開催日時:2024年10月28日月曜日 午後7時から1時間程度
開催方法:ZOOMセミナー
講演者:荒川大輝 NTTコミュニケーションズ・ジェネレーティブAIタスクフォース長
司会:山田 肇・ICPF理事長
荒川氏の講演資料はこちらにあります。
荒川氏の講演ビデオ(一部)はこちらにあります。
冒頭、荒川氏は次のように講演した。
- われわれを取り巻く経済社会では、顧客ニーズの多様化・複雑化する中でデジタル化が一層加速している。そんな環境下でAIと人間が共存する未来が展望されている。
- 情報通信白書によれば、企業の70%で生成AIをすでに活用している。1/3の導入企業では社内の生産性向上を実感しているが、自社サービスに導入したことが付加価値・売上向上に結びついたという企業は限られている。
- 一方で、NTTコミュニケーション調べでは、多くの企業がセキュリティ、生成AIの回答品質・精度、生成AIの使いやすさ(非エンジニアでも使いやすい等)を懸念事項として指摘している。懸念を解決して、一層の活用が進むように支援していきたい。
- 大規模言語モデルLLMは、大量の例文から次の単語を予測する学習(自己教師あり学習)を繰り返す。それにより、単語や句の意味の理解、文法、一般知識などの言語能力を獲得している。このLLMをさらに大規模化しようという動きがある一方で、企業が社内に置いて活用しようという小規模なSLMへの動きもある。NTTグループのtsuzumiがSLMである。SLMであれば、その企業向けの学習を重ねられる。
- 外部データから情報を検索してAIの回答を補完するRAG(Retrieval Augmented Generation)などの関連技術も発展している。
- 新たな対話インタフェースとしてDigital Humanも提供できるようになってきた。出張処理の場合、過去の情報から出張の特性を把握し、出張計画を立て、航空券などを手配し、また出張書類を作成するといったことをAIエージェントがこなしてくれる。
- AIを活用すれば、コンタクトセンター、店舗や受付、ECサイト、Webでのお客さまお問合せ対応、サポート等、あらゆる顧客接点でのCX(顧客満足度)向上がサポートできる。リアルタイム検索・自動要約・情報抽出により、お客さまの通話待ち時間の削減や応対品質の向上を実現する。
- 「業務プロセスに適したプロンプト」と「社内ドキュメント活用」によって、企業の生産性を向上し、EX(従業員満足度)向上を支援できる。行政職員は市民に対するだけでなく、議員にも、また同僚の職員にも対応する必要がある。これらがAIによって合理化できる。
- リモートワーク環境等様々な働き方をセキュアに実現するために、IT運用や社内ヘルプデスクの効率化、高度化をサポートすることもAIの仕事である。専門AIと協働することで、セキュリティ運用の効果が高まり、効率化する。
- AIが得意な領域と人間が得意な領域がある。⼈とAIがパートナーとして共存し協力することで、、時間とスキルが拡張されていく。人間の同僚のようにAIと協働する未来が展望できる。
講演後、次のような質疑があった。
AIの応用分野について:
質問(Q):電子カルテへの入力を支援するなど医療の業務の効率化を図ることに、AIは利用できるだろうか。
回答(A):診療時に電子カルテの作成を支援する技術などは開発が進んでいる。それに加えて、インフォームドコンセントを支援するという活用にも取り組んでいる。AIがあらかじめ説明のために必要な情報を収集し準備すれば、患者に合わせて説明ができるようになる。また、患者が来院した際の一次対応(診療前の対応)も将来的には可能になる。
Q:一次問診(ヒアリング)の結果を電子カルテに結びつけるアプリはすでに存在する。なぜ広がっていかないのだろうか。
A:私見ではあるが次のように見ている。問診のフローのなかでは、患者とのコミュニケーションが最も大切と思う。アプリには患者ごとに対応を変えるような柔軟性が、まだ備わっていないのではないか。
C(コメント):臨床推論にたけたAIの開発に期待する。
Q:教育でのAIの活用可能性について教えて欲しい。
A:パーソナライズされ、個々人に合わせた教育ができるようになるが、一方で、個々の生徒の機微な情報(成績など)がどこまで活用できるかが課題である。
Q:一人ひとりの子どもに合わせて教育するということであれば、一人ひとりの障害者に合わせて、障害者の不得手なところを生成AIが補完しながら、協働して就労することもできるのではないか。
A:技術的にはあり得る。個人に関する情報を学習して成長していくAIは、まだ発展途上であって。今時点ではできない。
Q:最近の人はマニュアルを読まない。その人に合わせて、その人の疑問に答えるといった、紙のマニュアルではできない取り扱い説明もできるのではないか。
A:マニュアルには間違ったことは書けないので、相手に合わせるといってもむずかしい。一方で、顧客からの質問は積み重なっていくので、それを上手に説明に利用するといったことなら可能である。
C:顧客からの質問に基づいて、マニュアルの改版周期を短くして、顧客に応えるといったことは展望できるだろう。
AIと協働する未来について:
Q:今の学生は、市中にあるいろいろなAIを使いこなしている。企業に特化したSLMは将来まで必要なのか。
A:汎用AIを使いこなしている人がいるのは承知している。しかし、企業内の知識を組み合わせて、使いこなして生産性を向上させるといった企業内での利用には大きな可能性がある。
Q:AIと人間が協働して仕事をするようになると転職はむずかしくなるのか。
A:今は、いろいろなレベル・経験を持つ社員が職場にいて、それらの人間が協力して業務を進めている。そのような環境の中にAIが組み込まれて、AIも一緒に仕事をするようになるということだから、転職には影響しないのではないか。