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電波 電波改革はどこまで進んだのか:小林前大臣政務官に聞く 小林史明自由民主党衆議院議員

日時:12月18日火曜日17時30分から19時
場所:衆議院第二議員会館第8会議室(地下1階)
〒100-0014 東京都千代田区永田町2丁目1−2
講師:小林史明自由民主党衆議院議員(前総務大臣政務官)
司会:山田 肇(ICPF) 

小林議員は最初に政治信条を話したのち、五つのテーマで講演した。その後、それぞれについて質疑があった。

講演資料はこちらにあります。

政治信条
ドコモで社会人生活を始めたが、サービスを提供しようとした際にルールの壁にぶつかった。そこで、ルールを変える側になりたいと考え政治家に転身した。ドコモ社員の間に障害者が移動通信サービスを利用して社会参加しているのを目撃したこともあり、政治信条として「テクノロジーの社会実装でフェアな社会を作る」を掲げている。

公共安全LTEの導入
米国では911(同時多発テロ)を契機に公共安全に関係する行政機関の間で共通の通信基盤を持つべきという動きが始まった。それが公共安全LTEに発展し、間もなく導入されるという。わが国でも近年増加している災害に対応するには、消防・警察・海上保安庁などの通信システムを集約して公共安全LTEを構築するのがよい。2020年に消防が利用し始め、映像付きで現場と指令所の間の通信ができるようになる。

Q(質問):まずは消防ということだが、西日本豪雨などでは消防も警察も自衛隊も出動しているので、行政機関横断的に公共安全LTEを利用すべきではないか。
A(回答):各機関に通信要員がおり、彼らの仕事と生活を守る必要もあるので横断的な利用は容易ではない。しかし、消防が映像付きで交信するのを見れば、他の機関も公共安全LTEを導入しようということになるだろう。
Q:周波数帯は200MHzか。
A:200MHzではなく移動通信帯を考えているが、まだ確定していない。
Q:人口カバー率ではなく面積カバー率で構築を進めるべきではないか。
A:その通り。山の中で公共安全LTEがつながらないのでは話にならない。実は第五世代移動通信(5G)も同様で、面積カバー率重視で整備していけば過疎地域も大容量通信の社会的利益を享受できるようになる。
Q:公共安全LTEは自営網なのか。
A:その帯域は専用されるので輻輳などは生じない。通信事業者のLTEの一部に専用帯を設ける、民間が整備した網の一部を政府が運営する、政府が構築するが運営は民間に委ねる(公設民営)、政府が整備も運用も自前で行う、と様々な実現方法がある。全部自前でやると費用が最も掛かる。その点も考えて実現方法を検討してくことになっている。

公共周波数の民間転用
政務官になる以前、自由民主党内で行政改革を推進する立場にあったときから、公共周波数の民間転用の必要性を主張していた。規制改革推進会議で方針が出た後、総務省で検討して防衛省の帯域(1700Mhz帯)を民間に転用することになった。防衛省無線の転用にかかる費用は新規参入者(楽天)が負担した。これによって移動通信サービスに第四の事業者が誕生した。

Q:ほかに転用できる周波数はないのか。細分化された帯域を年に数回使っているというような使用実態のものは集約すれば他に転用できるだろう。区画整理が必要ではないか。
A:区画整理というのはよい表現あり、その方向で進めている。
Q:配分にオークション方式は使うのか。いつから使うのか。
A:オークションの考えを取り入れた総合評価方式について法改正を準備している。改正後は移動通信の周波数配分は5Gも含めて総合評価方式で行う。その際には、金額だけでなく、ネットワークセキュリティの確保や面積カバー率(過疎地のデジタルデバイド解消)なども評価基準になるので、総合評価と表現している。

移動通信端末価格とサービス料金の分離
NMP(ナンバーポータビリティ)の手続きが面倒だったり、中古端末が流通しなかったり、と今の移動通信サービスには競争が不足し利用料金が高止まりしている。自由民主党内にモバイル市場の公正競争に関する検討会を立ち上げ、検討した結果に基づいて菅官房長官が発言した。突然思いついたというような報道もあるが、事前検討があったのだ。

Q:移動通信事業は民間事業である。政府の介入は必要最小限にすべきではないか。
A:われわれのが問題にしているのは、料金が高止まりしており消費者に選択の余地がないことだ。端末価格込みで購入するしか選択肢がない状況は適切ではない。これを改善するために政策を検討しているわけだ。料金が高止まりしていると、利用できる人とできない人が生まれ、社会が分断される。これを防ごうと考えている。

放送改革
One to One Marketingという言葉があるが、情報にもOne to One Marketingの時代がきた。しかし、それが社会の分断を生んでいるという問題がある。放送にはあまねく広く届けるという社会的価値(社会の公器)があり、それを十分に発揮してもらいたい。
民放とNHKの対立ばかりメディアに載るが、社会の公器としての価値をどう高め、NETFLIXなどに対抗していくか放送業界全体で考える必要がある。
NHKにはネット同時配信を認める代わりに、事業改革を求めている。民放には県域放送を見直す代わりに、公器としての価値を高めるようにBPO改革などを求めている。その過程でBSに新規参入を認めることになったのである。NHKも民放も変われば、NHKの国際放送に民放のローカルコンテンツを載せるなどもできるようになる。

Q:NHKは4波も持っている。一部を放棄させるべきではないか。
A:BSは返納させ、新規参入を求めるつもりである。ジャニーズチャンネルやエグザイルチャンネルができてもよい。コンテンツ所有者が積極的に配信に乗り出すことを期待している。
Q:県域放送を見直すということだが、ローカルコンテンツは重要である。
A:その通り。問題はローカル民放の経営状況がわかっていないこと。株式を公開していない民放でも経営基礎情報は公開するように求めている。その上で、隣接地域の民放と協力・統合するかは民放が自らの意思で決めればよい。
Q:ケーブルテレビをどう見ているか。
A:ケーブルテレビであれば4K・8Kも送信できる。これからはケーブルテレビが地方でますます重要になっていくだろう。ローカル民放も隣接区域と連合してケーブルテレビにローカルコンテンツを提供するようになるかもしれない。

社会システムの標準化
米国は民間企業がデータを押さえ、中国は政府が押さえている。その中間に位置付けられる、一人ひとりの人が自分の情報を押さえ、それを公民が利用する「ヒトを起点としたデータ経済圏」を生み出す必要がある。
地方分権と中央集権の二項対立の中で、地方公共団体の情報システムはひどい状況にある。出力形式を勝手に決めていることもあって、情報システムは統一されず、費用だけがかさんでいる。これは「ヒトを起点としたデータ経済圏」は実現できない。社会システムの標準化が求められる。

Q:「地方自治の本旨」という言葉で反対する人たちがいるが、説得できるのか。
A:全国市長会に検討してもらったが、市長は情報システムの統一やデータ形式の標準化に賛成であった。受けれ得てもらえる可能性があるので、法制定に向けて活動していきたい。
Q:個人情報保護法2000個問題にも対応するのか。東日本大震災の際に避難所に逃げた人々の医療情報を国立病院・公立病院・民間病院間で転送・共有できないという問題が起きた。
A:データ経済圏は専門家には理解してもらえるが、一般市民には災害時の対応について話すほうが理解が進む。2000個問題も俎上に載せていきたい。

共催セミナー インターネット投票の可能性 鈴木隼人自由民主党衆議院議員ほか

主催:情報ネットワーク法学会 情報ネットワーク法学会、インターネット投票研究会
共催・協力:情報通信政策フォーラム(ICPF)ほか
日時:20182018年12月3日(月曜日)17 :00~19 :00
場所:衆議院第2議員会館1階多目的会議室
登壇者:鈴木隼人若者議連事務局長代理、小林史明前総務大臣政務官、五十嵐立青つくば市長ほか
主催者が作成した開催記録はこちらから閲覧できます

医療 健康・医療・介護問題を可視化するビッグデータ解析 鴨川 威(株式会社フェニックス)

主催:情報通信政策フォーラム(ICPF
日時:1128日水曜日1830分から2030
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目 会議室B
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6
講師:鴨川 威(株式会社フェニックス サービス開発研究所)
司会:山田 肇(ICPF 

冒頭、鴨川氏が資料に沿って以下の通り講演した。鴨川氏の講演資料はこちらにあります

  •  株式会社フェニックスという企業を経営しているが、特に「こころの健康」に興味を持っている。認知症が典型的な例であるが予防にどうつなげていくか研究している。
  • 横浜市では、「健康21プロジェクト」において約16800人の大規模調査を平成25年に実施し、平成28年にも再調査している。この結果は横浜市から公開されており、横浜市衛生研究所のデータ分析結果もでている。この区民健康意識調査と高齢化・介護系統計は別の部局で行っており、横浜市ではこれら二つを統合しての分析はしていない。そこで民間の立場で二つのデータを統合して分析する研究を行った。
  • データはPDFで提供されたり、Excelで提供されていてもフォーマットが異なっていたりで、分析にそのまま利用できなかった。そこで、フォーマットをすべて変え、場合によっては手で打ち直して分析用のデータを作成した。Linked Open DataLOD)は作成したデータ間の関連性を調べるものであり、コンテスト「LOD Challenge 2018」が開催されている。本日は同コンテストで「地域課題分析賞を」いただいた内容を発表する。
  • 横浜市「区別健康意識調査」をベースに、要介護率・高齢化率の地域差と健康度の相関分析をおこなった。このような関係を分析するのに都道府県レベルでのデータではあまり意味がなく、せめて区レベルでの分析が必要である。小学校区レベル(「地域包括ケアセンター」レベル)で高齢者サービスを考えるのであれば、さらに細分化したデータが必要になる。
  • H25H28年度を比較してソーシャルキャピタルが劣化していることが読み取れた。これも大きな問題と捉えられる。区民健康意識調査と高齢化・要介護率をひとつのテーブルにまとめることも実施した。その際、データ名称に対して、メタレベル、メタメタレベルの呼称をつけていくことで、データが示す意味が読み取れ、比較ができるようになった。青葉区、都筑区など東京に近い地域は高齢化の指標は低くでる。しかし、都筑区は高齢化率が低いのに要介護率がやや高いという不思議な結果が出た。健康でないと自覚している人の割合を高い順から並べると、高齢化率や要介護率と必ずしも相関していないこともわかった。湾岸部(神奈川区、西区、中区)は、要介護度が高く、生活習慣や経済状況がその背景にある。自分の住む区の問題点が、このような分析から明らかになってくる。その地域で必要となるサービスが見えてくるはずである。
  • 経済格差が健康度に影響を与えているが、「経済格差=健康格差」という認識にならないように慎重に取り扱う必要がある。地域の「稼ぐ力」も健康度に関連があることが推論できる。生産性が低ければ所得配分が下がり、労働環境も劣化し不健康につながると理解できる。
  • オープンデータで提供されるデータは単位が不揃いであったり、テーブル数値に%が組まれていたりと、そのままでは多次元分析作業ができないことが多く、直接xViewには渡せない。分析前に膨大なデータクリーニングが必要なことがオープンデータ利用の障害となっている。xViewのようなツールを使うことで、データ解析の生産性が飛躍的に向上する。
  • 元データをそのまま使うと特徴がわかりにくい場合も、偏差値で表現するとわかりやすくなる。要介護・高齢化率などのレーダーチャートを偏差値表示すれば特徴がとらえやすくなる。高齢化率が高いが要介護度が低い栄区は「地域の人が助けてくれる」などコミュニティを示す指標が高くでており、毎日三食食べるという生活行動習慣も高い。こういったことを踏まえて、高齢者サービスを検討しなくてはいけない。
  • 地域分析は非常に重要で、生のデータを使って作業することで、実感として課題が明らかになる。課題を他人事でなく自分事にすることが大事である。

講演の後、次のようなテーマで質疑があった。

地域力分析について
Q(質問):区単位での分析は意味があるのか。健康度には生活習慣と遺伝子の問題がある。生活習慣にも関連するが健康度は職種に大きく依存しているのではないか。肉体労働をしていた人か事務職かでは全く違い、頭脳労働者で定年後うつになる人は多い。地域ではなく、元職で分析したほうがいいのではないか。
A(回答):職業別で認知症の発症率をみたデータがあったが、警察官や学校の先生が認知症なるケースが高い。学校の先生は、定年になると誰とも話さなくなり、世界も狭いらしい。職業というより、コミュニティとのつながりがあるかが重要なのではないか。栄養の問題もコミュニティとの関連が高い。地域が豊かになれば健康につながる。
C(コメント):東京大学の老年学の研究所に勤めている友人に柏市が協力して中学校区単位での分析を進めた。元は農村地帯であったが住宅地になったような地域は、農業に従事してきた人と勤め人が混在しており健康度が大きく違う。オープンデータでもこの程度まで粒度を細かくデータを出してもらえれば分析できる。ぜひ、公開してもらいたいものだ。
C:町丁目レベルのデータは公開していない市町村が多い。人数が減るのでプライバシー保護の面から公開を躊躇するらしい。しかし、半径500mのデータは重要で、もっといろいろなものが見えてくる。実証を重ねて、自治体のオープンデータに対する意識を変えていくことが重要である。
C:情報銀行の流れで自分のデータを社会貢献のために提供しようという話がある。そこでもプライバシーが問題になった。完全匿名か個人情報をある程度出すか、技術的にも試行錯誤を進められている。
C:前々回のNECの講演でも話になったが、医療データでは完全匿名化してしまうと意味がなくなってしまうケースがあるが、マスキングやカテゴリーの統合などで対処ができるという話であった。情報技術の発展で工夫ができる。
C:区単位では粒度は荒すぎるというのは感じるが、高齢者のことは地域で対応するので、やはり小さな地域での分析が必要になるのではないか。 

オープンデータのあり方について
Q:オープンデータで公開されているデータの信頼性を疑問に感じることがあるが、いかがか。
A:介護保険関係のデータは非常に精度が高い。
C:勤労者は企業健保や企業健保に加入することがあるので、国民健康保険だけではは住民を表さない。一方、介護保険は自治体サービスなので悉皆データになる。
Q:分析に使った市民意識調査の信頼性はいかがか。
A:市民意識調査は、インターネット調査がメインで、アンケートは無作為抽出の1300サンプルぐらいである。サンプル数も多く回答率が非常に高い調査なので信頼性はある。市民にとってもメリットを感じることができれば回答率が上がる。
C:国勢調査のデータは信頼性が高いということであったが、本当にそうなのか。集計データをみると性別不明といったデータもある。最近の調査事情で、調査員に調査票が渡せないということもある。国勢調査もそうだが統計データの信頼性は意識しておくべきと考える。
Q:中小企業の数が中小企業庁統計と総務省統計で違っている。マイナンバーができたので、これを使えば、省庁によってデータが異なるということがなくなると思う。これがオープンデータの価値につながるのではないか。
A:おっしゃるとおりである。行政によってばらつきがあってはいけない。同じような健康調査を川崎市も実施しているが、データ項目が違うので横浜市と直接比較できない。国で統一フォーマットを決め、マイルストーンを決めてフォーマットを統一していくべきである。
Q:東大の奥村先生がベルギー政府の良例を話していたが、日本は自治体がバラバラのソフトウェアを使っていて、マイナンバーも最近できたばかり、技術者も育っていないということで世界から遅れてしまっている。大国になるとなかなか統一的な取り組みができない。ベルギーのような小国は、システムをベンダーにまかせず、内製化してきている。国や行政機関の発注者がベンダーまかせではいけないという感覚がでてきている。
A:個人的な意見だが情報省のようなものが必要かと考える。行政機関側に仕様書が書けて、ベンダーコントロールできる人をつくらないといけない。メタデータの標準化も目的をもってやる必要がある。民間企業で実務を行って現実がわかっている人が行政サイドに入らないとできないと思う。
C:内閣官房の行政事業レビューが公開されているが、総務省の統計調査が対象となった。全国消費実態調査は5年に一度で、協力世帯に3カ月間家計簿をつけてもらうことになる。ほとんど手書きなので、3カ月やりきる世帯はかなりバイアスがあるのではないかと言われている。来年はオンライン化率を上げることになったが、目標値が10%ということで評価者からは批判がでた。家計簿ソフトのデータを抽出させてもらえれば調査できてしまうので、そのようなこと考えないかと聞いたら、政府専用アプリを作ったと自慢していた。
C:高齢者関係の統計は変わってきている。千葉大学の近藤先生が中心に行っているJAGES調査では非常に大規模なデータベースができてきている。JSTAR(くらしと健康の調査)はパネルなので追跡できる。これらの知見を活かして、これからを検討すればよいのではないか。
Q:横浜市の年度比較は調査対象者が変わっているので、パネルの方が精度が高いデータが取れるのではないか。
A:時系列の変化は非常に重要で健康寿命のランキングもどんどん変わる。その背景を見極めないといけない。 

老化と介護の関係について
Q:老化が進み介護までに行きつく説明資料3ページのフローチャートは、鴨川氏が作られた仮説なのか。
A:因子の関係を示したものだが、自分で作成したものである。
Q:相関の強さなどを統計的に検証できるのか。
A:高齢化と要介護度の間に何があるかを頭の中から引っ張り出したもので、厳密なものではない。しかし今回の調査データ分析からあたらずとも遠からじである。今後制度を高めて行きたい。
CWHOICFなど標準化進めている。これの流れに乗れれば用語の統一もできるので、他の人も使いやすくなる。
Q:フローチャートはわかりやすいが、60歳になった人を何人か集めて定点観測するといいのではないか。
C:東大の老年学の秋山先生が3000名のパネルをやっている。200人亡くなったら、200人を新しく追加している。男性の20%60~70歳の間で急激に健康度が劣化して死亡するなどを明らかにしている。1000/1日で医療費がどれくらい削減できるか、医療経済学で研究されている。このようなことを積み上げると、仮説ではなく、リアルな関係線が書けるようになる。医療経済の側面でどう考えるか。
A:横浜市の区では要介護率が最大と最小で5%違う。だから、2%下げることは不可能ではない。健康でないという状態を健康状態に持っていき2%減らせば、要介護の費用も下がる。そのための健康投資が重要である。
C:マイナンバーがインフラとして整備されつつあるが、個人の健康情報は、自治体、学校、企業などデータの管理者がバラバラである。医療データは個人のものであるという意識改革が必要である。
A:ライフタイムログが取れる社会ということかと思う。
C:ライフタイムログは情報銀行などやっと動き始めている。
C:ブロックチェーン技術が入れば、すべてデータが把握できる。一方で匿名化も問題で、これも技術が急速に進んでいる。
C:eインボイス制度ができると企業データが把握できるようになる。しかし、法人番号は1法人に1個で、事業者番号は任意なのが問題である。

 

医療 医療分野に挑戦するスタートアップ企業 部坂英夫ヘルスビット株式会社CEOほか

主催:情報通信政策フォーラム(ICPF
日時:111日(木曜日)1830分から2030
講師:奥和田久美(Diass代表)
   部坂英夫(ヘルスビット株式会社CEO
   森 薫(ヘルスビット株式会社CTO
司会:山田 肇(ICPF 

奥和田氏の講演資料はこちら、ヘルスビット株式会社の講演資料はこちらにあります。

冒頭、奥和田氏が「日本におけるヘルスケア関連ITベンチャーの位置づけ」と題して講演した。 

  • 10年以上前の科学技術予測の資料を見ると、すでにそのころから、生涯にわたる健康維持、個々人に対応する医療が重要になると指摘されていた。その後、政府全体としてもこの方向に動き出し、厚労省の「保健医療2035」だけでなく、成長戦略の「未来投資戦略2017」などでも、その筆頭方針として、医療から健康維持へのパラダイムシフトが謳われるようになった。
  • グローバル市場では、パーソナルゲノムやウェアラブル機器などが新たな投資対象となっている。例えば、ゲノム編集は日本でほとんど投資対象としては見なされていないが、海外ではMeet upイベントが頻繁に行なわれている。異業種企業の参入も増加しておりベンチャー投資金額も増大している。フィリップスはヘルスケアで7割以上を売り上げる会社に変貌し、インテルやマイクロソフト、NVIDIAといったITAI企業も次々と参入を表明している。彼らのビジネスは狭い意味での医療ではなく、健康増進を含めたものになっており、病院外の医療や健康維持を強調する「ソーシャルホスピタル」という考えが主流となってきている。新規参入企業やスタートアップ企業の多くは健康維持に関するビジネスも狙っている。
  • そもそも健康・医療分野では、グローバル市場に席捲しているという企業は、世界的にも数少ない。国によって医療保険制度や規制が異なり、疾病状況も大きく違うことなどが背景にある。スタートアップ企業はまず、国ごとに異なる課題に対して、新ビジネス開拓の可能性が高い分野を選択すればよいのではないか。
  • 一方で、創薬ができる実力のある国は世界に数か国しかないというように、集約化が進んでいる業種もある。残念ながら、日本企業は製薬企業や医療機器ではごく一部の製品しかグローバル市場に展開できておらず、特に医療機器全体は輸入超過が続いている。また、既存の日系企業の目は、医療機関内の言わばB2Bビジネスのみに向かっている。
  • 日本の研究開発にも盲点がある。AMEDがヘルスケアの研究開発を統括しているが、ICTは全面にでてこない。経済産業省は医療機器や介護ロボット、厚労省は医療機関の医療サービスのみに視点が向いている。政府を見回してみても、医療のIT化や健康サービスが医療費増大の観点以外の場面では話題にならないのが問題である。
  • 電子カルテの導入率などを見ても、日本の医療機関の多くは世の中のデジタル化から取り残されてしまっている。遠隔医療・オンライン診療は、今年やっと診療報酬の対象となった。
  • 閉そく状態のある医療・健康分野を変革する新しい風が期待され、ベンチャー活躍の場は大いにある。日本の現状は、医療関係者の内部・外部ネットワーク化ができておらず、人材も技術もつながっていない。医療現場の「真の」課題解決を目指して、患者個人・医師や医療関係者といった「個」としてのコンシューマーに届くサービス提供、さらには日常の健康維持という大きな市場部分で、ベンチャーがもっとも活躍できるのではないか。この辺りは新ビジネスのブルーオーシャンではないかと考える。

続いてヘルスビット株式会社の部坂氏、森氏が次のように講演した。

  • ヘルスビットは、創業して1年の大変若い会社ではあるが、厚労省のプロジェクトに採択されてなど活躍の場を広げている。
  • 政府がよく使っている年齢と医療費・介護費のグラフがあるが、予防に注力して、引退後の医療費・介護費の増加を押さえようというのが方針である。企業が健康増進の取り組みをしようと思うと、キーパーソンは保険組合となるが、財政的な基盤に余裕はない。
  • この健康寿命延伸分野などにビジネスチャンスがあると考えている。消費は、分解すると余暇×所得×健康である。健康は経済に大きな影響を与えるが、健康を数値化することは難しかった。パーソナルスコアはそれに資するものである。
  • 病気でない人はすべて「健康」と見なされ、現在、指標はBMIくらいしかない。パーソナルスコアは、体重、腹囲、握力(右)、握力(左)、開眼片足率の5つの測定項目でスコアを算出する。すべての項目が自助努力で改善可能なので、実際に高齢者にやってもらうと、とてもウケがいい。
  • BMIではプロポーションはわからないが、WHtR(腹囲身長比)でプロポーションを見える化できる。東北大学の論文でも、握力と開眼片足立ちで糖尿病リスクを評価できることが明らかになっている。工場での事故の多くは、つまづくことで発生する。厚生労働省も、開眼片足立ちと運動機能の低下の関連性を指摘している。パーソナルスコアはこのような知見と整合する指標である。
  • 株式会社エイジスというコンビニの品出しをする高齢者を派遣する会社があるが、「生涯現役促進地域連携事業」でパーソナルスコアを採用してもらい、年齢が高くても、身体年齢が若ければ働くことができる仕組みづくりに協力している。株式会社ユードムでは、インセンティブ型確定拠出年金でパーソナルスコアを採用している。実年齢よりフィジカルエイジが若ければ1歳につき1000円掛金を会社が増額している。1年間実施して、高い効果がでている。
  • パーソナルスコアで計測するフィジカルエイジ(身体年齢)は様々な分野で活用可能であり、高齢化の進む日本には重要である。ヘルスビットも事業連携で拡大戦略をとっている。フィジカルエイジで意識革命がもたらされれば、GDP増につながっていく。
  • ソフトウェアロボットで自動化するRPAが注目されてきている。データ収集や交通費の清算など、単純で時間がかかる作業をロボットが代行してくれる。ロボットが仕事代行するだけでなく、AIRPAの連携でAI活用のきっかけになる。
  • 医療情報システムが大規模病院と小規模病院では大きく異なる。大規模病院は情報システム部門があり、横断的な連携をしている。小規模病院・診療所では、薬局やクリニック、検査会社はバラバラに情報化しており、つながっていない。ここをRPAで自動化する。
  • 検査会社のサイトにログインして、検査データをダウンロードして、電子カルテにデータを入れるという作業をRPAで自動化すると、事務員のいない小規模クリニックでも対応可能になる。
  • RPAの考え方は昔からあったが、費用が高額でなかなか普及しなかったが、クラウド対応が進んだことで費用が下がり、中小企業でも導入できるようになった。
  • 課題としては、責任分界がある。AI活用では最終的に医師が確認するという方向でまとまってきている。RPAが医療現場に入ってきた場合、責任はどこまでになるかは明確でない。これからの議論が必要である。RPA導入サービスという形であれば、最後はエンドユーザが実行者になるので責任ははっきりするが、小規模クリニックなどではサービス提供者に責任が課せられる場合もあるだろう。

講演終了後、以下のような議論が行われた。

パーソナルスコアについて
Q(質問):健診は結果がすぐにでてくることが重要である。1月経ってから結果を受け取っても、行動変容につながらない。弘前大学COIでは啓発型健康診断をやっていて、30分程度で結果がでて、すぐに健康指導している。このようなことを考えているのか。
A(回答):血液検査ではすぐに結果がでないが、プロポーションを測れば内蔵脂肪がわかるので簡単に結果がでる。自助努力で改善できる項目だけにしている。
Q:フィジカルエイジを普及させるために、論文で裏付けしているのか。
A:早稲田大学、慶応大学などと協力しているが、アカデミアで「身体年齢〇〇歳」と出すのは難しい。ここは論文では難しいが、身体年齢を示すことで健康増進効果があったというのは論文にしようと思っている。
C(コメント):EBM(根拠に基づく医療)につなげていってほしい。
Q:米国のマネージドケアでは、健康でないと「良い保険」に入れなくて高い治療費を払うことになる。日本で同様にできるか?
A:日本は皆保険なので米国のようにはならない。ただし、すべて保険で適用されるという状況はなくなる。保険外と保険適用の2段階(混合診療)になっていくと思われる。
Q:日本は平均寿命はトップクラスだが、健康寿命はそうでもない。これを変えることはできないか?
A:日本の不健康寿命が長いのは、保険でかなりの範囲の治療が行えることが背景にある。日本の終末期医療は最後の1カ月で約100万円かかっている。
Q:医療費は社会保険料を支払った上で一般的には3割負担であるが、前述の政府がよく使っている年齢と医療費・介護費のグラフで青いライン(病気になってからの対応)から赤いライン(健康増進に注力)にしようとすると、健康増進部分を支払うのは個人の自腹となる。ここに対する施策はない。
A:あくまでもイメージ図であるが、確かに施策はない。現在は、健康経営で企業の負担でやろうとしている。
Q:インセンティブ型確定拠出年金の例で、みんなが健康に関心が高くなって、支払が増える分は誰が負担しているのか。
A:ユードムが負担している。
Q:金額ではなく、ゲーム性でインセンティブになっているということか?
A:その通りである。
Q:健康経営では、健康でない人の企業にとってのリスクは欠勤や生産性だとしている。ユードムもここに注目しているのではないか。
A:少々お金をかけても、プロジェクトリーダーが倒れないほうがよいと企業経営者は考えている。 

ヘルスロボについて
Q:責任分界は非常に重要である。先ほどRPAの誤動作時の責任の話をされたが、ロボットの責任は、セキュリティや個人情報保護など様々な側面がある。そのことは検討しているか?
A:医療分野の情報システムでは、厚労省・経産省のガイドラインに準拠することを基本である。
Q:ハッカーがこのRPAを乗っとりデータを流出させるということや、RPAが取ってきたデータが正しいのかということについて議論しているのか。
A:今は人が最終チェックして責任をとっていたが、RPAはこれを自動化しようというものであるので、責任の取り方は医療現場の人と議論しているところである。
Q:日本には診療所に電子カルテがないのでRPAなんて売れないという悲観論と、だからこそ可能性があるというバラ色論とあるが、どちらで考えているか?
A:クリニックは人の確保が難しい。残業も多いので、ニーズはある。クリニックの中でデータを確保するだけでなく、地域の中で共有することには保険点数もつくようになった。情報共有の仕組みが必要だが、事務スタッフを増やせないので、RPAの可能性は高い。
C:情報連携が必須の時代になっている。大病院は紹介状がないとお金を払わなくてはいけない。大病院ですぐには見てもらえない状況がすぐにやってくる。
Q:責任分界について、なぜ責任分界の議論がAIRPAで異なるのか? RPAも医師が最終責任というのは同じではないか?
AAIは閉じたシステムで作れる。診断支援といえば、その範囲となる。しかし、RPAでは連携するので、少し違う。検査会社のサイトに見に行くのも、そこのシステムが変わってしまったりすれば誤作動が起きる。
C HL7などで標準化できるのではないか。
A:医療システムはアップデートされていないことが多い。
C:電子カルテも多種あり、検査会社も薬局も、小さくて、多様であるので、つなげられない。そこを手作業でやっている。大病院もシステム化されているが、カスタマイズが多いので外部とつなぐのは大変である。
A:外部と連携しても収益につながらないので、あまり病院も注力しない。診療報酬も数百円レベルである。 

スタートアップ企業の可能性について
Q:経済産業省は、海外ベンチャーと日本企業とマッチングさせることにも積極的になってきている。日本のベンチャー企業の競合相手は、大企業だけでなくなっており、ブルーオーシャンとはいえないのではないか。
A:日本の医療事情や疾病構造がちがうので、その点は大丈夫だと思われる。
Q:参入障壁は、規制ということもあるが、データを取りにくい等の日本の文化性もあるのではないか?
C:オバマケアが成功したのは、中央政府がHIPPA法でデータ標準化を進めていることにある。日本は、小さい組織が、よくわからないシステムも勝手に導入してしまう。標準化のリーダーシップを取れるところがないことが問題である。
C:国際標準化で、「眠れない」というのは、どのように表現するかといったことまで標準化するという議論も進んでいる。生活圏のすべての情報を、いかにつなげていくかという広い話になってきているのではないかと思う。