開催日時:5月18日水曜日 午後7時から1時間
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:高倉良生氏(東京都議会議員)
討論者:湯淺墾道氏(明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科教授)
司会:山田 肇(ICPF理事長)
冒頭、高倉氏は次のように講演した。講演の動画(一部)はこちらで視聴できます。
- コロナに感染して欠席する議員が出ると想定されたので、委員会についてオンライン参加できるように2年前に条例を改正した。オンライン参加は育児などでも必要になると考えられるが、まずはコロナ対応ということで条例にした。
- 2022年3月9日に初めて、予算特別委員会にある議員がオンライン参加した。発言時だけでなく、最初から最後までオンライン参加するという条件で実施された(委員会室のレイアウトはこちらから閲覧できます)。
- 初めての出来事なので、メディアの注目を浴び日本経済新聞等で報道された。委員会運営には特別な支障はなかったが、事前に議会事務局が議員の自宅に行き設定するなどの作業をした。
- 予算特別委員会にオンライン参加した議員は、体調には問題はなかったが、その後の都市整備委員会は欠席した。メディアに注目された委員会だけオンライン参加するのは適切ではないという意見が出て、感染した場合には委員会開催前にオンライン参加申請を出し、体調が急変しない限り出席するという運用をすることになった。
- 議員が本会議場にいる必要があるというのが総務省の法解釈で、本会議についてオンライン参加は行われていない。
- 都議会には聴覚障害のある議員がいるが、その議員はパソコンからの合成音声を用いて本会議で質問した。また、その議員はパソコンの音声認識ソフトを利用して他者の発言を聞いて議会活動を行っている。
- 都議会では委員会はインターネット中継され、議員は配布されたiPadで資料を見るようになっている。コロナの蔓延は議会の在り方について再考する機会を作り、民間企業から見ればまだまだだろうが、少しずつDXは進み始めた。ただし、大きく意見が異なる会派・議員がいる中で合意を形成して進むしかないというのが議会である。
続いて湯淺氏が講演した。湯淺氏の講演資料はこちらから閲覧できます。
- 議会のDXについて意見提起を続けた来た中で、都道府県議会議長会デジタル化専門委員会の委員を務めた。すでに報告書が出ているので参考にしていただきたい。
- 議会のデジタル化の背景には、新型コロナウイルス感染症拡大による気づきがある。「危機に強い議会」にする必要があった。
- 議会Webサイトを通じた広報、意見聴取や、議員のSNSによる発信等様々なものが行われているが、一方通行のコミュニケーションが多い。委員会へのオンライン参加は、住民とのコミュニケーションを双方向化するきっかけになるかもしれない。
- 本会議については「地方自治法の「出席」(同法第113条及び第116条第1項)は現に議場にいることと解される」という総務省の解釈がある。これは委員会には適用されないので、地方議会で委員会へのオンライン参加を認める条例の制定が進んできた。大阪府議会と、今日説明があった東京都議会では実際にオンライン参加が実施された。
- 将来的には、「自然人が物理的にその場にいることが出席なのか」という点を改めて考え直す必要がある。障害を持つ議員の可能性も考えれば、アバターやロボットの利活用もあり得るのではないか。
- 議会手続き全体を見ると、会議へのオンライン参加以外にもデジタル化可能な要素が多くある。議決(電子投票の導入)、選挙、検査、監査の請求、意見書の提出等、デジタル化していくのがよい。また、オンラインによる会議の規律維持のあり方については議会自ら考えるべきである。
- 住民との関係では、現在は地方自治法の規定で文書で請願しなければならないが、請願・陳情も紙ではなくタイムスタンプを利用してデジタル処理できる。最後に残るのはオンラインでの傍聴の在り方で、勝手に録音したり、勝手に発言するのを防ぐ必要がある。
- 地方議員には秘書がいないので、議員のサポートなど、一時的にはコストがかかる。しかし、まもなくボーンデジタルに慣れたデジタルネイティブの世代が選挙権を持つようになる。デジタル化を進めて議員と住民の距離を縮めていくのがよい。
講演後、次のような質疑があった。
Q(質問):議会は慣習を重視するなど動きが遅いイメージがあるが、委員会へのオンライン参加について抵抗はなかったのか。
TA(高倉氏回答):慣習というのは議会を運営する中で築かれてきた伝統なので、簡単には崩せない。しかし、今回のオンライン参加についてはコロナ対応で抵抗はなかった。
TA:議会には考え方が違う会派と議員がいるので、合意形成には時間がかかる。そこで、東京都議会では「議会の在り方検討会」を作って議会に関する課題について議論できるようにしている。いっそうの議会のDXも検討会で議論していけばいいのではないか。
Q:紹介された検討会のように熟議の過程をすべて公開するわけにはいかないとしても、情報公開という観点で議会のDXは重要ではないか。
YA(湯淺回答):平場で大きな議論をいきなりしても収拾がつかない恐れがある。議会を運営するために事前に議論するということは一定程度認めてもよい。住民が不満を持っているのは、何がどこで決まっているか見えないという点である。ここで話し合っているという場に関する情報は公開する必要がある。また、予算など可決するまで公開されない例もあるが、住民の理解を高めるために公開してもよいのではないか。
YA:なお、デジタル化に伴って議員や職員のプライバシー情報が過剰に公開されないように守る必要性については指摘しておきたい。
TA:慣習をそのままにしていくのは適切ではない。住民との距離を縮めるにも、議論にあたっての正確な情報は、議員の専有物ではないので公開していくのがよい。DXを上手に活用して、都民が決定に参画していくというのが本来の姿と考えている。
Q:議会では「音声で質疑しなければならない」という規則はあるのか。
TA:都議会では質疑は音声で行われている。それ以外に文書で質問して文書で回答を得るという方法もある。音声が不明瞭な方もいるし、言い間違えもあるので、音声と共にテキストを使うことを検討するのもよいのではないか。
YA:音声での質疑と文書の提出と回答が国会でも地方議会でも行われてきた。しかし、音声認識・音声合成などを利用することで、今後は音声とテキストが融合していくだろう。
Q:公明党は「小さな声を聴く力」をアピールしているが、「小さな声の人」がオンラインで議員活動するという方向に進むべきではないか。
TA:活発に動き回れる元気な人しか議員になれない、という従来のイメージは改めてもよいのではないか。様々に課題を抱えた人も社会を構成する一員である。「小さな声の人」も議員になっていく道が開かれていくべきと考える。
Q:国会へのオンライン参加は憲法に反しないと衆議院憲法審査会が結論を出したが、今後どのように影響が出るだろうか。
YA:衆議院の結論は総務省の解釈にも影響を与える可能性がある。今後、本会議へのオンライン参加が進むきっかけになるかもしれない。