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知的財産 シンポジウム 競争政策と知的財産権 福岡則子氏(パナソニックIPマネジメント株式会社)ほか

総務省・経済産業省・公益財団法人情報通信学会後援

月日:2月29日(月曜日)
会場:アルカディア市ヶ谷(私学会館)
共同モデレータ:
山田 肇(東洋大学)
上條由紀子(金沢工業大学大学院工学研究科准教授、弁理士)
講師:
山田 肇(東洋大学)
谷田部智之(株式会社三菱総合研究所)
福岡則子(パナソニックIPマネジメント株式会社)
藤野仁三(東京理科大学)

シンポジウムでは四つの講演が行われた。

山田氏は、「標準化団体の特許ポリシー」と題して講演した。市場の将来動向が見えやすい情報通信分野では各社の研究開発は重複するため、一社で関連特許をすべて保有するのは不可能である。また、相互接続・相互運用を実現するために標準化活動という形で「技術の共通化」が活発に行われている。標準化に特許権が関係する場合には、公正で合理的な条件で非排他的に実施許諾すること(FRAND)になっている。この特許ポリシーは業界が自発的に定めてきたものであるが、近年、競争の視点から、競争政策当局が介入するようになってきた(山田氏の講演資料はこちらにあります)。

谷田部氏は、「特許庁:知的財産制度と競争政策の関係の在り方に関する調査研究より」と題して講演した。公正取引委員会が「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針(ガイドライン)」の改正を検討していた時期に、特許庁と経済産業省合同の体制で実施した調査を受託し、文献調査・ヒアリング・アンケート調査を行った。標準の実施に不可欠な特許(SEP)のライセンスに関して、「抱き合わせライセンス」「支配的地位に濫用」「私的独占」「不公正な取引方法」「不争義務」の問題を、各国・各地域で競争当局が取り上げている現状を明らかにした。日本企業約1000社に対するアンケート調査では、多くの企業は事業の自由度の確保のために知的財産を活用しているという回答したが、一方で、SEPを他社にライセンスしているあるいはライセンスを受けている企業はわずか47社にとどまった(谷田部氏の講演資料はこちらにあります)。

次に公正取引委員会のガイドラインについて、二つの講演が行われた。

福岡氏は「標準規格と知的財産権と競争政策」と題して講演した。標準化には技術開発の効率化・迅速な市場形成と拡大などの企業側へのメリットと、ユーザの利便性向上というメリットがある。一方、標準の一部だけに準拠した粗悪品が流通したり、価格競争の陥りやすいというデメリットがある。しかし、相互接続・相互運用のためには、情報通信産業では標準化は不可避である。標準必須特許に関しては、1980年代以降のプロパテント時代に標準化必須特許の累積ロイヤリティ問題を解決するためパテントプールがMPEG2ビデオ規格について提案された。その後多くの標準規格でパテントプールが形成されたが、警告を重ねても使用料を払わないただ乗り企業(ホールドアウト)が存在するのが実態である。最近、FRAND宣言をしたSEPについて訴訟合戦が起きているが、これはスマートフォンの市場競争を有利にするために、訴訟に走っていると見るべきで、ホールドアウトに対して差止請求を制限するのは適切ではない。実際、標準化団体の議論でも、実施者側は差止請求を禁止すべきだと主張しているが、標準化技術を提案する権利者側は、事情に応じて差止請求する権利を残すべきと主張している。知的財産の活用を通じて研究開発投資を回収し事業活動を継続するためには、侵害製品を排除し、ライセンスを取得させる適切な権利が必須である(福岡氏の講演資料はこちらにあります)。

藤野氏は、「研究者の立場から」と題して講演した。競争法は知的財産権の権利行使には適用されないことになっているが、正当な権利行使は何かについては競争法に詳しく規定されていない。競争法が適用される市場には3つの類型がある。「商品市場」「特許市場」「技術市場」である。競争法が最も頻繫に適用されるのが商品市場である。商品市場の上流に特許市場があり、さらにその上流に技術市場がある。技術市場については、競争法は共同研究開発契約だけが規制されていると考えてよい。特許市場については、近年、競争法で規制する行為類型が生じてきつつあり、公正取引委員会のガイドラインや判例でそれを規程している。FRAND宣言した特許権者がSEP侵害を理由に差止訴訟を起こすことは競争法違反という、権利者には厳しい判断が重なってきたが、その後、実施者にも誠実に交渉する義務を負わせて、権利者と実施者のバランスを取る方向に変わってきた。ガイドラインは、このような世界的な傾向に足並をそろえるものである(藤野氏の講演資料はこちらにあります)。

その後、二つのテーマについて総合討論が実施された。

ガイドラインに対する評価
谷田部:権利者に厳しい判決が多かった中で、権利者にある程度の権利を認めるガイドラインが公表されたことは評価できる。公正取引委員会の方針に理解を得るためには、もっと具体的に、例示を含めて、書いてもよかったかもしれない。
福岡:改定案が出てきたときは「これは問題だ!」という感じだった。実施者だけに配慮し、「ライセンスを受ける意思表示」の定義が曖昧だった。関係者とともに、公正取引委員会に懸念を伝えた結果、今の権利者と実施者のバランスを考えたガイドラインが出た。個別事案の状況を考慮して判断することが明確となり、状況変化に対応できるバランスの取れた内容となった。
藤野:原案は問題ありすぎであったが、成案は、世界から見ても受け入れられる範囲に修正され、欧米との足並みも揃った。アップル対サムスン事件でインパクトのある判決がでて、公正取引委員会に対応が求められていたが、それに応えたガイドラインとなった。
山田:特許を集めて実施料の支払いを「脅迫する」特許トロールに対する対策としては、ガイドラインは評価できる。日本企業も業績悪化をきっかけに、特許をトロールに売却するケースがあり、どうすればトロールに対抗できるかを明示したことはよかった。
福岡:企業が事業変革をする過程で、保有する特許権と事業内容にミスマッチが生じる。その際に、特許権を放棄するという対策もあるが、さらに、流通に回すという対応もある。特許にも流通資産としての価値があり、日本企業もその価値を認識する必要がある。売却先がどう活用するかはコントロールできない。原理原則から言えば、差し止め請求に用いられたとしても、正当な権利行使である。
会場:ガイドラインに、あえて価値を見いだすとすれば何があるか?
福岡:対象をFRAND宣言したSEPに限定し、権利者と実施者双方のバランスを取るという基準を示し、個々の事案の状況を考慮して判断するとしたことが大きい。
藤野:日本の独禁法には「特許濫用」の概念がない。ガイドラインは濫用の例示をしたとも言える。

権利者の立場に立つ日本企業はどう動くべきか
山田:知財立国を標榜するわが国では、権利者としての企業がより重要である。谷田部氏の調査ではわずか6%しかいなかったようだが、その割合を増やす必要がある。
谷田部:日本企業間では、クロスライセンスが中心になり、相手も道義的に行動するだろう」と考えられる。これからは、海外向けに、権利者としての権利行使をする意志があることをもっと強くうちだす必要がある。
山田:福岡氏は講演の中でSEP侵害が明確でも実施料を支払わない企業があると言っていたが、本当に支払わないのか?
福岡:そう。いろいろな理由をつけてライセンスを取得しない。商品を輸入すると侵害になるので、輸入業者に警告を出すが、生産者は結局逃げてしまう。
会場:東南アジアの企業は払わないで、踏み倒す。訴えられても、金額が確定したら会社をつぶして、また立ち上げる。標準に関わる特許が増えているので、1件あたりの収入も減って、特許の維持費も出せない場合もある。
上條:必須ではない特許が、宣言された「必須特許」の中に混ざっているために、「必須特許」についての侵害特定が難しくなることはないか?
山田:特定は大変な作業で、世界中の特許も調べないと本当の意味での必須特許はわからない。今は、標準を決める場に大企業が持ち寄ったものをSEPと呼んでいる。本当の意味での「必須特許」とSEPは似て非なるものである。
福岡:プールを形成する際には、必須性を評価している。このように、特許の評価に第三者の目が入る場合もあるが、基本は当事者が判断しなければならない。
会場:特許権を企業としてどう活用すべきなのか?
谷田部:LSIにして権利をブラックボックスして販売したり、認証制度を設けて認証されていない商品は流通させない、という方法もある。日本企業が得意な垂直統合型ビジネスは、今後受け入れられなくなる。そのような中で、どう利益を得るかは、事業戦略による。知的財産だけでは、どうにもならない。
藤野:アップルはグレーゾーンをうまく使っている。アップルが依存しているのはソフトウェア特許なので、それを使って仕掛けている。「知財で儲ける」ということを考えるとグレーゾーンで争うしかない。確立した法解釈の下での権利行使だけでは戦えない。
山田:トヨタが水素電気自動車の特許を全公開したので、「公開しないと水素ステーションが広まらないためか」と質問したら、「それが目的ではない。水素社会をつくることが目的」と言われた。トヨタのような長期的な視点での戦略判断も重要である。
福岡:今後は著作権も重要になる。「モノの標準化」から「ルールの標準化」に変わっていく。ルールを実効性あるものにするためにも、著作権、デザインやロゴ等の知的財産権でルールを守らせる執行力を考えていくことも必要になる。ベースとして事業戦略があって、ツールとして知的財産権がある。
上條;そういった意味では、特許権だけでなく、意匠権、商標権、著作権などを活用した知財ミックスによる戦略が重要である。また、企業で創出された「知」についてオープン・クローズ戦略を検討し、一部については営業秘密・ノウハウとしてクローズドに管理することも重要である。
会場:標準化活動から離脱して、勝手に技術規格を市場に出せばよいのではないか?
山田:デファクトをとるという方法はある。しかし、独占するために優越的地位を使うのであれば独占禁止違反に問われる。

まとめとして、講演者が次のように発言した。

谷田部:SEPだからといっても特許ライセンスで稼ぐという戦略は難しいので、事業戦略上どうやって儲けるのかという点が重要である。産業の動向を考えれば、これからはソフトで稼ぐ企業に頑張って欲しい。マスコミが「標準を取れば万々歳」と言うのは、やめるべき。儲からない標準は意味が無い。
福岡:標準化団体には権利者と実施者の立場があるが、新たな技術標準を作成していくという観点から実施者だけでなく技術提案者・権利者のことも考えないといけない。ガイドラインは、そのバランスを求めている。標準化団体としてはコンセプチュアルな精神を決め、市場状況の変化に対応できるIPRポリシーにするのが標準化団体として行え得る限界ではないか。
藤野:米国の特許訴訟の大部分がトロールによるものであると言われている。米国の裁判所ではそれを意識した判決を出し始めている。日本のガイドラインが対トロールの域をでていないとすれば、日本の競争政策はかなり遅れている。アメリカは今年あたりに新しい判決が出るであろう。日本も考えていかなければいけない。

知的財産 NTTドコモの特許活用戦略 小師 隆株式会社NTTドコモ知的財産部長

日時:2月4日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学大手町サテライト(新大手町ビル1階)
東京都千代田区大手町2-2-1
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
共同モデレータ:上條由紀子(金沢工業大学大学院工学研究科准教授、弁理士)
講師:小師 隆(株式会社NTTドコモ知的財産部長)

小師氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、小師氏は講演資料を用いて概略次のように講演した。

  • ドコモは携帯電話オペレータのイメージが強いが、2011年からコンテンツなどスマートライフ領域のビジネスを戦略的に強化してきた。また通信事業では昨年から光ブロードバンドサービスを提供し、NTTグループ内でBtoCのサービスをワンストップでカバーできるようになってきた。
  • こうした中、去年の4月に2017年度に向けての新たな中期計画を発表した。具体的には、通信サービスの強化、スマートライフサービスの拡大、コスト効率化が三本柱となっている。本計画の技術的な裏付けとなっているのがドコモのR&D。ドコモ規模の研究開発組織を持っているオペレータは世界的に少ないが、そうした中、ドコモのR&Dは無線ネットワーク技術等で世界を牽引できる成果を生み出してきている。
  • ドコモが取得している特許のうち、無線ネットワーク系は国内特許の41%、外国特許の60%である。知的財産部としては、①知財の収益化を拡大、②差異化サービスの防衛強化、③量から質への特許管理の徹底、を重点課題と掲げて、会社の中期目標達成へ貢献すべく努力している。
  • 携帯電話は最近30年で成長したサービス。この間、技術的には4回の革新が行われている。技術革新が進むにつれて、各国バラバラの技術が国際標準に統一されていった。ドコモは世界で使えるものをということで早くからW-CDMA方式を提案し、結果的に本方式は第三世代で最も世界に普及した。そして第四世代(LTE)では世界の統一仕様ができた。
  • 標準規格必須特許(SEP)についてみると、通信事業が国営で営まれていた第一世代では無償ライセンスが基本であった。それが第二世代のGSMでは、当初必須特許を有する少数企業間のクロスライセンスで市場の寡占化が起きた。こうした反省からETSIの特許規則でFRANDでのライセンスが義務付けられた。第三世代では有力企業による有償ライセンスが拡大したが、最近は特許で稼ぎ過ぎることについて疑問が呈され揺り戻しが起きている。
  • 携帯電話では標準規格が公開されているので、SEPのライセンスを全部受けなくても規格に従えば実施者は機器が製造・販売でき、こうした運用がかなり常態化している。こうした事情もあって2009年頃からSEP保有企業が訴訟を起こすようになり、所謂スマホ訴訟が頻発するようになった。
  • こうした様々な訴訟の中でSEPの実施者と権利者のバランスをどう取るかが議論されてきたが、各国当局はかなり実施者寄りの判断を示すようになり、全体的にSEPの権利行使が制限されるようになっている。
  • ドコモはグローバル標準の作成をリードしてきた立場から、今の特許宣言とライセンスの仕組みを根こそぎ引っくり返すのではなく、現状を出発点に問題点を段階的に改善していくべきと考えている。その意味で、昨年、欧州司法裁判所が示した判断等は両者のバランスの再構築に向けて有意義なものと考えている。
  • ドコモは、オペレータとしてSEPの実施者であると同時にR&DによってSEPを生み出す権利者でもある。権利者としてはR&Dに対する適正なリターンが必須と考えており、パテントプールや個別ライセンス活動などSEPの活用に力を入れてきている。また、実施者としては、ライセンスのクリアリングを機器調達の必須条件としており、メーカを通じて権利者にも経済的利益が還元されるようにしている。
  • 現在の課題は、権利者の視点からはパテントプールが十分に機能しておらず個別ライセンスも交渉が難航しがちなこと、そして実施者の視点からはパテントトロールへの対応などに多大なリソースが必要になっていることである。
  • 次世代の通信標準(5G)の策定がこれから本格化するが、権利者・実施者のバランスを考慮しながら、効率的な知財エコシステムが構築できるよう、業界関係者全員が開かれた議論を通じて協力していくことが必要と考えている。

講演後、以下のようなテーマで質疑があった。

SEPをめぐる争いの解決について
Q(質問):MGMNはSEPの評価を第三者が行うと提案しているが、中立的な第三者は誰で、だれが費用負担するのか?
A(回答):第三者評価は現在も実施しており、パテントプール等でも活用している。費用については受益者負担が良いのではないかと考えているが、議論の余地は大きい。
Q:パテントプールの実効性は確保できるのか?
A:難しい課題。個人的には、SEP保有企業が分散化されてきているため、5Gではパテントプールが再評価される可能性もあると考えている。
Q:MGMNは業界の賛同を得ているのか?
A:MGMNはオペレ-タの団体であり、その中の議論の結果として先の提言をしたが、ベンダーには異なる意見を持った会社も多い。しかし、提言の1番目、宣言プロセスの改善については問題意識を持っている企業も多く、方向性として合意できるかもしれないと期待している。
Q:SEPでは標準における仕様の定義文がそのまま特許になっているのか?
A:特許明細書の文言と標準の仕様定義文の文言が一致しているほど強い権利となる。
Q:各国バラバラから世界統一に移りつつあるという話だったが、インターネットのように権利は行使しない方向には向かえないのか?
A:移動通信は数兆円規模の投資と長期間に渡る維持管理が必要となり、また世界中で相互接続を保証することが必要。そうした環境の中で今のエコシステムが構築されてきている。インターネットのようにいくつの標準が競いながら、有力なものが勝ち残っていく方式にいきなり置き換えるのはなかなか難しいのではないか。

会社を取り巻く状況について
Q:有価証券報告書に特許のライセンス収入を記載しているか?
A:記載していない。
Q:ドコモはR&Dをやっているけれど、それをやめて、利益を株主に還元してくださいと言われたらどうするか?
A:様々な意見があると思うが、個人的にはメーカ任せではなく、技術の方向性を自社でコントロールできるのがメリット。ネットワークで世界に先駆ける技術力を持つことがドコモの競争力となっており、R&Dの価値であると思う。

ドコモ社内の体制について
Q:サービス面ではIoTが目の前に待っており、第五世代はIoTのインフラになるだろう。これに対しての戦略が今日の講演からは見えない。オープンにするところとクローズにするところを決めておかなければならないはずだ。
A:課題は認識している。ただ通信分野は相互運用などの必要上、SEPを含めて基本的にオープンになるところが多い。一方でアプリケーション領域では差別化できる領域を絞って戦略的にクローズにすることも検討していかなければならないと考えている。
Q:SEPは収益性が下がってきているという説明だった。周辺をやった方が儲かる場合もあるということを聞いた。それでもSEPを取り続けるメリットは何か?
A:知財はR&Dの副産物。第五世代に向けたR&Dの中心は、やはりSEPに採用される標準技術であり、その標準は自分たちで作っていくのだということがR&Dのモチベーションにもつながっていると思う。そのうえで、知財面からはSEPと非SEPのポートフォリオで活用していきたいと考えている。
Q:コンテンツサービスでも特許紛争に備えているのか?
A:サービスの企画段階で必ず特許調査を行い、危ないものに関しては対策を取るようにしている。その中で必要となればライセンス契約するものもある。
Q:キヤノンは、知財と研究開発部隊が蜜に連携を取りながら合同で事業を進めて行くと強調していた。ドコモ社内ではどうか?
A:連携をしながら進めていくという点は同じ。ただし関わり方はR&Dと事業部とは違う。前者は、技術的に深いためアイデアそのものを知財が提案することは難しい。一方で、サービス開発では仕様書などをベースに知財側で提案できる部分もある。そうした意味でアイデア出しに一緒に取り組むことも多い。

ビジネス クラウドソーシングで働く 吉田浩一郎株式会社クラウドワークス社長

日時:12月18日(金曜日) 午後6時40分~8時40分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館1階 5101教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:吉田浩一郎(株式会社クラウドワークス代表取締役社長 CEO)

講演資料はこちらにあります。

冒頭、吉田氏は概略次のように講演した。

  • ロボットやバイオ系の会社など、社会のインフラをつくるなど世界が大きく変わることに投資している会社は赤字であっても上場できる。クラウドワークスは赤字上場企業で、それだけ社会を変革する期待が高い。
  • 20世紀に個人は受動的な存在であったが、21世紀の今では、インターネットを用いて個人が情報を受発信できる。企業が国を選ぶ時代にもなってきているため、クラウドソーシングは、そういう新しい時代の働き方である。世界中の登録者個人がスキル情報をシェアして、それを元に最短15分で仕事のマッチングができる。登録者は、最高で年収2000万円を超え、シニアでも数百万円稼いでいる人がいる。子育てママに100万円程度の収入がある人がいる。彼らの約8割が東京以外で受注している。インターネットによって、どこでも働くことが可能になった。
  • 地域活性化の観点で、岐阜県や福島県南相馬市でのプログラムを行っている。宮崎県日南市は企業誘致が厳しいと言われている地域だが、市と協働して、子育てママに仕事を提供すべく、コワーキングスペースの設置と就労支援プロジェクトを開始した。
  • 半日は果樹園、もう半日はクラウドソーシングで働くことが、定職者と見なされていなかった。しかし、これからは、彼らのような多様な働き方が増えていく。2015年、正社員比率は45.2%と低くなってきている。非正規雇用者がローンを組めない、カードを作れないという状況を変える必要がある。
  • クラウドワークスを通じて、個人でも、信用を得られる。企業から直接評価を得ることができる。それに加えて、Microsoft社やサンケイリビング社と提携して認定証を与え、信用を高めるしくみに取り組んでいる。これからは、個人で信用を積み重ねることができる。個人が、トヨタやUFJといった大企業とも仕事できるようになる。企業は信用できる、個人も信用できるという時代に再構築されていくだろう。
  • 米国Kabbageというサービスは、FacebookとTwitterの内容を調査し、約6分間でお金を貸し出す。今までは信用情報は銀行しか確認ができなったが、SNSやインターネットの支払い状況によって信用が判断されるようになる。Appleウォッチで脈拍数を図ることも健康に関する信用付与に利用されるようになるだろう。
  • スターバックスに、マイスターバックスアイデアという考え方がある。顧客との関係を見直すという目的で導入され、顧客と対話することを重視している。ウォルマートでは、商品開発や企画で顧客と協力する「共創」を行っている。日本でも、ボンカレーとクラウドワークスが連携しキャッチコピーを作成するなどの取り組みを行った。
  • 共感が価格の源泉になる時代がきた。人々の共感を主体とした経済を創造するということで、サイトに「ありがとう」ボタンを設置した。気持ちが通じるようなサービスを、クラウドワークスでは心がけている。

講演後、以下のような質疑があった。

現在の事業に関連する質問
Q(質問):登録する人は、専門的なスキルと知識を持った人だけなのか?
A(回答)専門的なスキルを持った人に限らない。仕事もデータ入力などの簡単な作業からデザイン、開発など多様だ。例えば、ゴルフ場の写真を撮る仕事がある。スマートフォンで近くのゴルフ場を撮影するだけで、スキルや専門の機材を持っていなくてもできる。観光地のレポートや、テープ起こしといった仕事もある。
Q:最短15分で仕事を得られるとあるが、自ら仕事を取りにいくのか? 会社が個人を指名することがあるのか? その場合、クラウドワークスを通さなくて個人間でやりとりを行うことも出てくるのか?
A:自ら仕事を選んで受注するという形が一般的だが、クライアントが一度仕事を依頼した方に再度依頼できるスカウトという機能もある。クラウドワークスを通じて仕事をすることに、メリットがあると思ってもらえるようにしていきたい。
Q:個人名義で受注しても、組織で対応するという動きはあるのか?
A:得意不得意の領域があるため、そのようなこともある。受注しても、不得意分野は外注に出している登録者がいる。
Q:納期に間に合わない場合、違約金は誰が払うのか?
A:業務開始前にクラウドワークスが契約額を預かり、受注者が成果物を納品後に報酬額を支払う。遅延による減額やペナルティ交渉は、その個人登録者と顧客企業とで行ってもらい、決まり次第決定額を支払う。今まで法的な問題に発展したことはない。
Q:最大の案件にはどれくらいのものがある?
A:システム開発の継続案件だと、半年で1000万円くらいがある。
Q:クラウドワークスを通じて、行政が仕事を発注することはあるのか?
A:ある。最近では、外務省のロゴデザインコンペを行った。家にいながら個人が経産省の仕事を受注するときもある。官庁との契約に支障が起きないように、クラウドワークスが一度契約して、登録者に二次発注するというような対応を行う場合もある。
Q:競合企業はあるか?
A:日本ではクラウドソーシングのサービスを運営する会社が200社ほどあるといわれている。海外にも同様のビジネスがある。一方、クラウドワークスの海外登録者には、駐在員の奥さんなど日本人が多い。

個人に対する信用の構築に関する質問
Q:顧客からのメールに返信しないなど、プロの労働であるという意識が欠けている登録者をどう指導しているのか?
A:質の担保に対しては、食べログのような評価が機能する。顧客からの評価が信用情報として積み上がるので、質の担保になると考えている。
Q:サービスが利用され、継続していくことで、信用情報がブランド力につながり、大きな価値になると思うが、評価を扱う上で何か問題となることはないのか?
A:当社の利用規約には、誹謗中傷以外はコメントに手を加えない旨を記載している。基本的には、競争が促進され、個人の努力そのものが評価になる。
Q:クラウドワークスの76万人の登録者に対する評価は、外部の人が見ることができるのか?
A:可能である。ただし、ニックネームでしかわからないので、クラウドワークスを通さなければ登録者個人は特定できない。登録者の同意のもとでなければ情報は外に出さない。

今後の可能性に関する質問
Q:引きこもりや障害を持った人などにもチャンスはあるか?
A:きっかけはつくれると考えている。寄り添って、きっかけをつくることに力を注ぎたい。
Q:介護のために教員を辞職したが、若い先生たちの相談相手となるビジネスができないかと考えているが?
A:相談はむずかしいかもしれないが、教育利用に適切な映像をそろえる仕事など、教育関連の仕事には可能性がある。
Q:学生と企業のマッチングは考えているか? 学生がクラウドソーシングで働いて、評価してもらうといったことはできないのか?
A:クラウドインターンというサービスを実施したことがある。現在の就職活動の問題は、履歴書という自称の情報と何分かの面接で決めることである。マッチングの仕組みを機械的につくるのもよいが、インターンを行うことで、社会を知る、働く体験をすることのほうが重要だ。

知的財産 キヤノンの特許活用戦略 中澤俊彦キヤノン株式会社知的財産法務本部顧問

日時:12月9日(水曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館1階 5101教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
共同モデレータ:上條由紀子(金沢工業大学大学院工学研究科准教授、弁理士)
講師:中澤俊彦(キヤノン株式会社知的財産法務本部顧問)

講演資料はこちらにあります。

冒頭、中澤氏は講演資料に基づき概略次のように講演した。

  • ヨーロッパとアメリカが売り上げの各30%、アジア・オセアニアが40%を占めている。ビジネスはグローバルだが、知的財産については、知的財産法務本部が全ての事業、すべての関係会社を管理している。知的財産関係は集中管理をする必要があるためである。また、キヤノン技術情報サービスが先行技術調査や出願書類の翻訳作業を集中して行っている。
  • 1960年代の複写機業界は、ゼロックスが完全独占状態であった。得意な光学技術を活かし、ゼロックスの特許に触れない電子写真技術を開発した。潜像形成から定着までのコア技術でゼロックスの技術を回避した。周辺技術では、紙送りやデジタル化、ネットワーク化が必要になってきている。キヤノンでは、コア技術で周囲と差異化し、周辺技術は優位性を確保するようにしてきた。周辺技術に関しては、どこの会社も同じような技術を持ってやらなければならないし、独占はできない。周辺技術の一例だが、紙幣偽造防止では、お札だと認識するとコピーしない技術、どの複写機でプリントしたかがわかる追跡技術を導入した。今では、ほぼすべての会社がこの技術を使っている。
  • キヤノンの基本方針は、「知的財産活動は、事業展開を支援する重要な活動である」「研究開発活動の成果は、製品と知的財産である」「他者の知的財産権を尊重し、適切に対応する」の三つである。特許は重要だが、全てが重要なわけではない。重要な特許が重要なのであって、価値を評価しなければならない。どれがキヤノンの技術を支える発明であるかを認識する必要がある。他者の特許をどうするか。無効にするか回避するか、もしくはライセンスにするかも考えなければならない。
  • 2014年におけるキヤノンの米国特許登録件数は、4055件だった。昔から米国特許を重視している。広い権利が取れる、早く取れる、権利活用がしやすいといったことが理由で、他の競合企業もアメリカ特許を重視している。米国特許取得上位の中で、クアルコムやGoogleは、最近、急速に件数を増やしている。Panasonicはずいぶん減り、日立はランク外になった。産業用プロダクトに移行していったことが、日本企業が消えていった理由であると思われる。
  • 知的財産の役割は、基本は参入障壁である。差し止め請求と損害賠償請求の二つがある。会社にとっていちばんこわいのは差し止めされること。工場も人も機械も止めなければならなくなるからである。1980年代の終わり、コダックはポラロイドの特許を侵害したとされ、差止された上に、損害賠償1300億円を払った。レーザビームプリンタ、オートフォーカス、スマートフォンと、損害賠償の事例がある。
  • F-1という最高峰のフィルムカメラがあったが、この製品だけで100件くらいの特許を使っていた。その後のオートフォーカスのカメラが特許1000件、デジタル化したことにより関係する特許は10000件にも及ぶようになった。技術標準を多く使わないと作れなくなり、標準には必須特許が多く含まれている。技術開発と標準化が並行するので、標準が特許を回避できず、必須特許が膨大な数になってくる。
  • 特許数の増大に伴い、ひとつの会社が独占できていないため、メーカー同士が訴えると、必ず反対に訴え返される事態になっている。両者共に必須特許を持っているため、どちらかが勝つということはない。世界中で特許の侵害合戦となる。技術というより体力勝負、資本力勝負になってきているのが問題である。
  • パテントトロールとも呼ばれるPAE(パテートアサーションエンティティ)が問題である。生産をしていないので、何かしらの特許でやり返すことができない。PAEの特許については差し止めを認めないようにしてもらわなければならない。
  • 事業戦略がいちばん大事である。差し止めや賠償をしなくてすむようにしなければならない。ビジネスが儲かるようにしなければならない。新規事業に進出できるようにしなければならない。知的財産はツールのひとつ、事業戦略を達成するひとつのツールである。わかりやすいのはライセンス。特許のライセンスには範囲や製品について条件を付けることができる。自分たちに有利な形でのライセンスを図ったり、相手もWin−Winとなる関係を作ったりする。
  • キヤノンの特許は全部で9万件ほどあるが、すべて役に立つものである。しかし、特許は維持費用がかかる。そのため、あらたな特許を、捨ててもいい古い特許と入れ替える。9万件を維持するために3年くらいに一度見直している。
  • キヤノンとGoogleが中心となり、LOTネットワークをつくった。LOTの会員企業の特許がパテントトロールにわたった際には、他の会員企業に自動的に使用権が与えられる契約である。これによって、トロールからは特許侵害を訴えることができなくなる。

その後、以下のような質疑があった。

キヤノンの知的財産管理に関して
Q(質問):他社の特許を侵害している可能性が出た場合、どれくらい回避し、あるいはライセンスを得ているのか?
A(回答):知的財産メンバーと開発メンバーで侵害の可能性について検討すると、ほとんどは大丈夫と判断され、1割くらいしか残らない。その後も、無効審判を求めることで、ほぼ無効になる。残ったもののうち、回避してもビジネスとして問題なければ回避し、最後に残ったものは、必要あればライセンスしてもらう。
Q:デジタルカメラに10000件の特許が関係しているというが、すべてにライセンスを得ているのか?
A:努力しているが、全てはできていないと思う。特許を持っている会社から部品を調達したりして、できるだけリスクが減るようにしている。
C(コメント):1万件の中には映像符号化のようにパテントプールが存在するものもある。プールから許諾を得れば、それで数千件が一気に使用可能になる。1万件全部を個々に契約する必要はない。
Q:毎年10件程度のトロールから訴えられているそうだが、その結果は?
A:向こうがあきらめる場合もある。安く和解することもある。訴訟で勝つ場合もある。相手が提示してきた金額と特許の危険度を図る。どの程度なら和解した方が得か? 最後まで争うべきか? を考える。
Q:ライセンス料は入ってくるのか?
A:入ってきている。しかし、それだけが知的財産の価値だとは思っていない。自社と他社の技術力の差分で、収入が得られている。
Q:無償クロスライセンスと有償クロスライセンスの比率は?
A:昔は有償の方が多かった。今は、M&Aの影響で少なくなってきている。
Q:無償と有償の判断基準は?
A:相手の特許を見て、いい特許がたくさんあるかどうかである。自分と相手のポートロフィオを見比べる。
Q:本社集中で知的財産管理をされているが、ビジネス上のインパクトはその国の人がいちばんよくわかると思うが?
A:キヤノンでは日本と同じものを世界で売って行く。その国だから、どうのというのはない。国ごとにソリューションサービスが提供されるようになれば変わってくると思う。
Q:社員教育は行っているのか?
A:研究開発担当者に知的財産教育を行っている。特許の書き方や先行技術調査の仕方、課長クラスには知的財産戦略を教えたりしている。もうひとつは、開発部門と知的財産部門が一緒に仕事をしたり、毎月一回は定例会を開くとかしている。できるだけ事業に沿った知的財産活動を行うようにしている。

特許をめぐる国際動向に関して
Q:米国特許について、日本企業は産業用プロダクツに動いたので件数が減少しているという説明があったが、どのような意味か?
A:BtoCからBtoBに移ると、たくさんの特許を出さなくてもよくなる傾向がある。BtoCでは使い勝手やアプリといった部分で特許が増える。特に、コンピュータ機器などは、ユーザの利便性を確保するために、必然的に特許件数が多くなる。
Q:TPPによって知的財産法が変わる。キヤノンにとってよいことか、悪いことか?
A:適正に評価されることが一番大事だと思っている。この点では大きく変わるとは考えていない。
Q:IoTの急速な発展に伴い、産業構造がシームレスになってきた。業界を超えて知的財産を使い合う、競合し合うことが起き得る。キヤノンとして、どういった知的財産戦略をするべきなのか? どのようなことが考えられるのか?
A:事業的に何をしたいかが問題。キヤノンもスマホ作りたいとなったら、やり方は全く変わってくるだろう。そうしたときに取る知的財産戦略と、そこまでやらないよといって取る戦略とは全く違う。事業が何をしたいか、それが大切である。
Q:特許庁の審査官は審査にあまり時間をかけられない。すべての技術に通じているわけではない。各国に出願するにはカネがかかる。特許審査が各国で独立している現状をどのように考えるか?
A:本来であれば、世界にひとつの特許でよい、理想であると思っている。特許を活用するときには世界中で有効でないと意味がないと思う。そういう方向に進みつつあるとも思っている。日本と米国の共同審査などがその実例である。

標準必須特許に関して
Q:標準必須特許について聞きたい。そもそも標準化団体にはパテントポリシーがある。標準必須特許を持っている人は、合理的な条件で誰にでも使用許諾するということを認めなければならない。何が合理的なのかは交渉相手との力関係によるが、使用できることは保証されている。それを前提として、キヤノンは、標準必須特許を使うときに、何か警戒しているか?
A:標準化活動参加者については、使用できるのでそれほど心配はない。標準化活動に参加していなかった企業が、後から標準必須特許があるといってくるときがある。標準には公共財としての性格もあるので、後からの企業が差し止めを求めても認めるべきではない。
Q:標準化団体で世界中の特許をあらかじめ調査することは不可能であり、後からの問題を回避するのはむずかしいのではないか?
A:標準化団体は可能な範囲で調べるべきであると考えている。しかしそれだけでは完全ではないので、後からの問題への対処として標準必須の特許は差止を認めない制度が必要。JPEGでは実際に起きた。3件の特許が主張された。