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知的財産 特許調査から始まる特許の有効活用 鷲尾裕之氏(特許戦略コンサルタント)

日時:11月9日(水曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス6号館6302教室
東京都文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:鷲尾裕之(特許戦略コンサルタント)

鷲尾氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、鷲尾氏は次のように講演した。

  • リケンテクノスで技術開発、分析、知的財産の仕事をして独立した。分析研究をやっていたことが、侵害行為とは何か、どう立証するかといった知的財産業務に役立った。
  • 特許とは、「特許権」である。特許庁に出願し、特許要件というハードルをクリアしたものに権利が与えられる。そして、権利付与は原則特許庁が行う。一方、特許侵害の判断を行うのは裁判所である。特許権は発明に対して与えられるが、発明とは「技術的思想」である。特許明細書を読むというのは、技術的思想を読み取ることであり、それが、たとえば特許侵害の基準にもなる。「特許請求の範囲」に書かれているものは技術的思想である。一方、「実施例」は技術そのものである。
  • 特許審査の対象は発明であって、過去の発明と技術的思想が同一か、進歩性があるかなどが、対比される。一方、侵害を争うときには、第三者の製品、つまり現物が技術的思想の範囲(特許発明の技術的範囲)に入るかどうかが争われる。
  • パイオニア発明が出来れば事業は安泰か? 答えはNOである。後発他社は「あの発明があるから、この分野は参入できない」と思う必要はない。パイオニア発明があっても、特許要件を満たせば特許は取れる。後発他社は、先行特許と互いに侵害し合っている状態を作り出すことでその分野に入っていく。パイオニア発明をした企業は、後発他社の参入を防ぐために、最初の出願から一年半以内に改良特許を大量に出願すべきである。
  • リケンテクノスはポリ塩化ビニル樹脂コンパウンドのトップ企業で安泰なビジネスをしていたので、その頃は特許化しようという思想がなかった。その後、新素材が出て、その分野に入ろうとしたら、そこは特許重視の世界だった。そこで、技術陣と知的財産部が協力して特許化を進めていった。技術屋が特許の重要性を理解して、知的財産部を道具として使った。「知財力ランキング」で評価されたのはここである。技術屋は継続して事業として利益を作るシステムを作らなければならない。技術屋は知的財産部を使うようにするべきだし、知的財産部は技術屋の技術を理解しなければならない。
  • 特許調査とは特許地図を書くことである。その技術分野において自社の立ち位置がどこにあるか。他社の特許はどこにあるのか。他社製品も調べなければならない。自社の強み・弱みを知り、いつでも訴訟に対応出来るように準備しておくのが特許調査である。そして、侵害の事実を証明できる証拠を得るのが分析という仕事である。
  • 熱可塑性プラスチックは、分子量に分布がある、特定の長さの分子を見ても構造の分布がある、混合物である。プラスチック市場で中間加工メーカーは異なるプラスチックを溶融混練して、組成して販売する。それを成形加工メーカーが買って成形し(溶かす、流す、固める)、完成品メーカーが買って組み立てる。
  • プラスチックは、レシピが同じでも作り方次第で異なるものが出来上がる。成形条件で性能が変わってしまう。しかし、日本では製造方法の権利化は、米国の裁判におけるディスカバリのような制度がないので、侵害を争うのが難しい。そこでレシピを出願するのだが、レシピが同じでも違うものができるということは頭が痛い。何を権利化するかよく考えなければ無駄になる。自社が権利化し、他社を侵害する権利範囲は何か。それを検討する必要がある。
  • 特許調査では漏れがあってはいけない。キーワードでの絞り込みは困難で、それでも電気、通信分野と比較すれば関連特許は少ないので、いざとなったら力業に頼る。全部読むわけだ。技術者と同等の知識を持つ知的財産部員が調べて、技術者にプレゼンするのがよい。製品の現在の流れ、将来の市場の方向性を考えて、奥の深い出願をする。拒絶理由が来たら、狭いが有効な権利を取る。特許調査では、権利の安定性・行使の容易性を評価する必要がある。
  • 特許付与された権利の6割は無効化されている。私見だが、実際には、9割くらいには無効理由があると思っている。権利侵害の証明の難しい特許権も無視される。そのような情報も他社との交渉で役に立つので、特許調査で押さえておく必要がある。

講演後、次のような質疑があった。

企業経営の観点から
質問(Q):相手と交渉するために大量に特許を取ってしまう状況に陥ることもあるだろう。特許調査は力業といっていたが、実際どれくらい読むのか?
回答(A):2~3,000件は読む。これは中間加工だけの話。合成のも合わせれば15,000くらい読む。
Q:調査の時に1人で読んでいると属人的になると思うが、その知識をどのように共有していたのか?
A:PPTに定期的にまとめて、参加自由で月1でプレゼンして共有していた。研究所の月次報告会でも、月次報告書を予習しておいて出願案件、サンプル検討停止、回避設計などの議論をした。
Q:そうすると技術者も効率的に協力してくれるのか?
A:難しいケースも少しはあるので効果の向上を意図して、各部署の若手で、やる気ありそうな人を特許担当にしてもらってまず彼等に話していった。
コメント(C):キヤノンでも月1で会議をしている、とセミナーで話があった。キヤノンにしろ、リケンテクノスにしろ、特許に強い企業はそういうことをきっちりやっている、という印象がある。
Q:リケンテクノスの売上規模だと、知的財産活動にかけられるお金には限界があると思う。ほとんど弁理士と維持費に消える。それでも知的財産にお金をかけようとするのであれば、会社の将来像を考えてやる必要があると思うが、それについて経営陣とはどういう関係を築いていたのか?
A:当時の経営陣は柱であるポリ塩化ビニル樹脂の世界は、自社が国内トップメーカーとしてノウハウの世界を作って特許の世界とは一線を画していたため、知的財産のことを深くは知らない人が多かった。しかし、専門の知的財産部に最終的には任せる経営の懐の深さとそれを支える知的財産部長の能力はあった。最近は、知的財産の価値を知るスーパー技術者が経営陣に入ってきた。弁理士に頼めば権利は取りやすいが1件20万円掛かるので、重要なものだけは頼んで、後は知的財産部員で書いて経費削減をしていた。
C:リケンテクノスみたいに知的財産活動について良い評価を受けても、経営者から「お金がかかりすぎないか?」と言われてしまう。日本全体の意識を高めないといけない。

特許の権利化について
Q:年30万件くらいの審査請求を、2,000人の審査官で見ているので、見落としてそのまま特許になってしまったものもあるのでは?
A:そう思う。私もセミナー等では、拒絶理由通知に対しては面接に行くのがいいといっている。特許庁の調査は外注で行ったり、過去のものを列挙して拒絶される場合もある。手が回らなくて、権利化されることもあると思う。
Q:化学特許は特許期間20年の満期まで特許を維持するパターンが多いのか?
A:そう。途中で放棄してくれたらラッキー。まずないが。
C:移動通信の世界は10年くらいで技術が入れ代わっていくので、どんどん権利放棄している。特許の維持費が高くつくからだ。
A:プラスチックはなかなか新しい技術は出てこないので、たまに新しい素材とかが出てくると、こぞって権利化する。
Q:特許審査の際に、キーワードで読んで、審査官が「これは有効ではない」という場合がある。たとえば、無線機の技術は誰が書いても同じようにキーワードが並ぶので、そこだけ見てはじかれてしまう。
A:そういうときは、対比表を作る。審査対象となる特許出願と既存特許の構成要素を並べ、何が違うのか説明できるかが大事。審査官が読むということを考えて書いている。ただ、そこを読み取れない審査官もいるので、そういう時は面接にいって、その内容を補正書や意見書に落とし込む。そこまでやらないとダメな場合もある。
Q:読み取り方を考えるように、特許請求の範囲も織り込んで考えているということか?
A:そう。よく分かっている技術者は複数の特許に分割可能な、深みのある、将来を見越した明細書を書いてくれる。同じ権利範囲を取るにしても、審査官が納得しないようであれば、どんどん分割して、別の審査官に見てもらうようにする。分割できるようにするためには元の明細書をいかに深く書いておけるかが大事。狭い権利範囲であっても他社が実施しなくてはいけない「嫌がられる」権利をとることが肝心。

特許侵害訴訟とパテントトロールについて
Q:日本で製造方法の特許侵害立証が難しいというのは調べようがないからであって、アメリカには裁判におけるディスカバリ制度があるから有効な権利となる、という理解でよいか?
A:日本では特許権者が侵害行為を立証しなければならないハードルが高い。他社の工場に入って調べることは出来ないから。
Q:リケンテクノスは無効審判をしたことはあるのか?
A:ある。しかし、特許侵害訴訟はない。
Q:化学業界で少ないのか?
A:プラスチックの世界ではあまり聞かない。お手紙(警告書)は行き来しているようだが。
Q:会社によってはお手紙を見ないみないところもある。そのような企業は知的財産をどうとらえているのか?
A:私見だが、様々な技術分野に有効な権利を持つ企業は強気でいられる。ただし、総じて化学企業はおとなしいと感じる。もっと、ガンガン訴訟をやった方が、国際競争力向上の観点ではよいと思う。
Q:相手が製品を全く作らないとすると、侵害をいわれるだけで対抗できないのではないか?
A:そういう状況だと、理論はともかく事実上は確かにそうなる。
Q:製品を作らないところが特許を取ると非常に強い権利になってしまう、という理解でいいか?
A:それで正しい。それを防ぐ法律はあるが、機能しているとは考えにくい。
Q:通信の世界では、他社の特許を買い取って権利侵害を訴える企業(自分では作らない(パテントトロール)がいて問題になっているが、化学の世界でもそういうのはいるか。特許を取っておいて、全く別のことをしている企業はあるのか? 私の会社では、自社の主力分野(たとえば業務用無線)よりも他分野(移動通信)の特許を取った方が利益が出る。そのような考え方はないか。
A:特に聞いたことはない。ただ、リケンテクノスではオールリケンでどう特許を取るかを考えていた。

行政 安全な暮らしをつくる個人情報の保護 藤田卓仙名古屋大学寄附講座准教授ほか

今回は、科学技術振興機構社会技術研究開発センター(RISTEX)「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域との共催で、「安全な暮らしをつくる個人情報の保護」について考えました。
高齢者の孤独死を防ぐ方策として、近隣の人々を中心とした見守り(近助)が有望です。しかし、高齢者の状態が急激に悪化した際には、今までの同意の範囲を超えて個人情報を共有しなければならない状況が起きるなど、近助には個人情報保護法上の課題があります。個人情報保護法第23条は「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」を第三者提供制限の例外として定めていますが、この規定を近助に適用する際にどんな問題が生じるでしょうか。

日時:10月19日(水曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:TKP市ヶ谷カンファレンスセンター
東京都新宿区市谷八幡町8
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:藤田卓仙(名古屋大学寄附講座准教授)
村井祐一(田園調布学園大学教授)

藤田氏の講演資料はこちら
村井氏の講演資料はこちら

冒頭、司会より次のように問題提起があった。 

個人情報保護法は保護と活用を目的とした制度だが、保護に傾いたものと社会で認識されている。独居高齢者の見守りは、見守る人たちの間で情報共有しないと実現しない。個人情報保護と活用のバランスをどうとるかは、司会者が領域総括を務める研究開発領域でも課題となっている。 

藤田氏は資料を用いて次のように講演した。

  • 個人情報保護法には誤解がいくつかある。これはプライバシー保護法ではないし、個人情報の範囲にも誤解がある。個人情報というのは、氏名・住所といったわかりやすい属性だけではない。様々な場面で事前同意が強調されるが、これも必須ではない。
  • 個人情報保護法は、事業者が個人情報を適切に扱うよう定めるものであって、プライバシー保護法ではない。医師の義務など、個人情報保護法より強い個別法律や種々のガイドラインがあり、それをみなければ個人情報保護の全貌はわからない。
  • 個人情報とは生存する個人に関する情報で、特定の個人を識別できるもの、あるいは、他の情報と照合することで特定の個人が識別できるものだが、個人識別符号が改正個人情報保護法で加わった。顔認証データ、ゲノム情報、顔、虹彩等が相当する。さらに、要配慮個人情報が規定された。これは、病歴等の機微な情報を指す。個人情報の利用について従来はオプトアウトできたが、改正で事前同意が必要となった。
  • 各自治体で個人情報保護条例が異なり、事業分野ごとのガイドラインも存在する。民間と公的部門に横串を刺す共通の規定がないので、公民の協力が求められる非常時などに問題が起きる。実際、東日本大震災のときに、国立・民間病院、設置主体ごとに監督官庁が異なり、横での情報提供ができないという事態が起こった。これらを総称して個人情報保護法2000個問題と呼んでいる。
  • なぜ今回、個人情報保護法が改正されたか。当初より社会にネットが浸透し、個人情報の扱いが増えた。個人情報保護の強化だけでなく、情報の利活用も重要になっている。医療分野では、地域包括ケアで医療等IDによってデータ連携する可能性も生まれている。
  • 地域での見守りなど、個人情報保有数5000人以下で保護法の対象外だったが、5000人以下の小規模事業者も対象になるように改正された。この点は、今後問題になる恐れがある。
  • 現状の個人情報保護法制は本人の同意をベースにしている。しかし、本人の同意能力が十分でない場合の仕組みは不十分である。今回の改正で病歴等が要配慮個人情報になり、見守りなどでは、この点も問題となる恐れがある。解決には、同意能力があるうちに同意を取得する仕組みをつくる、後見人等による同意を代わりとする、同意がなくても一定の場合に共有してよいルールをつくる、といったルール作りが求められる。なお、事前同意が不要なケースがある。政令に定められた場合、生命又は身体、財産の保護等々が規定されている。しかし、現場では例外はダメという判断がなされるケースが多い。大震災ですら自治体ではネガティブな反応が多かった。 

次いで村井氏が資料を用いて次のように講演した。

  • 地域は孤立、孤独死に直面している。住民自身も、特に単身者はリスクを感じている。孤独死が起きやすい環境は、後期高齢者、配偶者を亡くしたケース、自治会に入っていない、慢性疾患、賃貸住宅居住などである。長津田では、大家とネットワークをつくることでこれを防ごうとしている。地域で支える必要がある。
  • 背景には婚姻率、離婚率、人に頼らなくても生きていけるなどがある。ハイリスクな人ほど社会と関わりをもたないセルフネグレクトとなり、手をつけられなくなる。早期発見・早期対応が必要である。
  • 人に頼らなくても生きていける原因とも言えるコンビニは、生活を見守っている拠点に変わり得る。地元に密着したオーナーが来客を気にし、問題が起きても警察よりも親族に連絡するようにしている場合もある。コンビニと地域包括センター等との情報共有が必要で、それは配食サービスも、乳酸菌飲料の宅配も同様である。今はセンターに連絡がいくスキームができてきた。
  • セルフネグレクトの場合、本人同意が難しい。見守り活動には対象者の個人情報が必要で、本人同意がない場合には監視活動になってしまう。見守っているだけでなく、対象者とつながる声かけ活動が必要である。島根県では誰に見守られたいかリクエストを受ける仕組みを入れて、支援者数を増やした。リクエストされた人もうれしいので頻繁に見守り声かけをしてくれる、Win-Winの関係が築けた。
  • 大多数の関係者は個人情報の取り扱いがネックと言っている。23条には例外規定があるが、判断基準が明確でないのでよほどでないと介入しない。立川市の連続孤独死のケースでは、民政委員が把握し相談したが誰も動かなかった。明確な判断基準があればセーフティネットを動かすことができた。立川はその反省で、活動を強化している。セルフネグレクトなどの場合には本人の同意が取れないし、本人の認知能力が落ちている場合も多い。
  • 地域には生活支援サービスが色々とあって、それらが連携するだけで見守りが実現するが、どこまで情報共有していいのかおっかなびっくりで、個人情報保護法に抵触するのではという懸念で動けない状況にある。各地で見守りにおける個人情報保護について研修してきた。保護法の第一条、目的を読んでいた人は0.35%だった。ほとんどの方が、法律がきちんとわからないで過剰反応している。自治体ごとに民生委員に提供する情報が異なる問題がある。全国で毎年3800万件の問題を民生委員は見つけているが、どう処理すればよいか、わかりやすい例示は極めて少ない。
  • 真の課題は、第一に好事例が示されないこと。マスメディアは失敗をたたくだけ。失敗事例にこそ解説・解決が必要である。しかし、そのような情報の例示や共有はない。一方、消費者庁のパンフレットは秀逸で、啓発活動に利用できる。
  • 取り扱い課題の細々したことを相談できる仕組みが周知されていない。個人情報保護委員会でどこまで対応できるのか、自治体に相談しても明確な回答は得られない、認定個人情報保護団体も不足しており、また、どこまで対応できるかわからない。福祉現場での具体例を基に法律家が解説する仕組みもない。
  • 要配慮個人情報に関する本人同意の必要性などについて、具体的な判断基準・手法が求められている。任意団体への個人情報提供のルールが不明瞭である。規定の整備が必要ではないか。 

これらの発表後、会場全体で議論が行われた。議論の概要は次のとおりである。

藤田(F):村井講演への感想として法律を皆知らない、説明が難しい、実務上使わない、といったことがわかった。個人情報保護法への理解はどこの現場でも、大学などでの研究倫理審査ですら進んでいない。現場では認定個人情報団体、ガイドラインが必要と認識した。法律家はもっと例を挙げなければならないということもわかった。
村井(M):中野区には見守り条例がある、渋谷、足立、横浜は、災害時について別の条例をつくって運用している。初回は災害時要支援者の安否確認のためという理由で、氏名住所電話番号などを使用して訪問して、それについて同意をとる際に、見守りの同意も取るというように、現場は苦労しながら本人同意を得ていることを理解してほしい。
山田(Y):大震災の際に病院間で情報共有ができない問題が紹介されたが、そもそも災害時要支援者は常に居住地域にいるというという考え方がいけない、障害者でも働く、高齢者も出歩く。支援が必要な際には、自治体から自治体に個人情報を渡す必要がある。災害を切り口にして、情報共有を促進するのはよい考えかもしれない。
F:災害時には情報が大切である。対応策として同じ条例つくればよいが、これも2000個できてしまう恐れがある。上から被せるルールが必要で、本来的には例外条項にあたるケースというだけでは、現場が萎縮してしまうかもしれない。
M:災害時というと共感が得られ、共有の仕組み整備が進みやすい。これを認知症対策というと全く進まなくなる。高齢祝い金をやめるのが全国的な方向になっているが、横浜では防災グッズを祝い金代わりに配布することにして、その中にわざと消費期限付きのものを入れていて、継続見守りの契機にしている。災害だとインパクトがあって身近な問題として動く。
質問(Q):地域防災に取り組んでいる。防災訓練だと、しょせん訓練で、個人情報共有についてハードルが高いがどう進めているのか。
F:災害対策基本法では、非常時でないと法的手当てがない。質問者の通りだ。
Y:「非常時」とはなにか。震度いくつ以上だと非常時とかという定義があるのか。
F:細かい線引きはない。例外条項で読むといっても、死にかけているというのがどうわかればいいのか、線引きを誰がどう決めるのか、曖昧な部分が残る。
M:現場では、防災訓練を自治会単位でやっている自治体の加入者は個人情報が共有できている。しかし、加入していない人はどうするかという声が民生委員から挙がる。だから自治会に入るのがよいという、堂々巡りの議論をしている。横浜市緑区では自治会加入率が90%を超えて、情報共有を密にしているエリアもある。災害時の避難訓練も民生委員、地区委員等々がそれぞれ把握している人をサポートしている。
Q:要支援者情報を活用している地域ごとに、条例には違いがあるのか。総務省等の働きかけはあるのか。見本となる条例のテンプレートを提供するようなことはあるのか。また、医療分野での連携について、厚労省の研究会は改正個人情報保護法をわかってデザインしているのか。
M:かつて渋谷区役所が地域の状況に問題を感じて動き、条例を作った。それが最初で、それ以降他の自治体が関係機関での情報共有方式のテンプレートとして参考にし、渋谷モデルが評価されていった。中野はそれを見守りモデルに変えたが、続く自治体は今のところないと思われる。
F:医療連携のユースケースについて、改正個人情報保護法に詳しい人も入っているが、事務局が把握しているかはわからない。
松本(RISTEXアドバイザ):厚労省がユースケースを書いている背景には、医療分野での個別法を作ろうとしていたという事情がある。今は改正個人情報保護法になり、それを踏まえて医療分野をどうするかは議論されている途中である。医療等IDはマイナンバーの延長だが、よくも悪くもある。多くのステークホルダーを巻き込む場合、困るかもしれない。医療等分野の「等」が困る。医療連携がやりやすくなるが、福祉・介護を巻き込むと難しくなる。地域包括ケアだとステークホルダーを巻き込まないとならないので、どうにかする必要がある。利活用するためには保護をしなくてはならない。保護しなくてはいいという問題ではない。表裏一体の問題ということを理解しなければならない。
Y:本人の同意を取るというが、本人家族が認知症を疑い病院に行く日と、実際の病気の進行は異なり、病気が2年早い。その間に判断能力が不十分なまま同意している可能性がある。
M:事前同意の地域定着はない。問題が起きてから例外条項つかっている。予防から見守り・早期発見につなげようというときに同意をとっておこうという動きもあるが、今のところはほとんどない。
F:法律的に考えるならば、ともかく一度同意があれば、個人情報保護法上は利活用できる。ただ、一度した同意が死ぬまで使われてよいのかという問題はある。抜けられる仕組みも必要かもしれない。
Y:欧州では業者間で個人情報を移す規定もある。家でサービスを受けていた高齢者が、老人保健施設に入居した場合、今までのサービス業者に与えていた情報を移せるか。
F:そこまであらかじめ同意がとれているかという問題がある。個人情報保護法上は素直には移せないが、共同利用のスキーム等を施設が利用していればできる可能性、代理人による同意の可能性もある。
Q:利活用の義務について。高齢者向けの顧客サービスでメールアドレス、パスワード等を預かる場合がある。何かあった場合に第三者に教える義務があるか。要配慮情報を取得できる可能性があるので、行政機関から要請があっても出さないという判断がありえるのか。F:情報の提供要請が刑事訴訟法等に基づいていれば提供は可能である。一方、出さないと拒否された場合については個人情報保護法では何も手当てしていない。
Y:後見人や家族の同意で構わないと法律には書いていないが、書くべきか。
F:個人情報保護法はプライバシー保護ではない。事業者がどう扱うかという法律なので、本人同意が有効でない場合なんらか手当てが必要だが、現状は書いていない。後見人なら問題ないが法的にどこまで担保できるようにするか、家族をどうするか、例えば内縁の妻などを認めるという法律には難い部分がある。
Q:本人同意が難しいといわれるが、見守りとは何をすることなのか、同意をするときに目的が明確になっているか。きちんと規定されているなら、プライバシーポリシーの部分に掲げるべきではないか。
M:大田区の「みま~も」は見守りの仕組みを定義している。しかし、見守りについて普遍化された定義はない。取り組みごとに異なる。横浜市港北区小机では町内会ごとにルールが異なり、宣言文がそれぞれ異なる。しかし、セルフチェックリストなどを備え、緊急対応が必要なケースの通報ルール等も明確にして、見守りが可視化されている。それでも同意がとれないケースもある。
Y:法律の対象から、「5000人以上」の事業者を外した改正をどう思うか。
F:個人情報保護委員会のガイドライン等が示されていないと混乱が起きるのではないか。
M:学会でパブコメを出す用意をしている。明確なルールが出されない中、見守りをがんばれと言われてもできない。面倒なのでやめようと、見守りを放棄する方向に地域が走る懸念がある。

最後に司会者が以下のようにまとめた。

特に判断能力が不十分な高齢者を見守るためには、個人情報を活用していかなければならない。そのために、ガイドラインの整備、グッドプラクティスの例示などを地道に行う必要がある。それとともに、法律そのものを見直すことも今後の課題である。

研究 判断能力が不十分な人の個人情報保護について考える

科学技術振興機構社会技術研究開発センター「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域と、同研究開発領域の「高齢者の安全で自律的な経済活動を見守る社会的ネットワークの構築」プロジェクトが共催し、情報通信政策フォーラム(ICPF)が後援して、開催されたシンポジウムの概要は次のとおりである。

日時:9月11日(日曜日) 午後1時~5時
場所:全国町村会館 (東京メトロ永田町駅徒歩1分)
シンポジウムのプログラムなど詳細については、プロジェクトのウェブサイトをご覧ください。

講演者を含め117名が参加したシンポジウムでは、研究発表と総合討論の結果、以下の事項について意見が一致した。

  • 判断能力が低下した高齢者の経済活動を支援し、経済的被害を防止するには、事前の対応として判断能力が低下する前に任意後見契約や見守り契約を結んだり、信託を設定し財産を受託者に委ねるのがよい。
  • 遺言書を書くことが推奨されているように、事前に契約する必要性について啓発していく必要がある。
  • 事前の契約がないままに判断能力が低下した高齢者には、事後の対応として法定後見制度によって対応することになるが、手続きは概して厳格であり、手続きの煩雑さや家庭裁判所の事務処理上の対応に限界がある、などの問題がある。
  • 成年後見制度に対しては行為能力を制限するという仕組みについても批判が強い。
  • もっと多くの人が簡易に利用できるように、成年後見制度を改善し、あるいは新たに意思決定支援システムを構築しなければならない。
  • たとえば、高齢者が締結した契約について、一定の者の同意がなければ本人あるいはその者が取り消すことができる等の見解(高齢者取消権の主張など)があるが、高齢者の契約は、高齢者であるということのみによって取り消し無効にできるというように定める法律を制定するには無理がある。高齢者によって判断能力の状態はまちまちで、未成年者のように年齢で区切ることができないからである。
  • なお、子ども(未成年者)の場合は、未成年者の制度(親権、未成年後見)が手当てされている。
  • 以上の事前の対応、事後の対応のいずれにおいても、個人情報の共有が必要になってくる場合がある。判断能力が低下した本人がどのような場合にどのような支援を必要としているか、支援者・援助者間の相互の連携が求められる場合には、どのような内容の個人情報を共有することが必要になるかを明らかにすることが急務であろう。
  • 個人情報保護法は、個人情報の取得をすべて禁止するものではなく、同意のない第三者提供などを規制するものである。
  • そのうえ、緊急時には本人の同意を得なくても第三者提供できるとの例外規定が設けられている。
  • ただし、個人情報保護法は民間機関に関するルールのみを示すものであるため、個人情報保護委員会が自治体等でも安心して情報共有できるようガイドラインなどを示すのがよい。
  • しかし、例外規定を根拠に規制を逃れていくのは運用上困難な部分が多いことが東日本大震災時にも明らかとなった。
  • そのため、判断能力が低下した人々に対する法律を別に制定するのがよい。
  • たとえば、高齢者に対する医療介護連携に関する特別法を制定すれば、個人情報保護法の規定を超えることも可能である。
  • そのためには、これら個別の事象に関する研究を進め、どのような支援が必要かを明らかにする必要がある。

知的財産 移動通信にみる技術のスピルオーバー 許經明氏(東京大学ものづくり経営研究センター)

日時:8月31日(金曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:金沢工業大学大学院虎ノ門キャンパス(愛宕東洋ビル13階会議室)
東京都港区愛宕1-3-4
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
共同モデレータ:上條由紀子(金沢工業大学大学院イノベーション研究科准教授・弁理士)
講師:許經明(東京大学ものづくり経営研究センター) 

許氏の講演資料はこちらにあります。

許氏は講演資料を用いて概略次の通り講演した。

  • 1990年代、欧州では新興国に対して比較優位な産業として複雑な製品システム(CoPS: Complex Product System)に注目した。航空・鉄道などが相当する。移動通信もCoPSであるが、なぜ、移動通信では欧州企業の競争力が低下したのだろうか。
  • この疑問を解くために、複雑な製品システムに関する知識が欧州の既存企業から新興企業に流れるスピルオーバーのプロセスに注目した。基本的には、知識スピルオーバーには、ライセンスなどの企業間取引によってスピルオーバーする直接ルートや、技術標準や特許を基に新興企業が技術情報を入手する間接ルートなどがある。CoPSである移動通信については、間接ルートという視点で分析した。なお、この発表における「スピルオーバー」は、知識の拡散(diffusion)と同じ意味である
  • CoPS企業は、強みであるシステム知識を技術標準化に反映させる。移動通信の標準は、サービス、コアネットワーク、基地局、端末、暗号処理などのサブシステムごとに作成され、かつ、サブシステム間の複雑なインタフェースが規定されている。本発表では、サブシステムごとの標準(技術仕様)に対して必須特許(SEP)が宣言されている程度をシステム知識の複雑さとして定義する。欧州の既存企業は新興企業に比べて、システム知識の複雑さが高いが、そのシステム知識が新興企業にスピルオーバーしてしまうと、欧州の既存企業の競争力が低下してしまうと考えられる。そこで、企業ごとのシステム知識の複雑さについて分析した。
  • その結果、Nokiaなどの既存企業はすべてのサブシステムの技術仕様作成に貢献し、かつ、全分野でSEPを宣言しているという点で、システム知識の複雑さが高いことが分かった。一方、Samsungなどの新興企業は、システム知識の複雑さが低いことが分かった。この意味では、Nokiaなどの既存企業のシステム知識が、Samsungなどの新興企業にそれほど流れていなくて、Nokiaなどは競争優位を維持し続けるはずであると考えられる。
  • 一方、移動通信産業には、端末に搭載するチップセットを製造販売する中間財メーカーが存在する。Qualcommなどが相当する。Qualcommは、サブシステムごとの標準(技術仕様)に対して必須特許(SEP)を多く宣言している(システム知識の複雑さが高い)。このシステム知識がチップセットの形で新興企業に提供され、CoPS全体のシステム知識をそれほど持ていない新興企業も移動通信ビジネスに参入できることが分かった。
  • さらに、SEPを先行特許として参照する形で独自特許が多数の企業から出願されている。この関係を調べると、新興企業はQualcommのSEPを多く参照していることが分かった。特許は明細書で技術が公開されるが、それが新興企業の教材になっているわけだ。
  • 以上説明したように、Qualcommは欧州の既存企業が貢献した技術仕様を基に、システム知識が詰まったチップセットを新興企業に提供した。また、Qualcommのシステム知識が、QualcommのSEPを通じて新興企業に流れていた。このようなシステム知識のスピルオーバーが、新興企業による技術情報を入手する間接ルートであり、欧州の既存企業の競争力を低下する一因であった。

講演の後、質疑応答が行われた。

質問(Q):なぜ、Nokiaなどの競争力は低下したのか。
回答(A):技術仕様を定めるまでのオープンイノベーションと、その後のクローズドなイノベーションを組み合わせることが企業戦略として重要である。これに関しては、今後、技術標準化におけるNokiaとQualcommの企業戦略を比較する必要がある。
Q:第三世代のSEPを参照して出願された独自特許にはどのような種類があるか。
A:詳細な分析はないが、改良特許だけではなく、第四世代に備える特許も含まれているようだ。その意味で、継続的な技術開発・特許出願は重要である。
Q:新興企業はQualcommのSEPを多く参照しているとのことだが、QualcommのSEPの数が多ければ、それだけ明細書で技術が公開されるので、参照頻度が上がるのは当然ではないか。
A:その通りである。
コメント(C):既存企業と新興企業の勢力争いという点ではスピルオーバーは重要な課題であり、許氏の研究成果は評価される。一方、世界経済の観点では、スピルオーバーがあったからこそ新興企業が安いシステムを販売できるようになり、それがアフリカ諸国などで利用されるという成果を生んだとも評価できる。
C:Qualcommの標準化活動への参加の程度はNokiaなどよりも低い。この点に注目してQualcommは標準の成果にただ乗りしたといえるだろうか。第三世代の技術の根幹はCDMAであり、第二世代のころからCDMAを商用化していた唯一の企業はQualcommであった。第三世代の技術仕様は、それまでに蓄積されてきたQualcommの技術を基に作成された。したがって、標準化活動への参加の程度は低いが、ただ乗りしているわけではない。