電波 アメリカ電波政策の動向:ホワイトスペースの活用を中心に

デジタルテレビの空きチャンネル(ホワイトスペース)について、わが国ではエリアワンセグおよびラジオマイクへの活用を除き、あまり検討が進んでいません。これに対してアメリカでは、ホワイトスペースでWiFiサービスを提供する、「スーパーWiFi」の商用化が既に開始されています。彼我の差の原因はどこにあるのでしょうか。産業競争力にどのような影響があるのでしょうか。
そこでICPFでは、米国在住のITジャーナリスト小池良次さんをお迎えして、アメリカ電波政策の動向について、ホワイトスペースの活用を中心にお話しいただくことにしました。

2012年4月12日
アルカディア市ヶ谷(私学会館)
題目:アメリカ電波政策の動向 ホワイトスペースの活用を中心に
講師:小池良次

アメリカ在住25年の通信ジャーナリストである小池良次氏に、アメリカ電波政策の動向について講演いただいた。講演の概要は次の通りである。
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■ 強気の政策を展開するFCC委員長

アメリカ通信政策では、1996年改正連邦通信法と2010年国家ブロードバンド計画(NBP)がポイントである。NBPでは無線ブロードバンドが強調され、これが今日の電波政策の元となっている。
2009年ハイテク大統領と期待されて登場したオバマ氏はジュリアス・ジェナコウスキー氏をFCC委員長に任命した。同氏は、リード・ハントとウィリアム・ケナードという歴代の連邦通信委員会(FCC)委員長の下で働いた経験がある。ハント氏は、電波オークションの導入者であり豪腕肌の委員長として有名だった。TVホワイトスペースの開放という強気の政策は、ゲナコウスキー氏のハント時代などの経験が背景にあると言われている。

■ 仮開放から正式開放への道

テレビ帯の空きチャンネル(ホワイトスペース、WS)仮解放は、共和党政権下の2008年に決定した。その背景には、MS、Google、DellなどのがWiFi帯域不足の解決を求めており、WSを使おうということになった。ちなみに、米国においては、国防総省がホワイトスペースの最大所有者だが、軍事用でまったく開放は進んでいない。同様に、業務用マイク・メーカーやテレビ放送業界の反対から、TV-WSの開放もなかなか進まなかった。

第3世代携帯データの需要は急拡大をつづけ、FCCはモバイルブロードバンドの対策が重要となっていた。また、2010年に動き出した国家ブロードバンド計画をてこに、FCCはインターネット・ビジネスへの規制権限拡大を狙ったため、モバイル・ブロードバンドは通信業界との交渉材料として重要になっていた。

そのころアナログ放送の全面停波をおこなった地上波テレビ局は、デジタル化により周波数の効率利用ができるにも関わらず、リーマン・ショックの影響で魅力的な番組やサービスを提供できずにいた。こうした状況の変化により、FCCはデジタル・テレビ放送におけるWSの開放を積極的に進めていった。

もちろん、業務用無線マイクメーカーやテレビ業界は猛反対したが「空きチャンネルをデータベース管理すること」と「機器が自動的に空いているチャンネルを探す」というアルゴリズムを併用することで開発が始まった。

しかし、試作機のテストは失敗ばかりだった。空きチャンネルを探す感度を上げると利用できるチャンネルが無くなり、感度を下げると干渉が起きた。

結局、正式開放では、空きチャンネル用データベースによる管理だけとなった。こうしたFCCの見切り発車的な政策は、日本だったら絶対無理なことだろう。案の定、機器は出ない、大都市圏ではほとんどWSが見つからない。屋外・屋内利用の区別もつかない、通信キャリアも支援しない(当時は商売敵として邪魔者扱いされた)という状況になった。

■ なかなか普及しないTV-WS利用

2010年頃からWSベンチャーのSpectrum Bridge社を中心に、TV-WS利用実験は徐々に始まった。主には、過疎地や公立公園などで提供するフリーWi-Fiアクセスの集線網としてTV-WSを利用している。

当初、屋内でのホームネットワーク利用、ポイントツーポイント通信、フリーWi-Fiでの集線網などでの用途が期待されてきた。しかし、実際に利用してみるとTV-WSは、機器設置の高さ制限(高い位置にアンテナを設置できない)や出力制限、隣接チャンネルとの干渉制限などの制約により、その商業利用は非常に限定されてしまった。

FCCは、こうした問題を改善するため、2012年4月にTV-WS利用条件を一部緩和する改訂を発表している。一方、IEEEではWSを長距離通信に使うスタンダードの策定も進んでおり、TV-WSの利用環境は徐々に改善している。

■ モバイル・ブロードバンドの支援には役不足

一方、TV-WSは携帯電話事業者が整備を進める次世代モバイル・ブロードバンドとの競争にさらされ始めている。

現在、米国の携帯事業者のうちベライゾン・ワイヤレスは700MHz帯域で次世代データ・サービスのLTEを整備している。全米に基地局を建設中で、大攻勢をかけている。比較的周波数に余裕があるベライゾンだが、モバイル・ブロードバンドの需要は急拡大を続けており、数年後には足りなくなる可能性がでている。そのため、最近CATV企業からAdvanced Wireless Services帯域(AWS)免許を購入し、現在FCCの承認を待っている。

一方、AT&TはGSM(2Gサービス)を終了するなど、LTE用周波数を必死に掻きだそうとしている。同社は、4位のT-Mobile USAを買収しようとしたが、独占禁止法で司法省が難色を示し、FCCも買収承認を渋ったため、買収は失敗した。その結果、AT&TはT-Mobile USAに違約金と周波数を渡す羽目に陥っている。

業界3位のスプリントもLTE建設を進めている。ベライゾンやAT&Tほど周波数に余裕がない同社は、過疎地における集線網としてTV-WSを利用している。ただ、その利用ケースは非常にすくないと言われている。

今後、LTE網が全米で整備されれば、TV-WSが狙っていた多くの商業利用がLTEに流れるとの懸念が広がっており、TV-WSの将来には不透明感が高まっている。