2018年度」カテゴリーアーカイブ

シンポジウム 放送制度改革の行方 原 英史規制改革推進会議投資等ワーキング・グループ座長

主催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
日時:7月10日火曜日18時30分から20時30分
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目 会議室A
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
講師
原 英史(規制改革推進会議投資等ワーキング・グループ座長)
小池政秀(株式会社サイバーエージェント常務取締役)
鈴木祐司(次世代メディア研究所所長)
司会:山田 肇(ICPF) 

冒頭、原氏が講演資料を用いて次のように講演した。

  • 所掌ごとに府省が分かれているため、「ここはわが省だが、これは別」というように各府省が反応して大きな改革が進まない。放送制度改革も総務省、経済産業省、文化庁などにまたがっているので、一向に進まない。そこで、規制改革推進会議では、関係府省と折衝し、どこが何をいつまでにやるのか改革の工程表を確定する仕組みにしている。
  • 放送制度改革は、通信と放送のさらなる融合といった技術革新と国境を越えたコンテンツ流通という国際競争に対応して、放送の事業環境や制作現場の課題を解決し、Society 5.0における放送の未来像を切り開くためのものである。
  • 投資等WGで検討の間、「放送が政権に逆らえないようにするための改悪だ」といったような記事が多く出ていたが、われわれは政治的公平を求める放送法第4条の改正などは一切議論していなかった。
  • 通信と放送の枠を超えたビジネスモデルの構築、グローバル展開・コンテンツの有効利用、制作現場が最大限力を発揮できる環境整備、電波の有効利用の四本柱が答申された。

次に小池氏が講演資料を用いて次のように講演した。

  •  AbemaTVは、ネットを使って、20チャネルのプロコンテンツを無料で24時間配信している。今、流れているコンテンツを楽しむリニア型の視聴にもオンデマンド型の視聴にも対応する。
  • AbemaTVアプリのダウンロードは3000万、月間利用者数(MAU)は1100万を超えている。35歳以下が過半数を占める。視聴形態はリニア視聴がメインで、21時から23時の視聴が多い。多くはWiFi環境で接続し、スマホでの視聴が65%を占める。他のデバイスでも視聴できるようにマルチデバイス化に動き、リモコンにAbemaTVのボタンが付いたテレビが最近発売された。
  • リリース期、立ち上げ期、成長期とビジネス戦略を変えてきた。リリース期には他の動画配信に埋もれないようにファン軸を形成するのが重要だった。立ち上げ期には看板コンテンツを作り出すとともに、チャネルごとの編成力強化に動いた。成長期には、内製帯のバラエティ・ドラマのヒット数を増やすように、また定期的に話題となるコンテンツを流すようにしている。
  • その先で、オリジナルコンテンツの強化・ニュースの充実などを図っていきたい。「麻雀見るならAbemaTV」というように一番目に想起されるメディアになるのが目標である。また、AbemaTVがプラットフォームの役割を果たすというのも目標で、外部パートナーが制作した優秀な外部コンテンツが流せれるようにしたい。

最後に鈴木氏が講演資料を用いて次のように講演した。

  • 放送の導入当時には文化の機会均等・教育の社会化・経済機能の敏活などに役割を担っていた。その後は、公共の福祉への貢献、民主主義の健全な発展などが強調された。そして今、新しい時代の放送の在り方が問われている。
  • 放送制度改革の第一歩はNHKのEテレをBSにあげることと、Eテレ番組の同時配信と見逃しアーカイブを実現することである。衛星とネット配信で「あまねく」という要求に対応できる。Eテレは99%全国コンテツであり、約2000の中継局を介した放送は非合理である。小中学校の講義で使う教育的コンテツこそVODが相応しい。
  • Eテレの地上波跡地は、ローカル局などが全国向けに週一回1時間の番組を送信するのに利用できる。ローカル局に全国発信の機会を提供するとともに、新ビシネスへの挑戦を可能にする。地域情報の全国発信の先には海外へ発信がある。放送時間枠をオークションにかけることもできる。
  • Eテレ跡地での番組の送出は地上波ネットワーク会社が行う。やがてはハードとソフトが分離され、コスト減・安定運用・新規ビジネスに結びついていく。

次いで会場参加者も加わり議論が行われた。主要点を記録する。

通信と放送の融合は進むのか

  •  AbemaTVのような動画配信がビジネスとして成長し、若者はスマホでコンテンツを視聴する時代である。NHK番組の同時配信も、できる限り多くの国民に届けるというNHKの本来意義に応えるものである。
  • スポンサーは効果に比例してしか広告費を投じない。県域放送で視聴世帯数が限られれば広告費は集まらない。民放は費用が掛かることなどを懸念しているが、県域を越えてネット配信して新しい視聴者を獲得する可能性は理解している。
  • 沖縄の民放が観光案内を流せば国内観光客が増えるかもしれないし、インバウンドも増加する可能性がある。そのようなことが新ビジネスに結びついていく。

地上波放送への新規参入は起きるのか

  • EテレをBSに上げることについて学校現場は抵抗しないだろう。見逃し配信・VODがあれば、授業の中での利用に便利だからだ。
  • できる限り多くの視聴者にリーチしたいと考えれば、動画配信事業者が地上波の跡地に参入する可能性もある。また、地上波ネットワーク会社のようにハード専門の事業者が生まれれば、ハードとソフトの分離につながっていく。
  • 電波は有効利用する必要がある。跡地は放送に利用させると限定する必要はなく、そのほうが有効なのであれば通信に用いてもよい。

放送と著作権

  • 動画配信の場合にはバックグラウンドで流す音楽一つから使用許可が必要で、テレビ局がJASRACと包括契約を結んでいるのと比べて不利な状況にある。著作権法の改正が必要である。
  • 無線放送、有線放送と技術が進歩するごとに条文を付け足して著作権法はひどい状態になっている。動画配信でまた条文を付け足すのは適切ではない。

動画配信のコンテンツ規制

  • テレビでは過剰な性表現や暴力は放送法第4条によって許されない。一方、動画配信事業者も過剰な性表現や暴力を慎む自主規制をしている。
  • コンテンツごとに、必要性に応じて、性表現や暴力の表現の程度を変える自主規制を行い、視聴者の声に耳を傾けていけば、大きな問題は生じない。

教育 ICTで獲得する学習に困難のある子どもの学び 近藤武夫東京大学准教授ほか

主催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
共催:ウェブアクセシビリティ推進協会(JWAC)
日時:5月25日金曜日14時から16時
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目 会議室C
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
講師:
近藤武夫(東京大学先端科学技術研究センター准教授)
大島友子(日本マイクロソフト株式会社プリンシパルアドバイザー)

近藤氏の資料はこちらにあります。 大島氏の資料はこちらにあります。

冒頭、近藤氏は概略次の通り説明した。

  • LD等読み書きに障害のある児童・生徒の読み書き訓練の教材として教師がICTを使うのではなく、児童・生徒自身が教室や試験に参加するなど社会的障壁を乗り越えるために、ICT活用能力を身に着ける必要がある。
  • 多様な障害のある児童・生徒が通常の教育過程で学び,高等教育へ進学し,キャリア就労を目指す(メインストリーミング)を通じて,将来の社会のリーダーを育成するDO-IT Japanプロジェクトを2007年に開始。また、アクセシブルな音声教材を提供するAccessReadingの事業を継続中。昨年度からはPHED(障害と高等教育に関するプラットフォーム形成事業)にも取り組んでいる。
  • 多様な児童・生徒に通常の子供と同じ方法で読み書き計算ができるように訓練する治療教育アプローチと、代替的な手段でたとえば「読む」ことができるようにする機能代替アプローチがあり、両者は相互に補完するが、この講演の中心は機能代替アプローチである。
  • 児童・生徒・学生は本人が学びたいこと、達成したい目標を自己決定し、そのために代替機能を活用する。代替機能には読むに対して「音声読み上げ」、書くに対して「キーボード入力」、計算するに対して「計算機を使う」、考えをまとめるに対して「概念マッピングを利用する」など多様なものがある。これらの代替機能にはICTが利用され、それらが動くためには、アクセシブルな教科書・教材を用意する、アクセシブルでない教材を電子化するといった環境整備が必要になる。こうして、代替機能を活用できるようになった児童・生徒・学生が,自己権利を主張し擁護できるようになることも必要。
  • ICT利用の目的は、教科書・読みを読み、宿題・予習・復習、ノートを取る,作文書く、調べ学習を行う、ドリル・小テストを受ける、入学・学力・資格試験を受けるという多様な教育活動への参加を平等に保障することである。
  • 全国の通常の教室で学ぶ小中学生の約6.5%68万人に発達障害の可能性があるといわれている。自閉症スペクトラム、多動・衝動・不注意(ADHD)、学習困難など多様な障害が存在する。立ち歩きや強いこだわりのある児童生徒では本人よりもまず教員や周囲が困ることで,教育的ニーズがあることが発見されやすい。これに対して、学習面に著しい困難を抱えた子どもでも,教室でおとなしく座っていた場合,本人が困っていることが発見されにくい。これらの子供を発見して適切な代替手段を提供する必要がある。
  • わが国では特別支援教育を受けている子供の比率は2.9%である。これに対して米国では13%。この大きな差は、法制度の違いも影響している。米国にはIndividuals with Disabilities Education ActIDEA)が存在し、障害のある子供を発見することが学校の義務となっている。わが国ではLDがあり、特別支援学級に通級する児童生徒数は12千人だが、米国では240万人。高等教育を受けている障害を持つ大学生のうち,大学で支援を受けている学生はわが国では11507人で、米国では200万人である。そこには多様な支援ニーズが存在するが, ICT活用は代表的なニーズのひとつである。
  • わが国では障害者差別解消法の施行以来、教育機関には障害のある子供に合理的配慮を提供することが求められるようになった。しかし、まだ、統計数値で見るように米国や英国に比べるとメインストリームの教育過程での支援の比率は少ない。幸い教育界の関心も高まっているので、ICTを活用した支援技術がいっそう利用されるように期待している。
  • (自分の子供にLDがうたがわれるとき、どうしたらよいのかという質問に対して)各学校に、呼び名は地域で異なる場合もあるが「特別支援教育コーディネータ」が配置されるようになっている。このコーディネータは担任を持たず、障害を持つ子供の支援専門に働いている場合も出てきている。担任を経由し,読み書き計算の支援ニーズがあることをコーディネータに相談するのが第一歩である。

続いて大島氏が実演を交えて次のように説明した。

  • マイクロソフトは学習に困難のある子どもの学びに役立つテクノロジーを、パソコンやタブレット、スマートフォン向けに提供している。それらの多くはWordPower Pointに、あるいはWindowsに基本機能として組み込まれ、スマートフォン向けのアプリも多い。
  • 読むことの困難に対応するためにWindowsには拡大鏡の機能があり、多様な形での読み上げ機能も提供されている。たとえば、Office LensというアプリにはOCR機能があり、読み取った画像からテキストを抽出して読み上げるようになっている。WordTalkerでは読み上げ箇所がハイライトされるようになっており、きめ細かい読み上げ設定ができる。
  • 書くことの困難さを補完するためにカメラを活用したり、デジタルノートのアプリが有効なケースもある。マウスやキーボードの困難も音声入力や視線入力で支援できる。実際に、視線入力などを活用することで大学生活を送る学生もおり、また、障害を持つマイクロソフト社員にもこれらの支援技術を活用して仕事をしている者もいる。
  • マイクロソフトは障害を持つ子供たちへのプログラミング教育も、NPO団体と協力して支援している。
  • (このような支援技術の開発にマイクロソフトはどう取り組んでいるのか、という質問に対して)本社の調整の元で各ソフト・アプリの開発担当者がアクセシビリティを考慮しながら開発している。一つのプログラムで各国語版に対応するように開発が行われている。
  • (マイクロソフトが支援技術を多く開発し、その中にはWordなどの基本機能となっているものがあると初めて聞いた。もっと周知が必要ではないか、という意見に対して)その通り。広報に努め今日もその機会を得たが、いっそう広報に努めたい。

その後、質疑応答で次のような議論があった。

  •  学校における通信環境の整備について。今までは通信環境の整備が遅れてきた。国はそのために地方交付税交付金を配ってきたが、必ずしも利用されていなかった。そこで最近、国は基準を見直し、通信環境を整備する方向に動いている。
  • 教科書や教材、図書をデジタル化することについて、障害を持つ子供の必要性に対応して図書館にデジタル版を準備するなどといった動きがある。また、著作権法における紙の教科書に関する特例をデジタル教科書にも適用できるようにする法律改正も進んでいる。
  • 障害を持つ子供も含めて、子供たちは多様である。居住地も都会から離島まで分かれている。どのような子供にも教育機会を平等に提供する必要があり、国も遠隔教育を許容する方向に動き出している。一方で、教育機会を平等にすることは均質の教育を受けるということではない。子供たちの個性や得手不得手に対応して教育プログラムを多様化することを同時に進めていく必要がある。
  • 現職教員、あるいは教員養成大学の学生の多くはICTを活用した支援で多様な子供たちが救われるということを知らない。学習における困難を支援するICT活用についていっそう周知していくとともに、たとえば教員養成大学で必修科目とするといった改善が求められる。

教育 プログラミング教育とは何か 山田 肇東洋大学名誉教授ほか

日時:5月9日水曜日18時30分から20時30分
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目 会議室B
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
講師:山田 肇(ICPF理事長)
指定討論者:中邑賢龍(東京大学)

山田肇氏の講演資料はこちらにあります

冒頭、山田肇氏が概略次の通り講演した。 

  •  経済・文化・生活のあらゆる側面で情報通信を活用する情報社会では、情報通信の基礎から活用の効果と危険までを、すべての学習者が理解する必要がある。
  • 情報社会で活躍するのに求められるスキルとして、創造性や共感性を持った学習者が育つように、各国はカリキュラム改革・新プログラムの導入などを図っている。各国は論理的思考力の育成などを重視するコンピュータサイエンス教育を提供し始めた。
  • コンピュータサイエンス教育は協働学習として実施されるのが典型で、教員がリードする既存の教育と異なり、学習者が主体的に学習し教員はそれをサポートする形式をとる。
  • 日本語ができない子供、発達障害の子供も参加し、多様な個性を持つ学習者による協働学習の形態で実施するのが適切である。
  • コンピュータサイエンス教育では、コンピュータを用いないUnplugged、民間の知恵や経験を活用するなど、既存の枠組みを外れる実践も多い。
  • 現職教員のスキルアップが課題であるが、各国の実例には、最初に研修を受けた教員が核となり他の教員に教育法を伝達する、教員同士で協力する、教員が利用するMOOCを提供するなどがある。わが国も参考にすべきである。
  • コンピュータサイエンス教育全体の中で、プログラミングは構成要素の一つに過ぎない。コンピュータサイエンス教育の総称を「プログラミング教育」というと誤解を生む。表現は見直すべきである。

以下記録の責任は山田肇にある。

次いで、指定討論者として中邑賢龍氏が概略以下の通り発言した。

  • 計画されているプログラミング教育ではイノベーションは起きない。その意味でプログラミング教育には賛同できない。
  • 変わった人でないとイノベーションを起こせない。そういう人たちに世の中は「発達障害」というラベルを貼り潰そうとしている。ラベル張りを打ち破るために、不登校の子供を集めて教育する、ROCKETという取り組みを進めている。変態的に集中力のある子供を潰さずに見守っていける環境を作ることができるか課題である。
  • 安全安心を重視する保守的な国民性が大きな壁を作っている。国内におけるモバイル決済の利用率は5%。現金の利用があまりにも便利で安全すぎて移行が進まない。このような保守的な状況が子供の未来に影響を与えると質問すると、「全然そう思わない」という回答が多数になる。計算には電卓を活用すればいいのに筆算を重視する。電卓の利便性を無視し、「電卓を使え」と意見に反発する。眼鏡で視力を矯正しているのに「矯正知能」は認めない。国民性の壁をいかに打ち破るのかが重要である。
  • ICTに対するアレルギーがまだ強く、教育もせずに不安ばかり先行する。教育用にタブレットを配布しても、利用制限でガチガチに固めて使いづらくする、一方で、スマホが勝手に子どもたちの身近になっている。保護者も含めて関係者は反省するべきである
  • 日本の教育は「全ての子供は同じレベル」にできるという前提となっており、「向いていない子」がいるということを忘れている。プログラミングが抜群に出来ても、それだけではトップ校に進学できない。日本人は「平等に教育しなければならない」という意識に支配され、学習指導要領にしばられている。余裕も柔軟性もない。そのような状況下で、教えることがどんどん押し込まれ、プログラミングも入ろうとしている。科目の選択制を導入すべきである。
  • インクルーシブ教育も建前はよいが一律の実施は反対である。大勢の中で学ぶことが好きな子も、いやな子もいる。コンピュータプログラミングの才能がある子供は皆の中で学ぶのが嫌いな子が多い。それなのに同じ教室にいることを強要されて学校にいかなくなる。何もかも一緒・一律ではなく、特性に合わせて小グループをつくるなど教育方法を変えるべきだ。
  • 私は不登校、引きこもりに注目している。彼らは時間が有り余っている。彼らに密度の濃い教育を施すことによってずば抜けたスキルを持った子が育つ。プログラミング教育を始めると一部の子を追い詰めるし、逆に出来過ぎな子は退屈でしょうがない。受けなくてもいいという選択肢を作るぐらいのことをしないと、足並み揃えてつまらない状況を生み出しても意味はない。

その後、セミナー参加者との質疑・討論が行われたが、その結論はおおむね次の通りである。

  •  子どもがプログラミングを学ぶメリットは、試行錯誤をもとに自分で操作する感覚を楽しむ、問題解決に多様なアプローチがあることを知る、スマホやPCの動作や弱点を知る、などである。それを教育するのだから、自分で作ったものが自分でコントロールできることについて、楽しい、好き、面白と感じることができるチャンスを与えるところから始めるべきだ。
  • 中途半端にプログラムを教えてもわからない子供とつまらないと思う子供が出てくる。プログラミング教育では論理的思考力の育成が要で、初等中等教育ではこの側面に力を入れるのがよい。イノベーションを起こすようなプログラマーの育成は、適性を持った子供たちに対して別に進めるべきである。
  • 科目選択の幅を持たせることが大切である。得意な分野を育てて、とがった人材を生み出していくことが日本のためになる。一斉教育は大量生産工場の工員養成教育だった。ネット上に教育リソースがいくらでもある。それで学ぶ子供が増えている。引きこもりでも抜群にできる子供はネットのコミュニティやyoutuberの話などを聞いて育っている。どこで教育を受けるか、どんな教育を受けるか、選択できるのがよい。
  • ニュージーランドでは、高校では100コース、専門学校では200コース程度から子供たちが自由に選択している。「フードとデジタルテクノロジー」、「音楽とデジタルテクノロジー」といった科目もある。学内に保育園が整備され、3050歳からでも学べるし支援もある。入学時期もバラバラである。米国では生涯教育の中にプログラミングを選択肢として提供している。時間軸上での多様性が担保されているので、産業にどんどん新しい力が入ってくる。このような先行事例を参考にすべきだ。
  • 学習指導要領にダンスや英語が追加されたとき、現職教員は短い研修を受けて、それで教えている。同じことがプログラミング教育でも起こる可能性がある。付け焼刃で教育しても役には立たない。核になる教員を育てて、少しずつでも入っていくということをしなければならない。
  • 教員養成系大学の提供科目を考えなおすべきだ。情報技術に詳しい教員がテクノロジーを教えるという情報教育をしているというところもまだ多いが、利活用を中心に教育していかないといけない。現職教員についても、教員同士で授業について語り合ったり、講義資料を交換したりできるSNSを作ってスキルを向上させていくのがよい。日本の学校では教員のSNSの使用を禁止している学校が多いので、そこから改める必要がある。

共催セミナー インターネット投票の実現に向けて-諸課題と検討状況 湯淺墾道情報セキュリティ大学院大学教授ほか

日時:2018年4月18日(水) 17時~19時
場所:衆議院第二議員会館多目的会議室
主催:情報ネットワーク法学会、インターネット投票研究会
共催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
協力:ヤフー株式会社、株式会社VOTE FOR

登壇者(敬称略)
国会議員:日本維新の会・浦野靖人、希望の党・柿沢未途、自由民主党・鈴木隼人、立憲民主党・中谷一馬、民進党・牧山弘恵、公明党・三浦信祐、自由民主党・山下雄平
有識者:湯淺墾道(情報セキュリティ大学院大学)、河村和徳(東北大学)
ゲスト:大胡田誠(弁護士、日本盲人連合)、妹尾正仁(ヤフー株式会社)、市ノ澤充(株式会社VOTE FOR)
コーディネーター:山田肇(ICPF)

以下の記録の責任は山田肇にある。

湯淺氏は冒頭挨拶で「投票所での電子投票が可能になって以降ICT技術は大きく発展し、セキュアな投票環境実現という課題も解決できる見通しが出てきた」と語った。次いで、鈴木衆議院議員が基調報告を行った。主な内容は次の通り。20代の投票率の低下傾向から将来を予測すると、今の20代が60代になるころには全有権者で計算した投票率が30%台になる可能性がある。組織票の力が強くなり、有権者が意識しないうちに民主主義の根幹が脅かされていく。スタート台となる若者の投票率を上げていくことが大事で、若手議員で検討を進めてきた。主権者教育での「模擬投票」の推奨、スウェーデンの「若者協議会」にならった施策の展開などを提案したが、その中にインターネット投票も位置付けられる。若手議員が提言したのち、総務省にネット投票を検討するための委員会が立ち上がり、自民党でも被選挙権年齢の引き下げの検討が始まっている。これらの一連の活動が、若者の政治への関心の高揚、政治の自分事化につながっていけばよい。

続いてパネル討論が行われた。パネルディスカッションでのネット投票の可能性と課題に関する発言を整理すると次のとおりである。

ネット投票の可能性について

  •  ネット投票によって全年代で投票率が向上し、高齢者、離島、在外日本人に対しても役に立つ。
  • 在外日本人の有権者登録には非常に手間がかかる。まずは在外日本人向けネット投票を始めてはどうか。過疎地でもネット投票となると対象地の選定が困難だが、在外日本人を定義するのは非常に簡単である。
  • 東日本大震災の後、体育館に投票所が設置されも、実際に投票できる投票所は元の居住地といわれ投票できない問題が起きた。熊本地震の時には共通投票所を設置したが、その時は誰が投票済みであるかを確認するシステムが問題になった。こういった問題を解決する手段の延長線上にネット投票がある。
  • ネットに触ったことがない人も一定数存在する。そのため、当分は併存させる必要がある。しかし、ある程度浸透した段階で将来的にネットに統一する、といったロードマップで考えないといけない。投票所でも電子投票を導入すれば、ネット投票と併存できる。
  • 費用面についてネットが高いとする人はハード面の整備を想定していると思うが、それらを整備した上でも圧倒的にコストはネットの方が安い。1回システムを組んでしまえば、その後の運用は安価だ。

ネット投票の課題と解決策について

  • なりすましや投票の強要が問題である。これに対して、エストニアでは何度でもネット投票できるようにして、強要されても後でこっそりと入れ直せるようにしている。「なりすまし」については、マイナンバーカードを利用することで技術的・法的な問題はクリアできる。本人確認には顔認証も利用できるかもしれない。
  • 改竄の危険性は常に指摘はされているが、改竄で選挙結果が変わるという事例はない。何故なら、選挙予測等の事前情報と大きく違う選挙結果が出れば、その時点で明らかおかしいと分かるし、改竄防止の技術も大きく進歩しているからである。むしろ、暗号化技術などをどう組み合わせて使うか検討する段階にある。
  • サイバー攻撃で投票者の投票行動が外部に流出する危険への対応が必要になる。
  • 世代間ギャップの検討が求められる。インターネット投票をできない人たちと若者の間にギャップがある中で導入するには、幅広い意見を基に検討し、役所の判断だけで進めないことが肝要である。
  • 選挙終盤での候補者の行動がその後の投票行動に大きな影響を与えるという現状があり、情報が少ない段階で投票して情報が集まった段階では変更できないといった問題も生まれる恐れがある。再投票には、本人確認の問題をどうクリアするかという課題がある。
  • ネット投票のためのハード面の整備を誰が担当するのか、誰のお金で行うのか。
  • 候補者名を筆記する今の方式では読みにくい字をどのように判別するか、という問題があり、投票側、集計側、双方にとって正確な結果を得ることができる方策を検討するべきである。
  • 法的には現在でも投票所で電子投票できるようになっている。しかし古いタイプの政治家は投票の際に候補者の名前を書いてもらうことに意義を見いだしていて、「画面にどうやって名前書くのか?」といったレベルから議論をはじめる。全てをネットに移すということは現状不可能だと思う。
  • 現在は白票を投票できるが、ネット投票・電子投票にも白票を用意するのか。利便性についても、本当にネットの利便性が高いかどうかはよく考える必要がある。
  • 郵便局やコンビニで投票できる環境を整えるべき、という意見もある。郵便局等で皆が遠目で投票を見守るといった体制を整えて、自由意志での投票を担保する案も可能性がある。
  • 紙で投票するシステムの効率化も可能である。コンビニ等の投票所も増やしていく必要がある。期日前投票を導入しても長い行列で時間がかかる場合があり、改善しなければならない。
  • 少数派の意見をどう取り込んでいくかいう問題がある。例えばネット投票の方式について全国的には賛成が優勢であっても、過疎地等の意見を考慮しないで導入してよいのだろうか。

次にゲストが講演した。大胡田氏は「障害者は総計では約864万人もいるが、様々な理由により投票の機会が奪われている。ネット投票で現行制度の問題を解決できるかもしれない。また選挙公報が画像PDFで、読み上げできないのは改善が必要である。」と語った。妹尾氏は「選挙公報の情報をテキスト化してサイトに掲載する「聞こえる選挙」を提供している。選挙情報の格差を是正したい、という思いから始まった活動である。誤字脱字についてはトリプルチェックする体制を整えた。将来的に公報がテキスト化されれば「聞こえる選挙」の役目は終わる。しかし、ヤフーとしてはそれでよいと考えている。」と語った。市ノ澤氏は、情報の提供の仕方ひとつとっても標準化が重要と話した。氏名と通称をどう表示するかなど、自治体によって方針が異なる。選挙公報をテキスト化すると、公報に記載した文字の大きさによって、音声変換した際の読み上げの時間に差が発生し、公平性の問題がある。公報の作り方(フォーマット)も考えてもらわないといけない、と指摘した。

後半のパネル討論では選挙情報のオープン化について議論した。

選挙情報のオープン化について

  •  情報化の進展は公職選挙法の規程をすでに超えている状態にある。法律自体を現在の状況に適合する形に整え直さないと行けない。しかし、公職選挙法の改正は全党合意という政治的なハードルがあり、これはネット投票解禁よりも高いハードルかもしれない。
  • フォーマットや字数制限などの条件を付けて、テキスト化に進んでいけばよい。
  • 任意でも構わないので、テキストデータの提出を求めてもいいのではないか。さらに画像を入れる場合は説明キャプションのテキストデータを付けてもらうといった工夫である程度はクリアできる。テキスト化を前提とした公報を作る場合にも、世の中には作成を支援するツール・サービスは色々ある。
  • そもそも、選挙公報がどれくらい見られているのか、という疑問もある。一方で多くの大学生から「政見放送をみた」という言葉をもらうこともある。公報と放送をどのようにリンクさせていくか、そういうことも考える必要がある。
  • テキスト化を全員に強制するのは難しいと思うので、選択肢のひとつとして提供すればよい。障害者へのサポートについては、小さい選挙であればあるほど公報の電子化は効果が高いと思う。一方で、大きな選挙や選挙区については、様々な情報が様々な角度からネット・報道を通じて提供されるので、行政で対応を準備するよりは、メディアが有用である。
  • 公報のテキスト化についてだが、現在HPの届け出について任意にしているが、HPを開設している人としていない人の間で平等がある、という意見は出てきていないで、制度的・技術的には問題無いと考える。提出必須化については、アメリカなどではその方向にすすんでおり、日本もいずれはその向になっていくだろう。
  • 一連の流れを管理する選挙の現場では、候補者データと投票の連続性の観点から議論することは重要である。ICTの導入は選管毎にバラバラになると、瞬間的にはICTの導入によって不平等が拡大する可能性がある。国全体としての対応も議論しなければならない。

最後に各議員が「ネット投票は誰のために、何のために行うのか?」ということについて短く所見を明らかにした。

浦野:投票の機会を最大化して、民意のあるべきところ正しく知るため。
鈴木:投票機会の平等化、健全な民主主義の維持である。
中谷:現在の選挙制度に不備を感じている人の全てを含め、民意を政治の世界に届けるためム。
三浦:全ての人に投票するチャンスを提供するため。
山下:投票する人が少なくなると代理制の根幹が崩れる。それを改善するために投票のバリアを外していくことが大事である。
柿沢:日本ではネット投票を行うためのインフラは整っている。法定得票数ギリギリで当選していく人も居る現状を打破し、民意が政治に反映される社会を作っていく。