セミナー「GIGAスクールを活用した教育:現状と課題」 浅野大介経済産業省課長ほか

開催日時:5月26日水曜日午後6時30分から8時10分
開催方法:ZOOMウェビナー
講師:浅野大介経済産業省サービス政策課長、上松恵理子武蔵野学院大学准教授
司会:山田 肇(ICPF理事長)

冒頭、浅野氏が次のように講演した。浅野氏の講演資料はこちらにあります

  • 経済産業省は民間教育を担当しており、EdTechプロバイダーと学校の協働を進める「未来の教室」実証事業を2018年度から進めてきた。その延長線上で国費による1人1台端末整備を提言し、文科省計上予算としてGIGAスクール構想が開始された。教育DXについて文部科学省と協業している状態。
  • OECD Education 2030はコンピテンシーの3本柱を掲げている。①新しい価値の創出(=何かを創るための学びを)、②対立やジレンマの克服(=仕事を仕上げる)、③責任ある行動をとる(=当事者として振る舞う)。これらのコンピテンシーを一刻も早く実現しようと進めているのが「未来の教室」である。
  • 「未来の教室」実証事業では、知る、すなわち「基礎スキルの定着」と、創る、すなわち「知識の編集とアウトプット」をどれだけ効率的・効果的に回していけるかに挑んでいる。その鍵が「学びの探究化・STEAM化」で価値を創るために知る学びに転換することと、「学びの自律化・個別最適化」で一人ひとりが自分のペースで主体的に学ぶことである。
  • 実証事業における自律化・個別最適化のベストケースのひとつが、福島県大熊町立小中学校のケースである。小学生と中学生が、外国籍や障害を持つ子どもも含めて、それぞれが自分のペースで学ぶことができる環境をつくった。デジタルドリルを使って自律的に学び、わからないことについて周囲や教員の助けを得る。教員も「教科書は確認にために使えばよい」と、思い切って振り切る指導を始めた。
  • 長野県坂城高校には対話型デジタルドリル「すらら」を導入した。高校に進学したが、実は小学算数や中学数学でつまづきポイントのある子もいる。「分からない」と声を上げるのは恥ずかしいが、自分のペースで学び直しが自由にできるようにしたところ、生徒の成績は伸び、なにより自己効力感を高める生徒が増加した。
  • 別室登校・不登校生徒の学習管理を、城南進研デキタスとStudyplusが協力して、横浜市立鴨居中学校で実施している。筋トレの世界では、パーソナルトレーニングが普及している。学校での学習でも、集団トレーニングからパーソナルトレーニングに移行すべき。同じの考え方に基づいて、オンライン・フリースクール『クラスジャパン小中学園』と17基礎自治体が連携して、200人の不登校児童生徒に在籍校において『在宅出席・在宅学習評価』を与える実証事業も実施している。
  • 学びのSTEAM化とは探求学習である。全国の高校(農業・水産・商業)をつないでロボティクスとメディアアートの探求学習を進めている。例えば、沖縄の水産高校の子どもたちは、勘と経験に頼るだけであまりにローテクな近海漁業のDXによる操業改善を考える。たとえば魚群探知機を倒産したドローンを導入して変革するなどの探究活動に取り組んでいる。
  • サイバーセキュリティを題材に、広域通信制高校に通い、中学までの不登校経験や発達障害で困難を抱える子たちで、ゲームをとにかくやってきた子たちを対象とした実証実験がある。「正義のハッカー」とはどんな人でどんな活動をしているかを、現役の正義のハッカー自らに語ってもらう。現役の正義のハッカーが「僕も高校時代は引きこもりで、ゲームばかりしていて、そこからこの仕事に出会って、いまはこう」と話をすることで子供たちの興味がわき、セキュリティ診断技術を学んで実践する中で、ゲーム経験を活かして高いパフォーマンスを示し,今後もサイバーセキュリティについて学び続けたい、関連する職に就きたいという意欲を持つ子どもが出てきている。「自分も何とかなる、いけるかもしれない」と思った瞬間から子供たちは変わる。その機会を与えるのがSTEAMである。
  • 子どもたちに「時代遅れな校則やブラック校則」を自力で変える「交渉」を学んでもらうルールメイキング・プロジェクトも実施している。校則を含む学習環境を自らデザインすることで、「自分の属する組織の環境を改善し続ける力」を中高生の頃から養い、その先で、関係者の間で合意を形成していくというプロセスを体験させている。
  • 中高における「学びのSTEAM化」の究極型は、「総合」の時間のみならず、関連する教科や特別活動の時数・単位も合科され、十分な時間を用いた学際研究が展開される状態である。新学習指導要領によって、今度こそ探究vs教科(系統)の二項対立を終え、GIGAスクール時代の「未来の教室」に進むべきだ。
  • これに寄与するために「STEAMライブラリー」を提供している。学習コンテンツ、同じコンテンツを使った教員同士のSNSコミュニティなどで構成されている。モビリティ、スマートシティなどのコンテンツもある。「モビリティは担当科目には関係ない」などと教員が無視しないように、それぞれが中高で取扱う教科/単元とどう結びついているかもわかるようになっている。コンテンツを学ぶだけでなく、学校同士でアレンジできれば外国の学校とも繋いで議論してもらおうと期待している。
  • 各OSが組織している既存の教員コミュニティと連携して、経済産業省「STEAMライブラリー」を活用した授業実践や実践事例の共有を進め、STEAM学習の広がりを目指している。
  • 『未来の教室』サイトにEdTechライブラリーという、「未来の教室」デジタル教材の試験導入への入口がある。EdTech導入について4,303校に補助金を交付して、利活用を進めている。
  • 最後に、子どもたちの「自分探し」に少しでも役立ちたいと考え、事業を進めているという思いをお話して、講演を終わる。

次に上松氏が次のように講演した。上松氏の講演資料はこちらにあります。

  • OECD Education 2030の翻訳をきっかけに、海外での初中等教育について研究し、日本と大きく異なることに気付いた。海外事例を主に今日は講演する。
  • 学校のネット・端末・クラウド環境はGIGAスクールによって大きく前進したが、取組が遅れている自治体もある。GIGAスクールは、遅れている自治体と進んでいる自治体で格差が起きることなく「一気に!」進むべきである。
  • 各家庭のネット環境やその他の格差であるが、海外ではネット接続料金の支援があるのに加えて、3日間学校で研修が必須な国もあった。単にネットにつながるだけでなく、どう利用するかについて保護者の理解を醸成する必要があるからだ。
  • デジタル教材・教科書の充実についてだが、英語圏では豊富すぎるくらいの学習用デジタル教材があるため、すでにプラットフォームの使い勝手などに議論がシフトしている。
  • アクティブラーニングでは、子供たちの好奇心、創造性、パッション、相互関連性、自己調整力を育てることが重視されている。それに合わせて「1時限は50分」といった枠に関わらず、柔軟に一齣一コマを設定できるように改善されている。
  • オンライン化の進展で、書くことはパソコンのキーボードを使って入力することに変わった。話すというのは、オンライン上で話すことであり、時にはAIにも話す。このような変化とともに、メディアリテラシー、デジタルリテラシー、さらにはAIリテラシーに変容している点を理解しなければならない。
  • ニュージーランドでは、教員に加えて、大学生などの若者がメンターとして加わり教育を推進している。これによって子供たちの好奇心が育ち、教員の負担は軽減する。
  • 人口減少は急激で子供の数は減少の一途を辿っている。そんな日本でイノベーションを起こしていくために、学校はいつでもどこでも誰でもアクセスできるオープンな場であるというように、学校の概念も変化させる必要がある。時代の進化に寄り添う&沿う教育が求められているのだ。

講演の後、次のようなテーマで議論が行われた。

ルールメイキングについて
山田:国際標準化で日本代表を務めているが、ルールメイキングについて知識と経験が不足するエキスパートが日本人に多い。未来の教室に期待する。
浅野:まったく同じ問題意識を持っている。それに加えて、例えば働き方改革なども政府に言われないと動かない、自治が効かないのが日本の問題と考えている。自らの生存環境を維持するには論理的な交渉と合意形成が決定的に重要で、これを強化する教育が必要と考えている。
上松:クリティカルシンキングは誰もが身につけるべきものと、諸外国では考え、教育を行っている。同様に意見の合わない人とも話し、交渉するコミュニケーションスキルも育てている。

教員のICT能力について
上松:オーストラリアでは教務主任が各教員にICT教育の方法を指導する役割を担っている学校もある。また、フィンランドでは子どもを午後から帰宅させ、週に1回、教員の研修会を開くという。研修は一方的な話を聞くのではなく、教員同士でコミュニケーションを取りながらオンラインを使いながら理解していくという形である。
浅野:福島県大熊町の事例でわかるように、教員に高いICT能力が必要なわけではない。大熊町では、子供たちが主体的に学ぶのを助けるのが教員の仕事で、ICTを手掛かりにして子供たちを助けている。大熊町では、特にベテランの教員はこの変革を楽しんでいる。
山田:教員相互のSNSネットワークが大切ではないか。
浅野:「未来の教室」の施策を進める中では、参加している教員とSNSを使ってコミュニケーションをしている。それがなければ、施策が進められない状況である。
上松:スウェーデンなど、教員のコミュニティがFacebook上にある。「こんな授業をしているよ」とニュージーランドの教員は授業中にリアルタイムでTwitterにアップしている。コミュニティの中で協力し合いながら教育を改善していくのが当然であり、米国では10年も前からデジタルの授業素材を共有して相互評価するCurrikiのような仕組みも出来ている。
浅野:SNSでのコミュニケーションが知的な作業であるということを、日本の教員も理解する必要がある。
上松:教員室で、教員同士がコミュニケーションを取れるようにしないと、科目横断的な、総合科目の授業は教員同士のやりとりが大事。日本の教員室は静かすぎる。

ICT利用が生む格差について
浅野:すでに大きな格差が存在している現実を直視すべき。ICTがあるから格差が広がるのではない。算数でつまづいた高校生だって世の中にはたくさんいる。長野県の高校では小学算数や中学数学まで自在に戻れるデジタル教材を提供する実験を行っている。今ある学習格差を認識し、それを本当に埋めるためにEdTechを使い、子どもたちに自信を付けさせることが大切である。
山田:デジタルであれば、個々の子どもに合わせて問題内容を組み替えるアダプティブな教材も提供できる。
上松:動画であれば、何度でも、どこでも勉強できる。それができるのがデジタルの強みである。音読も、外国ではレコーダに取ればテイク1、テイク2と繰り返し、親によい録音を聞かせるように子供が努力する。親も子どもが就寝した後でもいつでも、好きな時間に何回も聞くことができる。このようにして、格差が縮まっていく。
浅野:スタディサプリに見るように、デジタル化で価格破壊も起きている。誰でも教育コンテンツにアクセスできる状態が生まれつつある。

情操教育について
浅野:知的好奇心やモチベーションの格差を埋めるために、また社会の基本ルールについて教えるためには、教員が絶対に必要である。このような教育が用意できる空間が学校である。
上松:イギリスでは博物館・美術館に子どもたちをしばしば連れていく。芸術に触れることで子供たちの心は豊かになり、知的好奇心も育まれていく。オンラインの時代になればこそ、情操教育が人としての感性を磨くためにとても大切で、「情操教育がなければオンライン教育はない」と考えている。