主催:情報ネットワーク法学会 情報ネットワーク法学会、インターネット投票研究会
共催・協力:情報通信政策フォーラム(ICPF)ほか
日時:20182018年12月3日(月曜日)17 :00~19 :00
場所:衆議院第2議員会館1階多目的会議室
登壇者:鈴木隼人若者議連事務局長代理、小林史明前総務大臣政務官、五十嵐立青つくば市長ほか
主催者が作成した開催記録はこちらから閲覧できます
投稿者「ICPF」のアーカイブ
医療 健康・医療・介護問題を可視化するビッグデータ解析 鴨川 威(株式会社フェニックス)
主催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
日時:11月28日水曜日18時30分から20時30分
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目 会議室B
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
講師:鴨川 威(株式会社フェニックス サービス開発研究所)
司会:山田 肇(ICPF)
冒頭、鴨川氏が資料に沿って以下の通り講演した。鴨川氏の講演資料はこちらにあります。
- 株式会社フェニックスという企業を経営しているが、特に「こころの健康」に興味を持っている。認知症が典型的な例であるが予防にどうつなげていくか研究している。
- 横浜市では、「健康21プロジェクト」において約1万6800人の大規模調査を平成25年に実施し、平成28年にも再調査している。この結果は横浜市から公開されており、横浜市衛生研究所のデータ分析結果もでている。この区民健康意識調査と高齢化・介護系統計は別の部局で行っており、横浜市ではこれら二つを統合しての分析はしていない。そこで民間の立場で二つのデータを統合して分析する研究を行った。
- データはPDFで提供されたり、Excelで提供されていてもフォーマットが異なっていたりで、分析にそのまま利用できなかった。そこで、フォーマットをすべて変え、場合によっては手で打ち直して分析用のデータを作成した。Linked Open Data(LOD)は作成したデータ間の関連性を調べるものであり、コンテスト「LOD Challenge 2018」が開催されている。本日は同コンテストで「地域課題分析賞を」いただいた内容を発表する。
- 横浜市「区別健康意識調査」をベースに、要介護率・高齢化率の地域差と健康度の相関分析をおこなった。このような関係を分析するのに都道府県レベルでのデータではあまり意味がなく、せめて区レベルでの分析が必要である。小学校区レベル(「地域包括ケアセンター」レベル)で高齢者サービスを考えるのであれば、さらに細分化したデータが必要になる。
- H25とH28年度を比較してソーシャルキャピタルが劣化していることが読み取れた。これも大きな問題と捉えられる。区民健康意識調査と高齢化・要介護率をひとつのテーブルにまとめることも実施した。その際、データ名称に対して、メタレベル、メタメタレベルの呼称をつけていくことで、データが示す意味が読み取れ、比較ができるようになった。青葉区、都筑区など東京に近い地域は高齢化の指標は低くでる。しかし、都筑区は高齢化率が低いのに要介護率がやや高いという不思議な結果が出た。健康でないと自覚している人の割合を高い順から並べると、高齢化率や要介護率と必ずしも相関していないこともわかった。湾岸部(神奈川区、西区、中区)は、要介護度が高く、生活習慣や経済状況がその背景にある。自分の住む区の問題点が、このような分析から明らかになってくる。その地域で必要となるサービスが見えてくるはずである。
- 経済格差が健康度に影響を与えているが、「経済格差=健康格差」という認識にならないように慎重に取り扱う必要がある。地域の「稼ぐ力」も健康度に関連があることが推論できる。生産性が低ければ所得配分が下がり、労働環境も劣化し不健康につながると理解できる。
- オープンデータで提供されるデータは単位が不揃いであったり、テーブル数値に%が組まれていたりと、そのままでは多次元分析作業ができないことが多く、直接xViewには渡せない。分析前に膨大なデータクリーニングが必要なことがオープンデータ利用の障害となっている。xViewのようなツールを使うことで、データ解析の生産性が飛躍的に向上する。
- 元データをそのまま使うと特徴がわかりにくい場合も、偏差値で表現するとわかりやすくなる。要介護・高齢化率などのレーダーチャートを偏差値表示すれば特徴がとらえやすくなる。高齢化率が高いが要介護度が低い栄区は「地域の人が助けてくれる」などコミュニティを示す指標が高くでており、毎日三食食べるという生活行動習慣も高い。こういったことを踏まえて、高齢者サービスを検討しなくてはいけない。
- 地域分析は非常に重要で、生のデータを使って作業することで、実感として課題が明らかになる。課題を他人事でなく自分事にすることが大事である。
講演の後、次のようなテーマで質疑があった。
地域力分析について
Q(質問):区単位での分析は意味があるのか。健康度には生活習慣と遺伝子の問題がある。生活習慣にも関連するが健康度は職種に大きく依存しているのではないか。肉体労働をしていた人か事務職かでは全く違い、頭脳労働者で定年後うつになる人は多い。地域ではなく、元職で分析したほうがいいのではないか。
A(回答):職業別で認知症の発症率をみたデータがあったが、警察官や学校の先生が認知症なるケースが高い。学校の先生は、定年になると誰とも話さなくなり、世界も狭いらしい。職業というより、コミュニティとのつながりがあるかが重要なのではないか。栄養の問題もコミュニティとの関連が高い。地域が豊かになれば健康につながる。
C(コメント):東京大学の老年学の研究所に勤めている友人に柏市が協力して中学校区単位での分析を進めた。元は農村地帯であったが住宅地になったような地域は、農業に従事してきた人と勤め人が混在しており健康度が大きく違う。オープンデータでもこの程度まで粒度を細かくデータを出してもらえれば分析できる。ぜひ、公開してもらいたいものだ。
C:町丁目レベルのデータは公開していない市町村が多い。人数が減るのでプライバシー保護の面から公開を躊躇するらしい。しかし、半径500mのデータは重要で、もっといろいろなものが見えてくる。実証を重ねて、自治体のオープンデータに対する意識を変えていくことが重要である。
C:情報銀行の流れで自分のデータを社会貢献のために提供しようという話がある。そこでもプライバシーが問題になった。完全匿名か個人情報をある程度出すか、技術的にも試行錯誤を進められている。
C:前々回のNECの講演でも話になったが、医療データでは完全匿名化してしまうと意味がなくなってしまうケースがあるが、マスキングやカテゴリーの統合などで対処ができるという話であった。情報技術の発展で工夫ができる。
C:区単位では粒度は荒すぎるというのは感じるが、高齢者のことは地域で対応するので、やはり小さな地域での分析が必要になるのではないか。
オープンデータのあり方について
Q:オープンデータで公開されているデータの信頼性を疑問に感じることがあるが、いかがか。
A:介護保険関係のデータは非常に精度が高い。
C:勤労者は企業健保や企業健保に加入することがあるので、国民健康保険だけではは住民を表さない。一方、介護保険は自治体サービスなので悉皆データになる。
Q:分析に使った市民意識調査の信頼性はいかがか。
A:市民意識調査は、インターネット調査がメインで、アンケートは無作為抽出の1300サンプルぐらいである。サンプル数も多く回答率が非常に高い調査なので信頼性はある。市民にとってもメリットを感じることができれば回答率が上がる。
C:国勢調査のデータは信頼性が高いということであったが、本当にそうなのか。集計データをみると性別不明といったデータもある。最近の調査事情で、調査員に調査票が渡せないということもある。国勢調査もそうだが統計データの信頼性は意識しておくべきと考える。
Q:中小企業の数が中小企業庁統計と総務省統計で違っている。マイナンバーができたので、これを使えば、省庁によってデータが異なるということがなくなると思う。これがオープンデータの価値につながるのではないか。
A:おっしゃるとおりである。行政によってばらつきがあってはいけない。同じような健康調査を川崎市も実施しているが、データ項目が違うので横浜市と直接比較できない。国で統一フォーマットを決め、マイルストーンを決めてフォーマットを統一していくべきである。
Q:東大の奥村先生がベルギー政府の良例を話していたが、日本は自治体がバラバラのソフトウェアを使っていて、マイナンバーも最近できたばかり、技術者も育っていないということで世界から遅れてしまっている。大国になるとなかなか統一的な取り組みができない。ベルギーのような小国は、システムをベンダーにまかせず、内製化してきている。国や行政機関の発注者がベンダーまかせではいけないという感覚がでてきている。
A:個人的な意見だが情報省のようなものが必要かと考える。行政機関側に仕様書が書けて、ベンダーコントロールできる人をつくらないといけない。メタデータの標準化も目的をもってやる必要がある。民間企業で実務を行って現実がわかっている人が行政サイドに入らないとできないと思う。
C:内閣官房の行政事業レビューが公開されているが、総務省の統計調査が対象となった。全国消費実態調査は5年に一度で、協力世帯に3カ月間家計簿をつけてもらうことになる。ほとんど手書きなので、3カ月やりきる世帯はかなりバイアスがあるのではないかと言われている。来年はオンライン化率を上げることになったが、目標値が10%ということで評価者からは批判がでた。家計簿ソフトのデータを抽出させてもらえれば調査できてしまうので、そのようなこと考えないかと聞いたら、政府専用アプリを作ったと自慢していた。
C:高齢者関係の統計は変わってきている。千葉大学の近藤先生が中心に行っているJAGES調査では非常に大規模なデータベースができてきている。JSTAR(くらしと健康の調査)はパネルなので追跡できる。これらの知見を活かして、これからを検討すればよいのではないか。
Q:横浜市の年度比較は調査対象者が変わっているので、パネルの方が精度が高いデータが取れるのではないか。
A:時系列の変化は非常に重要で健康寿命のランキングもどんどん変わる。その背景を見極めないといけない。
老化と介護の関係について
Q:老化が進み介護までに行きつく説明資料3ページのフローチャートは、鴨川氏が作られた仮説なのか。
A:因子の関係を示したものだが、自分で作成したものである。
Q:相関の強さなどを統計的に検証できるのか。
A:高齢化と要介護度の間に何があるかを頭の中から引っ張り出したもので、厳密なものではない。しかし今回の調査データ分析からあたらずとも遠からじである。今後制度を高めて行きたい。
C:WHOがICFなど標準化進めている。これの流れに乗れれば用語の統一もできるので、他の人も使いやすくなる。
Q:フローチャートはわかりやすいが、60歳になった人を何人か集めて定点観測するといいのではないか。
C:東大の老年学の秋山先生が3000名のパネルをやっている。200人亡くなったら、200人を新しく追加している。男性の20%は60~70歳の間で急激に健康度が劣化して死亡するなどを明らかにしている。1000歩/1日で医療費がどれくらい削減できるか、医療経済学で研究されている。このようなことを積み上げると、仮説ではなく、リアルな関係線が書けるようになる。医療経済の側面でどう考えるか。
A:横浜市の区では要介護率が最大と最小で5%違う。だから、2%下げることは不可能ではない。健康でないという状態を健康状態に持っていき2%減らせば、要介護の費用も下がる。そのための健康投資が重要である。
C:マイナンバーがインフラとして整備されつつあるが、個人の健康情報は、自治体、学校、企業などデータの管理者がバラバラである。医療データは個人のものであるという意識改革が必要である。
A:ライフタイムログが取れる社会ということかと思う。
C:ライフタイムログは情報銀行などやっと動き始めている。
C:ブロックチェーン技術が入れば、すべてデータが把握できる。一方で匿名化も問題で、これも技術が急速に進んでいる。
C:eインボイス制度ができると企業データが把握できるようになる。しかし、法人番号は1法人に1個で、事業者番号は任意なのが問題である。
医療 医療分野に挑戦するスタートアップ企業 部坂英夫ヘルスビット株式会社CEOほか
主催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
日時:11月1日(木曜日)18時30分から20時30分
講師:奥和田久美(Diass代表)
部坂英夫(ヘルスビット株式会社CEO)
森 薫(ヘルスビット株式会社CTO)
司会:山田 肇(ICPF)
奥和田氏の講演資料はこちら、ヘルスビット株式会社の講演資料はこちらにあります。
冒頭、奥和田氏が「日本におけるヘルスケア関連ITベンチャーの位置づけ」と題して講演した。
- 10年以上前の科学技術予測の資料を見ると、すでにそのころから、生涯にわたる健康維持、個々人に対応する医療が重要になると指摘されていた。その後、政府全体としてもこの方向に動き出し、厚労省の「保健医療2035」だけでなく、成長戦略の「未来投資戦略2017」などでも、その筆頭方針として、医療から健康維持へのパラダイムシフトが謳われるようになった。
- グローバル市場では、パーソナルゲノムやウェアラブル機器などが新たな投資対象となっている。例えば、ゲノム編集は日本でほとんど投資対象としては見なされていないが、海外ではMeet upイベントが頻繁に行なわれている。異業種企業の参入も増加しておりベンチャー投資金額も増大している。フィリップスはヘルスケアで7割以上を売り上げる会社に変貌し、インテルやマイクロソフト、NVIDIAといったIT・AI企業も次々と参入を表明している。彼らのビジネスは狭い意味での医療ではなく、健康増進を含めたものになっており、病院外の医療や健康維持を強調する「ソーシャルホスピタル」という考えが主流となってきている。新規参入企業やスタートアップ企業の多くは健康維持に関するビジネスも狙っている。
- そもそも健康・医療分野では、グローバル市場に席捲しているという企業は、世界的にも数少ない。国によって医療保険制度や規制が異なり、疾病状況も大きく違うことなどが背景にある。スタートアップ企業はまず、国ごとに異なる課題に対して、新ビジネス開拓の可能性が高い分野を選択すればよいのではないか。
- 一方で、創薬ができる実力のある国は世界に数か国しかないというように、集約化が進んでいる業種もある。残念ながら、日本企業は製薬企業や医療機器ではごく一部の製品しかグローバル市場に展開できておらず、特に医療機器全体は輸入超過が続いている。また、既存の日系企業の目は、医療機関内の言わばB2Bビジネスのみに向かっている。
- 日本の研究開発にも盲点がある。AMEDがヘルスケアの研究開発を統括しているが、ICTは全面にでてこない。経済産業省は医療機器や介護ロボット、厚労省は医療機関の医療サービスのみに視点が向いている。政府を見回してみても、医療のIT化や健康サービスが医療費増大の観点以外の場面では話題にならないのが問題である。
- 電子カルテの導入率などを見ても、日本の医療機関の多くは世の中のデジタル化から取り残されてしまっている。遠隔医療・オンライン診療は、今年やっと診療報酬の対象となった。
- 閉そく状態のある医療・健康分野を変革する新しい風が期待され、ベンチャー活躍の場は大いにある。日本の現状は、医療関係者の内部・外部ネットワーク化ができておらず、人材も技術もつながっていない。医療現場の「真の」課題解決を目指して、患者個人・医師や医療関係者といった「個」としてのコンシューマーに届くサービス提供、さらには日常の健康維持という大きな市場部分で、ベンチャーがもっとも活躍できるのではないか。この辺りは新ビジネスのブルーオーシャンではないかと考える。
続いてヘルスビット株式会社の部坂氏、森氏が次のように講演した。
- ヘルスビットは、創業して1年の大変若い会社ではあるが、厚労省のプロジェクトに採択されてなど活躍の場を広げている。
- 政府がよく使っている年齢と医療費・介護費のグラフがあるが、予防に注力して、引退後の医療費・介護費の増加を押さえようというのが方針である。企業が健康増進の取り組みをしようと思うと、キーパーソンは保険組合となるが、財政的な基盤に余裕はない。
- この健康寿命延伸分野などにビジネスチャンスがあると考えている。消費は、分解すると余暇×所得×健康である。健康は経済に大きな影響を与えるが、健康を数値化することは難しかった。パーソナルスコアはそれに資するものである。
- 病気でない人はすべて「健康」と見なされ、現在、指標はBMIくらいしかない。パーソナルスコアは、体重、腹囲、握力(右)、握力(左)、開眼片足率の5つの測定項目でスコアを算出する。すべての項目が自助努力で改善可能なので、実際に高齢者にやってもらうと、とてもウケがいい。
- BMIではプロポーションはわからないが、WHtR(腹囲身長比)でプロポーションを見える化できる。東北大学の論文でも、握力と開眼片足立ちで糖尿病リスクを評価できることが明らかになっている。工場での事故の多くは、つまづくことで発生する。厚生労働省も、開眼片足立ちと運動機能の低下の関連性を指摘している。パーソナルスコアはこのような知見と整合する指標である。
- 株式会社エイジスというコンビニの品出しをする高齢者を派遣する会社があるが、「生涯現役促進地域連携事業」でパーソナルスコアを採用してもらい、年齢が高くても、身体年齢が若ければ働くことができる仕組みづくりに協力している。株式会社ユードムでは、インセンティブ型確定拠出年金でパーソナルスコアを採用している。実年齢よりフィジカルエイジが若ければ1歳につき1000円掛金を会社が増額している。1年間実施して、高い効果がでている。
- パーソナルスコアで計測するフィジカルエイジ(身体年齢)は様々な分野で活用可能であり、高齢化の進む日本には重要である。ヘルスビットも事業連携で拡大戦略をとっている。フィジカルエイジで意識革命がもたらされれば、GDP増につながっていく。
- ソフトウェアロボットで自動化するRPAが注目されてきている。データ収集や交通費の清算など、単純で時間がかかる作業をロボットが代行してくれる。ロボットが仕事代行するだけでなく、AIとRPAの連携でAI活用のきっかけになる。
- 医療情報システムが大規模病院と小規模病院では大きく異なる。大規模病院は情報システム部門があり、横断的な連携をしている。小規模病院・診療所では、薬局やクリニック、検査会社はバラバラに情報化しており、つながっていない。ここをRPAで自動化する。
- 検査会社のサイトにログインして、検査データをダウンロードして、電子カルテにデータを入れるという作業をRPAで自動化すると、事務員のいない小規模クリニックでも対応可能になる。
- RPAの考え方は昔からあったが、費用が高額でなかなか普及しなかったが、クラウド対応が進んだことで費用が下がり、中小企業でも導入できるようになった。
- 課題としては、責任分界がある。AI活用では最終的に医師が確認するという方向でまとまってきている。RPAが医療現場に入ってきた場合、責任はどこまでになるかは明確でない。これからの議論が必要である。RPA導入サービスという形であれば、最後はエンドユーザが実行者になるので責任ははっきりするが、小規模クリニックなどではサービス提供者に責任が課せられる場合もあるだろう。
講演終了後、以下のような議論が行われた。
パーソナルスコアについて
Q(質問):健診は結果がすぐにでてくることが重要である。1月経ってから結果を受け取っても、行動変容につながらない。弘前大学COIでは啓発型健康診断をやっていて、30分程度で結果がでて、すぐに健康指導している。このようなことを考えているのか。
A(回答):血液検査ではすぐに結果がでないが、プロポーションを測れば内蔵脂肪がわかるので簡単に結果がでる。自助努力で改善できる項目だけにしている。
Q:フィジカルエイジを普及させるために、論文で裏付けしているのか。
A:早稲田大学、慶応大学などと協力しているが、アカデミアで「身体年齢〇〇歳」と出すのは難しい。ここは論文では難しいが、身体年齢を示すことで健康増進効果があったというのは論文にしようと思っている。
C(コメント):EBM(根拠に基づく医療)につなげていってほしい。
Q:米国のマネージドケアでは、健康でないと「良い保険」に入れなくて高い治療費を払うことになる。日本で同様にできるか?
A:日本は皆保険なので米国のようにはならない。ただし、すべて保険で適用されるという状況はなくなる。保険外と保険適用の2段階(混合診療)になっていくと思われる。
Q:日本は平均寿命はトップクラスだが、健康寿命はそうでもない。これを変えることはできないか?
A:日本の不健康寿命が長いのは、保険でかなりの範囲の治療が行えることが背景にある。日本の終末期医療は最後の1カ月で約100万円かかっている。
Q:医療費は社会保険料を支払った上で一般的には3割負担であるが、前述の政府がよく使っている年齢と医療費・介護費のグラフで青いライン(病気になってからの対応)から赤いライン(健康増進に注力)にしようとすると、健康増進部分を支払うのは個人の自腹となる。ここに対する施策はない。
A:あくまでもイメージ図であるが、確かに施策はない。現在は、健康経営で企業の負担でやろうとしている。
Q:インセンティブ型確定拠出年金の例で、みんなが健康に関心が高くなって、支払が増える分は誰が負担しているのか。
A:ユードムが負担している。
Q:金額ではなく、ゲーム性でインセンティブになっているということか?
A:その通りである。
Q:健康経営では、健康でない人の企業にとってのリスクは欠勤や生産性だとしている。ユードムもここに注目しているのではないか。
A:少々お金をかけても、プロジェクトリーダーが倒れないほうがよいと企業経営者は考えている。
ヘルスロボについて
Q:責任分界は非常に重要である。先ほどRPAの誤動作時の責任の話をされたが、ロボットの責任は、セキュリティや個人情報保護など様々な側面がある。そのことは検討しているか?
A:医療分野の情報システムでは、厚労省・経産省のガイドラインに準拠することを基本である。
Q:ハッカーがこのRPAを乗っとりデータを流出させるということや、RPAが取ってきたデータが正しいのかということについて議論しているのか。
A:今は人が最終チェックして責任をとっていたが、RPAはこれを自動化しようというものであるので、責任の取り方は医療現場の人と議論しているところである。
Q:日本には診療所に電子カルテがないのでRPAなんて売れないという悲観論と、だからこそ可能性があるというバラ色論とあるが、どちらで考えているか?
A:クリニックは人の確保が難しい。残業も多いので、ニーズはある。クリニックの中でデータを確保するだけでなく、地域の中で共有することには保険点数もつくようになった。情報共有の仕組みが必要だが、事務スタッフを増やせないので、RPAの可能性は高い。
C:情報連携が必須の時代になっている。大病院は紹介状がないとお金を払わなくてはいけない。大病院ですぐには見てもらえない状況がすぐにやってくる。
Q:責任分界について、なぜ責任分界の議論がAIとRPAで異なるのか? RPAも医師が最終責任というのは同じではないか?
A:AIは閉じたシステムで作れる。診断支援といえば、その範囲となる。しかし、RPAでは連携するので、少し違う。検査会社のサイトに見に行くのも、そこのシステムが変わってしまったりすれば誤作動が起きる。
C: HL7などで標準化できるのではないか。
A:医療システムはアップデートされていないことが多い。
C:電子カルテも多種あり、検査会社も薬局も、小さくて、多様であるので、つなげられない。そこを手作業でやっている。大病院もシステム化されているが、カスタマイズが多いので外部とつなぐのは大変である。
A:外部と連携しても収益につながらないので、あまり病院も注力しない。診療報酬も数百円レベルである。
スタートアップ企業の可能性について
Q:経済産業省は、海外ベンチャーと日本企業とマッチングさせることにも積極的になってきている。日本のベンチャー企業の競合相手は、大企業だけでなくなっており、ブルーオーシャンとはいえないのではないか。
A:日本の医療事情や疾病構造がちがうので、その点は大丈夫だと思われる。
Q:参入障壁は、規制ということもあるが、データを取りにくい等の日本の文化性もあるのではないか?
C:オバマケアが成功したのは、中央政府がHIPPA法でデータ標準化を進めていることにある。日本は、小さい組織が、よくわからないシステムも勝手に導入してしまう。標準化のリーダーシップを取れるところがないことが問題である。
C:国際標準化で、「眠れない」というのは、どのように表現するかといったことまで標準化するという議論も進んでいる。生活圏のすべての情報を、いかにつなげていくかという広い話になってきているのではないかと思う。
医療 医療分野でのICTの活用:IT企業の貢献 浜田 哲日本電気シニアマネージャー
主催:情報通信政策フォーラム
日時:10月10日(水曜日)18時30分から20時30分
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目 会議室B
講師:浜田 哲(日本電気株式会社 社会公共BU未来都市づくり推進本部シニアマネージャー)
司会:山田 肇(ICPF)
浜田氏の講演資料はこちらにあります。
冒頭、浜田氏は概略次のように講演した。
ヘルスケア分野のトレンド
- ヘルスケア(健康・医療・介護分野全般)は、未曾有の超少子高齢化と人口減少により改革待ったなしの状態にある。医療費・介護費の適正化や新産業の創出など、次世代ヘルスケア産業の創出が期待されている。
- 政府は次世代ヘルスケア・システムの構築を掲げ、『未来投資戦略2018』にも明記された。すべてを公的保険に頼るのではなく保険外サービスを活用することや、オンライン医療・ケアの充実させていくためには、ICTの技術革新をフル活用していくことが重要となっている。
- ヘルスケア分野には国、自治体、民間企業など多くのステークホルダーがおり、それぞれ関心の高いキーワードがある。国が掲げるデータヘルス改革関連の政策には10の改革メニューがあり、AIや医療等分野における識別子といったテーマが列記されている。自治体はEBPMに注目している。
- ヘルスケア分野でのICT活用は「健康寿命の延伸」と「持続可能な社会保障制度」といった社会的課題解決につなげていくことが必要である。未病・予防のケア、0次予防、EBx(Evidence-Based XXX)、セルフケアやウェルネス志向の行動変容などを進めるべきである。
ヘルスケア分野におけるICT活用事例
- NECが取り組んでいる事例では、AIやビッグデータ(BD)分析といった技術を活用している。
- 倉敷中央病院では来年6月に予定している「予防医療プラザ」オープンに向け、健診結果をAI分析し、予測シミュレーションを行うNEC健診結果予測シミュレーションを活用した共同活動を開始している。健診結果データと生活習慣データを基に、AI技術を使って1年後・2年後といったスパンで健診結果の予測(リスク)をシミュレーションする。生活改善シミュレーションでは、例えば「食べるのが速い」と言う受診者には「食べないとこんな病気の発症リスクが上がる」「もっとゆっくり食べてみてはどうか」といった指導を行い生活改善につなげる。ICTツールを使って見える化することで、保健指導を受ける人を増やし効果をあげている。
- 医療法人社団KNI(北原国際病院)とは、医療の現場での課題解決にAIを活用することに取り組んでいる。現在取り組んでいるのは、ベッドにいる患者の転倒等「不穏行動」の予兆を事前検知することで事故防止につなげており、実証では不穏が起きる40分前の時点で71%が検知可能となった。また、退院支援の退院予測も行っており、このようなケアを行うとどれくらいで退院できるかを予測することで、入院期間を短くしベッド調整もやりやすくなる。
- 湘南慶育病院では外来待合室で問診をタブレットで行っている。いずれは自宅からも同様の問診や診療を受けられるようにする「Hospital in the Home」の実現につながるサービスになると考えている。
- 国立がん研究センターとはAIを活用したリアルタイム内視鏡診断サポートシステムの開発に取り組んでいる。深層学習型AIにより、内視鏡の画像から「ポリープの確度○○%」といった情報がリアルタイムで表示され、医師の診断をサポートする。
- 0次予防、社会疫学的な視点では千葉大学予防医学センターの近藤教授と共同研究を行っている。近藤教授らが行っているJAGES(日本老年学的評価研究)は、3年に1回、自治体を通じて高齢者を対象に独自調査を行っており、厚労省の調査(介護予防・日常生活圏域ニーズ調査)に不足しているデータを収集している。2016年の最新調査では、41自治体、20万人からデータを収集し、延べ50万人分のデータを蓄積している。JAGESの研究成果の一例として、スポーツ等の社会参加が高い割合の地域は転倒や認知症・うつのリスクが低いといった傾向が明らかになった。前期高齢者のIADL低下者の割合は市町村で2倍以上の格差があり、郊外で悪化者が多いことが分かった。都市部は歩く人が多く、郊外ではある人が少ないことが影響しており、エビデンスが積みあがってきた。また、単に社会参加といっても、コミュニティ内で何らかの「役職」を持った活動(特に定年退職後の男性が顕著!)や、比較的会話の少ないジョギングやカラオケよりも会話が弾む旅行やゴルフなどの活動の方が、認知症等のリスクが低い傾向にあるという、興味深い結果も出している。
- JAGESでは地域ごとに分析した結果から地域診断書を作成し、エビデンスをベースにして地域ごとに適切な支援事業を行うことができるよう、PDCAサイクルを回していこうとしている。
- 自治体などが保有しているデータだけの分析ではなく、バイタルデータも加えてより深い分析をしたいというニーズに対応するため、ヘルスケアベンチャー企業であるFiNCと共同研究している。靴やインソールに搭載したセンサーから歩行の様態を把握して健康状態を知るという研究に取り組んでいる。歩数や歩速だけでなく、歩容からいろいろなことがわかるのではないかと考えている。
ICT企業にとっての課題
- 個人情報保護法改正のポイントを整理すると、第一に個人データ利活用が目的としてより明確になったことがある。第二に「要配慮個人情報」が新設されて、機微情報のグレーゾーンが明確になった。また、匿名加工情報が新設されたことでデータ活用や第三者提供がしやすくなった面もある。
- k-匿名化は、個人が特定される確率をk分の1に低減して、他情報との照合から個人を特定することを防ぐ技術のひとつである。匿名加工データを利用することで、病院、製薬会社、保険事業者等が新しい価値を創造していくことができる。
- NECではデータ匿名化ソリューションを開発し、適正な匿名化を簡易化している。過度な匿名化はデータ価値を損なうこともあるため、適切な匿名加工のチューニングが求められている。
- IT企業としては改正個人情報保護法によりグレーゾーンが小さくなり、利活用を委縮してしまうということから開放された部分もある。一方で、個人情報保有組織のICTリテラシーを高めることについてIT企業として支援していくことも重要である。
- 産官学の連携も増えており、官が保有するデータを利用して分析することも多くなっている。しかし、学術研究を生業とする学術機関と異なり民間企業ではデータの取り扱いで配慮すべきことが多い。例えば自治体のデータを民間企業が取り扱うには、自治体の条例改正や議会審議会が必要な例もあり、ハードルが高いことは確かである。
ICT活用に期待されること
- ICTが定常事務作業を自動化するRPA(Class1)により、職員はより高度な業務に時間が割くことができるようになる。また、属人的な専門スキルをICTが補填することも可能で、EPA:Enhanced Autimation(Class2)と言われる、医療現場の意思決定を支援するAI技術の実用化が進んでいる。CA:Cognitive Automation(Class3)と言われる、意思決定まで自動化する技術はコールセンターの自動応答などで始まっているが、医療現場での導入はまだ難しい。
- 次世代ヘルスケアでは、すべての施策で「エビデンス」が必須となっている。現在は、行政機関が自ら保有しているデータをフル活用するということになっているが、最終的にはそれでは足りないと思われる。価値を生むために必要なデータをどう収集するかが重要であるが、住民や利用者の本人同意が得られることが必須となる。また、情報銀行と呼ばれる構想のように、個人が信頼できる機関にデータ(資産)を預託し、適正なインセンティブが付与されることも進めていくべきであろう。
講演の後、以下のような質疑があった。
データ収集について
Q(質問):収集する目的を最初から設定しておかないと、いくら集めてもゴミになってしまう。ビジネスとしてのデータ収集はしているのか?
A(回答):今回紹介したFiNCのような企業は、利用者向けサービスや広報等を充実化させて個人の健康志向の意欲やニーズを高めながら、利用者が測定したバイタルデータや体組成計のデータをクラウドにあげてもらうことで大量データを収集できるビジネスモデルを確立しつつある。民間でデータ収集するビジネスは国内で次々と生まれている。一方で、GAFAに対抗するには1企業レベルではなく、国レベルでも、どのように質の高いデータを収集したり連結したりするかを検討しないと、社会課題を解決するための十分な量を得ることは難しいだろう。
C(コメント):ドコモから「カラダのキモチ」というアプリがでているが、女性の基礎体温データを収集し、それに基づくアドバイスしている。数百万人のユーザがおり、本人のメリットもありながらデータ収集も可能なビジネスモデルになっている。今後は、このようなデータと医療機関の持つ医療データを結びつけるといったことを考えていくことが必要になる。また、バイオバンクを構築している国立がん研究センターでは、外来患者すべてにバイオバンクの登録を依頼し生体試料を収集している。未来のがん治療のためにという目的を理解して、ほとんどの患者が協力してくれているという。
Q:NECでは医療情報を俯瞰した報告書を出していたが、目的ごとにDBができてしまっていて連携ができていない。精緻なデータ分析のために、何をキーにしてデータをつなぐかが見えてきていない。国のやり方はまだ足りないと思うが?
A:国のデータヘルス改革では、「医療等分野における識別子」が議論されており、被保険者番号を世帯単位から個人単位化するとともに、「公的医療保険加入(被保険者番号)の履歴」を国が一元的に収集して、これをマスターにすることが決まっている。生活保護受給者や外国人は含まれないが、1億2000万人強のインデックスは把握できるはずである。しかし、過去に蓄積されたデータは十分に連結して分析することはできない。今後蓄積されていくデータはこれから長い年月をかけた新たなコホート研究にも活かせる可能性がある。民間としては、国としてこういう取り組みを期待したい。
Q:PDSや情報銀行では過去の情報を預けることになるが、どのような利用シーンでのインセンティブが考えられるか。
A: 学術研究や製薬等での利用も考えられるが、本人同意が原則なので、PHRやセルフケアのために自分で自分の情報を預け、自分の受益のために自分の判断でデータを利用することが分かりやすいケースだと考える。なお、情報銀行の名のとおり、データという資産の預託には信頼が重要なので、金融機関が参画するケースがでてきている。
AIの信頼性について
Q:米国FDAは、AIを利用した医療用ソフトウェア等に対しては、利用を重ねると改善されるのが前提になるため、ソフトウェアそのものではなく、改善努力を重ねる開発組織を認可する方向に転換した。日本はどうだろうか?
A:日本には現行の医師法の下、AIシステムはあくまで医療従事者の支援に限定されることになる。AIが診断等の結果責任や改善責任を負うことまで求めるのは難しいのではないかと思う。皆さんのご意見もお聞きしたい。
C:米国では最終判断までAIができる場合もあると聞いている。
C:哲学論に近くなるが、「AIがどこまでやるか」を「誰が決めるのか」ということになる。最終的には、患者が「どこまで受けたいのか」になるのではないか。「医師の判断とAIの判断、どっちがいい?」と患者が聞かれたら「AI」と回答する人もいるかもしれない。倫理面の問題はあるが風邪など軽微なものはAIに任せる、がんではAIは支援にとどめるといった切り分けがエビデンスを蓄積することでできるようになるのかもしれない。
C:総合科学技術イノベーション会議の下に設置された人工知能技術戦略会議では、人間中心のAI社会原則がとりまとめられている。その中では、開発者の社会に対する説明責任も掲げられている。
C:富士通が開発しているAIでは、AIが提示した回答の根拠を示すことできるとあったが、今後はそのようなことが重要になるのかもしれない。
A:NECもすでに「異種混合学習」というAIエンジンを持っており、なぜそのような結果を導き出したかというロジック・説明因子を説明できるホワイトボックス型のAIを実用化している。今後、このようなAI技術は重要になる。
開発中のサービスについて
Q:お話を聞くとケア(予防)でなくキュア(治療)に注力されているように思うが、将来的にはケアが重要になると思う。ケアのためのサービスの部分の議論はどうか?
A:今日は医療現場の事例を多く挙げさせていただいたが、ケアに関連する取り組みも増えている。今後はキュアよりケアが重要になるのは先述のとおり。自治体と協働している事例でも、地元のフィットネスセンターや薬局チェーンといった地域産業を活性化していく政策立案に対してエビデンスを提供することがある。
また、今回紹介した健診データを利用した従業員の健康予防の事例は、健康経営の視点で、会社の中の各事業部の残業時間、ストレスチェックの結果などを数値化し、働き方改革につなげるケアの例である。
高齢者向け、特に独居生活の方向けには、フレイル予防や認知症予防のためタブレットを使ってコミュニケーションを支援するロボットの実用化を計画している。利用者の顔の画像や音声等を収集・分析し、体調や行動の変容に気づいてフォローしてあげれるようになるかもしれない。
ヘルスケアビジネスの可能性について
Q:医療機関と協働しているが事例があったが、ビジネスとして考えると医療機関からお金をいただくという形がメインになるのか?
A:これは難しい問題である。医療機関と協働している事例は、かなり先進的なもので、全国の医療機関で導入(投資)するには難しい点もあると思っている。その一つの要因としては、日本では公的保険制度(医療の場合は診療報酬や公費負担、地方単独助成等)の恩恵が手厚すぎることが挙げられる。将来のビジネスとして成立できるようになるには、国が進める公的保険外のサービスをどう増やすかという部分にも大きく関連してくると思われる。
C:経済産業省は、予防・健康管理に投資することでトータルの医療・介護費を減らしていこうとしている。そのためにもヘルスケア産業の創出が重要と考えているので、IT企業のビジネスが予防・健康管理に力を入れればチャンスが出てくるだろう。
Q:IT企業の貢献と観点で、AIによるケアはやってみても結果がわからないということも多い。私もIT企業勤務だが、無駄なことをやるのが大きなIT企業の役割だったりするのではないかという話もある。どう考えるか?
A:ケアはアウトカムを定量的に測りにくい(その評価指標が目下の課題)であり、足の長い取り組みである。個人的には、すぐにビジネスに結びつく話ばかりではないと思う。中長期的に社会に役立つ貢献活動も重要であると考えている。
C:前回の講演にあったが、国連SDG’sへの貢献が企業として重要になっている。投資ファンドには、SDG’sに貢献している企業を対象とするファンドを組んでいる例もある。株式市場での企業評価を高める意味でも重要だ。
Q:現状の医療システムがいつまで維持できるかは怪しい。希望になってしまうが、合理的な形で医療費削減につなげることができるのがICTであるので、IT企業に頑張ってもらいたいと思っている。
A:公的なサービスで提供されていたものを「自分で支払ってください」という方向に転換するのは急には難しいと思う。現在の日本の公的保険制度が手厚すぎるため、それに甘えてしまう習慣が根強いためだ。しかし、近年はアウトカムが重視され、介護では予防への取り組みに対する努力支援制度、医療保険でもインセンティブ制度が導入されるようになってきており、効率化や適正化へ取り組みを後押ししている。
C:国保データを地域ごとに分析し公開するようになって、自治体が自分たちの姿を見つめ直すことにつながっている。ビッグデータ分析レベルではあるが、こういうことが重要である。
Q:地方自治体の職員だが、困っているのは健康無関心層へのアプローチである。健診を受けない、病院に行かない人たちのデータをどうやって集めるか、彼らに対する政策をエビデンスベースで行いたいが暗中模索である。
A:確かに大変難しい政策課題の一つだと思う。その中でも、JAGESではポピュレーション・アプローチとして要介護認定を受けていない65歳以上を対象としているが、70%もの回答率は関心の高さを表しているように思う。ご指摘のように、課題となるのは若年層である。特に社会保険加入者(会社の従業員)は健診勧奨が効きやすいが、国保の方は難しい。今回紹介した健診結果のシミュレーションは自治体でも期待が広がりつつあるが、健診率向上等の施策にICTを活用して貢献できることは現状限りがあると感じている。
C:弘前大学COIでは、2週間後に結果が送られても行動変容につながらないとの仮説から、健康診断のその場で結果が出てアドバイスをすることで効果をあげようとしている。中小企業が多い荒川区では、パチンコ屋さんの前で短い時間で健康診断するなど「押しかけ」型の施策を取って健康無関心層にアプローチできないか考えていた。