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教育 教育の更なる進化を目指す、リクルートの勉強サプリ 中野慧株式会社リクルートマーケティングパートナーズプロデューサー

日時:6月17日(水曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館1階 5105教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:中野慧((株)リクルートマーケティングパートナーズ 勉強サプリ プロデューサー)

冒頭、中野氏は要約次の通り講演した。

  • リクルートは「人生のイベントごとに伴走する会社」であり、ゼクシィやリクナビ進学といった様々な世代向けのサービスを展開している。「受験サプリ」は、教育領域のプロジェクトとして立ち上げられた。リクルートでの新規事業立ち上げでは、しばしば「ロマンとそろばん」と言われる。「受験サプリ」のロマンは、教育環境格差解消である。
  • 大学進学率と高卒就職率には親の所得が大きく影響している。親の生まれや所得によって、子供が所属するグループが決まってきてしまうのが現状である。同時に、地域格差が広がっている。これらの格差を解消するため、低価格で高品質なコンテンツをオンラインで提供することを考えた。
  • コンテンツをオンライン配信することで、多くの顧客を相手にすることができる、つまり、一人当たりの費用を下げることができる。結果として、月額980円でカリスマ講師の授業を受け放題という内容で、受験サプリは有料会員8万人を獲得した。無料会員としては、累計で138万人。単年でみても、受験する高校生の2人に1人である、30万人以上が登録した。(2014年末現在)
  • 高校の授業でも使いたいという声がある。「放課後寺子屋」、「反転授業」、「よのなか科(アクティブラーニング、ロジカルシンキング)」、「プログラミング科(キャリア教育)」といった教育が全国数百の高校で実施されている。
  • 「受験サプリ」の世代拡張というシンプルなコンセプトから、「勉強サプリ」が生まれた。小中学生も、通塾率は親の所得によってかなり差がある。塾に行っていた子供が、いい学校に入り、いい大学に入りと繋がっていることから、小中学生にも同じような不(不満や不足)があるのではないかということで、「勉強サプリ」の企画が始まった。
  • 小中学生には、受験という一年先の明確な目標があるわけではないため、モチベーションを継続させることが難しい。勉強サプリは保護者の関与を絡める必要がある、学校の授業の予復習のコンテンツを創る必要がある(教科書準拠)といったことから、「受験サプリ」と同じ内容のビジネスではない。
  • 「勉強サプリ」のキーワードは、「わかる、はまる、あがる」である。カリスマ講師陣の1500時間の授業、教育改革に合わせた新たな教育コンテンツ群、継続して学べるゲーミフィケーション、ビッグデータを活かしたアダプティブラーニング、保護者への教育支援コンテンツ・機能、全部で月額980円というのが売りである。
  • 2020年から新指導要領に沿ってカリキュラムが変わる。2020年に教育を終えるこどもたちは、将来的には新しいカリキュラムで学んだ人たちと競争しなければならない。教育改革に合わせた新たな教育コンテンツ群を使うことで、今からの世の中で必要とされることを学んでほしい。
  • ソーシャルゲームの会社とのコラボレーションを行っている。ドリルや動画を見るとポイントが貯まってキャラクターに交換することができる。このゲーミフィケーションによって、子どもたちが学びに向かう最初のモチベーションの源泉を担保している。
  • 問題を解いてその場で採点するため、見返しや復習がその場でできる。解いた問題のログが蓄積されていくことで、苦手な部分が明確になり、学習の方針が立てやすい。さらに、問題にタグづけをしているため、関連する問題において、前提条件として理解できていないと解けないこと、同時に理解すべきこと等を把握できる。苦手な部分を分析してデータとして蓄積しているため、子供に合った教育内容を提供することができる。
  • 保護者向けの授業も展開しており、ほめるポイント(点数や学習時間等)をメールで伝えるといったサービスも行っている。

講演終了後、次のような質疑応答があった。

BYODについて
Q(質問):他社の類似サービスでは、タブレットを購入させるが、勉強サプリは動画やコンテンツの提供で、自分が持っているデバイスを使ってもらう。その理由は?
A(回答):デバイスを決めると、技術進歩を反映するのが遅れ、拡張性に欠ける懸念がある。また、サービス価格を押さえたい。そこで、デバイスを買わせる選択肢ではなく、BYODとした。推奨タブレットもあるが、買わない人も多い。

アクセシビリティについて
Q:動画が多いが、障害をもつこどもたちに向けた対応は考えているか?
A:現在のところは考えていない。これからは、テキストのみ、動画のみでも完結できるようにすることが必要になるだろう。
Q:グローバル展開を考えているか?
A:今はありますとは言えない。
C(コメント):国内にも外国人世帯が増加している。この子供たちへの教育ビジネスには可能性があるが、自動翻訳などアクセシビリティ対応も求められる。

「勉強サプリ」の事業内容について
Q:対象を小学校4年生からにした理由は?
A:4年生頃から、抽象的な概念に関しても学習が始まることから、勉強に対して苦手意識を持つ子供たちが増えてくる。ここの層に向けてサービスを届けることができると考えているからである。
Q:利用した子供の学習成果は測定できるか?
A:ドリルやテスト対策モードがあるが、客観的に成果を図るのは簡単ではない。学習を継続している子どもからは成果が上がっているとの評価をいただいているため、継続性に関してモニタリング・磨きこみを行っている。
Q:こどものITリテラシーを高めるようにフォローしているか?
A:はじめは低いが、すぐに慣れる。好奇心で身に付けられる。
Q:ドリルよりも動画を利用するユーザーが多いのが?
A:ドリル解く方が手を動かせたりできるので利用が多いと想定していたが、先生の授業がおもしろいからという理由で動画を見るユーザーも多いのが現状。
Q:教育ICTでは権利処理が問題になってくる。反転授業を行うとき等、権利処理はどうされているのか?
A:中学生の勉強に寄り添うには、定期テスト対策が必要であるため、主要教科書に対応した内容を扱っている。そのために、教科書会社からの許諾を得ている。
Q:学習記録が生徒ひとりひとりに蓄積されていくが、個人に合った問題を出題すること以外に、今後、進学適性や就職マッチング等を行うことは考えられるか?
A:可能性としてはありえると思う。
Q:講師に対して、コンテンツの中身は、どの程度口出しをしているのか?
A:採用時に判断している。勉強サプリで先生を採用するときは、他の先生が候補者の授業を見る。それを通過したら、さらに一部のユーザーに見せ、一定の評価を得なければ採用しない。授業の中身に関しては、ユーザーの行動データから見えてくることがある。どの行動をしたときに離脱率がどうなっているか、等は都度お伝えしている。
Q:勉強サプリは中学校3年生までであるが、受験サプリへの接続はどうなっているのか?
A:リクルートで共通のIDを発行しているため、今後密に連携させていくことが可能と考えている。

教育格差の解消について
Q:登録が多い学年はあるか?
A:偏りなく万遍に登録してもらっている。受験生に偏るということもない。
Q:利用者は、学習塾と併用しているのか?
A:単体での利用と併用の両方があると思う。教科によって、学習塾と分けている人もいる。
Q:基本的にはB to Cだと思うが、学習塾での利用はどう考えているか?
A:学習塾向けに売ろうとすると、先生が生徒の成績一覧を表示できるといった仕様変更が必要になると考えている。
Q:そもそも教育格差は、学校に問題があるのではないか?
A:OECDの調査で、ゆとり世代の2006年の成績は下がった。現在は、(脱ゆとりで)上がっている。OECDの15歳地点での順位は上位であることから、教育成果が出ていないわけではない。問題は、その後の人材の活かされ方ではないだろうか。応用力をキチンと身に着けてもらうことに加えて、学び続ける姿勢を構築することが重要と考えている。現在、日本の15歳は、学習の到達度は高い水準にあるものの、学びに対する意欲は低い。小中学生の間に、学びを好きになってもらい、習慣化してもらえるようなサービスを創り、日本の将来を担う子供たちを応援できればと考えている。

行政 電子行政の先にあるデジタル社会を見据えて 山口功作氏(エストニア投資庁日本支局長)

日時:5月28日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
   千代田区九段北4丁目2番25号
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:山口功作(エストニア投資庁日本支局長)

講演資料を用いて、山口氏は次のように講演した。

  • エストニアでは電子政府という言い方はあまりしない。民間での利活用こそが大事であり、政府自体にはあまり投資しない方がよい。
  • エストニアでは、15歳以上の国民はIDカードを所持することが義務であり、人口1,313,271に対して、1,245,304枚のアクティブなIDカードが存在している。任意の国で成功したところは未だ無い。
  • IDカードには、氏名、性別、国籍、誕生日、ID番号、文書番号、失効日、自書、顔写真が印刷され、認証用と署名用のデジタル署名が記録されている。カードの中には二つの情報しか入っていないので、落としても問題はない。SIMカードに認証用と署名用のデジタル署名を入れた、モバイルIDが主流となりつつとなる。
  • 海外の人にe-Residencyカードを発行している。銀行口座はエストニアでつくる必要があるが、e-Residencyカードがあれば法人登記は海外からもできる。海外からスタートアップが集まって、イノベーションが起きることを期待している。エストニアの安全保障にとっても重要な手段である。エストニアにビジネスの拠点をもっている人が増えることで、エストニアを守ろうという「ファミリー」も増える。
  • 番号制度(番号付与のルール)、番号カード、番号カードの中に入っている公的個人認証と電子署名、公的メールアドレスが組み合わされて、国民IDはプライオリティNo.1の身分証明書として扱われている。
  • 人口減少の先に、世帯数減少が進むと経済は縮小する。経済の規模拡大を移民に頼るのにはリスクと負担がある。出生率を増やすのは時間がかかる。女性の社会進出には期待するが、本命は生産性を増すことである。
  • 第3次産業革命(インダストリー4.0)にどう対応していくかで国の将来が決まる。そのために、エストニアは情報通信の利活用とともに順応を進めている。利活用に対する国民の不安解消には、情報管理権限を国民の手に委ねるようにし、誰がいつその人の個人情報にアクセスしたのかわかるようにすることが肝要である。透明性以外に信頼獲得の方法は見えない。
  • IDカードは、健康保険証、各種免許証といった公的サービス用にも、銀行カード・会員証といった民間サービス用にも利用されている。卒業証明書というサービスもある。受験の申し込みの段階で電子署名すると、学校は証明書を参照することができる。
  • 3,000以上のサービスが、X-road上で接続されている。物理的にX-roadが存在するわけではなく、それぞれのデータベースはP2Pで繋いでいる。この非集中化が、セキュリティを高めている。
  • 電子化にはさまざまな効果がある。電子署名は、労働人口一人当たり、年間一週間分の労働時間を削減した。法人登記はオフラインだと510分かかるのが、30分に短縮された。VAT(付加価値税)も電子化・自動化して、税収が伸びた。
  • エストニアでは、2003年にIDパスという形で公共交通の定期券を提供するようになった。それを使った方が得だ、楽だと周知させる一つの方法だった。そして、金融機関による利用開始が、普及の始まりである。次世代サービスとして、電子領収書を正式の領収書とすること、政府発行の公式eメールアドレスを住所として認めること、クロスボーダー認証によって、デジタル単一市場の形成を促すことを計画している。
  • 日本と、今後、協力を深めていきたい。二国間サイバー協議を継続し、IoTにおけるサイバーセキュリティの世界基準を研究していきたい。民間分野ではビッグデータ解析などの分野で、協力を深めていきたい。クロスボーダーで連携し、デジタル単一市場を形成するのも重要なテーマである。
  • 日本では遅きに失した空気感があるが、超大国で番号制度を成功させた国はない。日本がマイナンバー制度を成功させれば初になる。大いに期待している。

山口氏は、自身のe-Residencyカードを利用して、自身に関する情報がエストニア政府内でどのように蓄積されているかを確認するデモ、電子投票のデモなどを実施した。

講演後、概略次のような質疑応答があった。

セキュリティに関する質疑
Q(質問):公的メールアドレスを住所と見なすことについて不都合はあるか、公的メールアドレスにスパム対策はあるか?
A(回答):不都合はない。メールに書類を添付する際には電子署名を付加しており、電子署名を含め、公的個人認証が真正性を担保する。
Q:いまのところ大きな問題・事件は起きていないのか?
A:銀行のなりすましは一件も起きていない。公的個人認証でセキュリティを高めているからだ。エストニアでは個人情報保護について規制が厳しい。権限外の情報閲覧、第三者への漏えいには罰則がある。エストニア前首相が脳梗塞で倒れた時、看護師が権限外の閲覧をして即日解雇された。覗くことはできても、その履歴が残る。履歴は本人が確認できる。入られないための努力も必要だが、透明性を確保することが大切である。
Q:カードを落とした時どうなるのか?4ケタのパスワード(PIN)で安全なのか?
A:PINで三回失敗したら使えなくなるし、落とした際には、即日、停止もできる。
Q:貧乏な方がカードを売る可能性はないのか?
A:もしカードを売ったりしたら、社会保障を受けられなくなる。
Q:認知症の高齢者からカードをまきあげる危険性を考えているのか?
A:後見人制度によって、本人あるいは家族が、本人に代わって手続きできる人を指定できる。

新サービスに関する質疑
Q:電子領収書が導入されると、すべての収入と支出が捕捉されるようになるのか?
A:すぐにではないが、基本的にはその流れだと思う。反対するのは、ごまかしている方である可能性が高いのではないか。エストニアでは個人向けの税理士はすでにいない。電子領収書が実現すれば、ますます事務は効率化される。人口が少ないので、国民には生産性の高いところで働いてもらう必要がある。
Q:電子領収書はいつごろ実現するのか?
A:数年をかけて。税と結びつけるのは、国民との合意ができてからになる。IDカードにNFC機能を付け、便利に利用できるようになった時に、電子領収書は本格化するのではないか。
Q:民間の契約も電子化されているのか?
A:されている。作成した文書に電子署名をつければ、EU域内においては正式な文書となる。
Q:健康・医療分野で日本に薦められる事例はあるか?
A:e-Healthを推進している。どこの病院の医師でも過去の受診歴をみることができる。他人に見せたくない受診歴は、本人がオプトアウトできるようになっている。ホームドクターにも知らせたくない情報は、共有できないようする。事故の際には、警察や救急隊が病院に問い合わせ、病院は必要な情報を閲覧して対応する。
Q:マイナンバーと医療IDについて日本では議論があるが、どう思われますか?
A:できることからやっていくのが良い。透明性を高めることが肝要である。

日本へのアドバイス
Q:日本で共通番号を成功させる要因は何か?
A:私はアドバイスする立場にはないが、早く民間サービスで使えるようにすることが近道ではないか。使った方が便利だという実感を、早く民間も含めて提供することだ。電子政府という側面では、行政の透明性が信頼になる。透明性以外にキラーコンテンツはない。エストニアでもすべての情報が見られるわけではない。警察(捜査段階の情報)・公安情報等がそれに相当する。それ以外はすべて閲覧できる。また、エストニアでは宗教・信条などに関するデータベースは法律で許されておらず、存在してはいけない情報として扱われている、それ以外は秘匿すべき個人情報を除き、公開される。
Q:情報へのアクセス権限は誰が決めるのか?
A:国家情報システム庁が決めるが、省内においてもどのレベルの人が、どのアクセス権限をもっているのかは規定されているから、その点で透明性は確保されている。
Q:電子化は効果があるのか?
A:エストニアでは、伝統的に政府職員の給与レベルは低い。本当にやりたい人でないとやらない。自分のやりたい課題を解決することに人々の興味はあり、異動することに抵抗感はない。だから、リーマンショックのときに政府職員を10%削減できた。しかし、それができたのも、電子化のプラットフォームがあったからだ。
Q:法整備が大変だったのではないか、どんな法整備をしたのか?
A:デジタル署名法が最も重要であった。期限を決め、全省庁が電子署名を自署と同等に受け入れなければならない規定を設け、省庁の革新も一気に行った。エストニア議会101名には、技術がわかる議員もいる。大統領は自分でソースコードもかける。
Q:日本で「デジタルをメインにする」と基本を決めたとしても、いろいろな法律を書き換えないといけない。エストニアではやったのか?
A:エストニアは関連する全ての法律を書き換えた。法律家協会は、他国へのアドバイスもしている。
Q:デモで画像認証があったが、視覚障害者への対応はできているのか?
A:視覚障害者には音声サポートがあるが、完ぺきではない。言葉が話せない、耳が聞こえないなど、電話できない人の緊急連絡用にアプリを提供するなどの対応をしている。

教育 スマホ・タブレット時代の特別支援教育 中邑賢龍東京大学教授

日時:3月26日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学大手町サテライト
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:中邑賢龍(東京大学先端科学技術研究センター教授)

中邑氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、中邑氏は次のように講演した。

  •  異領域の人々が融合し、協働することで、バリアフリー分野の問題の解決を図っている。研究センターには、工学や建築の専門家以外にも、ロボットクリエーター、アスリート、プロダクトデザイナーや医師等が集まっている。
  • 障害者手帳を持っていれば障害者、持っていなければ健常者と認識されていた。その根拠が、1980年に制定された、WHOの国際障害分類ICIDHモデルだった。病気等で機能形態障害が起き、動作ができなくなる能力障害が発生し、仕事に支障が出るなどの社会的不利が起きると解釈した。機能形態障害を取り除けば解決するとして、医療中心で、医師が中心となって問題を解決しようとしていた。例えば、歩けない人に対して、歩けないなら歩く練習をすればいいという考え方であった。
  • 2001年、今までのモデルを変え、ICF(International Classification of Functioning, Disability and Hearth:国際生活機能分類)が作られた。個人要因だけでなく環境要因が、障害に影響すると考える分類であり、“誰もが持ちうる状態”として障害を考える。例えば、20kgのキャリーケースを運ぶとき、どうするか?多くの人はエレベータ等を探すだろう。それは、車いすに乗っている人と同じ行動である。メモが取れない困難さがあれば、ICレコーダを手にするだろう。障害は誰にでも起こり得る問題なのだ。
  • 現代は生きにくい不公平な時代である。仕事が効率化された分、就業時間が短くなればよいが、業務は増えるばかりである。主流であるサービス産業に従事するには、コミュニケーション力が求められるようになった。元々、コミュニケーションが苦手な人は排除されがちで、不利な世の中になっている。コミュニケーションが苦手、という障害のある人が社会に包摂されるように、エレベータやICレコーダのような技術を提供したいと考えている。
  • 障害者権利条約が批准され、障害者差別解消法が制定された今、教育においては、インクルーシブ教育を行わなければならない。分離教育、特別支援教育は差別に当たる。インクルーシブ教育には技術の助けが不可欠である。
  • 身の回りにあるテクノロジーを用いることで、学習支援ができる時代である。しかし、子どもはそれらを使ってはいけないという人もいるが、今は、ハイブリディアン(機械の助けを借りながら生活する人々)の時代だと認識すべきだ。
  • DO-IT JAPANという取り組みを9年前から行っている。今年から、センター試験で読み上げを許可したり、神奈川県では、読み書きができない子どもに対応した試験を行ったり、といった実績ができ始めている。読み書きができないからと落ち込んだ子どもに、自分の苦手さを補って、さらに高いところを目指すよう取り組ませる必要がある。
  • 問題は、教師の意識が変わらないことである。これからは、合理的配慮が必要で、書けない子どもにワープロを使わせないのは差別とされる可能性がある。
  • 一方で、発想を変える必要がある。昨今のユニバーサルデザインは行き過ぎている。そのため、安全検知能力が低下するなど問題が生じている。次は「ボコ」デザインと我々が呼ぶ、ちょっと使いにくい、ちょっと立ち止まって考えるデザインが重要になるであろう。働き方も変えていく必要がある。例えば、パートタイムを推奨したい。フルタイムからパートタイムに変えることで、4日働いて、1日を好きなことに充てられるようにする。

その後、以下に要約する質疑応答があった。

一斉型教育の問題点について
Q(質問):教育のICT化において、今までの紙の教科書では意味はないと考えられるが、デジタル教材に関するアイデアはあるか?
A(回答):必要性は感じていない。タブレットにデジタル教科書を入れる実証実験を長野市と金沢市で行った。当初、読み書きに困難な子どものみの配布を考えていたが、学校側の要望もあり、全員に配布した。最初は全員がタブレットを用いて教科書内容を見ていたが、回数を重ねることで紙を利用する子どもが増えていった。しかし、そこでわかったことは、児童の約3分の1がタブレットを使い続けたことである。子どもによって、教科書の文字よりもタブレットで大きくした文字の方が見やすいことから継続的に利用するといったように、読み書きが困難と認識されていない子どもにも利用されるようになった。一律はダメで、子どもによって違いがあることを認識して施策を進めるべきだ。
Q:海外では小学校1年生からキーボード入力を実施している。ライティング力が向上するという考えからであるが、先生はどのようにお考えか?
A:英語教育は早期化しているが、習得が難しい子にとっては、何歳からでも難しい。全てのこどもが、英語を使える必要はない。キーボード入力で全員のライティング力が向上するわけでもない。日本は小学校高学年でも国語で一斉に音読をさせる。しかし、文章を理解するには、耳で聞き、あるいは、じっくり読む方がよい。要するに、学びの本質を知り、個々人に合わせた教育をすべきということだ。
Q:教員と教育の現状を踏まえたうえで、教員はなにをしたらよいだろうか? 何が必要か?
A:個人がICTを使うことを妨げない態度を身につけることが必要。協働学習に関しても、無理にICTを使わなくていい。例えば、新宿区のシステムは、机の上にビデオケーブルがあり、先生がつなぐことで自動的に映せるしくみをとっている。教員が利用したいときに利用する、それだけで十分だ。紙とデジタル、どちらかが重要ではなく、両方与えて使いこなすことが重要である。どちらか使いやすい方、もしくは両方を選べばよい。

特別な支援を必要とする子供の教育について
Q:LD(学習障害)であるために、子どもが学校から排除されようとしている。国立大学附属の学校に所属させ、学校ではICTを導入しているというが、教室に入るとまったく進んでいないことがわかる。板書が困難なため、黒板に書かれた内容の写真を撮ることが限界である。どうしたらよいか?
A:板書についてだが、まずは、ほしい商品を写真に撮り、確認しながら買い物をするようにさせる。それによって、写真の価値が体得できたら、次は板書を写真にとる。撮って終わりにせずに、書ききれなかった部分の写真を見ながら、ノートに書き写す。そのように進めるべきだが、こうした考え方は、まだ、広くは受け入れられていない。
Q:例えば、親が外国人であることで、日本語が不自由な子どもがいる。日本語の表現や理解ができない子どもに対してはどうするか?
A:海外の日本人学校の調査を行っているが、問題がある。日本に帰らなければならないと考えている人への学習に、タブレットが有効だと考えているが、サポートシステムがなかなかない。プロジェクトを進めていく必要がある。
Q:果たして、障害児教育は福祉なのだろうか? 障害者権利条約の観点では、福祉と考えるべきではないのでは?
A:おっしゃるとおりである。しかし、そうするしかない重度の障害を持つ子どもがいることも確かである。ヘルパー等の福祉関係者が学校の中にいることも必要であるが実現していないのは、行政の縦割りの弊害である。

デジタル教育について
Q:教育のデジタル化を仕事としているが本当に子どもに必要か?
A:タブレットを一斉配布しても、年数が経ったら買い替える財政力はない。だから、10年後にはなくなっているビジネスかもしれない。
Q:ものをつくることに制作費がかかるが、どうするのか?
A:子どもの教育に本当にICTは必要か?ということを考えるべきである。

健康 IISEシンポジウム 健康長寿のまちづくりとICTの役割-健康・医療・介護のさらなる連携- 久住時男見附市長ほか

日時:3月11日(水曜日) 午後1時30分~4時50分
場所:日経カンファレンス&セミナールーム 大手町セミナールーム2
   東京都千代田区大手町1-3-7 日経ビル6階
主な登壇者
吉田昌司氏(厚生労働省老健局振興課)
川添高志氏(ケアプロ株式会社)
中平健二朗氏(日野市地域戦略室)
久住時男氏(見附市長)

シンポジウムの模様はこちらをご覧ください(外部サイトに接続されます)