日時:3月31日(木曜日) 午後6時00分~8時00分
場所:東洋大学大手町サテライト
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
共同モデレータ:上條由紀子(金沢工業大学大学院工学研究科准教授、弁理士)
講師:原昌宏(株式会社デンソーウェーブ AUTO-ID事業部室長)
冒頭、原氏は以下のように講演した。
- デンソーウェーブはバーコードリーダーを開発した会社で、バーコード事業をはじめて今年で40年目である。事業全体では、小型ロボット事業が、一番のシェアを得ている。バーコード事業は、トヨタのカンバン方式でバーコードを利用するようになったのがきっかけである。カンバン方式は1950年代から行われてきたトヨタの生産方式であり、生産ラインの無駄を排除するものである。
- 1970年代からコンピュータが使われ始めた。1980年に原氏が入社したが、アメリカではバーコードがスーパーマーケットのレジに導入されていることを知り、開発に携わることになる。ちなみに、日本では、POSで使用する為にセブンイレブンで初めてバーコードが導入された。
- 1990年代のバブル崩壊後QRコードを開発した。行動経済成長時代は大量に生産した安いものが市場で受け入れられていたが、バブル崩壊によって細分化していった。製品数が増えたことにより従来のバーコードに限界がきた。また、日本は高品質を求める企業が多いため、部品等でもバーコードを使うようになった。そして、高度情報化時代のニーズに対応できる、読みとりやすいコードが求められるようになった。
- QRコードは縦と横の二元的に情報を持つことができる。バーコードの誤読率は100万分の1以下であるが、QRコードはさらにそれよりも少ない10-16以下である。バーコード以上の読み取りができたこと、社会ニーズに対応したことで、QRコードが普及した。ICカードの普及によって、QRコードは一時的と言われていたが、現在までに20年間使われ続けている。情報をいかに早く正確に読み取るかが難しいところであったが、使われる様々なシチュエーションを考えて、汚れや破損があっても読み取りが可能になるようにした。
- QRコードが普及した2000年頃、東南アジアの言語を使えるようにした。2005年以降には、スマートフォンで使用可能にした。例えば、会員登録時にQRコードを用いたりする。また、クーポンや電子チケットとして利用する。2003年にカメラの画素数が100万を超えたことで、読み取りが行いやすくなり、さらに普及した。SQRCとは、QRコードの一部のデータを非公開にする技術である。一部を非公開にすることで読み取り制限を行える。フレームQRはデザイン重視のコードである。
- 特許を取得することでQRの模造品を排除し、同時に、他者の特許の侵害可能性を排除している。国際標準にするために実績作りが必要だったので、グローバルな業界で、欧米日といろいろなところで使ってもらい、ISOに提案した。それから各国での国家規格にしていった。現在は、世界各国で商標登録もされている。一方で、普及を早めるために、生成ソフトを無償配布したり、読み取りや印字のノウハウを開示したりした。
- 海外ではICカードのリーダーが高価であること、スキミング等の悪用があることから、決済にQRコードが使われている所もある。国内でも、切符等の磁気カードを置き換えている。デンソーウェーブには現在約30種類の製品がある。最近は、クラウドサービスとの連携や、お米のトレーサビリティにも使われている。今後は印刷技術との連携をして強固なセキュリティ性を実現することが目標である。
講演後、以下のような質疑があった。
競合技術と市場性について
質問(Q):マイナンバーカードの配布が始まっているが、これはパソコンにICカードリーダを接続することで情報を読み込む。ICカードリーダをスマホやタブレットに接続するのはナンセンスである。パソコンからスマホへ移行している市場動向を考えると、マイナンバーカードでもQRコードを用いるべきではないか?
回答(A):認証技術や偽造防止が進んでくれば可能性はあると思う。また、より情報量を増やしていきたい。例えば、カラー化など。
Q:10年前には、RFIDのほうがQRコードより優勢という予想があったが?
A:RFIDタグの値段が下がらないから、QRコードの方が主体になった。また、ネットワークが想定よりも発達した。時代によって、シチュエーションが変わってくる。
Q:搭乗時のQRコードは暗号化されているのか?
A:搭乗するためのコードであり、予解約は行わない。搭乗名簿と紐づけるための情報である。
Q:バーコードのビジネスとの連続性を意識されたか?
A:あまり意識していない。バーコードで出来ない事をQRコードで実施する事を考えていた。光学的な装置として試作し、社内で試しに利用したところ評判がよかったので、製品化した。その際、OCRの知識を活用した。ボルトとナットのような部品には、レーザーマーキング技術で部品にQRコードをマーキングしている。
Q:今後QRコードがどのように発展していくか?アプリケーション、セキュリティ、トレーサビリティ、ビッグデータ、デザインといったことをお話していただいたが、他者とコラボレーションしながら稼げるところは稼ぐといったビジネスを考えられていると思うが、将来的にはどうお考えか?
A:いちばんは囲い込みで、一緒にやってくれる人を囲い込んで色々な物を一緒にチャレンジしQRコード市場を拡大していく。昔はトヨタグループ中心でやっていたが、今は外からの人材が重要である。
知的財産戦略について
Q:知財戦略の観点で、特許は期限がいつか切れるが、現在は商標で対応されている。特許以外の部分で、どのような戦略をお持ちか?
A:元々、QRコードを使ったのは車の生産工程である。携帯電話を扱うことによって、一般市民が使うようになり商標登録を意識するようになった。
Q:生成のソフトを無償にしたりしつつ、登録商標をするといったメリハリがあったと思うが?
A:プリンタ技術はある程度成熟している。そのため、生成に関する技術をオープンにすることで、我々のQRコードを使ってもらうという考えから無償配布した。いかに、人に使ってもらうかが重要であった。
Q:国際標準にするには、少なくとも5か国の支持がなければならないといった決まりがあるが、QRコードを国際標準にするにあたり、スムーズにいったか?
A:業界標準という意識があったので、スムーズにできたと考えている。自動車、文具協会などの業界がまず使用して実績を出し、そのサポートで国際標準を取ったわけだ。
Q:オープン/クローズ戦略で特許を囲い込んでいるというが、具体的に、どのようなライセンスか?また、標準必須特許は取らずに、活用の特許を押さえるのが主流になっていると聞くが御社はどうか?
A:あまり進歩がない技術はライセンス、伸びしろがある技術はクローズにする。伸びしろがあるものは、他者に改良特許を取られないようにするためである。技術の目利き力が永遠の課題である。我々はものづくり企業であるので、製品で勝負するしかなく、市場も独占よりも活性化が重要である。
Q:単純なQRコードを自由に使わせて、暗号付きQRコードはクローズにするというイメージか?
A:そういうイメージである。
Q:関連ビジネスの世界市場規模はどれくらい?
A:1000億円くらいの規模であり、その中で当社は1割くらい。独占にしたときとオープンにしたときとどちらがいいかと聞かれることがあるが、そのときによって異なると思う。独占にすることで普及や進化をしないこともある。
Q:QRコードをなぜ商標化するのか?
A:QRコードという商標でまがい物のQRコードから市場を保護したい。ただ、韓国では一般名称化されているという理由で、商標権の登録ができなかった。