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知的財産 NTTドコモの特許活用戦略 小師 隆株式会社NTTドコモ知的財産部長

日時:2月4日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学大手町サテライト(新大手町ビル1階)
東京都千代田区大手町2-2-1
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
共同モデレータ:上條由紀子(金沢工業大学大学院工学研究科准教授、弁理士)
講師:小師 隆(株式会社NTTドコモ知的財産部長)

小師氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、小師氏は講演資料を用いて概略次のように講演した。

  • ドコモは携帯電話オペレータのイメージが強いが、2011年からコンテンツなどスマートライフ領域のビジネスを戦略的に強化してきた。また通信事業では昨年から光ブロードバンドサービスを提供し、NTTグループ内でBtoCのサービスをワンストップでカバーできるようになってきた。
  • こうした中、去年の4月に2017年度に向けての新たな中期計画を発表した。具体的には、通信サービスの強化、スマートライフサービスの拡大、コスト効率化が三本柱となっている。本計画の技術的な裏付けとなっているのがドコモのR&D。ドコモ規模の研究開発組織を持っているオペレータは世界的に少ないが、そうした中、ドコモのR&Dは無線ネットワーク技術等で世界を牽引できる成果を生み出してきている。
  • ドコモが取得している特許のうち、無線ネットワーク系は国内特許の41%、外国特許の60%である。知的財産部としては、①知財の収益化を拡大、②差異化サービスの防衛強化、③量から質への特許管理の徹底、を重点課題と掲げて、会社の中期目標達成へ貢献すべく努力している。
  • 携帯電話は最近30年で成長したサービス。この間、技術的には4回の革新が行われている。技術革新が進むにつれて、各国バラバラの技術が国際標準に統一されていった。ドコモは世界で使えるものをということで早くからW-CDMA方式を提案し、結果的に本方式は第三世代で最も世界に普及した。そして第四世代(LTE)では世界の統一仕様ができた。
  • 標準規格必須特許(SEP)についてみると、通信事業が国営で営まれていた第一世代では無償ライセンスが基本であった。それが第二世代のGSMでは、当初必須特許を有する少数企業間のクロスライセンスで市場の寡占化が起きた。こうした反省からETSIの特許規則でFRANDでのライセンスが義務付けられた。第三世代では有力企業による有償ライセンスが拡大したが、最近は特許で稼ぎ過ぎることについて疑問が呈され揺り戻しが起きている。
  • 携帯電話では標準規格が公開されているので、SEPのライセンスを全部受けなくても規格に従えば実施者は機器が製造・販売でき、こうした運用がかなり常態化している。こうした事情もあって2009年頃からSEP保有企業が訴訟を起こすようになり、所謂スマホ訴訟が頻発するようになった。
  • こうした様々な訴訟の中でSEPの実施者と権利者のバランスをどう取るかが議論されてきたが、各国当局はかなり実施者寄りの判断を示すようになり、全体的にSEPの権利行使が制限されるようになっている。
  • ドコモはグローバル標準の作成をリードしてきた立場から、今の特許宣言とライセンスの仕組みを根こそぎ引っくり返すのではなく、現状を出発点に問題点を段階的に改善していくべきと考えている。その意味で、昨年、欧州司法裁判所が示した判断等は両者のバランスの再構築に向けて有意義なものと考えている。
  • ドコモは、オペレータとしてSEPの実施者であると同時にR&DによってSEPを生み出す権利者でもある。権利者としてはR&Dに対する適正なリターンが必須と考えており、パテントプールや個別ライセンス活動などSEPの活用に力を入れてきている。また、実施者としては、ライセンスのクリアリングを機器調達の必須条件としており、メーカを通じて権利者にも経済的利益が還元されるようにしている。
  • 現在の課題は、権利者の視点からはパテントプールが十分に機能しておらず個別ライセンスも交渉が難航しがちなこと、そして実施者の視点からはパテントトロールへの対応などに多大なリソースが必要になっていることである。
  • 次世代の通信標準(5G)の策定がこれから本格化するが、権利者・実施者のバランスを考慮しながら、効率的な知財エコシステムが構築できるよう、業界関係者全員が開かれた議論を通じて協力していくことが必要と考えている。

講演後、以下のようなテーマで質疑があった。

SEPをめぐる争いの解決について
Q(質問):MGMNはSEPの評価を第三者が行うと提案しているが、中立的な第三者は誰で、だれが費用負担するのか?
A(回答):第三者評価は現在も実施しており、パテントプール等でも活用している。費用については受益者負担が良いのではないかと考えているが、議論の余地は大きい。
Q:パテントプールの実効性は確保できるのか?
A:難しい課題。個人的には、SEP保有企業が分散化されてきているため、5Gではパテントプールが再評価される可能性もあると考えている。
Q:MGMNは業界の賛同を得ているのか?
A:MGMNはオペレ-タの団体であり、その中の議論の結果として先の提言をしたが、ベンダーには異なる意見を持った会社も多い。しかし、提言の1番目、宣言プロセスの改善については問題意識を持っている企業も多く、方向性として合意できるかもしれないと期待している。
Q:SEPでは標準における仕様の定義文がそのまま特許になっているのか?
A:特許明細書の文言と標準の仕様定義文の文言が一致しているほど強い権利となる。
Q:各国バラバラから世界統一に移りつつあるという話だったが、インターネットのように権利は行使しない方向には向かえないのか?
A:移動通信は数兆円規模の投資と長期間に渡る維持管理が必要となり、また世界中で相互接続を保証することが必要。そうした環境の中で今のエコシステムが構築されてきている。インターネットのようにいくつの標準が競いながら、有力なものが勝ち残っていく方式にいきなり置き換えるのはなかなか難しいのではないか。

会社を取り巻く状況について
Q:有価証券報告書に特許のライセンス収入を記載しているか?
A:記載していない。
Q:ドコモはR&Dをやっているけれど、それをやめて、利益を株主に還元してくださいと言われたらどうするか?
A:様々な意見があると思うが、個人的にはメーカ任せではなく、技術の方向性を自社でコントロールできるのがメリット。ネットワークで世界に先駆ける技術力を持つことがドコモの競争力となっており、R&Dの価値であると思う。

ドコモ社内の体制について
Q:サービス面ではIoTが目の前に待っており、第五世代はIoTのインフラになるだろう。これに対しての戦略が今日の講演からは見えない。オープンにするところとクローズにするところを決めておかなければならないはずだ。
A:課題は認識している。ただ通信分野は相互運用などの必要上、SEPを含めて基本的にオープンになるところが多い。一方でアプリケーション領域では差別化できる領域を絞って戦略的にクローズにすることも検討していかなければならないと考えている。
Q:SEPは収益性が下がってきているという説明だった。周辺をやった方が儲かる場合もあるということを聞いた。それでもSEPを取り続けるメリットは何か?
A:知財はR&Dの副産物。第五世代に向けたR&Dの中心は、やはりSEPに採用される標準技術であり、その標準は自分たちで作っていくのだということがR&Dのモチベーションにもつながっていると思う。そのうえで、知財面からはSEPと非SEPのポートフォリオで活用していきたいと考えている。
Q:コンテンツサービスでも特許紛争に備えているのか?
A:サービスの企画段階で必ず特許調査を行い、危ないものに関しては対策を取るようにしている。その中で必要となればライセンス契約するものもある。
Q:キヤノンは、知財と研究開発部隊が蜜に連携を取りながら合同で事業を進めて行くと強調していた。ドコモ社内ではどうか?
A:連携をしながら進めていくという点は同じ。ただし関わり方はR&Dと事業部とは違う。前者は、技術的に深いためアイデアそのものを知財が提案することは難しい。一方で、サービス開発では仕様書などをベースに知財側で提案できる部分もある。そうした意味でアイデア出しに一緒に取り組むことも多い。

ビジネス クラウドソーシングで働く 吉田浩一郎株式会社クラウドワークス社長

日時:12月18日(金曜日) 午後6時40分~8時40分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館1階 5101教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:吉田浩一郎(株式会社クラウドワークス代表取締役社長 CEO)

講演資料はこちらにあります。

冒頭、吉田氏は概略次のように講演した。

  • ロボットやバイオ系の会社など、社会のインフラをつくるなど世界が大きく変わることに投資している会社は赤字であっても上場できる。クラウドワークスは赤字上場企業で、それだけ社会を変革する期待が高い。
  • 20世紀に個人は受動的な存在であったが、21世紀の今では、インターネットを用いて個人が情報を受発信できる。企業が国を選ぶ時代にもなってきているため、クラウドソーシングは、そういう新しい時代の働き方である。世界中の登録者個人がスキル情報をシェアして、それを元に最短15分で仕事のマッチングができる。登録者は、最高で年収2000万円を超え、シニアでも数百万円稼いでいる人がいる。子育てママに100万円程度の収入がある人がいる。彼らの約8割が東京以外で受注している。インターネットによって、どこでも働くことが可能になった。
  • 地域活性化の観点で、岐阜県や福島県南相馬市でのプログラムを行っている。宮崎県日南市は企業誘致が厳しいと言われている地域だが、市と協働して、子育てママに仕事を提供すべく、コワーキングスペースの設置と就労支援プロジェクトを開始した。
  • 半日は果樹園、もう半日はクラウドソーシングで働くことが、定職者と見なされていなかった。しかし、これからは、彼らのような多様な働き方が増えていく。2015年、正社員比率は45.2%と低くなってきている。非正規雇用者がローンを組めない、カードを作れないという状況を変える必要がある。
  • クラウドワークスを通じて、個人でも、信用を得られる。企業から直接評価を得ることができる。それに加えて、Microsoft社やサンケイリビング社と提携して認定証を与え、信用を高めるしくみに取り組んでいる。これからは、個人で信用を積み重ねることができる。個人が、トヨタやUFJといった大企業とも仕事できるようになる。企業は信用できる、個人も信用できるという時代に再構築されていくだろう。
  • 米国Kabbageというサービスは、FacebookとTwitterの内容を調査し、約6分間でお金を貸し出す。今までは信用情報は銀行しか確認ができなったが、SNSやインターネットの支払い状況によって信用が判断されるようになる。Appleウォッチで脈拍数を図ることも健康に関する信用付与に利用されるようになるだろう。
  • スターバックスに、マイスターバックスアイデアという考え方がある。顧客との関係を見直すという目的で導入され、顧客と対話することを重視している。ウォルマートでは、商品開発や企画で顧客と協力する「共創」を行っている。日本でも、ボンカレーとクラウドワークスが連携しキャッチコピーを作成するなどの取り組みを行った。
  • 共感が価格の源泉になる時代がきた。人々の共感を主体とした経済を創造するということで、サイトに「ありがとう」ボタンを設置した。気持ちが通じるようなサービスを、クラウドワークスでは心がけている。

講演後、以下のような質疑があった。

現在の事業に関連する質問
Q(質問):登録する人は、専門的なスキルと知識を持った人だけなのか?
A(回答)専門的なスキルを持った人に限らない。仕事もデータ入力などの簡単な作業からデザイン、開発など多様だ。例えば、ゴルフ場の写真を撮る仕事がある。スマートフォンで近くのゴルフ場を撮影するだけで、スキルや専門の機材を持っていなくてもできる。観光地のレポートや、テープ起こしといった仕事もある。
Q:最短15分で仕事を得られるとあるが、自ら仕事を取りにいくのか? 会社が個人を指名することがあるのか? その場合、クラウドワークスを通さなくて個人間でやりとりを行うことも出てくるのか?
A:自ら仕事を選んで受注するという形が一般的だが、クライアントが一度仕事を依頼した方に再度依頼できるスカウトという機能もある。クラウドワークスを通じて仕事をすることに、メリットがあると思ってもらえるようにしていきたい。
Q:個人名義で受注しても、組織で対応するという動きはあるのか?
A:得意不得意の領域があるため、そのようなこともある。受注しても、不得意分野は外注に出している登録者がいる。
Q:納期に間に合わない場合、違約金は誰が払うのか?
A:業務開始前にクラウドワークスが契約額を預かり、受注者が成果物を納品後に報酬額を支払う。遅延による減額やペナルティ交渉は、その個人登録者と顧客企業とで行ってもらい、決まり次第決定額を支払う。今まで法的な問題に発展したことはない。
Q:最大の案件にはどれくらいのものがある?
A:システム開発の継続案件だと、半年で1000万円くらいがある。
Q:クラウドワークスを通じて、行政が仕事を発注することはあるのか?
A:ある。最近では、外務省のロゴデザインコンペを行った。家にいながら個人が経産省の仕事を受注するときもある。官庁との契約に支障が起きないように、クラウドワークスが一度契約して、登録者に二次発注するというような対応を行う場合もある。
Q:競合企業はあるか?
A:日本ではクラウドソーシングのサービスを運営する会社が200社ほどあるといわれている。海外にも同様のビジネスがある。一方、クラウドワークスの海外登録者には、駐在員の奥さんなど日本人が多い。

個人に対する信用の構築に関する質問
Q:顧客からのメールに返信しないなど、プロの労働であるという意識が欠けている登録者をどう指導しているのか?
A:質の担保に対しては、食べログのような評価が機能する。顧客からの評価が信用情報として積み上がるので、質の担保になると考えている。
Q:サービスが利用され、継続していくことで、信用情報がブランド力につながり、大きな価値になると思うが、評価を扱う上で何か問題となることはないのか?
A:当社の利用規約には、誹謗中傷以外はコメントに手を加えない旨を記載している。基本的には、競争が促進され、個人の努力そのものが評価になる。
Q:クラウドワークスの76万人の登録者に対する評価は、外部の人が見ることができるのか?
A:可能である。ただし、ニックネームでしかわからないので、クラウドワークスを通さなければ登録者個人は特定できない。登録者の同意のもとでなければ情報は外に出さない。

今後の可能性に関する質問
Q:引きこもりや障害を持った人などにもチャンスはあるか?
A:きっかけはつくれると考えている。寄り添って、きっかけをつくることに力を注ぎたい。
Q:介護のために教員を辞職したが、若い先生たちの相談相手となるビジネスができないかと考えているが?
A:相談はむずかしいかもしれないが、教育利用に適切な映像をそろえる仕事など、教育関連の仕事には可能性がある。
Q:学生と企業のマッチングは考えているか? 学生がクラウドソーシングで働いて、評価してもらうといったことはできないのか?
A:クラウドインターンというサービスを実施したことがある。現在の就職活動の問題は、履歴書という自称の情報と何分かの面接で決めることである。マッチングの仕組みを機械的につくるのもよいが、インターンを行うことで、社会を知る、働く体験をすることのほうが重要だ。

知的財産 キヤノンの特許活用戦略 中澤俊彦キヤノン株式会社知的財産法務本部顧問

日時:12月9日(水曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館1階 5101教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
共同モデレータ:上條由紀子(金沢工業大学大学院工学研究科准教授、弁理士)
講師:中澤俊彦(キヤノン株式会社知的財産法務本部顧問)

講演資料はこちらにあります。

冒頭、中澤氏は講演資料に基づき概略次のように講演した。

  • ヨーロッパとアメリカが売り上げの各30%、アジア・オセアニアが40%を占めている。ビジネスはグローバルだが、知的財産については、知的財産法務本部が全ての事業、すべての関係会社を管理している。知的財産関係は集中管理をする必要があるためである。また、キヤノン技術情報サービスが先行技術調査や出願書類の翻訳作業を集中して行っている。
  • 1960年代の複写機業界は、ゼロックスが完全独占状態であった。得意な光学技術を活かし、ゼロックスの特許に触れない電子写真技術を開発した。潜像形成から定着までのコア技術でゼロックスの技術を回避した。周辺技術では、紙送りやデジタル化、ネットワーク化が必要になってきている。キヤノンでは、コア技術で周囲と差異化し、周辺技術は優位性を確保するようにしてきた。周辺技術に関しては、どこの会社も同じような技術を持ってやらなければならないし、独占はできない。周辺技術の一例だが、紙幣偽造防止では、お札だと認識するとコピーしない技術、どの複写機でプリントしたかがわかる追跡技術を導入した。今では、ほぼすべての会社がこの技術を使っている。
  • キヤノンの基本方針は、「知的財産活動は、事業展開を支援する重要な活動である」「研究開発活動の成果は、製品と知的財産である」「他者の知的財産権を尊重し、適切に対応する」の三つである。特許は重要だが、全てが重要なわけではない。重要な特許が重要なのであって、価値を評価しなければならない。どれがキヤノンの技術を支える発明であるかを認識する必要がある。他者の特許をどうするか。無効にするか回避するか、もしくはライセンスにするかも考えなければならない。
  • 2014年におけるキヤノンの米国特許登録件数は、4055件だった。昔から米国特許を重視している。広い権利が取れる、早く取れる、権利活用がしやすいといったことが理由で、他の競合企業もアメリカ特許を重視している。米国特許取得上位の中で、クアルコムやGoogleは、最近、急速に件数を増やしている。Panasonicはずいぶん減り、日立はランク外になった。産業用プロダクトに移行していったことが、日本企業が消えていった理由であると思われる。
  • 知的財産の役割は、基本は参入障壁である。差し止め請求と損害賠償請求の二つがある。会社にとっていちばんこわいのは差し止めされること。工場も人も機械も止めなければならなくなるからである。1980年代の終わり、コダックはポラロイドの特許を侵害したとされ、差止された上に、損害賠償1300億円を払った。レーザビームプリンタ、オートフォーカス、スマートフォンと、損害賠償の事例がある。
  • F-1という最高峰のフィルムカメラがあったが、この製品だけで100件くらいの特許を使っていた。その後のオートフォーカスのカメラが特許1000件、デジタル化したことにより関係する特許は10000件にも及ぶようになった。技術標準を多く使わないと作れなくなり、標準には必須特許が多く含まれている。技術開発と標準化が並行するので、標準が特許を回避できず、必須特許が膨大な数になってくる。
  • 特許数の増大に伴い、ひとつの会社が独占できていないため、メーカー同士が訴えると、必ず反対に訴え返される事態になっている。両者共に必須特許を持っているため、どちらかが勝つということはない。世界中で特許の侵害合戦となる。技術というより体力勝負、資本力勝負になってきているのが問題である。
  • パテントトロールとも呼ばれるPAE(パテートアサーションエンティティ)が問題である。生産をしていないので、何かしらの特許でやり返すことができない。PAEの特許については差し止めを認めないようにしてもらわなければならない。
  • 事業戦略がいちばん大事である。差し止めや賠償をしなくてすむようにしなければならない。ビジネスが儲かるようにしなければならない。新規事業に進出できるようにしなければならない。知的財産はツールのひとつ、事業戦略を達成するひとつのツールである。わかりやすいのはライセンス。特許のライセンスには範囲や製品について条件を付けることができる。自分たちに有利な形でのライセンスを図ったり、相手もWin−Winとなる関係を作ったりする。
  • キヤノンの特許は全部で9万件ほどあるが、すべて役に立つものである。しかし、特許は維持費用がかかる。そのため、あらたな特許を、捨ててもいい古い特許と入れ替える。9万件を維持するために3年くらいに一度見直している。
  • キヤノンとGoogleが中心となり、LOTネットワークをつくった。LOTの会員企業の特許がパテントトロールにわたった際には、他の会員企業に自動的に使用権が与えられる契約である。これによって、トロールからは特許侵害を訴えることができなくなる。

その後、以下のような質疑があった。

キヤノンの知的財産管理に関して
Q(質問):他社の特許を侵害している可能性が出た場合、どれくらい回避し、あるいはライセンスを得ているのか?
A(回答):知的財産メンバーと開発メンバーで侵害の可能性について検討すると、ほとんどは大丈夫と判断され、1割くらいしか残らない。その後も、無効審判を求めることで、ほぼ無効になる。残ったもののうち、回避してもビジネスとして問題なければ回避し、最後に残ったものは、必要あればライセンスしてもらう。
Q:デジタルカメラに10000件の特許が関係しているというが、すべてにライセンスを得ているのか?
A:努力しているが、全てはできていないと思う。特許を持っている会社から部品を調達したりして、できるだけリスクが減るようにしている。
C(コメント):1万件の中には映像符号化のようにパテントプールが存在するものもある。プールから許諾を得れば、それで数千件が一気に使用可能になる。1万件全部を個々に契約する必要はない。
Q:毎年10件程度のトロールから訴えられているそうだが、その結果は?
A:向こうがあきらめる場合もある。安く和解することもある。訴訟で勝つ場合もある。相手が提示してきた金額と特許の危険度を図る。どの程度なら和解した方が得か? 最後まで争うべきか? を考える。
Q:ライセンス料は入ってくるのか?
A:入ってきている。しかし、それだけが知的財産の価値だとは思っていない。自社と他社の技術力の差分で、収入が得られている。
Q:無償クロスライセンスと有償クロスライセンスの比率は?
A:昔は有償の方が多かった。今は、M&Aの影響で少なくなってきている。
Q:無償と有償の判断基準は?
A:相手の特許を見て、いい特許がたくさんあるかどうかである。自分と相手のポートロフィオを見比べる。
Q:本社集中で知的財産管理をされているが、ビジネス上のインパクトはその国の人がいちばんよくわかると思うが?
A:キヤノンでは日本と同じものを世界で売って行く。その国だから、どうのというのはない。国ごとにソリューションサービスが提供されるようになれば変わってくると思う。
Q:社員教育は行っているのか?
A:研究開発担当者に知的財産教育を行っている。特許の書き方や先行技術調査の仕方、課長クラスには知的財産戦略を教えたりしている。もうひとつは、開発部門と知的財産部門が一緒に仕事をしたり、毎月一回は定例会を開くとかしている。できるだけ事業に沿った知的財産活動を行うようにしている。

特許をめぐる国際動向に関して
Q:米国特許について、日本企業は産業用プロダクツに動いたので件数が減少しているという説明があったが、どのような意味か?
A:BtoCからBtoBに移ると、たくさんの特許を出さなくてもよくなる傾向がある。BtoCでは使い勝手やアプリといった部分で特許が増える。特に、コンピュータ機器などは、ユーザの利便性を確保するために、必然的に特許件数が多くなる。
Q:TPPによって知的財産法が変わる。キヤノンにとってよいことか、悪いことか?
A:適正に評価されることが一番大事だと思っている。この点では大きく変わるとは考えていない。
Q:IoTの急速な発展に伴い、産業構造がシームレスになってきた。業界を超えて知的財産を使い合う、競合し合うことが起き得る。キヤノンとして、どういった知的財産戦略をするべきなのか? どのようなことが考えられるのか?
A:事業的に何をしたいかが問題。キヤノンもスマホ作りたいとなったら、やり方は全く変わってくるだろう。そうしたときに取る知的財産戦略と、そこまでやらないよといって取る戦略とは全く違う。事業が何をしたいか、それが大切である。
Q:特許庁の審査官は審査にあまり時間をかけられない。すべての技術に通じているわけではない。各国に出願するにはカネがかかる。特許審査が各国で独立している現状をどのように考えるか?
A:本来であれば、世界にひとつの特許でよい、理想であると思っている。特許を活用するときには世界中で有効でないと意味がないと思う。そういう方向に進みつつあるとも思っている。日本と米国の共同審査などがその実例である。

標準必須特許に関して
Q:標準必須特許について聞きたい。そもそも標準化団体にはパテントポリシーがある。標準必須特許を持っている人は、合理的な条件で誰にでも使用許諾するということを認めなければならない。何が合理的なのかは交渉相手との力関係によるが、使用できることは保証されている。それを前提として、キヤノンは、標準必須特許を使うときに、何か警戒しているか?
A:標準化活動参加者については、使用できるのでそれほど心配はない。標準化活動に参加していなかった企業が、後から標準必須特許があるといってくるときがある。標準には公共財としての性格もあるので、後からの企業が差し止めを求めても認めるべきではない。
Q:標準化団体で世界中の特許をあらかじめ調査することは不可能であり、後からの問題を回避するのはむずかしいのではないか?
A:標準化団体は可能な範囲で調べるべきであると考えている。しかしそれだけでは完全ではないので、後からの問題への対処として標準必須の特許は差止を認めない制度が必要。JPEGでは実際に起きた。3件の特許が主張された。

ビジネス クラウドを地域活性化につなげる 佐々木道代株式会社セールスフォース・ドットコム執行役員

日時:11月25日(水曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館1階 5101教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:佐々木道代(株式会社セールスフォース・ドットコム執行役員)

講演資料はこちらにあります。

佐々木氏は、資料を用いて概略次のように講演した。

  • わが国の中小企業ではクラウドの利用は進んでおらず、関心がない・知らないが小企業の七割を占める。
  • しかし、先進的に導入した企業、流体計画、ツルガ、本川牧場、陣屋などでは、顧客の満足度が上がり業績が向上する、事業に計画性が増す、などの成果を生んでいる。
  • 「経営者のIT/クラウドに対する食わず嫌い」は、先進的な成功例を伝えることで、経営者自らが決断するように変わる。総務省には、成功事例の動画を全国に広める必要を訴えている。
  • 「ITは金がかかる」という懸念がある。システムを自前でそろえると大きな初期投資が必要になるが、クラウドならスモールスタートで、初期費用は最小限になり、毎月少額の利用料を支払えば済む。経済産業省に、毎月の利用料についても補助対象とするように要望している。
  • 上手に使いこなした導入先が、自社開発したアプリをセールスフォースのマーケットプレイスで販売した実績がある。また、IT系の中小企業が帳票管理などのアプリを販売するためにマーケットプレイスを利用している例もある。マーケットプレイスを用いることで、グローバルな市場に容易に進出できる。

講演後、下記のような質疑があった。

マーケットプレイスについて
Q(質問):老舗旅館(陣屋)が導入し成功したことが、陣屋のアプリを旅館業界に売るきっかけになったのではないか?
A(回答):陣屋は将棋名人戦などで有名な老舗旅館である。そこでクラウド導入に成功したということが、全国の旅館での利用につながった。中小企業はたくさんあるが、影響力があるところが導入することで大きく変わる。
Q:マーケットプレイスには全国展開や世界展開が容易にできるという利点があるが、実践例は多いのか?
A:IT系の中小企業がマーケットプレイスに出展した事例はあるが、陣屋のような事例はまだ少ない。
Q:導入が進むと企業の淘汰が起きてくると思う。そのようなころになったら、セールスフォースはどのように収益を上げるのか?
A:グローバル化を目指していきたい。マーケットプレイスでワールドワイドに展開している。また、弊社はいつでも最新の情報や技術を準備している。顧客が新しいことを考えることで、我々も先に進むことができる。
Q:英語がわかれば、マーケットプレイスを通じて、海外と直接ビジネスことも可能か?
A:可能である。

中小企業での導入
Q:営業マンは顧客情報を囲いこみたがるのではないか。それで、クラウド化が進まないということがあるか?
A:それは、現実に問題である。しかし、売り上げが伸びない、販路を開けない、といった背に腹は代えられない事態が起きると、導入しようということになる。トップが号令をかける必要がある。
Q:なぜ、中小企業でも容易に導入できるのか?
A:ASPの場合、導入したらそのまま使うものことが多い。弊社のサービスでは、項目を追加したり、削除したりが容易である。顧客の要件を聞いて、弊社の営業が設定できるといった場合もある。
Q:企業のサポートとは、具体的には何を行っているのか? 具体的にやることが決まっているのだが、どうやってIT化すればよいのかわからないという声があるが?
A:コンサルティングはあまりやっていない。これは、外部のパートナー企業の仕事である。弊社では、実際に使っているユーザを紹介することもある。
A:弊社のサービスは、トライアルとして一月無料使用できる。企業によっては、自らこれに挑戦する。もうひとつはパートナー企業。SIerに初期構築をやっていただく。セールスフォースはツールを提供し、また、問題発生時の対処や保守を中心に行っている。
Q:陣屋以外は、地方のSIerと取り組んでいるのか?
A:地方のパートナー企業育成に非常に力を入れている。近くに相談できる人がいないと、導入支援が難しい。とはいえ、地方にたくさんいるわけではないので、必要に応じて東京のパートナー企業を紹介している。クラウドなので、電話と画面共有でセットアップすることも可能である。
Q:アプリ開発には、どれくらいの労力が必要なのか? ノウハウが必要なのか?
A:セールスフォースの製品を学ぶためのコースを提供している。それを受講してから、作ってもらう。プラスアルファで作るとうことは、また、業務プロセスの中身がわかっていないといけない。凝ったアプリを作れば3か月くらい、シンプルなものであれば3日くらでできる。なお、マーケットプレイスに載せるには、セールスフォース側で審査をし、それをクリアしなければならない。

公共機関での導入
Q:「千葉レポ」のような事例は多いのか?
A(参加した千葉市職員から):「千葉レポ」登録ユーザは3000弱。役所に昼間来るのは、女性が半分、高齢者が4分の1だが、「千葉レポ」は8割が男性。通勤途中で道路の不具合を発見したと送信できる。今まで市政に関わってこなかった人たちが関わるようになったことが最大の効果である。他の市町村でも検討しているところはあるが、多くはない。
A:一時的な給付金の執行のように、特定の短期間に配布するため、その期間のみ用いるといった場合にクラウドを考える自治体は多い。静岡県ではクラウドを防災状況に初めて用いた。道路情報を、GPS機能を用いて管理している。47都道府県の4分の1に広まった。
C(コメント):役所には多くの業務システムがある。それを前提とすると、現状では、クラウドはアディショナルなプラスアルファの業務に利用される程度である。自治体によっても方向性は異なる。関西の政令指定都市は道路管理業務を削減するためのしくみを導入したが、クラウドではなく独自方式で行ったそうだ。
Q:医療介護連携などにも利用できるのではないか?
A:医療介護の情報は機微な情報だが、企業で多くの部門が協力して顧客を管理するのと考え方は同じである。コニカミノルタが弊社のシステムを利用して訪問介護のしくみを作り、既にいくつか利用されている。
Q:行政の縦割りはクラウド利用で改善されるのか?
A(参加した千葉市職員から):業務縦割りでシステム調達がされている。市民目線で見直そうということで、ワンストップ窓口が生まれつつある。千葉市の場合、700のうち140の手続きがワンストップになる。そうなると、それぞれのベンダーで構築したそれぞれの業務システムを横断するシステムが必要になる。