日時:12月18日(金曜日) 午後6時40分~8時40分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館1階 5101教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:吉田浩一郎(株式会社クラウドワークス代表取締役社長 CEO)
冒頭、吉田氏は概略次のように講演した。
- ロボットやバイオ系の会社など、社会のインフラをつくるなど世界が大きく変わることに投資している会社は赤字であっても上場できる。クラウドワークスは赤字上場企業で、それだけ社会を変革する期待が高い。
- 20世紀に個人は受動的な存在であったが、21世紀の今では、インターネットを用いて個人が情報を受発信できる。企業が国を選ぶ時代にもなってきているため、クラウドソーシングは、そういう新しい時代の働き方である。世界中の登録者個人がスキル情報をシェアして、それを元に最短15分で仕事のマッチングができる。登録者は、最高で年収2000万円を超え、シニアでも数百万円稼いでいる人がいる。子育てママに100万円程度の収入がある人がいる。彼らの約8割が東京以外で受注している。インターネットによって、どこでも働くことが可能になった。
- 地域活性化の観点で、岐阜県や福島県南相馬市でのプログラムを行っている。宮崎県日南市は企業誘致が厳しいと言われている地域だが、市と協働して、子育てママに仕事を提供すべく、コワーキングスペースの設置と就労支援プロジェクトを開始した。
- 半日は果樹園、もう半日はクラウドソーシングで働くことが、定職者と見なされていなかった。しかし、これからは、彼らのような多様な働き方が増えていく。2015年、正社員比率は45.2%と低くなってきている。非正規雇用者がローンを組めない、カードを作れないという状況を変える必要がある。
- クラウドワークスを通じて、個人でも、信用を得られる。企業から直接評価を得ることができる。それに加えて、Microsoft社やサンケイリビング社と提携して認定証を与え、信用を高めるしくみに取り組んでいる。これからは、個人で信用を積み重ねることができる。個人が、トヨタやUFJといった大企業とも仕事できるようになる。企業は信用できる、個人も信用できるという時代に再構築されていくだろう。
- 米国Kabbageというサービスは、FacebookとTwitterの内容を調査し、約6分間でお金を貸し出す。今までは信用情報は銀行しか確認ができなったが、SNSやインターネットの支払い状況によって信用が判断されるようになる。Appleウォッチで脈拍数を図ることも健康に関する信用付与に利用されるようになるだろう。
- スターバックスに、マイスターバックスアイデアという考え方がある。顧客との関係を見直すという目的で導入され、顧客と対話することを重視している。ウォルマートでは、商品開発や企画で顧客と協力する「共創」を行っている。日本でも、ボンカレーとクラウドワークスが連携しキャッチコピーを作成するなどの取り組みを行った。
- 共感が価格の源泉になる時代がきた。人々の共感を主体とした経済を創造するということで、サイトに「ありがとう」ボタンを設置した。気持ちが通じるようなサービスを、クラウドワークスでは心がけている。
講演後、以下のような質疑があった。
現在の事業に関連する質問
Q(質問):登録する人は、専門的なスキルと知識を持った人だけなのか?
A(回答)専門的なスキルを持った人に限らない。仕事もデータ入力などの簡単な作業からデザイン、開発など多様だ。例えば、ゴルフ場の写真を撮る仕事がある。スマートフォンで近くのゴルフ場を撮影するだけで、スキルや専門の機材を持っていなくてもできる。観光地のレポートや、テープ起こしといった仕事もある。
Q:最短15分で仕事を得られるとあるが、自ら仕事を取りにいくのか? 会社が個人を指名することがあるのか? その場合、クラウドワークスを通さなくて個人間でやりとりを行うことも出てくるのか?
A:自ら仕事を選んで受注するという形が一般的だが、クライアントが一度仕事を依頼した方に再度依頼できるスカウトという機能もある。クラウドワークスを通じて仕事をすることに、メリットがあると思ってもらえるようにしていきたい。
Q:個人名義で受注しても、組織で対応するという動きはあるのか?
A:得意不得意の領域があるため、そのようなこともある。受注しても、不得意分野は外注に出している登録者がいる。
Q:納期に間に合わない場合、違約金は誰が払うのか?
A:業務開始前にクラウドワークスが契約額を預かり、受注者が成果物を納品後に報酬額を支払う。遅延による減額やペナルティ交渉は、その個人登録者と顧客企業とで行ってもらい、決まり次第決定額を支払う。今まで法的な問題に発展したことはない。
Q:最大の案件にはどれくらいのものがある?
A:システム開発の継続案件だと、半年で1000万円くらいがある。
Q:クラウドワークスを通じて、行政が仕事を発注することはあるのか?
A:ある。最近では、外務省のロゴデザインコンペを行った。家にいながら個人が経産省の仕事を受注するときもある。官庁との契約に支障が起きないように、クラウドワークスが一度契約して、登録者に二次発注するというような対応を行う場合もある。
Q:競合企業はあるか?
A:日本ではクラウドソーシングのサービスを運営する会社が200社ほどあるといわれている。海外にも同様のビジネスがある。一方、クラウドワークスの海外登録者には、駐在員の奥さんなど日本人が多い。
個人に対する信用の構築に関する質問
Q:顧客からのメールに返信しないなど、プロの労働であるという意識が欠けている登録者をどう指導しているのか?
A:質の担保に対しては、食べログのような評価が機能する。顧客からの評価が信用情報として積み上がるので、質の担保になると考えている。
Q:サービスが利用され、継続していくことで、信用情報がブランド力につながり、大きな価値になると思うが、評価を扱う上で何か問題となることはないのか?
A:当社の利用規約には、誹謗中傷以外はコメントに手を加えない旨を記載している。基本的には、競争が促進され、個人の努力そのものが評価になる。
Q:クラウドワークスの76万人の登録者に対する評価は、外部の人が見ることができるのか?
A:可能である。ただし、ニックネームでしかわからないので、クラウドワークスを通さなければ登録者個人は特定できない。登録者の同意のもとでなければ情報は外に出さない。
今後の可能性に関する質問
Q:引きこもりや障害を持った人などにもチャンスはあるか?
A:きっかけはつくれると考えている。寄り添って、きっかけをつくることに力を注ぎたい。
Q:介護のために教員を辞職したが、若い先生たちの相談相手となるビジネスができないかと考えているが?
A:相談はむずかしいかもしれないが、教育利用に適切な映像をそろえる仕事など、教育関連の仕事には可能性がある。
Q:学生と企業のマッチングは考えているか? 学生がクラウドソーシングで働いて、評価してもらうといったことはできないのか?
A:クラウドインターンというサービスを実施したことがある。現在の就職活動の問題は、履歴書という自称の情報と何分かの面接で決めることである。マッチングの仕組みを機械的につくるのもよいが、インターンを行うことで、社会を知る、働く体験をすることのほうが重要だ。