メディア ラジオネットワークの強靭化について 茅野民夫総務省地上放送課課長補佐

市場は縮小し設備は老朽化するなど、ラジオ放送は斜陽産業として捉えられていますが、先の東日本大震災の際には、携帯電話等が遮断された状況下で、避難所に避難した人々などに最新の情報を伝えるメディアとして大きな役割を果たしました。
総務省は「放送ネットワークの強靱化に関する検討会」を組織し、災害情報等を国民に適切に提供できるようにするために、ラジオ放送の今後の在り方について検討を進めてきました。6月3日には検討会の「中間取りまとめ(案)」が公開されています。
ICPFでは春季セミナーシリーズとして、第1回「新聞の未来」、第2回「J-POPの未来」に続き、情報通信学会シンポジウムを協賛し「テレビの未来」について議論を深めてきました。そして、第3回は、上記検討会の事務局を務める総務省の茅野民夫氏に「ラジオネットワークの強靭化について」についてお話しいただきしました。
当日は、23名の参加者を集め、活発に議論が行われました。

日時:7月19日(金曜日) 午後6時30分から
場所:東洋大学白山キャンパス6号館4階 6410教室
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:茅野民夫(総務省情報流通行政局地上放送課課長補佐)

当日の配布資料はこちらにあります。

「放送ネットワークの強靭化に関する検討会を開催し、2月以来ご議論をいただいてきたが、7月17日に中間取りまとめが策定された。中間とりまとめには総務省に対する提言が盛り込まれており、今後、総務省では、これを踏まえ、具体的な方策を検討していくことになる」と、茅野氏は中間取りまとめの位置づけを説明した後、配布資料の内容について説明した。

その後、山田氏の司会で、概略以下に示すような質疑応答があった。

需要側の意思について
Q(質問):リスナーがラジオに何を期待しているか、調査のうえで戦略を立てないと空振りに終わる恐れがある。
A(回答):検討会には自治体の首長にも参加いただき、住民の立場に立ったご発言もいただいている。ますは今回の提言を踏まえて方策を検討していきたい。
Q:90メガヘルツ以上に対応した受信機を国民は保有していない。放送しても受信する人がいなければビジネスとして成立しない。
A:国民の皆様に受信機を購入していただくのが最大の課題であることは認識している。ただ、国費で配布するというものではなく、魅力ある番組を放送事業者の皆様に作っていただくことにより受信機の普及が図られるべきである。
Q:災害への即応性というラジオの特徴は評価するが、それだけで国民が受信機を備えておくとは考えられない。
A:一部の自治体では、災害時のラジオの価値を評価し、ラジオを購入し住民に配布するという動きがある。一方、国民の皆様にラジオの価値をご理解いただくためには、繰り返しになるが魅力的な番組をどれだけ提供できるかにかかっている。

産活法の適用について
Q:ラジオを「生産性の向上が特に必要な事業分野」と位置付け、産活法の分野別指針を策定する理由は何か。
A:分野別指針を策定し、生産性向上の方向性を示すことにより、産活法というスキームを利用しやすくするもの。ただし、国は方向性を示すにとどまる。複数のラジオ局が共同でコンテンツを制作しコスト削減を図る、送信設備を共有化するといった、生産性向上の具体的な方策は、是非、放送事業者の皆様に考えていただきたい。
Q:国際的に比較した場合、日本のラジオは生産性が低いのではないか。
C(コメント、会場参加者より):アメリカには、複数のラジオ局を傘下に置いて管理コストを削減した、衛星ラジオを活用したなど、生産性を向上させた多くの実例がある。ラジオの経営形態には多様性があり、日本のようにほぼ一律というわけではない。日本の免許制度には柔軟性が必要である。
Q:そもそもラジオは依然として「基幹」放送なのか。基幹を外して、もっと自由に経営させたらどうか。
A:放送用の周波数を使用している点で基幹放送に該当する。しかし、経営の自由度を高めるという点については、まさにその方向でこれまでも規制緩和がなされている。検討会の報告書でも別の研究会(放送政策に関する調査研究会)で検討を進めるべきとの提言をいただいている。
Q:中間取りまとめを実施すれば数十年は持つかもしれないが、その先はどうなるのだろうか。
A:そんなに楽観して良いのか。事業者によっては5年先に苦境が来るかもしれない。将来を真剣に考えてほしい。

周波数の割り当てについて
Q:7月17日から意見募集が開始された周波数割当ての基本的方針では地域の電波事情が考慮されていない。都市部と異なり地方(たとえば北海道)では、電波に余裕があり、都市型難聴対策に85~90メガヘルツを利用しても支障ないはずだ。全国一律にした理由は何か。
A:この場で明確にお答えできない。必要に応じてパブコメに意見を提出していただきたい。
Q:渋谷コミュニティFMが今月で廃局になったが、空き周波数の利用はどのように決められるのか。
A:コミュニティFMは先願主義である。
Q(渋谷FMについて発言した会場参加者に対する質問):なぜ廃局するのか。一般にコミュニティFMでは自治体からの補助金切れが原因となることが多いが。
A(渋谷FMについて発言した会場参加者が回答):渋谷FMの場合は自治体よりも、商店街からの支援が得られなくなったというのが理由である。

ネット配信について
Q:ネットを通じて区域外送信を行うのは、県域免許制度と矛盾しないのか。
A:県域免許制度はあくまでも放送の話。ネットは縛られない。日本のコンテンツを海外に発信するという意義もあり、是非海外展開を検討いただきたい。
C:新聞が電子化された際、地方版が他の地方から多数閲覧されたという。故郷の情報を知りたいなど、区域外でもラジオを聞きたい人々が存在する。
C:営業マンなどには、営業先の情報を事前に取得するために地方のラジオを聴取するといったニーズがある。区域外送信を進めるべきだ。
Q:地方のコンテンツを広く流通させるために総務省は何か施策を実施するのか。
A:例えば地方のコンテンツを都市部の事業者が用いることで、リスナーが喜び、地方局の収益が上がり、都市部の局は費用削減を図ることができるということも考えられる。是非民・民で検討し、進めてほしい。

災害対策について
Q:海辺の送信所を立て直す費用がAMラジオ局に出せるのか。
A:経費が比較的安くて済む、FM方式の中継局の整備を制度的に認めようとしている。

新技術について
Q:ワンセグラジオの検討状況は。
A:検討会の提言では、要望があった場合は検討に着手とされている。
Q:アナログラジオとデジタルラジオは混信しないのか。
A:ガードバンドを設ける方向。
Q:NHKはデジタルに向かわないのか。90~95メガヘルツは利用しないのか。
A:NHKは今般のマルチメディアの意向調査には手を挙げなかった。また、周波数割当ての基本的方針では90~95は民間放送事業者用としているが、これをNHKがどう考えるかだが、パブコメで意見が出されるかもしれない。

Q:最後に、どのような姿勢で今後ラジオの強靭化に取り組んでいくのか聞きたい。
A:ラジオは災害情報の提供手段として不可欠な存在。ラジオの強靭化に、総務省として全力で取り組んで行く。