電波 新たな時代の電波とメディア・コンテンツ政策

概要

主催 特定非営利活動法人 情報通信政策フォーラム(ICPF)
協賛 IEEE TMC Japan Chapter、コンテンツ学会、慶應大学SFC研究所プラットフォーム・デザイン・ラボ

情報社会への移行を阻む大きな障壁の一つが既存の制度です。わが国には情報通信が今のように発展する前に形作られた法律・規則・慣行などの制度が多く残り、それが情報通信技術をフルに活用する社会への転換を阻んでいます。
ICPFでは「改革を阻む制度の壁」と題してこの半年間セミナーを連続して開催し、在日米国商工会議所から提言を発表していただいたほか、コンテンツ流通、遠隔健康・医療、政治活動、遠隔教育に関わる制度問題について専門の方々のお話をうかがってきました。
今回は、その最終回として「新たな時代の電波とメディア・コンテンツ政策」についてシンポジウムを開催します。
日本は固定のブロードバンドや携帯電話の普及率で世界の最先端を行く通信インフラ国家です。しかしながら、技術の標準化や周波数割り当てにおいてグローバルマーケットから孤立しつつあり、”ガラパゴス化”した国内市場を相手にするだけでは今後も成長し続けることは不可能です。また諸外国では、日本を上回るスピードでサービス、アプリケーション、コンテンツ分野で多くのイノベーションが起きており、事業者と消費者の両方が便益を得ています。国際競争力強化などの名の下に逆にグローバルマーケットから日本を切り離す結果となっている消費者視点不在の政策は、日本の消費者がグローバルな技術やサービスの恩恵にあずかることを妨げています。また放送分野においては日本特有なビジネスモデルや慣行と、それらと補完関係にある著作権政策などの諸政策のあり方により、通信分野との相互乗り入れによる新たなサービスの提供が難しくなっている状況があります。
本シンポジウムでは、産業界・学会・法曹界から有識者にご登壇頂き、情報通信産業の将来の成長を見据えた上で、現在の制度・政策の問題点、および電波オークションの導入やコンテンツの国際化、マルチユースを前提とした著作権のあり方など、これまでの政策論議の枠組みにとらわれない、新しい政府のあり方や現実的、かつ具体的な解決策を議論していきます。
年度末の忙しい時期ですが、ふるってご参加いただけますようお願い申し上げます。

 

映像レポート

レポート

パネル討論1「新たな時代の電波政策」

モデレータ: 金 正勲(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授)
パネリスト: 鬼木 甫(株式会社情報経済研究所所長/大阪大学名誉教授)
夏野 剛(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授)
仁平成彦(エフエム東京執行役員待遇マルチメディア放送事業本部副本部長)
山田 肇(東洋大学経済学部教授)

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鬼木:なぜこの場で電波を持ち出すのか。電波は目に見えないものだが生活には不可欠で、携帯電話・放送・無線インターネットなど広く使われている。ところがこの10年か20年で電波の利用が急に拡がり、全体として足りなくなった。足りなくなれば価値が上がり、取り合いになってしまう。そのため外国では十数年前から、電波を新たに割り当てるときに利用者を決めるオークションが始まっている。すでに先進国の大多数、たとえばOECD加盟30国の23国が取り入れており、アイルランドやポーランドなどの小国を除くと、日本とスペインだけが残っている。また中進国、新興国の20国でも採用が進み、アジアでは韓国、台湾、ホンコン、シンガポール、タイ、インド、インドネシア、フィリピンまで入っている。日本はこのことについてニュースが流れず、一般の話題にすら上らない。どうすれば消費者がもっとも満足いくように電波を使えるのか、考えたい。

夏野:僕が今日是非お話ししたいのは周波数について、日本だけが違うという現状である。携帯電話の第三世代で周波数は2GHz帯でと決まっていたが、周波数が高いと直進性が高まるので、遠くへ伝播しない。KDDIは第二世代で使っていた800MHzを第三世代に転用した。DoCoMoも800MHzを使っている。だが実はこの800MHzは日本しか使っていない。ヨーロッパのGSMを使っている国々は900MHz帯を使い出している。そうなると、ヨーロッパでは900MHzと2GHz両方が動くことを前提にすることになり、よって日本の端末を海外に持って行けば、900MHzに対応しなくてはならなくなる。
この問題について電波チャートをみると、GSMと同じ帯域のところで10MHzずつくらい取れるところがあり、これを携帯電話会社に与えれば、ヨーロッパの端末をそのまま使えることになる、といった提言をさせていただいている。

仁平:地デジも含めて放送がデジタル化になっており、デジタルになると放送以外のこともできるようになる。放送休止中にデジタルサイネージ向けの電波を流すことも技術的には可能。総務省にできるか聞いてみると「できません」と。総務省は放送を行うことで免許をだしているので、今の法体系で考えると、そうするのであれば、使わないその時間帯の免許を返上せよ、ということになる。これでは放送事業者が電波の有効活用をしなくなってしまう。今、私たちは福岡でユビキタス特区をやっている。福岡は西鉄バスが多い。こういったバスへ電波を送るのは、今の法律で言えば通信になる。が、このようなことがこの度国会へ提出された放送法、電波法の改正でできるようになるとのことだ。放送波を通信利用したり、また逆に通信の波を使って放送をできると言うことにもなってくる。

山田:先週ニューヨークで元FCC委員長のハントさんの話を聞いた。これからFCCが発表するブロードバンドナショナルプランで、TVへの電波の割り当てを減らすことについて言及していたことが印象的だった。コモンメディア(国民世論を形成するためのメディア)としてTVはその役目を終えた。であれば黄金の周波数を割り当てる必要はない、というのが理由だった。こういった政策の柔軟性がわが国にはまったくない。それが問題だ。

金:具体的に議論していきたい。まずは国際的な調和について。

山田:メーカーが製品を輸出するのも大事だが、国民の利便を考えるべき。夏野さんの話にもあったが、もし海外と日本で仕様が違えば、海外の魅力的な製品が日本に入ってこなくなってくる可能性が出てくる。そうすると新しいサービスが使えない。この問題はメーカーだけでなく国民全体の問題である。

金:先ほど夏野さんの話にあった世界にあわせていくかという問題は、タイミング含め、複雑な問題だが。

夏野:どこの周波数をどう使うかという周波数割り当ての問題と、どの方式を採用するかの話が混同され、混乱してきた歴史がある。携帯電話の普及初期の80年代、世界の製品が入ってきにくくするために国内産業を守るために上りと下りを世界と違う周波数に割り当てた、という話を聞いたことがある。

金:日本では800MHzと2GHz。ヨーロッパでは900MHzと2GHz。解決策は?

夏野:電波チャートをよく見ると900MHz帯に、895―905MHzの上りと、945―955MHzの下りがある。これがGSMの上り下りにぴったり合っているので、ここはヨーロッパの端末と全く同じものが使える。だが、10MHzしか使えないので、一社しか割り当てられないだろう。だが僕はこういう「ばらけ感」があってもいいと思う。仮にここが割り当てられたキャリアは、この周波数が使えるヨーロッパ、中国を利用し、またそれらを相手に徹底的に戦っていけばいい。逆に割り当てられない会社は徹底的に日本でやればいい。つまり、横並びをなくせばいい。ガラパゴスがいけないというならば、キャリアによって戦略を変えればいい。アメリカ寄りの会社があってもよい。三者三様、ユーザーからすればアメリカ、ヨーロッパ・中国、日本中心の中から選ぶということでいいのではないか。

金:キャリアの話だとそうだが、メーカーは?

夏野:そもそも日本の人口は減っていく。国内の市場も減っていくので、国際的に競争していく企業は世界の市場へうってでるべき。そうでなければやめるべきだろう。競争力のあるものが挑むべきで、競争力がないならば、政府を相手に生き残らせてくれと頼んだりすべきでない。

山田:ITSへの電波割り当てについても同様の問題が見えてくる。日本の国内で自動車に700MHz帯のITS機器を搭載しても外国に輸出できない。日本では出会い頭の衝突が多いので、これを防ぐためにビル陰でも曲がって伝わることが可能な700MHz帯を使いたいと言っている。疑問に感じるのは、こちらの自動車が積んでいても相手が積んでいなければ意味がない、という点。この問題があるため、最近は道路の交差点に機器を設置するという話も出てきているが、そうなれば曲がって伝える必要もないので欧米と同じ周波数でよいはず。

夏野:他におかしい、もっともガラパゴスなのはワンセグ。ブラジルで日本方式の地デジが採用されたというが、ワンセグの方式は違う。よって、日本のテレビはどこまでいっても世界に比較して安くならない。

金:ホワイトスペース、空き地の有効利用についてどう考えるか。

山田:仁平さんのいうデジタルサイネージへの電波の有効利用の話。放送局がどうせ使っていないので使っていない状態では経済的利益は生まれない。そこを有効利用しようとしたら「返しなさい」と言われる、のはおかしい。妥協案として、その会社の免許は取り上げとなってしても、直ちに別の会社に割り当てるべきだ。これは、時間帯によるホワイトスペース。これに対し空間におけるホワイトスペースも存在する。この有効利用をどう考えるか、が課題である。

仁平:電波の有効利用、使いたい時に新しいサービスをという話だが、まず、電波を割り当てるにあたっては、総務省による「電波の割り当て方針」(チャンネルプラン)がある。この周波数は放送用途として割り当て、免許を出す、という形で、よってその用途で割り当てられた電波の利用は、放送のみにしか使えない。昔、街頭テレビがあった。あれも一種のサイネージだが、あれは放送。デジタルサイネージとの違いは、特定の端末のみに送る、という点。そうなるとこれは通信になる。端末台数が何台あろうが通信。これが通信と放送の違い。よってデジタルサイネージに夜中の電波を使って送る、というのはだめだということになった。

金:情報通信法が施行されれば可能となるか?

仁平:放送波を使ってサイネージに配信するという事例が融合法制の研究会報告にものっている。放送波のどの程度を使うのかという程度問題はあるができるようになると期待している。

夏野:きちんと新しい付加価値を生むようなものをみなで考えていかないとならない。僕が、デジタルサイネージにしても別に放送の電波を使う必要はないのではないのかと感じる。サイネージまで光を引いたっていいだろう。放送局の数がもっとあってもいいのではないか。世界的に見て東京のような都市でFM局が10局しかないのは少ないのではないか。

仁平:日本の置局基準が異なる。たくさん放送局があれば混信が起こる。どれくらいのクオリティで混信が起きないようにするか、という点で日本の基準は厳しい。

夏野:それが国民の利益になるか、ということ。今、デジタルサイネージは一種のバズワードだが、そこまでたいしたものかはわからない。

山田:今FM放送局は57あり、677億円の売り上げ。出力が20ワット以下のFMコミュニティ局が227局、231億円。つまり一つ一つの規模は小さくても、地域の小さな情報を発信するラジオ局やテレビ局がビジネスになっている。地域情報の流通媒体があってもいいのではないかと感じる。

鬼木:電波の割り当てについて話したい。電波が余っていた時代の仕組みを使い続けていることが問題で、これを改めなければならない。現在のように政府が利用者を選ぶ仕組みだと、企業の目線は政府に向けられ、消費者のための製品やサービスは二の次になってしまう。オークションで自由な参入を認めれば、技術開発などすぐれた人材が日本中から集まるのに、既存事業者主体でやっていると一部の人材しか機会が与えられない。国民にとって大きな損失になる。しかし電波はテレビ既得権を守る手段だから、テレビ局や新聞社は積極的に報道しない。そのため、外国に遅れをとっている事実も知られず、世論の関心の的にならない。民主党の政策インデックス2009ではオークションを挙げていたのに、最近は検討対象から消えてしまったようだ。日本の電波は鎖国時代のような現状で、このままでは外国との競争に負けてしまう。

夏野:オークションというのは一つの電波をどう使うかという仕組み。日本はあまりに長らく変化をしないことを前提に、雇用制度も含め、制度が作られてきた。失われた20年というが、高度成長期も短く見れば20年程度しかなかった。そのときに決めたやり方、仕組みをずっとなんとか温存しようとすれば、どうにもならなくなるのは目に見えている。

仁平:私は事業者なので立場的にオークションには反対。放送の場合は広告収入が主と言うことで利用者還元も難しい。導入は歓迎しないという立場だ。ただ、入退場ができる仕組み、というのは必要ではないかなと感じる。事業者にとって、入れ替わり戦のような仕組みを考えていかなくてはならない。

山田:新しくて、なおかつ値段が高騰しそうにないところから実験的に始めていくのでいいのではないか。たとえば先に言ったコミュニティの放送用。

金:実験的に、ということでもいいかもしれない。

鬼木:今の法律はオークションを前提にしていない。法律を変える必要がある。今米国ではオバマ提案の健康保険制度が議会で審議中だが、日本のわれわれが当然と思う健康保険でも、パラダイムを変えるときの抵抗は大きい。米国でオークション導入を決めたときでも、反対が強かったので数年をかけ、1993年になって下院をやっと1票差で可決した。しかし一旦オークションを導入すると、その後後戻りする動きは全くない。また世界の多くの国で、オークション導入後に廃止したケースは聞いていない。日本でオークションをやるためには電波法を改正しなくてはならない。これは大変な作業で、国会でも議論になるだろう。しかし、多くの国はその過程をすでに済ませ、先に進んでいる。現在必要なのは、まず海外と日本の現状を知り、電波という貴重な財産を誰がどのように使うかについて、議論を始めること。

質疑応答

質問:事業者が高いオークションの金額で落札した場合、このコストが転嫁されるのでは? この欠点を他の国はどうやって是正しているのか?既存のものはそのままで、新しい割り当てはオークションで、とすると、競争に差が出てしまわないか?

鬼木:たしかにコストが上がり、値上げ圧力が出るだろう。だが全部が価格に転嫁されるわけではない。たとえば携帯電話の場合、消費者が負担するのはオークション金額の一部で、残りは事業者が負担する。また政府がオークション収入で減税すれば、負担分を超える金額が国民の手に入る。これはオークションの直接の効果。実はオークションによって競争が促進され、技術やサービスが向上し、その結果長期的に電話代も下がることになる。このような長期的・累積的なプラス効果の方が大事。
それから既存事業者とオークションで参入する新規事業者の格差問題はたしかに重要だ。是正のためにはいくつかの方策があり、オークション制度を作るときに検討する必要がある。

質問:やるためのマイルストーンが具体的に見えているのか。

鬼木:具体的な提案はここで詳しく説明できないので、「電波法の改正案」や、「オークション制度概要案」などについて私のWebページ(http://www.ab.auone-net.jp/~ieir/jpn/publication/200909a.html)を見ていただきたい。電波法7条で現在の「比較審査」制度を決めているが、改正案ではその後に新たに1条をつけ加え、比較審査に代えてオークションを採用できるようにしている。

質問:企業の競争力という点をどう考えるのか。

夏野:韓国、LG、サムソンはもちろん国内でも強いが、国民の数が少ないので、早くから海外に打って出た。なぜ日本が外でできないか。技術で見劣りしているわけではない。かといって政府がどうのというものでもないとも感じる。

金:韓国にあって日本になかったのは金融危機。日本もかなり経営が悪化して買収が進んで、ということになっていかないと。

山田:それについては総務省に委員会があるが、役にたたない。企業のトップが自社の戦略をあらわに話すはずもないので、役に立たない施策ばかりになる。

パネル討論2「新たな時代のメディア・コンテンツ政策」

モデレータ: 山田 肇(東洋大学経済学部教授)
パネリスト: 砂川浩慶(立教大学社会学部メディア社会学科准教授)
関本好則(NHKエンタープライズ上席執行役員ライツアーカイブスセンター長)
津田大介(メディアジャーナリスト)
福井健策(骨董通り法律事務所パートナー弁護士/日本大学芸術学部客員教授)
森 祐治(株式会社シンク代表取締役社長)
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砂川:コンテンツ政策が日本にあるのか?というと、ないだろう。たとえば知財計画、あれも単に各省庁のあげた項目が横に並んでいるだけ。昔は通産省と郵政省で縄張り争い。今は総務省と経産省で「そうけい」戦といっている。コンテンツ流通という言葉ばかりが取りざたされているが、作ること、制作があってはじめて流通する。作り手、制作があってはじめて流通がある。制作について政策を考えるべきだ。

関本:政府与党合意でNHKオンデマンドをやれ、と急にいわれた。そうなると権利処理を一からし直しとなり、この三年くらいはずっとそうした仕事をやってきた。若手の育成については、NHKサンダンス賞というのをやっている。二つの経験で言うと日本には長期的な戦略がないな、という感じがする。NHKオンデマンドでも、2000年はじめにそういうことはやってはいけない、といわれていたが、その後竹中大臣が最先端の光網があるのにやっていない、となって、ポンとかわるわけだが、では誰が許諾をとるのか、というところで非常に苦労した覚えがある。サンダンスについて、アメリカの受賞者もメキシコの受賞者も、この賞を取るとお金が入る。アメリカだとノンプロフィットのコンテンツファンド、メキシコだと政府からお金が出るといっている。人材育成というのは非常に大事で、今の状態だと人は育たない。

津田:今の個人的な関心はメディア規制にある。デフォルトがオプトインではなくオプトアウトだろうなと感じる。政策的に感じるのはダビング10、これを廃止すべきだと。廃止すると言ったら、著作権者も問題を提起するわけで、私的録音録画補償金制度を拡大して、ユーザーは私的複製が可能となればいいのではないか。

福井:具体的には二つ。一つ、作品を利用する上での権利処理、権利処理の手間を減らしていく、いかに、処理のためのコストをさげて、創作者に入るお金を増やすか。もう一つは、日本で何かコンテンツビジネスをやろうとすると、リスクゼロ症候群とでもいえる、そういう方向を感じることがある。だが、リスクゼロほど危ないことはないのではないか。自分やろうとしていることのリスクを把握した上でビジネスをやるべきではないか。
森:この十年ほど、コンテンツに対する政策の議論は活発にされてきたが、機能していない。議論が全然進まないことに危機感を感じている。10年前のアジェンダとしてあがっている問題と、今、この先出てくる問題は変わっていない。お勉強はしているがインプリは変わっていない。すべての議論は内向きになっている。関係者の調整に終始し、そこでロックアップして話が進まない。

山田:権利処理の手間を減らすという観点から著作権集中管理の話をしたい。

福井:映像コンテンツの集中管理とくに作る上での権利の集中管理について。一つの映像作品には、たくさんの権利者が関わっている。脚本、実演家、様々。映像は様々な権利の束。たとえばネットを介して配信しようとすると、権利処理が必要となる。実演家についても再処理が必要な場合もある。これを一つ一つクリアして、全員の許諾を得ないと、処理はできない。NHKオンデマンドの難しさもそこにあった。権利者がどこにいるのかわからない、または合意できない、という問題もある。どこかが代理してくれる、そこと話せば権利処理がクリアになる、という窓口があれば第一段階クリア。次に、それでも問題となるのは権利者が見つからない「孤児作品」である。

関本:おっしゃる通りだが、権利処理について実際はかなり進んでおり、ドラマなどのネット利用に当たって、今は、問題はほとんどない。問題は、権利処理組織に属していない権利者の場合。日本では力のある俳優を抱えるプロダクションがノンメンバー、という問題がある。紅白などはそこがOKしてくれたので今回はNHKオンデマンドでの配信が実現した。それ以外にも、作家さんを預かっている文芸家協会等があるが、ほかの組織との交渉でも、全収入の50%をよこせとか、無茶な要求をしてくる場合もあるので、処理を進める上で、新たな協議会を作って話し合いを進めている段階。まもなく、民・民レベルでやっているガイドラインが公表されると思うが、一つ一つ進めている段階。

森:集中管理の話。NHKオンデマンドの話もそうだが、パワープレイヤーが力を持っていると、制度ではどうにもならない。確かにマスメディアの世界ではパワープレイヤーに所属しているタレントは、やらないと食えないから使わざるを得ないが、段々と、そうしたパワープレイヤーに属さない人も増えている。むしろ、そうした人を集めてフリーゾーンをつくってしまい、かなり極端なことをやっていかないと無理だろうと感じる。今ある仕組みの中ですべて調整して解決することは難しい。一時的な出島、セーフハーバー的なものをつくっていかないと。ヘブンをどうやって作っていくか。そうすれば世界中のアーティストが集まってきて楽しいのではないか。

砂川:著作権という言葉自体がなかなか、わかりにくい。コンテンツビジネスの阻害要因において、著作権がネックで、とよくいうが、実際には、著作権の問題ではなかったりしたりもする。いいわけ的に使われることも多い。JASRACは職員が500人くらいいるが、ほかの処理組織はこれだけしかいないの、というスタッフ数でまわしている。そういう問題もある。権利者団体は悪の権化、という言い方をしていても変わらない。大きな通信会社のところで話をすると、そんなに著作権が問題なら200人弁護士を雇うから大丈夫か?といわれたりするが、権利処理の問題はそういう問題だけではなく、制作者の気持ちも重要だ。

山田:話を聞いていても著作権と収益配分が混ざっている気がする。

津田:音楽業界に話を聞いても、問題は著作権だけではない。IT会社が、お金払いますからコンテンツ提供して、ということをやると、権利者は怒る。だからといって、本当にベンチャーで、音楽も大好きなんで、権利者団体にこんなにおもしろいサービスをやろうと提案しても、それでいくらになるの?となるわけで、コンテンツ業界には間違いなくダブルスタンダードがある。つまり、文化とお金の話。どちらも大事でどちらも個別に話をするべきだが、ビジネススキームの話をしていたときに、リスペクトが足らない、という話になったりする。そこがやっかい。

山田:フェアユース、孤児作品の利用、あるいはダビング10に話を移そう。

砂川:そもそも法律自体が悪いのか。森さんから話があったが、今は、危ない橋は渡らせられないからだめだよ、という話なわけだが、本当にそうなのか、というところは疑問。わかりにくい法律なのでそこは問題だが、著作権という法が問題なのか? 例えば、歴史的資料として見た時に、テレビ番組を24時間同録されたものはない。新聞はそれがある。太平洋戦争当時の新聞の広告なども研究できる。だが今、昭和天皇が亡くなったときの放送がどうだったか、ということを検証しようがない。そこで大学で24時間同録しようと提案したが、それは複製行為を“業”としてやることであり、研究目的を逸脱していると、文化庁から断られた。

山田:目の敵にしているわけではないが、日本文芸家協会の主張の中でフェアユースについて、「判例がないから賛成できない」といっている。導入しなければ判例も何もないと感じるのだが、このフェアユースについては、どうか。

関本:日本版フェアユースという言葉が独り歩きした点が問題だと感じるが、ハリウッドとソニーのベータマックス裁判、権利者も利益を得た、視聴者も利便を得た、その事例だけを例に推進派は話されるが、それだけではない筈。教育目的とか福祉目的とか必要なものもあるが、何でもありにして裁判で決めよう、という取り組みには疑問がある。

山田:フェアユースが導入されると儲かるかもしれない弁護士の福井さんは(笑)?

福井:まずそこが問題。本当に儲かるか、という話もある。導入に私は賛成だが、セットで、事業者の方も、裁判してでも権利を勝ち得ていくという覚悟も必要。フェアユース導入問題において、何がここまで事を難しくしてしまったのか。過剰すぎる期待と過剰すぎる警戒だろうか。著作権法において、個別の例外規定、制限規定、とやってきたが、これ以上無理ではないか。皆さんこれ読んで理解できるだろうか。検索エンジン対応一つで10年かかり、あれだけ長い条文ができた。しかも、長い文章を読んでも、ディレクトリ型の検索エンジンが合法かどうか、私はわからない。そうすると、事前にどれだけ読み込んでもわからない、長い長い著作権法に、さらに条文を足していくよりも、必要性・公益性は高く、権利者の損にはならない項目で、自分の責任でやった上で、仮に問題があったときは裁判で争う覚悟がある、という人がいるのであれば、そういう仕組みがあっていいのではないか。具体例としては、写り込み。ンタビューでシャツに「ミッキー」がいて、写り込んじゃった、ここにモザイクをかけて報道すればすむのか。ある雑誌の表紙に過去の雑誌のバックナンバーをずらっと載せる、この権利処理、引用で片付けることはできるか?そのほかパロディなど。世界の文化でもメインストリームにある二次創作。これらができない。TwitterのRTは果たしてゆるされるのか、という議論。疑問が常にある。そこに萎縮が生まれる。

関本:写り込みの話まで広げると、肖像権の問題などまでかかわってくる。著作権、という問題に限定すれば、僕らはそんなに困っていないのだが。こうした問題は多々あり、例えば東大寺の大仏や弥勒菩薩、これについて著作権はないが、ネットに載ったときに、東大寺に削除を要請する権限がない、だから困るという。我々としては寺院との関係がこじれるのは困る。萎縮といえるかもしれないが、これは著作権の問題ではない。僕はむしろ、ちゃんとDRMをしっかりかけて、番組がネット上では変な使われ方をしないんだ、と認識される事が大切なのではと感じる。著作権のところをフェアユースにするという議論をしても、少なくともプロの問題についてはあまり解決しない。NHKスペシャルでもお金がかかっているのは一般人の、著作権以外も含めた権利処理のコスト。

福井:それらは私が疑似著作権と問題といっている問題で、それをフェアユースに反対する根拠とするのは弱いのではと感じるのだが。

関本:三年前、二年前は本当に大変だったが、今は違う。嫌だという人は、出て頂かなければいい。少なくとも、番組にプロが出るところについては困っていない。しかし、一般人は大変。ネットで流す許諾は簡単にはとれない。実際の放送を見てから決める、という事例も多い。一般人については放送の許諾だけでも大変な現状がある。

津田:フェアユースのところで言うと、新聞協会がフェアユースに反対と聞いて、ポカーンとした。報道の自殺だと思う。エロ漫画を出している出版社が規制法案作ってくださいと言っているようなもの。萎縮効果なんてない、という意見も権利者含め多い。現場についてみれば、この1月からダウンロードが違法化され、研究者が困っている。楽曲の類似性についてデジタルで研究しているわけだが、そういうのをやっているときに、今は研究所内の音源でしかできない。YouTubeからダウンロードすることもできなくなった。使っている音源に対するチェックも厳しく見なくてはいけなくなった。フェアユースがあればそういう研究目的についても問題なくなるわけで、ここが進んでいかない不満がある。DRMをかけてじゃんじゃんやればいい、という話にも疑問を持っている。電子書籍でもそうだが、標準が決まって、これをどうするという段階となって、DRMの議論になると、急に場が荒れ出す。DRMレベルをどうするか、どこ社のDRMを使うか、…結局議論がまとまらなくなる。

森:ちょっと前のデータだが、アメリカのGDPの30%はフェアユースがらみと、アメリカのCCIAが数字として出していたりする。投資をしている人間も、作ろうとしているコンテンツが他の人の著作物を勝手に使っていないかというリーガルリスクを抱えているとビジネスができない。文化とお金を分けて考えればいいのではないか、という話があったが、フェアユースという仕組みが入ってくれば、ひとまず文化の話はおいて、お金で解決できるのではないか。

山田:政府がコンテンツ産業を振興すべきか否か。

砂川:クリエーターを作る教育プログラムがない。クリエーターを作るという環境が、日本の義務教育にない。クリエーターをどう作っていくのかという問題。

森:教育に時間はかかる。そうすると効果が出るのは20年かかるわけでもう遅いかもしれない。今の教育は画一的な部分に責任を持つ、という感じだが、多様性のある教育も必要。特定目的で基金を出すべきで、フランスなどではCNCがニューメディアは全部支援しているし、映画については映画入場税、広告では国庫基金をもっており、それをクリエーターに還流するメカニズムをつくっている。日本はポーンとでてきた人間を支援する仕組みはない。出島、非武装地帯にお金を注ぎ込み循環するべきだ。

山田:ダビング10廃止の代わりに補償金制度を拡充する場合、それをクリエーターに還流するのか?

津田:国にできることはほとんどない。有名な「泳げ、鯛焼きくん」の話がある。あれだけの大ヒットにもかかわらず、歌手は5万円の印税と100万円のギターしか得られなかった。儲かったら後から儲かる仕組み、などはあってもいいかと思う。買い取りであったが故に埋もれた天才が埋もれないために仕組み作り、政府にはこれくらいやってほしいなと思う。

質疑応答

質問:フェアユースの議論は立法が進まない、裁判所にいるエリートたちに委ねられるか、という懸念がある。写りこみで損害賠償をNHKが払ったと聞いたことはない。そんなに問題なのか。アメリカの著作権は漠然とした広い権利であり、だからこそ漠然と広いフェアユースができた。それが映像産業の将来のために必要かというと疑問が残る。

福井:裁判所の方々、優秀な方々もたくさんいる。官僚を信頼するか裁判官を信頼するか、という話ではない。裁判官をどう説得するかは、訴訟を起こした側の課題だ。
写り込み、困っていないという話もあったが、先ほどの様なモザイクや学術的な場での利用においてどれだけ困っている人がいるのか、数々の事例を積み重ねていくことが大事。

質問:BBC程の無料サービスがなぜ日本では出来ない?

関本:きわめて簡単な話で、BBCは受信料でやっている。NHKも無料でやったらBBCよりもっと見られるかもしれない。でも別会計で有料と法律で定められている。

山田:ニコニコ生放送からの質問が来た。B-CASは必要か?

津田:なくすべき。

レポート監修:山田 肇
レポート編集:山口 翔

<日時>
3月15日(月曜日)13時30分~16時45分(13時受付開始)

<場所>
大手町サンスカイルーム E室
(東京都千代田区大手町2-6-1 朝日生命大手町ビル24階)
・JR線「東京駅」八重洲北口側、日本橋口から徒歩1分
・都営線、東京メトロ線「大手町駅」B6出入口からすぐ

<スケジュール>
13時30分:開会挨拶 山田 肇(東洋大学、ICPF副理事長)

13時35分:パネル討論1「新たな時代の電波政策」
モデレータ:金 正勲(慶應義塾大学)
パネリスト:鬼木 甫(情報経済研究所)
夏野 剛(慶應義塾大学)
仁平 成彦(TOKYO FM)
山田 肇(東洋大学)

14時55分:休憩

15時15分:パネル討論2「新たな時代のメディア・コンテンツ政策」
モデレータ:山田 肇(東洋大学)
パネリスト:砂川 浩慶(立教大学)
関本 好則(NHKエンタープライズ)
津田 大介(メディアジャーナリスト)
福井 健策(骨董通り法律事務所)
森 祐治(株式会社シンク)

16時35分:まとめ 金 正勲(慶應義塾大学)

16時40分:閉会

<参加費>
2,000円(会場費) ※ICPF会員は無料
※シンポジウム当日の様子は、ニコニコ動画、Twitterなどでの生中継を予定しております。

<定員>
180名