シンポジウム アクセシビリティ法は社会をいかにして・どのように変えてきたか―諸外国の事例を中心に ジェームズ・サーストン氏(G3ict)ほか

主催
特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム(ICPF
共催・協力
日本障害フォーラム(JDF
特定非営利活動法人ウェブアクセシビリティ推進協会(JWAC
ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC
後援
公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会(JSRPD
協賛企業
イデア・フロント株式会社
株式会社インフォアクシア
株式会社ミツエーリンクス 

月日:626日月曜日
場所:エムワイ貸会議室 四谷三丁目(四谷三丁目駅前)会議室A
情報保障:手話通訳、要約筆記、ボランティアによる逐次通訳 

プログラム
200分 主催者挨拶:山田肇(ICPF理事長)
210分 ジェームズ・サーストン(G3ict
講演「アクセシビリティ法をめぐる世界の動向」
250分 石川准(国連障害者権利委員会委員)
講演「国連障害者権利委員会は何を求めているのか」
310分 休憩
320分 パネル討論
三宅 隆(日本盲人会連合 情報部長)
小出真一郎(全日本ろうあ連盟 理事)
新谷友良(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 理事長)
渡井秀匡(東京都盲ろう者支援センター)
430分 閉会 

サーストン氏の講演資料はこちらにあります
石川氏の講演資料はこちらにあります
小出氏の講演資料はこちらにあります
新谷氏の講演資料はこちらにあります
渡井氏の講演資料はこちらにあります

以下の記録は山田肇が作成したものであり文責を負う。

冒頭、サーストン氏が次のように講演した。

  • G3ictは国際連合の支援で活動している組織であり、障害者権利条約(CRPD)に関わる活動も実施する小さい組織である。障害者権利条約の要件に対応した情報通信技術(ICT)の促進をミッションとして、グローバルに取り組んでいる。
  • 今日の世界はどの程度アクセシブルなのか? 障害者権利条約進捗報告を100か国以上について分析した。その国の主要言語によるスリーンリーダーが市場に提供されている国は57%、公用語による音声認識がパソコンで可能な国が55%、視覚障害者向け公共図書館・電子書籍サービスが32%、アクセシブルな政府ウェブサイトは45%、テレビの音声ガイドは17%というように満足のいく結果ではない。
  • 良い知らせもある。障害当事者は世界に10億人もおり、家族・友人を加えると 35億人に達する。米国では人口の19%が障害を持っているが、65歳以上では50%に増加するなど、高齢化によってアクセシビリティの重要性が増している。市場規模も拡大している。オリンピック、ワールドカップ、企業マーケティング、メディアによってこの問題への注目度は増している。技術は進歩し、急速な製品サイクルを通じてICTアクセシビリティのイノベーションは加速し、これをモバイル業界が推進している。 今日の支援技術は明日の主流技術になる。
  • デジタルインクルージョンの推進力として公共政策が重要である。ウェブを通じた情報の受発信、基本的人権、教育、雇用、金融サービスと多様な側面での公共政策が期待される。政策活動は米国とEUのみでなく、ラテンアメリカにも押し寄せている。
  • 公共政策のうち調達政策が重要で、アクセシビリティに配慮した製品サービスの購入を公共調達で義務付ける必要がある。アメリカではGDP1015%が公共調達であり、政府は技術の大口顧客(技術市場の25%が連邦政府の購入)である。公共調達政策はアクセシビリティの推進に効果が高い。
  • 公共調達におけるアクセシビリティ配慮はまだ33%の国でしか実施されていない。米国にはリハビリテーション法508条があり、EUETSI EN 301 549に基づく公共調達について指令を出している。すべての公共団体は、国民、市民、公務員が利用するすべての製品、サービスの公共調達に必須の要件としてアクセシビリティを含めなければならない。
  • 欧州にはアクセシビリティ法制定の動きがある。EUにおいて、多くの製品、サービスに障害者がよりアクセスできるようにするための法律である。法的拘束力はありEU加盟国は適用義務を負う。コンピュータ、オペレーティングシステム、ATM、発券機、スマートホン、デジタルテレビサービス、電話通信サービス、銀行サービス、電子書籍、電子商取引などカバーする範囲は広い。
  • カナダは、障害のあるカナダ人法(案)を用意している。この法律はすべての企業に適用される。カナダ王立銀行、モントリオール銀行などの銀行、カナダ航空、Via Railなどの州間旅客サービス、Rogers and Bellなど電気通信事業者、すべての連邦政府の雇用者が対象である。雇用、建物、公共空間へのアクセス、情報通信など範囲は広い。2018年春までに、議会で法案を上程する用意を政府は行っている。
  • オーストラリアは新基準としてAS EN 301 549: 2016ICT製品、サービスの公共調達に適したアクセシビリティ要件」を公表した。欧州規格EN 301 549の本文をそのまま採用している。基準の採択以降、財務省は連邦調達規則を更新し基準への遵守を求めた。
  • 最後に、①市民社会を取り込む、②アクセシビリティ技術の市場を支援する、③政策は実施する、④障害者への意識を向上する、⑤世界中の良い事例を活用する、⑥国全体だけでなく地方の政策も考える、⑦公共調達政策を採用する、を強調したい。

次に石川氏が講演した。

  • 国際連合の障害者権利委員会は障害者権利条約の実施状況を点検し、各国に勧告を出している。今期はカナダに勧告したが、カナダは障害のあるカナダ人法の制定を進めており、期待が高いので強い勧告を出した。
  • 具体的には、現状の法制度、政策を条約の完全実施の観点から再検証するよう求めている。物理的、交通、情報コミュニケーションをアクセシビリティ基準でモニタリングする。「easy to read」に配慮した情報提供に努める。テレビの音声ガイドを充実させる。英語とフランス語が公用語なので、フランス語におけるアクセシビリティ対応の強化、すべての教員に手話とアクセシビリティの研修、選挙公報におけるアクセシビリティの確保などである。
  • マラケシュ条約をカナダは昨年6月に批准し、それで20か国が批准したため発効した。それ以外のマラケシュ条約を批准していない国には批准を求める勧告を出した。
  • 日本に関する私見を申し述べる。我が国の障害者施策では情報通信のアクセシビリティは弱点である。それは、根拠となる個別法が無いためである。それに代わって、みんなの公共サイト運用ガイドラインがどの程度効果を持つか、障害者政策委員会は注目している。放送のアクセシビリティに関する指針も同様であり、2017年度末までに字幕付与可能な番組には100%付けるように求めている。
  • 電子書籍のアクセシビリティは空白地帯だが、紙の書籍に比べてユニバーサルデザイン化は容易なはずである。しかし政策が無い。諸外国のアクセシビリティ政策のおかげで、Kindleの日本語版がアクセシブルになっているという状況である。映画では字幕は付与されているが上映館の判断で字幕がOFFになっている。AR技術を使って必要な人だけに見えるようにすることが可能である。これらについて、諸外国の情勢を学び、前に進めるのが重要である。

パネル討論ではまず三宅氏が講演した。

  • 日本盲人会連合で声が最も多いのは放送に関するアクセシビリティである。視覚障害者の9割近くがテレビを視聴しているが、緊急放送、速報がテロップ表示されても音声ガイドが出ない。チャイムの合図で緊急のお知らせがあることはわかるが、表示内容が把握できない。また、テレビ受像機では限られた機種だけ音声ガイドが使え、機能も限られている。
  • 情報技術の進歩で様々なことができるようになった。しかし、技術の進歩で、今までできていたことができなくなった。コンビニのセルフレジはアクセシブルでないため難しくなった。宅配ボックス、宅配ロッカーでも同様。ICTを活用し、スマホから操作もできるよう改善してほしい。
  • 選挙公報は視覚障害者が利用できない。音声版、拡大版、PDFがあるが、これらは選挙管理委員会の責任ではなく、二次利用的に発行されたものでしかない。

小出氏は次のように講演した。

  • 東日本大震災ではろう者の犠牲者比率が健常者の2倍になった。情報受発信に問題があったからだ。国会内も手話での中継はできていない。全日本ろうあ連盟では手話言語法、手話言語条例の制定を求め、広がりを見せている。
  • 日本の法律では情報アクセシビリティについて規定が無い。これが壁の一つになっている。国土交通省で先日バリアフリーガイドラインを改正したが、要望は出したがすべてが反映されたわけではない。
  • 手話通訳者の問題もある。手話通訳者の人数が少ないが依頼は増えている。遠隔での手話通訳も進めているが、行政には理解不足がある。
  • アクセシビリティについて社会での理解が進み、解決してほしい、このために情報アクセシビリティフォーラムを秋葉原で2013年、15年に実施した。国会議員なども集まり、法改正を働きかけている。また、全日本ろうあ連盟は情報アクセシビリティ法のガイドラインを作っている。

新谷氏が講演した。

  • 全日本難聴者・中途失聴者団体連合として話をする。WHO調査では36千万人が聴覚障害で、人口の5%に達する。18千万人は高齢者で、高齢者の聴覚障害は騒音が問題である。「Make Listening Safe」を掲げて活動しているが、聞こえの環境改善は国として取り組む問題である。
  • テレビ字幕には問題がある。字幕付与のできる番組にはすべて字幕を付けるという施策が、今年が最終年度を迎える。しかし、これは「字幕付与」できる番組に限られている。時間的に無理なら対応しないということになっているが、災害時はどうするのか? 国会中継には字幕付与可能のはずで技術的問題ではない。BSCS、インターネット動画にも指針がない。
  • 日本映画610のうち81に字幕がついた。制作段階では日本映画を作れば必ず字幕を付けて準備しておくというように取り組む必要がある。米国では教育用DVDへの字幕が突破口になった。学校用のDVDに字幕が無いものには、納入を認めないとした。このような政策にも効果がある。
  • 電話リレーサービスが障害者基本計画に明記されなかったのは残念である。民間業者がチャレンジしてきたが、通信事業者を巻き込んだものが無く事業撤退を繰り返している。今では厚生労働省が予算を付けてパイロット事業的に支援している。総務省は民間通信事業者の「みえる電話」を推奨しているが、1000人くらいしか普及していない。。事業者のサーバに音声情報、文字情報をいったん保存しなければならないが、個人情報保護の観点から事前同意が必要ということになっているそうだ。

渡井氏が最後に講演した。

  • 東京都盲ろう者支援センタは日本で初めての盲ろう者向けリハビリ施設である。盲ろう者は見え方、聞こえ方がひとによって様々で、少し見える人から全く見えない人、少し聴こえる人から全く聴こえない人の4つのタイプがある。
  • 盲ろう者はコミュニケーションと移動と情報の3つの困難を抱えている。特に全く見えない・聴こえない盲ろう者はテレビなどが見られず情報は全く入らない。以前ある研究所が字幕放送やデータ放送を点字に変換するシステムを開発して、盲ろう者の多くが期待を寄せていたが5、6年程前に立ち消えになってしまった。実用化には多大な費用が掛かるということで、それ以降、開発が進んでいない。
  • 盲ろう者は法的に位置づけされていないため、視覚障害者や聴覚障害者の制度を使っている現状がある。しかし、まったく見えない、全く聞こえない盲ろう者の場合、情報をアクセスするための設備を整えるためには視覚障害者の補助だけでは足りない。情報弱者である盲ろう者であるほど十分な支援受けられない現状がある。
  • 聴覚障害から盲ろう者になった人は、見えていた間は手話言語で生活しており、音を聞いている訳ではない。ところが点字の場合は音をそのまま点字にする形が基本なので、ろうから目が見えなくなった盲ろう者には全部かなで書かれた文章は理解がむずかしい。点字訓練のプログラムの工夫や、点字の利用が難しい盲ろう者への情報の伝え方を考える必要がある。
  • ホームページでは画像情報が読み取れない状況が増えている。テキストベースで読み取れるよう改善してほしい。字幕情報、データ放送もテキストベースで配信されれば、点字に変換できる。アクセシビリティの改善も求めていきたい。

以上の講演についてサーストン氏、石川氏から、情報アクセシビリティを推進する強力なリーダシップが必要であり総務省の力に期待する、アクセシビリティの充実は国の政策に依存するといったコメントがあった。

会場の日本盲人会連合関係者から、アクセシビリティの質をどのように担保するかという質問があった。サーストン氏は、技術基準を定めそれに適合しているかで判断するのがよいと回答した。

最後に司会の山田氏が次のようにまとめた。わが国でアクセシビリティ法の制定を求めていく、きっかけとなるシンポジウムとなった。関係組織と協力して今後も訴えを続けていきたい。