ZOOMセミナー「教育のDX:インクルーシブ教育へのデジタル教科書の利用」

開催日時:1月17日火曜日午後7時から1時間強
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:
坂井 聡 香川大学教育学部教授
鈴木秀樹 東京学芸大学附属小金井小学校教諭
佐藤牧子 東京学芸大学附属小金井小学校教諭
司会:山田 肇(ICPF理事長)

坂井氏の講演資料はこちらにあります。
セミナーのビデオ(一部)はこちらで視聴できます。

冒頭、坂井氏は次のように発言した。

  • 障害者権利条約に則って、国際連合障害者権利委員会は2022年に日本に勧告を出した。その中で「インクルーシブ教育の権利を保障すべきだ」と勧告された。
  • インクルーシブ教育とは、多様な子供たちが教育を受ける権利を保障するように教育システムを改善していくこと、と私は考えている。今の学校は読める・書ける主流の子供たちに適応しており、読めない・書けない子供たちにとっては公正な場となっていない。平等に教育を受けられるように改善しなければならない。
  • 単に障害を持つ子供も普通学級にいればよいというものではなく、合理的な配慮が必要であり、それを行って初めてインクルーシブ教育である。多様な子どもたちに必要な合理的な配慮を提供するためにデジタル教科書が利用できるではないか、と考えている。
  • WHOは1980年にICIDH(国際障害分類)を定めた。障害を医学的に直そうというので「医学モデル」と呼ばれている。これが2001年にICF(国際生活機能分類)に改正された。障害そのものだけでなく生活環境の全体像を捉え、生活環境も改善しようというのがICFの考え方である。社会の側、環境の側の問題を改善しようというので「社会モデル」と呼ばれている。
  • デジタル教科書を使うことによって参加できる子供たちがいるのではないか、活動できる子供たちがいるのではないか。そういう視点で考えよう、ということである。本を読めない子どもであれば、デジタル教科書を使って読み聞かせできる。紙の教科書時代の環境を改善できる。みんなが参加できる環境を整えれば障害はなくなるのである。

続いて鈴木氏が次のように発言した。

  • 最初に、デジタル教科書を活用したインクルーシブ教育について、光村図書出版で公開しているビデオを見ていただきたい
  • ビデオでは、書くのが苦手、読むのが苦手な子供たちがどのようにデジタル教科書を使うか紹介した。初めに物語を読む際に、紙の教科書を読む、デジタル教科書を読む、音声読み上げで聞く、を子供たちが選択すると1/3ずつにわかれる。教員がこの方法で読むようにと指定するのではなく、子供たちの選択に任せるというのが、教育方法について最も変化したことである。
  • デジタルを活用すれば、書く・読むだけでなく、聞く・話すも変化する。オンライン会議アプリのブレークアウトルーム機能を使って少人数のグループを作り、デジタル教科書のマイ黒板を子供たちが共有すると、子供たちの間で意見が交換されるようになる。

佐藤氏は次のように発言した。

  • 子どもたちが具体的にどこで躓いているのかが、デジタル教科書を使うことでわかってきた。
  • 紙の教科書では文節の途中に改行が入る場合があるが、それだけでつながりがわからなくなって混乱する子供がいた。一方、デジタル教科書は文節単位で読み上げるので、子供たちの学習が進む。聴覚過敏の子供も、イヤホンをつけて読み上げを聞けば、外部の音が遮断されるので集中できる。

講演終了後、次のような質疑があった。

自分に合ったフォントの選択について:
質問(Q):自分にとって読みやすいフォントが、それぞれの人にあることがわかってきた。デジタル教科書にフォント変更機能があれば、子供たち、とくに発達性ディスレキシアの子供の学習が進むのではないか。
回答(A):現行制度では、紙の教科書と同一に表示するようにという条件がデジタル教科書に課せられている。一方でデジタル教科書にはリフロー画面があり、こちらではフォントを三種類から選択できるようになっている。子供たちは自ら選択している。
A:フォントを変えることで読みやすさが変わるのは事実で、縦書き・横書きやテキストサイズも含めて、保健室で一部の生徒に対応し、支援している。
A:多くのフォントを載せるとコストがかかるが、より多くのフォントを選択できるデジタル教科書も今後出てくるかもしれない。

インクルーシブ教育の進め方について:
Q:インクルーシブ教育への理解増進はどのように進めるのか。
A:まずは議論する必要がある。障害のある子どもは学校を選択できないという現実の課題も含めて、インクルーシブ教育について学校現場で話をしていく、考えていく必要がある。
Q:障害をもつ子供にデジタル教科書は効果があるという講演だったが、通常の教科書でも問題ない子には何のメリットがあるのか、世間的にはあまり知られていないので話してほしい。
A:デジタル教科書にネガティブキャンペーンを張っている人たちがいる。しかし、デジタルでなければできない学びが多くある。情報発信を進める必要がある。東京学芸大学附属小金井小学校ICT部会が作成した、デジタル教科書の活用実践例を多数公開するYouTubeチャンネルを案内するのでご覧ください。
A:板書を書き写させたいのか、子供同士で議論させたいのか。子供たちに何を学ばせたいのかを起点に、デジタルも活用するようにしていけば、子供たちの選択肢は増え、「デジタルを強制された」と教員が受け止めることもなくなる。

インクルーシブ教育への対応の遅れについて:
Q:他国に比較してなぜわが国ではインクルーシブ教育の導入が遅れているのだろうか。
A:日本は一斉学習が多いので、支援をする子供がいると学習が進まないと不満が出たり、支援をすることによる不公平感(たとえば、パソコンを使って回答することで誤字が自動的に修正されるなど)を感じる場合がある。一斉学習から、協働学習や個別学習に転換していく必要がある。