におけるPS Grade LTEの可能性
Q:日本に対して、すぐにLTEに割り当てる周波数がないので通信事業者のネットワークを利用してPS LTEを構築するとういう提案があったが、日本にはNTTドコモ、KDDI(AU)、ソフトバンクの3社がある。その3社とまとめて契約して、どこかがダウンしてもどこかが運用可能であれば利用できるということは可能か?
A:オーストラリアでは現在テレストラ社1社だが、アメリカではベライゾン、T-Mobile含め複数社のネットワークを利用している。日本ではLTEネットワークを所有する通信事業者3社とPS LTEコアネットワークを組むことに技術的問題はない。自然災害時に運用できるよう、複数社と相互運用性をもたせることが最適と思う。
Q:オーストラリアにはテレストラ1社ではなく、ボーダフォンなど複数のLTEネットワーク事業者があるが、何故テレストラ1社と構築しようとしているのか?
A:オーストラリアの場合はテレストラのみがPS LTEに興味を持ったので、テレストラとPS LTE構築を進めている。また、テレストラのネットワークは容量が大きく、PS LTEをシステム化しても問題ない点もあげられる。
Q:日本の携帯電話通信事業者3社と相互運用性を持たせた場合、セキュリティに問題は起こらないか? 3社とPS LTEと構築する場合、通信事業者毎の独立したPS LTEを構築したほうが良いか。それとも相互運用性を持たせたほうが良いか?
A:可能性としてはどちらも検討すべき。日本では現在PS LTE専用の周波数が割り当てられていないので、1社、2社、又は3社すべての選択肢の中で良い選択をするべきと思う。
Q:オーストラリアでは山火事、日本では地震や噴火など災害に違いがあるが、同じようにPS LTEを構築できるのか?
A:様々な自然災害の可能性や予測によって、その災害が起こりうるエリアに堅牢なインフラを構築し、標高の高い位置にインフラを持ちあげてエリアを大きくカバーすることや、容量を大きくしておくなど検討すべきと思う。もちろんその前に、通信事業者とともに、災害が起こりうる場所を調査することが必要になる。
Q:将来的に予想される都市型テロの備えとして、また災害の備えとして、地下鉄やトンネル内でのカバレッジについて、より中まで届くようにしたほうが良いと思うが、そのような場所まで独自のPS LTEネットワークを構築するのか、商用のLTEネットワークを活用するのか?
A:地下鉄やトンネル内をエリアにしたほうが良いという意見には完全に同意する。各国の状況や都市の状況によって異なってくると思うが、また省庁の構築要件次第だが、カバレッジ、予算とコスト、設計を検討して、商用ネットワークがそのようなエリアもカバーしているのであれば活用することを検討すべきと思う。
Q:携帯電話の帯域は既に不足していて、第5世代で1000倍のトラフィックを賄うための動きがでてきている状況で、どのようにプライベートPS LTEを構築したらよいか?
A:可能性はある。長期間での検討が必要だが、国の周波数の割り当てテーブルがあると思うので、それを再検討することで変化が起きるはずである。技術の進化によって周波数の空きがでてくるのではないか。各国で状況は異なる。
Q:オーストラリアで商用ネットワーク上にPS LTEコアを構築している話があったが、誰が商用ネットワーク上のPS LTEのコアを運用・保守を行なっているか?
A:オーストラリアの場合はモトローラが運用保守を行っている。これは非常に珍しいケースで、これまでオーストラリアの無線システムをモトローラが運用してきた経緯があり、モトローラでPS LTEコアの保守管理を行っている。PS LTEを構築した後は、構築した客が主導権を握って運用保守を独自に行うやり方があるし、通信事業者とモトローラとで共同運用・保守する方法もある。その場合には、客が運用保守について介入できるというような条項を付ける。客がどれだけのコントロールしたいのか、どういうやり方が良いと思っているのか、また、どれだけテクニカルなことを理解しているかで、形態は異なってくる。

PS LTEが提供するアプリについて
Q:3GPPを国防で使用する危険性を教えてほしい。公開された技術情報を用いて作ったネットワークだと、悪意を持った国や人が情報を盗み出すことがあるのではないか?
A: PS LTEはセキュリティを高くすることができる。セキュリティレイヤーも勿論あるし、デバイスで小さいスロットを設けて暗号化することもできる。非常に高いセキュリティで、侵入者を阻止することができる。既に世界で、国防にLTEを導入している。また、この10年間くらい前から、商用のLTEシステムを、セキュリティを高めて軍隊などで運用している。また、例えばアプリケーションレイヤーでセキュリティをかけることもできる。
Q:PS LTEに音声、ビデオ、テキストなど様々なアプリケーションをのせるのか?
A:その通り。災害被災者を救急車で搬送する際、被災者の状態をビデオで撮り、病院に送ることで、あらかじめ病院手術室で救急医療の準備をすることが可能となる。
Q:講演に出てきたプレディクティブポリーシングとシチューエショナルインテリジェンスについて詳しく教えてほしい。
A:プレディクティブポリーシングは、指揮通信室に入ってくる様々なデータからパターンを読み取り、事前に設定したあるトリガーをで、決めた行動を起こすこと。ある地域で無線のトラフィックが多くなったら事件又は事故が起きたということで、他の地区にいる警察官をそちらに向かわせる。夜8時に交通事故が多く起こる場所が判明したら、その時間にパトカーを巡回させるなどで、注意を促したり、事故に備えたりすることが可能となる。シチューエショナルインテリジェンスは、パトカーが街を巡回し、犯罪多発地域に入ろうとしている場合に、危険地域に近づいていることを知らせる警告音やメッセージをだすなど、GPSとの連動で自動的に警告を出すアプリケーション等が実例。犯罪者が近くに潜伏している可能性がある地域であれば、それを教え、指揮通信室から応援を向かわせることもできる。
Q:PS LTEとして、アイフォーン端末やアンドロイド端末がある、3GPPの周波数を使用することの有用性についてはどのように考えられているか? 200MHz帯域でLTEを行おうとするところもあれば、欧州のように400MHz 帯域で行おうとしている地域もある。
A:3GPPにすればコスト効率が高まる。各国独自の規格にしてしまうと、購入する省庁のコストが高くなる。インフラもそうだが、3GPPのようなワールドワイドな規格になると、多くのベンダーが3GPPに準拠した端末を供給することが可能となるので、客も選択することが可能となる。
3GPPで商用ネットワークを活用する際、災害現場に救助に行かれる職員は非常に堅牢で、瞬間に接続できる緊急PTTボタンを装備した端末が必要となるが、災害現場には行かない後方部隊はアンドロイド端末やアイフォーン端末で接続して通信することが可能である。

PS LTEビジネスについて
Q:過去日本では独自仕様の携帯端末などで普及に失敗した教訓があるが、日本がインフラを輸出する観点から見たときに2017年に3GPPで標準化完了された後、導入を検討したほうがよいか、今から始めるほうがよいか?
A:今から始めるべき。各省庁はシステムを使用する立場で、ベンダーとしてはそれらの省庁に対してシステムやソリューションを開発していくが、業界にとっては標準化していくことが一番のメリットであると思っている。
Q:モトローラ以外にベンダーはあるか?
A:PS LTEはアメリカから始まったということもあり、アメリカには数多くの競合ベンダーがいるし、欧州でも複数のソリューションを提供するベンダーが存在する。