健康 遠隔医療と地域医療連携の取り組み

少子高齢化が進む我が国にとって最大の社会問題の一つである、医療費の高騰・介護負担の増大に対する解決策の一つが、健康・医療・介護分野での情報通信の利活用です。
シリーズ第1回として、精力的に遠隔医療や地域医療連携の実証実験・初期ビジネス化に取り組むNTTグループの中心メンバーに講演いただきました。

日時:2013年11月6日(水曜日)18:30~19:30
場所:東洋大学白山キャンパス5号館1階5101教室
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:日本電信電話株式会社 佐竹倫和氏
東日本電信電話株式会社 原田素子氏

講演資料はこちらにあります。佐竹氏講演 原田氏講演

日本の医療を取り巻く少子高齢化、国民医療費の増大、保険者の破たん、病院の破たんなどの状況と、医療現場の対応医療機関の不足などの状況から、遠隔診療・疾病予防管理の重要性は増大しているとしたうえで、佐竹倫和氏は「亀田総合病院の遠隔医療共同実証実験の状況と今後の取り組みについて」と題して、概略次の通り講演した。

  •  最初は遠隔医療実証トライアルを4モデルで進め、最終年の昨年度は、医療にプラスして介護との連携モデル(医療介護連携モデル)を加え、合計5モデルを実施している。亀田総合病院は、国レベルのICT活用プロジェクトへ先駆的に取り組むと同時にプロジェクト終了後も、事業を継続している国内有数の病院である。
  • 昨年度行なった医療・介護連携の実証実験は、医療側と介護側の多職種間で連携できる仕組みである。連携データベースに患者の各種情報を蓄積し、そこに医療介護に携わる様々な職種のステークホルダが日々の医療、介護や生活の情報をタブレットで記入し上げることで、関係者が情報を共有できるようになる仕組みを整備し実証を行った。
  • また、今年度は新たに行政にも協力してもらい、予防から医療、在宅、介護そして生活という一連の情報を一気通貫で高齢者に対応する地域包括ケアに関する実証実験を行なう予定である。
  • 実証実験には、医療機関、介護施設など多くの関係者に参加してもらった。システム導入時には問い合わせが非常に多かったが、10か月ぐらい経つと安定してきた。参加者のICTリテラシーにばらつきがあったので、安定するまでにはこれくらいはかかるという評価である。
  • 在宅医療を常勤3名、非常勤1名の医師で対応しているが、遠隔診療によって移動時間の削減ができるという移動負荷低減の評価結果も得られている。このほかに、患者の移動に関する効果などもある。また、高血糖と低血糖が頻繁に表れる患者さんがいることが発見でき、すぐに医療機関で対応した。患者本人が書き込むよりも、正確なデータが自動的に取れることが評価された。
  • HPKIをもとに個人認証を試行した。HPKIカードには医師免許情報も格納しているため、それを利用した認証機構についても評価を実施した。医療情報、介護情報、健康情報、生活情報はデータの所有者がそれぞれ異なり、且つ機微な情報へのアクセスを適切に行なうべく基盤上で連携し閲覧できるようにするために、基盤上でアクセスコントロールを行なう機構を整備した。

次いで、原田素子氏が「NTT東日本の遠隔医療、地域医療連携の取り組み」と題して講演した。概要は次のとおりである。

  •  厚生労働省は、病院完結型医療から地域完結型医療に方向性を変えてきた。そこで、医療機関や介護施設において所有するデータを、標準規格であるSSMIX2を用いてクラウド型データベースに蓄積し活用する「光タイムライン」を、地域医療情報の連携基盤として推進している。様々なサービスやシステムの認証IDをセキュアに連携する基盤も組み合わせることができる。
  • 災害時の医療情報バックアップの要請などBCPの側面からも、クラウド型が注目されている。標準規格で上げられた情報は、「光タイムライン」のビューワにて閲覧し、診療を継続することができる。異なる施設に保存された患者の診療情報を一画面で参照可能で、時系列で臨床経過を閲覧できる。処方、検査なども自由に項目を設定・編集し、表示できるようになっている。
  • 松本市の相澤病院では、病院、薬局、介護施設との情報連携の運用トライアルを実施中である。宮城県の石巻・気仙沼地域では、病診連携、多職種連携システムを受託・構築した。高齢化や医療資源の不足等に加え、震災時にカルテが流出する等の課題があったため、県レベルで情報基盤構築が進んでいる。
  • 福島県桧枝岐村では、経団連の未来都市モデルプロジェクトを2011年からトライアルしている。日本一の過疎の村で、主要産業は観光である。村に診療所がひとつしかなく、専門医の診療を受けるには遠隔地までいかなくてはいけない。そこでICTを活用し高齢者が安心して暮らせるまちを作ろうというプロジェクトにおいて、健康相談や遠隔診療に取り組んでいる。この他にも、TV電話による情報配信や買い物支援などICTを活用した取組がいろいろと行われている。

講演の後、次のような質疑があった。

Q(質問):日本は規制が多いので海外でチャンスを掴むという話があったが、なぜ日本では遠隔医療が進まないのか?
A(回答):国内でもICTを利用すると便利だという認識は現在までの国家プロジェクトや各地で行なわれている実証での蓄積エビデンスから認識が高まりつつある。しかし、医師にとっては、投資をするモチベーションがない。これが一番大きな問題。規制改革議論の中で、ここに診療報酬についての議論も行われている。まずは、実績を積み上げ、安全面含めたエビデンスをしっかり蓄積し世の中へ訴求することが重要である。
C(コメント):専門医のアドバイスに診療報酬が出ないと、実験が終えれば、協力が続かないのではないか。
A:地域によっては補助金を出しているところもある。この問題は重要である。
Q:医者側も在宅で診療はできないのか? 医者自体も高齢化したり、子育てと両立ということもあるのではないか?
A:このあたりは今後検討を行いたい。超高齢社会の進展に伴い増加するアクティブシニアの社会参加の仕組みの整備という話もある。頂いた質問もこれらの仕組み整備の話と関係すると思う。
Q:医療と介護の一気通貫という話があり、NTTらしいプロジェクトだと感心したが、市場で競争することで、もっとよいものが生まれるのではないか?
A:既に存在する世界標準やオープンな技術を利用している。これが、世の中に広がっていくのに役立つと思う。国内業界の技術を国際標準化していこうと取り組みもしている。電子カルテはSS-MIX2でデータを吐き出す仕組みがあるので、仕様が異なっていても、光タイムラインで一括して閲覧できる。
Q:大きな病院は、A社、B社とまちまちであるが、ほとんど電子カルテが入っている。一方、小さな診療所では電子カルテが入っていない。方策があるのか?
A:一般的に地域医療連携事例では、診療所は電子カルテの情報をあげるのではなく、参照端末だけ入れている場合が多かった。つまり、病院から診療所の一方向のケースが多い。双方向にした場合にどれくらい効果があるかは、これから見極めなくてはいけない。
Q:マイナンバー、医療IDなど番号制度をどの程度意識されているか?
A:政権により政策が変わるので、ウォッチしている状態。現在は、それぞれの医療機関が持つ個別のIDをベースにセキュリティを保持しつつ情報連携を行なう仕組みをR&Dで整備し活用している。
Q:自治体に参加してもらうというが、自治体は保険者でもあり、疫学的な分析につなげられるのではないか?
A:いろいろ意見がある。これからは予防医療も重要になるので、検討を進めていかなくてはいけない。「秘密計算」技術で、個人情報を保護しながら計算を行う技術についても研究開発として実施済みである。
Q:全国には100以上の地域医療連携システムがあるが、最終的にはどう連携していったらいいと考えるか?
A:個人的意見ではあるが、それぞれの地域により求められる仕組みが違う。まずは地域医療圏レベルでの連携を進めることが優先で、国レベルでつながるのは今後の話だが、導入メリットを具体化することが重要であり、二次利用などを考えていかねばならないのではないか。
Q:疫学的利用などでは、医療データは誰のものかが問題になる。例えば、EHRの情報は病院・医師のもので、患者がデータを持てていない。どう考えるか?
A:二次利用を進めるには、そのあたりの仕組みが必要である。NTTとしては国に方向性に従うしかない。米国・カナダなどは、どこまで匿名化すれば情報として活用できるかを示すガイドラインも整備されている。この議論は民間企業だけでは整備しづらく、国家レベルでのガイドライン整備などが必要なのではと考えている。