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行政 ビッグデータ時代の先進広域情報連携 野中誠氏(CEO, CROSSFLO SYSTEMS)

日時:7月24日(金曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館2階 5203教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:野中誠(M.D., Ph.D./ President & CEO, CROSSFLO SYSTEMS)

野中氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、野中氏は概略次のように講演した。

  • 1990年の初めころ、ITを医療分野に導入するにあたって三つの問題が認識されていた。一つは、CPUの性能が低く画像のレンダリング速度が遅すぎたこと。二つは、ストレージの容量が不足したこと。最後が、送信帯域が狭く、いわゆるブロードバンドが存在していなかったことであった。こうした問題は比較的容易に開発対応がなされたが、最後まで課題として残ったのが、異なるデータシステム間で自由なデータ共有や連携を行う技術の開発であった。これがない限りは大規模でのデータ連携が難しい。例えば電子カルテを見ると、一医療組織内での情報連携だけで医療ミスを防ぐ方法が作れる。地域全体の医療機関で情報連携を行うと、さらに大きな効果が期待でき、基礎と臨床の研究に生かすことができる。しかし、一方で、医療に関係する情報の保有者は医療機関だけでなく、薬局や健康保険組合に分散している。
  • 2001年の9.11テロを契機に、米国で国家レベルの大規模な情報連携が必要とされた。そこで生み出されたのが、国家データ交換モデルNational Information Exchange Model,(NIEM)であった。データベースの連携には、データベース相互をすべて繋がなければならなかった。たとえば、28のデータベースを連携するためには、378回の相互接続が必要となるNIEMはデータベースを常にデータモデル(中間フォーマット)に連携させることで、28のデータベースなら28回の接続で相互接続を完成させ、連携の時間と費用とを劇的に低減させた。
  • クロスフローメディカルが提供するシステムは、データ交換モデル(IEM)とCanonical Data Exchange(CDX)の組合せを特徴としている。情報連携相手の多数のデータベースに保存された数多の情報を、あたかも自らのデータが分散配置されているかのようにして使うことが出来ること、接続するデータベース数に制限がないこと、ハードウエアやOSの仕様にとらわれないこと、等の特徴がある。それにも増して重要なのは、データの所有者・管理者が連携設定の詳細をすべて管理できることである。データベース内で、共有が必要と判断した情報だけを選択的に共有させることができる。
  • モンタナ州では疾病監視システムに導入した。4つの救急病院の電子カルテを情報連携し、監視が必要な疾患の発生を自動的に捉えたり、一定の罹患者数でアラートを出させたり、マップ上で疾病の拡散度合いを調べたりできる。
  • 日本では平成26年に、総務省プロジェクトとして、神奈川県の2病院で新薬開発のための治験での情報処理システムについて実証実験を行った。実証を行った病院からは高評価を受けた。現在、理化学研究所と複数の大学の臨床・研究患者情報共有システムの実証実験を進めている。
  • 病院と中央省庁、地方自治体、薬局、大学・研究機関、臨床検査機関に加えて、患者自身や、保険会社、健康ビジネスなども連携の枠組みに入れるべきではないか。それにより、創薬や新規診断法、新サービスモデルが生み出される。

講演後、以下の各項について質疑があった。

技術の標準化について
Q(質問):IEM(中間フォーマット)は米国で標準化されているか?
A(回答):国家が推進したNIEMは標準化され、連邦政府と地方自治体が情報連携をする場合にはNIEMの使用が義務付けられている。一方、日本では標準化モデル自体が存在しない。
Q:データベース相互でデータフォーマットが違う場合はどうするのか?
A:それを連携するのがIEMである。「氏名」と「氏」「名」というように、データベースごとに異なるデータ形式が用いられている際に、IEMで加工して適切なフォーマットに変換してCDXに連携させる。
Q:医療機関の持つ、例えば、レントゲン写真まで連携共有できるのか?
A:今はレントゲン写真もデジタル化されているので、デジタルデータの連携は容易である。

個人情報の保護について
Q:日本でなぜ医療のビッグデータが進まないか? 個人情報が漏れることへの強い懸念か?
A:漏れたらどうするかについてだが、例えば、母子手帳を落としたらどうするか。母子手帳は渡してしまっているので、政府に責任はないことになっている。一方、医療システムを連携させると、漏れた時に政府の責任を問われる恐れがある。それを政府は警戒している。PHR(Personal Health Record)というように、データを個人が管理するように仕向けているのは、責任は政府ではなく、患者自身にあるというためである。CDXを使用するとこの点での対策が容易に設定できる。漏れてはならない条件設定でのデータ連携時には個人情報はデータシステム間で連携をしない、という選択をした設定が可能である。
Q:モンタナ州で新型感染症が起こった際、匿名で情報を集めてアラートを鳴らす。その後、特効薬が見つかった場合、患者への連絡が必要になるが、これは匿名ではできないが、どうするのか?
A:個々の病院は患者情報を実名で管理しているので、元の情報管理者である個々の病院が、患者に対応する。
Q:過去の医療歴を引き出すのにも、患者の同意が必要になるのではないか?
A:その通り。事前の包括同意などを用いるのが適切である。

広域情報連携の普及について
Q:医療機関は医療費を多く稼ぎたいと考えているのか?
A:医療機関は、医療費を多く稼ぐことよりも、効率を上げることに理解がある。医師は患者を治すことを使命としているからだ。たとえば、紹介状というものがあるが、今は紹介状があっても再検査が当たり前だが、電子化すれば、手間を省け、効率化できる。
C(コメント):電子カルテを各医療機関に100万円ずつで導入したとしても、国民医療費全体の節減効果を考えれば、費用対効果は確保できる。

クロスフローメディカルのビジネスについて
Q:個人情報保護など、各国法・ガイドラインなどに対応した現地化を考えているのか?
A:可能である。クライアントからオーダーを受ければ、どのようにも対応する。
Q:ライバルはいるのか?
A:米国ではベンチャー企業が存在するほか、MicrosoftやIBMも参入しているが、作業効率と導入手続の速度と容易さの点でCDXが遥かに優れている。
Q:この技術は破壊的技術ではないか? 医療情報だけでなく、あらゆる分野で活用可能で、大学で入学試験の成績や日常の成績が就職先の決定に与える影響なども分析できるようになる。個人の情報が集約されることに問題はないのか?
A:悪意のある人物にわたったらどうするか、考えなければならない課題である。一方で、CDXでは、医療の際には医療関連のことしか表示しないで、たとえば、犯罪情報などは表示しないようにコントロールできる。情報連携をすると個人情報が集約化されると考えずに、個人情報を集約化して対応することが必要な条件の時だけにその手段を許可する、という技術をCDXとIEMの組合せで確保し提供できる。

行政 クラウド完結型社会への民間からのアプローチ 佐々木大輔freee株式会社代表取締役

日時:7月30日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館3階 5301教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:佐々木大輔(freee株式会社代表取締役)

佐々木氏の講演資料はこちらにあります

冒頭、佐々木氏は資料に基づき、概略次の通り講演した。

  • 企業勤めの間に優秀な経理担当社員が、一日中、領収書処理していることを目の当たりにして、問題意識を感じた。それが、freeeの創設に結び付いている。freeeは会計・給与計算などのバックオフィス業務の自動化・クラウド化を目指している。
  • 経理の処理の速さが50倍ほどになるなどの特徴があり、ソーシャルメディアでの告知から広がり始め、現在は34万強の利用者が利用している。クラウド会計ソフトのシェアNo.1である。税務申告に一度利用した利用者にアンケートしたら、来年も利用したいが96%に達したように、満足度は高い。
  • 確定申告もモバイル化したが、電子認証が必要なので、直接提出できず、紙に印刷する必要がある。会社設立の書類作成でも、取締役2名で23の書類が必要になるが、会社設立freeeを用いれば、必要な書類を5分で出力できる。ただし、いずれの場合も郵送・持参が必要で、今はそこに完全電子化への壁がある。
  • 伊豆大島には税理士が一人もいないそうだが、freeeを利用することで都内在住の税理士とクラウドでデータを共有できるようになったという。中小企業のクラウドサービス利用率は日本では23%と、米国59%より低い。しかし、freeeのようなスモールビジネス向けのクラウドサービスが増えつつある。
  • 書類を郵送・持参するといった手間のない、クラウド完結型社会が目標である。マイナンバー制度の施行と軌を一にして、行政手続きのAPI公開が始まった。この動きに合わせ、日本で初めてe-Gov APIに対応した労働保険年次更新サービスをリリースした。中小企業に負担となる、マイナンバーの安全な保管管理についても、サービスをスタートさせた。電子帳簿保存法が改正され、全ての領収書・請求書の電子保存が、2015年10月1日以降可能になる。クラウド完結型社会に向けて少しずつだが、前に動き出した。
  • クラウド完結型社会の実現に向け、今後の課題がある。法人における電子認証方法の確立・浸透が必要である。ビジネス向けのマイナポータルの設置を期待する。

講演後、二つのテーマについて質疑があった。

freeeのビジネスについて
Q(質問):シリコンバレーでの資金調達に苦労はなかったか?
A(回答):米国の場合、未来の方向性にかけてくれるので、資金調達が実現した。日本の場合には、細部まで説明をして納得してもらうのがむずかしかった。
Q:中小企業向けというが、どれぐらいの規模の企業まで対応可能か?
A:ビジネスの複雑さによる。事業部ごとにルールがある場合にはむずかしい。Freee自身の場合、120名の規模で、経理の専任がいなくても回っているし、従業員200名という顧客もいる。
Q:複数の自治体にオフィスがある場合は?
A:対応できる。書類作成まではできる。しかし、講演で説明したように、提出は手でする必要がある。
Q:税務申告の場合、税理士の関与はいるのか?
A:税理士は関与する必要はないが、税理士経由であれば、電子認証の手間を税理士が代行してくれる。
Q:言語は? 多言語に対応しているのか?
A:現状は日本語のみ。ただし、機械学習が組み込んであるので、自動的に学習していくようになっている。
Q:海外には類似のビジネスがあるか?
A:ニュージーランドのXeroは著名で、オーストラリア・英国などにも展開している。国際的に競争相手は多い。
Q:税制は毎年改正されるが、freeeでは顧客ではなく、freeeが対応する。海外展開すると、それぞれの国の税制に対応する必要が出てくるのではないか?
A:個人事業主の確定申告と、企業の税務申告は違いがある。企業会計はグローバルな標準があり、対応は容易だが、税務は別で、国ごとに制度が違う。
Q:e Gov対応が速いが、どうやってリサーチしているのか?
A:自分たちもfreeeのAPIを公開している。SaaSのベンダーではAPI公開は標準的なはずだが、日本ではまだ珍しい。風土を変えていく必要がある。

クラウド完結型社会への移行について
Q:現在はクラウド完結型社会への移行期間であるが、税理士と金融機関との連携はどうなっているか? 彼らの反応は?
A:オンラインバンクの口座があれば、freeeでの会計処理はできるので、特に連携を取る必要はない。1600の金融機関に対応している。しかし、今後は、セキュリティ的にもっと良い方法を模索するために、連携していきたい。税理士に対しては不安を解消するように説明している。若い税理士には、freeeで得られる財務情報で企業の経営を指導するといったビジネスを展開するために、freeeを顧客に売り込む積極的な方もいる。
Q:行政は手続きごとに書式を定めているが、これは本当に必要なのか?
A:データで送れたら手っ取り早いし、それで十分なはずだ。
Q:ビジネス向けマイナポータルも書式がほしいわけではないですよね?
A:APIがあればよい。
C(コメント):マイナポータルだと、ポータルサイトをイメージする人が多いので、APIという言い方が良い。
C:電子署名について疑問がある。例として、紙なら認印の手続きを電子化すると認証用のICカードが必要になる。セキュリティレベルの使い分けは必要と、CIO連絡会議で2009年に決まったことが実現できていない。
Q:政府は何やってくれるのかと聞かれる場合が多いが、政府はこれをすべきと、米国のようにがんがん言うべきではないか?
A:政府の取り組みとしては、いい方向に変わってきていると見ている。
Q:会社設立freeeでは、書類作成は5分でも、審査は2週間~1か月かかる。審査も変えさせないといけない。テンプレート化していった場合、何をチェックするというのだろうか?
A:その通り。今でも、インデントがずれているとか、そういう指摘が多い。審査業務を全面的に見直す必要がある。
Q:領収書の書式は標準化が必要ではないのか?
A:電子取引でのデジタルインボイスなら問題はない。紙の場合が問題だが、今さら標準化を求めるよりも、全面的に電子化すべきではないか。紙をスキャナで保存することについて、国税庁から領収書の大きさがわかるようにしてほしいという指摘があった。カメラ型のスキャナだと、サイズの担保ができない。下手すると定規を横においての、領収書の撮影が必要になる。紙を残すとそうなる。最初から電子化した方が良い。

政治 法令文書のオープンコーディング 榎並利博富士通総研経済研究所主席研究員

日時:6月30日(火曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館4階 5401教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:榎並利博富士通総研経済研究所主席研究員
コメンテータ:林絋一郎情報セキュリティ大学院大学教授

榎並氏の講演資料はこちらにあります。

林氏の講演資料はこちらにあります。

榎並氏は「プログラマであれば誰でもプログラムの書き方と法律の書き方が似ていることに気づくと思うが、それ以上追求することはないだろう。今回、仕事上マイナンバー法を読み進むにあたり、国民すべてが理解すべき法律があまりにも難解なのに怒りを覚え、法律をプログラムのように書いたらもっと読みやすくなるのではないかと真面目に考えた。」と研究のきっかけについて話した後、講演資料に基づいて講演した。

林氏は、講演資料を用いて、「社会の中の争いをさしあたり収束するために法的ルールがあり、科学的根拠を問われることは少ないが、だからこそ、科学の立場で法律を研究する必要がある。」と指摘した。榎並氏の提案に賛同するとしたうえで、法律家が常識としているポイントを理解したうえで提案することが、「法律村」の壁を突破するために必要であるとコメントした。

会場からも多くの賛同意見があり、榎並氏の提案の実現方法について以下のような示唆があった。

  • 議員立法は内閣法制局の審査を受けないために、他の法律と矛盾するという事態がおきやすい。法律をプログラムのようにチェックできるという機能を、議員立法を促進するために提供してはどうか。
  • 法律が読みにくくて困っている一般人に大きな声を上げてもらうべきだ。たとえば、外資の日本進出には、複雑で難解な日本の法律が壁になっている。彼らと一緒になって、読みやすくわかりやすい法律に変えるように運動してはどうか。
  • 総務省が「e-Laws」を開始した。霞が関で働く女性がもっと活躍できるように、法案等関係資料の作成を支援するシステムである。このe-Lawsと連携してはどうか。
  • NPOのアスコエが、自治体の提供するサービスを理解しやすい形でウェブで伝えようと、「ユニバーサルメニュー」を提案している。法律よりも条例のほうが攻めやすいのではないか。
  • フローチャートを描くと法案と解説が同時にできるといった仕組みを開発するのがよいのではないか。
  • もっとも国民に関係するのに、最も読みにくく理解できないのが税法である。提案を税法に適用し、こんなにわかりやすくなるのだとアピールしてはどうか。

政治 統一地方選挙におけるネット選挙運動を振り返る 草間剛横浜市議会議員ほか

日時:6月2日(火曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館4階 5401教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:
草間剛横浜市議会議員
音喜多駿都議会議員
田代光輝慶應義塾大学政策・メディア研究科特任准教授

配布資料はこちらにあります。草間氏音喜多氏田代氏

最初に、草間剛横浜市議会議員が概略次の通り講演した。

  • 横浜で政治へのネットの利活用を推進し、マニフェスト大賞優秀賞などを受賞してきた。インターネット番組「日の出TV」を四年間、毎日配信してきた。衆議院議員なども出演するが、視聴者数は少ない。毎日ミニ集会をやっているようなものだ。
  • 超党派で地方議員を集めた「湘南カフェ」というインターネット番組も実施している。こちらは、オフラインでの対話集会に結び付き、それを元にして「湘南地域の日地帯が連携した観光バスの運行」といった政策提案に発展していった。
  • 老朽化しつつある公共プールの更新といった政策的なテーマについて、データで紹介するオープンデータサイトも構築して、政治活動を実施している。
  • 統一地方選挙でもネットをさまざまに活用したが、どれも大きなビュー数は得られなかった。統一地方選挙は、自由民主党の後援会組織(平均年齢65歳以上)による地上戦が「主」で、学生ボランティアが支えるネット選挙活動は「従」だった。

次に、音喜多駿都議会議員が次のような内容について講演した。

  • 日本を元気にする会は、政策決定に国民の声を活かすことが最も大切だと考え、ネットを通じてそれを実現するように努力している政党である。Vote Japanというサイトで法案に対する賛否を問い、3:2だったら、3名の議員は賛成に、2名は反対に投じるといった仕組みを実践している。
  • 統一地方選では、聴覚障害を持つ斉藤りえ候補(北区)を応援した。つくづく、日本の選挙は音が中心と感じた。公職選挙法の規定によって地方選ではチラシでは配れないため、聴覚障害があるとハードルが高い。音を使わない選挙を展開せざるを得なかった。ネット選挙は、障害者の参政権を担保するうえで重要と認識しており、選挙公報のウェブ掲載の迅速化を求めたい。
  • ネット選挙運動の成功例に、いとう陽平候補(新宿区)がある。徹底したインターネットの活用で、たとえば全候補者のまとめサイトを自分で作成し、閲覧者を誘導した。4月には月間6万PVを達成した。
  • ネットを通じて有益な情報を発信していた候補者は当選している。ネットで票を稼いだのではなく、きちんとした政治活動をしている政治家は情報をたくさん持っているので、良質なアウトプットができたと評価している。
  • ゴールデンウィークに北欧を中心に視察した。スイスではランツゲマインデ(屋外集会による直接民主制)を見学した。エストニアではネット投票を見て、国民の政府によせる信頼の高さを実感した。フィンランドには国民発案サイトがある。ネットが普及した結果、直接的民主制を一部取り入れることが可能になった。

最後に、田代光輝慶應義塾大学特任准教授がおよそ次のように講演した。

  • ネットはプル型メディアである。票を増やすためには、握手・辻立ちといった地上戦が必要である。一方、関心をもってネットで候補者のサイトを訪れる有権者の支持を継続させるのがネットである。
  • オバマ大統領の強さはネットであるといわれている。しかし、オバマ選対にボランティアとして参加した海野先生の経験によれば、戸別訪問である。ネットを上手に利用して選挙に勝ったというわけではない。
  • 日本の国政選挙、地方選挙におけるネット選挙運動を分析したところ、接戦では決め手になることがわかってきた。投票日には候補者の検索数が増えるが、これは、意中の候補者について最終的に調べてから投票しようという人がいるためである。検索結果が候補者の悪口ばかりだと、そのような人は投票所に行かない。その結果、5パーセント程度の票が動いて当落が変わってしまう。
  • 悪口がネットに出るのはやむを得ない。今でも怪文書は飛び交っている。それを超える量の正しい情報、よい情報をあらかじめ発信しておくことが最大の対抗策である。
  • マスメディアは大衆向けであった。これに対して、ネットは大衆を分断して、小衆を産みだす。小衆は、同じ考え方の人だけの集まりであり、同調しあうと異質のものを排除し始める。これが、サイバーカスケード(Republic.com)であり、社会は分断される。選挙でネットを活用する際には、同時にサイバーカスケードの危険性を認識しておくべきだ。

三氏の講演の後、次のようなテーマで討論があった。

障害者の参政権について

  • 斉藤りえ候補の選挙運動で規制されたように、今は障害者の被選挙権行使には制限がある。議会へのパソコンの持ち込みが許されないなど、障害者には活動しにくい状況があり、改善が必要である。
  • 視覚障害者には代理投票制度があるが、誰に投票したのか、周りにわかってしまう。障害者が選挙権を行使するためには、ネット選挙は有益である。

サイバーカスケードについて

  • 狂信的な社会運動がサイバーカスケードとして表に現れ、それが議員に影響するという事態が一部で起きている。ネットによる情報の偏りと、それが原因となった社会の分断には注意が必要である。
  • 北欧の政治家は、例えばあるイシューについて世論が偏っても、正しくないと考えた時には説得しようとする。それが政治家の仕事であると考えているし、社会もそんな役割に期待している。サイバーカスケードに左右されない姿勢を政治家は持つべきである。
  • ごみ処理場の建設のように地元の反対を超えて、政治家は苦渋の決断をしなければならない場合がある。直接民主制といっても、参加者の範囲(対象地域)を決めないと、結果は社会を不幸にする恐れがある。スイスでは五万人規模がよいといわれている。
  • 日本は100%間接民主制だが、一部に直接民主制を取り入れるとともに、政治家がファシリテータとして活動するといった形態に期待したい。

ネットを利用した政治活動について

  • オープンデータサイトのような場合、選挙期間に閲覧数が伸びなくても、関心を持った有権者は日常的に訪問してくる。政治活動としては有益である。
  • 地元の有権者の関心と合わせた形でオープンデータを提供するといった、政治家の工夫が必要である。そうすれば、政治活動として役立つし、また、悪口に負けない正しい情報を積み上げるのにも有効である。
  • 90分の討論を動画配信しても、視聴者数は伸びない。単に名前を売るだけなら数十秒で充分であり、動画配信はまだ重視されていない。スマートフォンユーザーが閲覧の中心で、通信量制限を考えると、1分半が限界である。スマートフォンユーザーが通勤時に閲覧するという可能性もあり、字幕の付与は絶対に必要である。
  • そもそも、有権者は見かけた候補者に投票する傾向がある。当落の大半は後援会の強さで決まるが、Facebook友達には、拡散の効果があり、新しい層を取り組むことができる。

 

大阪都構想について

  • 大阪都構想は、マスコミ発のアジェンダ設定であり、テレビ選挙の典型であった。
  • 橋下市長の「スパム電話」が悪影響を与えたという評価が出ている。先の佐賀県知事選ではスパム電話が当落の原因になっている。プッシュ型メディアは不愉快、と有権者が感じる場合がある。
  • ネットからは好きな情報を有権者が引き出しに行ける。段々にネットが政治に与える影響は強くなるだろう。