知的財産 改革を阻む制度の壁:コンテンツの流通を阻むものは?

概要

情報通信政策フォーラム秋季セミナーシリーズ
『改革を阻む制度の壁』-IEEE TMC Japan Chapter 協賛-

情報社会への移行を阻む大きな障壁の一つが既存の制度です。わが国には情報通信が今のように発展する前に形作られた法律・規則・慣行などの制度が多く残り、それが情報通信技術をフルに活用する社会への転換を阻んでいます。
そこで情報通信政策フォーラム(ICPF)では、『改革を阻む制度の壁』について議論を深めていきたいと考え、この秋冬のセミナーで連続して取り上げることにしました。今回はその2回目です。

<スピーカー>津田大介氏(ITジャーナリスト)
<モデレーター>山田肇(ICPF事務局長・東洋大学経済学部教授)

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レポート

文責:山田肇

著作権の概要

たとえばこのような講演でも著作物として保護される、この辺りが特許と違うところ。特許は登録しなければ権利が発生しないが、登録する分強固な保護がある。一方著作権は自然権的な性質を持っている。

著作権発生の基本的な仕組み。公開しないと著作権は発生しない。公表した段階で発生。
著作権はその中で人格権と財産権に大きく分けられる。

著作財産権、例えば本が出版で出されれば、それについて独占的に排他的に持つことの出来る権利、金銭的に保護される。もし侵害行為があれば、差し止め請求、損害賠償請求なども行える。

人格権、勝手に作品の内容を変更されない権利。純文学小説が勝手にポルノ小説に改編されるときなど、著作者が意図しない改変に対して権利を主張できる。

二者には大きな違いがあり、財産権には譲渡可能な性質がある。そもそもの権利は自分にあるが、他人、事務所に譲渡する代わりに給料を貰うなどできる。
人格権はあくまでその人がどう思うか。他人に対して譲渡するなどが出来ない。

ネット時代、人格権の同一性保持権をどこまで認めるのかという問題もある。
たとえばブログのRSSをリーダーがとってきて、勝手にマッシュアップする、ヘッドラインにする、など、一つの文章で一つの著作物を取り出してとなれば改変となる。

ネット時代において、著作権との相性は悪くなる。

著作権のおもしろさは何か?明らかに「そりゃまずいだろ!」っていう違法な使い方しても著作権者本人がが「OK!」といえば白となるあたり。

例えば、角川など、勝手にアップロードされたコンテンツに広告効果があると見受けられる場合、角川自身が白にするなどの取り組みも見られる。

著作隣接権の話。著作権者以外にその著作物の伝達に貢献したものを保護するための権利。

実演家や、昔はレコード制作に大きな投資が必要だったため、レコード制作者に原盤権が与えられていたり、放送事業者にも権利が与えられている。
実演家以外は産業保護的な側面があり、他に勝手にコピーされない権利をコンテンツビジネスを行う会社に対して与えた。

これらを前提として、80年代の終わりから90年代まで、今まで言った原理原則で処理していれば権利処理はうまく回っていた。

デジタルの波がやってきてから、コンテンツビジネスに大きな変化。

物流コストの大幅削減、パッケージより高品質なサービスを提供可能に。

電波の放送とは違い、蓄積型、双方向型などのコンテンツを実時間を必要とせずワンクリックで簡単に利用できるようになった。

コンテンツ制作面で見ても、ノンリニア編集が行え、政策の自由度が大幅に向上した。昔であればスタジオを借りてとなっていたところが、今はPC一台だけで出来るようになった。

80年代までアーティストが一枚アルバムを作るのに2000万から3000万かかった。今、10分の一、200万くらいあれば綺麗な音で出来るし、50万でも出来る。2000万で作って借金して、というリスクもあったが、50万とかになってくるとアーティスト自身でお金を集めてきて作ることも出来る。自信で作れば著作隣接権なども自身でもてるというメリットもある。

一方、ネガティブな面もある。

違法コピーの増加。なぜ増えたのか?パソコンとインターネットの関係、MP3などの圧縮技術の進化、デジタルデータのネット上へのアップロード、音楽ならCD借りてきてPCでリッピングが10分とかで出来る。TVの映像も一瞬で圧縮してYouTubeにあげることも出来る。利用者からすうと本来お金を払わなければ手に入らないものが手に入るため、ものを買わなくなる、という危惧をしている人もいる。

ネットとコンテンツ産業の対立。ネットワークが自由であるがゆえに、「コピー」がばらまかれる。この「やりやすさ」と「伝播しやすさ」が従来の著作権と食い合わせが悪くなっている。

デジタルかによって変化したコンテンツビジネスの「構造」を守るために、著作者以外はコピーをさせないよう、著作権法は改正されてきた。

技術と社会制度の対立

動画投稿サイトの問題。YouTubeがコンテンツ産業に認められる存在になったとは言え、多くの訴訟を受けていたりするし、ニコニコ動画に対する権利者の風当たりが強いのも現実だったりする。ニコニコ動画が新しいビジネスをやろうと提案しても、お前の所には違法の動画があるからとビジネスが出来なかったりする。片方で握手しながら片方で殴り合っている、微妙なバランスで成り立っているところがある。

そのわかりやすい例が私的録音録画補償金問題。著作権30条で認められている私的複製があるが、これは家庭内の零細な複製を想定していた。たかがしれているから、権利者から「我々の産業には関係ない」と認められてきたが、80年代からデジタル化が進むにつれ、音楽をデジタルのまま複製が出来るようになった。DATなどもかなりもめたが、92,93年あたりにSonyがMDをだすことになった。簡単に複製ができる上、日本には貸しレコードビジネスもある。「我々のビジネスに大きな影響がある」と権利者が猛反発する中で、指定したデジタルの録音については、権利者の被害の可能性があるから、補償しましょうということで、補償金が課されることになった。

補償金は元々ヨーロッパの制度で、あらかじめ機器に補償金をかけておきましょうという話だったが、日本とは事情が違う。ヨーロッパにはフィリップス位しか大きな家電メーカーはなく、多くは日本メーカー。これが一種の関税のようになり、補償金を課す国々は徴収した補償金を文化振興に使う基金にするなど、やりようがあった。日本の場合は国内に家電メーカーがたくさんあるので、利害関係が大きく変わってくる。

最初は音楽だった補償金も、その後、HDDにテレビ番組を録画する機器などが出てきたので、補償金をかけなくてはならないと言うことで、DVDプレイヤーやBlu-rayプレイヤーなども補償金の対象にしましょうということになった。

それがなぜ訴訟にまで発展したか?

ロジックの立て付けとしては、今、東芝がデジタル形式オンリーの録画機器はダビング10だけの機器でやっているので、物理的に10枚以上の複製は作れない。つまりDRMコントロールが利いているので、想定外の複製による流通は起こらない。よって補償金は必要ないという考え方があり、補償金はどんぶり勘定なのでDRMでしっかりコントロールできるなら必要ないのではないかという考え方。

権利者にとってはある種の既得権といってはおかしいが毎月はいってくるお金が無くなることにふざけるなと言う思いがある。

アナログでDVDを作る分には無限で複製できるから補償金で守るというのは分かるが、ダビング10の範囲内では損害はないはずだから、という考えから東芝は補償金を支払うのはやめた。

東芝とパナソニックがデジタルオンリーの機器を出し、補償金を払わない態度を示し、そのお金を払う期限が9月末で結局払わなかったので、SARVEは訴訟します、といことになった。

混乱の要因には、総務省の審議会と文化庁の審議会が平行してややこしいところに経産省が横やりを入れてぐっちゃぐっちゃになったところに、文科省と経産省で合意を得る、という政治的背景もある。

Winnyの問題。

著作権問題が問題視されたと言うことと、情報漏洩問題が問題視されたということがある。
常時接続PCを標的にしたウィルスなどの登場もあり社会問題へ発展。

その中でWinnyの作者を逮捕すると言うことが起こった。作者は最初から標的ではなかったという感じだが、結果として逮捕。技術はどこまで中立か、技術者が逮捕されるのはどうかという考え方もある。一審は有罪、二審は無罪、おそらく上告されるだろうが非常に難しい問題。落とし所をどこにするのか。

コンテンツ流通の話を戻すと、向いている方向は皆違う。

クリエイターは多くの人に楽しんで貰い、可能なら対価を得たいと考える。

著作権者はその著作物を占有する権利をコントロールしたい。流通チャンネルをどうするか、また露出をどうするのか、という問題もある。たくさん露出させすぎると、飽きられるのも早いという問題もある。このあたりがコントロールできなくなることに対し、権利者の苦々しい思いがある。

利用者としてはやすく便利に多様なコンテンツを楽しみたいと考える。

メーカー、IT事業者はコンテンツが自発的に流通するプラットフォームを作ってトラフィックを集め、マネタイズしたい。

微妙にベクトルが違う。

大きくしていくのか、という話。重なる部分を最大化していくとコンテンツ流通を大きくしていける。そうはいっても対立は多い。

対立裁判

ファイルローグ事件 業者側敗訴
→アメリカと同じくノティス&テイクダウンに則ってはいたが日本ではNG

選撮見録事件 業者側敗訴

録画ネット事件 業者側敗訴
→私的複製を業者が手伝ってくれるというサービス

まねきTV事件
→これは勝訴。なぜか?ほかと比べユーザーに不親切だった。SonyロケーションフリーTVを単に預かるだけという、ハウジングサービスだったといえる。

MYUTA事件 業者側敗訴
→オンラインストレージサービスに音楽を3G形式に変換してくれるという作業が加わったことで著作権侵害幇助となる。日本の著作権では街のダビングやさんはNGという考え方。複製機材から自分でもって、複製しなくてはならない。

ロクラク事件 業者側 勝訴

不毛なのは下の五つは全部同じだということ。私的複製を業者が手伝う、ということについて放送局が裁判でつぶそうとしているというわけで、放送局の態度が変わらない限りこの流れは変わらないだろう。

なぜこうしたことを行うのか放送局の人に聞くと、自社の動画配信サービスを少しでも脅かすものは早い段階からつぶしておこうという考え方ではないのかということ。

シロとクロをわけるもの

街のダビング屋と判断されればアウト。カラオケ機器のような機器として著作権侵害の場を提供しているのであれば、その場の提供者も新会社となるという判決がでた。この「カラオケ法理」の理屈に近接する形で判断される。「カラオケ法理」最強。ただし、先のロクラク事件も「カラオケ法理」自体にはふれているので、必ずしもこの法理によって敗訴となるわけではない。

著作権裁判に強いJASRAC

「カラオケ法理」を認めさせた。
著作権の裁判は裁判官によってかなり変わる。
東京と大阪では出される判決が違う。

重要な裁判はJASRACは大阪で起こすことがおおいとか、提訴して良い裁判官に当たらなかった場合はいったん取り下げて、良い裁判官に当たるまで提訴を繰り返すという裁判ハック。

コンテンツ流通を考える上では日米の法律の違いも大きい

DMCA(デジタルミレニアム著作権法)

免責事項の存在
・ノーティス&テイクダウンをしっかりする
→YouTubeだと侵害報告があれば即座にネット上から削除する仕組みができあがってい。る。
・著作権侵害はだめだとユーザーに告知する
・ユーザーの行動すべて把握する管理能力がない

フェアユースの存在

日本の著作権法
免責事項がないため、業者も著作権侵害の幇助や主体通して判断されてしまう
フェアユース(公正利用)とは
フェアユースの定義

・明確な定義はないとも言われるほど柔軟。米国著作権法などで認めている。
・著作権法に違反する利用でも、利用目的や権利者の被害の程度などに照らして「公正な利用」であれば違法とはみなさない、という考え方。

日本版フェアユース
昨年知財本部が導入方針を打ち出し

検索エンジンの合法を巡る問題
Googleの画像検索からURL付きではOKだが、GoogleTopから画像だけが表示されるとNGともよめる。こういった問題もフェアユースがあれば一発で解決できる。

コンテンツ流通を阻むものは?

・旧態依然とした権利者の意識 直ぐに移行できるわけはない。時間はかかる。だが移行する期間に明確なビジョンがないままだめだという状況はよくない。限定的に認めて良さそうなものがあればそれを試金石にすれば良かったと思う。NHKアーカイブも権利処理コストがものすごくかかっているわけだから、そのあたり著作権法でなんとかするとか、資金プールの仕組みを作るなど、やりようはある。

権利者、権利者といっても全然一枚岩ではない。僕ら30代くらいで放送局や出版社や音楽業界などにいる人は裁判が無駄だと言っている人もいっぱいいるし、一生懸命問題を考えている人もたくさんいるが、決定権を持っているのは50代だったりする。

そうはいってもデジタル時代のコンテンツビジネスってなんなんですか、となると、有料になるとお金払ってくれない、という問題もある。mixiやモバゲーがやすい金額でニュース集めて来て無料でばらまくという焼き畑産業的な問題も単価を下げているという問題もある。こうなると流通させることで利益を拡大するというビジネスモデルへ移行することが難しい。

少額決済手段の不整備もある。

フェアユースの導入など、デジタル時代に合わせた著作権法の改修も必要。

著作権所管官庁の問題 いつまでも文化庁にやらせていていいのかという問題
情報通信省構想などの考えもあるが、自分もそうした考え方には基本賛成の立場。
文化庁は産業全体を見たり消費者の声を聞いたりと言うことはない。

ネットユーザーの 「嫌儲」
アフェリエイト収入でも日米で10倍ぐらいの収入差があるといわれている。
日本ではアフェリエイトリンク注意とかかれている等、クリックしてユーザーが損するわけではないものでも他人がもうけることを嫌うという部分がある。

無料のものと有料のものの棲み分けは可能になるのか?このあたりが焦点になるだろう。

質疑応答

Q
少額決済は一つのポイントと思う。津田さんなら自分のブログ記事いくらで売りたいと考えるか?
A
取材などもして、気合い入った記事は100円で売りたいと思うことはあるかもしれない。

Q
情報の価値を小さく見る傾向が日本にはある気がする。だが有能な研究者を育てるためには一斉に有料などにするなどしなくてはならないと思うのだが
A
おっしゃるとおりだとは思う。自分も記事書いてお金になったらいいかなと思う。しかし、朝日・読売が有料になったとすると、パクリにならない範囲で事実だけを発信する素人メディアに人が流れる危惧もある。多くの人は新聞とるのは信頼があるからとるのではない。周りがとるからとっている。

Q
この数年間、もう著作権制度はどんどんかわっている。
僕らが若い頃はこのような発表をしようとしても怖くて出来なかった。
今まで著作権法の世界で活躍された先生方は定年になってしまった。
そんなに悲観する必要ないのではないか。
一方、乱れれば乱れるほど喜ぶのは弁護士。
でも希望はあるのではないかと感じる。
A
やはり音楽の世界はネットを使ったムーブメントが出来ていて、人工音声ボーカルソフトを使用して制作された楽曲をメジャーレーベルでSonyが出しはするが、二次創作を阻害したくないのでJASRACに登録していなかったりする。今まで概念で指摘されてきた項目が実例として出てくるようになった。

Q
最近の事例としてはGoogleの和解案の日本の除外。あの事件で非常に象徴的と思うのが、日本の協会の反対の態度。アメリカはNYタイムズも危ない状況。アメリカのライターはもうせっぱ詰まって推進しているが、日本はまだまだ何とかなると思って、ふたをすれば何とかなると思っているのではないか。和解案のような事例が出てくれば権利者とユーザーが対立することがなくなっていくのではないか。権利者が困る話もない。著作権をぐちゃぐちゃ言わず権利者もユーザーも得だよ、という
A
たしかにGoogleもフェアユースとか言わなくなった。ビジネススキームでどうするのかという話。権利者に何が反対かと聞いて、つきつめると、「俺らに黙ってやっていることが許せない」という、コントロールの問題だったりする。流れが変わらないなら長期的な流れに即した形の方がいいだろう。

Q
無料と有料の線引き
A
ニコニコ動画を事例に見ると、クレーム対策だったりする。帯域が込んで使えない時間帯を有料にする、というスタンス。そしてサーバーの増強にコストを割いている。たぶん投資をやめれば黒字化は出来るのだろうと思う。メディアだって独立系でも無料部分と有料部分も棲み分けをうまくやっている媒体もある。その辺りの使い分け。

Q
罰則なしのDL違法化の実効性
A
啓蒙的効果は見込めるのかなと。実態がどこまで変わるかはわからない。

スケジュール

<日時>
11月18日(水曜日)18:30~20:30

<場所>
東洋大学・白山校舎・5201教室(5号館2階)
<資料代>
2000円 ※ICPF会員は無料(会場で入会できます)