投稿者「ICPF」のアーカイブ

協賛シンポジウム「ウェルビーイングとDX:コロナ時代を生きる」

■主催:株式会社国際社会経済研究所(IISE)・アクセシビリティ研究会
■協賛:特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム
■開催日時:2021年3月23日(火曜) 14:00-17:00
■開催方法:Zoomウェビナーにてオンライン開催

最大90名がオンラインで参加し、シンポジウムが開催された。開会あいさつの後、各講演者は次のように講演した。なお、文責は山田肇にある。

髙田祐人(内閣官房IT総合戦略室参事官補佐):新型コロナ感染症の蔓延でデジタルの活用が強く求められた。そこで、政府はデジタル社会の実現に向けた改革の基本方針を定めた。国民目線でのユーザ体験価値の創出が重要点の一つである。また、総合調整機能を有する組織としてデジタル庁の設置に動いている。

米田 隆(金沢大学教授):病気の治療よりも健康増進が重要であり、それには人々の行動変容が求められる。しかし、保険制度は治療のためなので予防にはカネが出ない。社会制度を変えていく必要がある。
家庭用血圧計というデジタル計測器が国内に4000万台も普及し、人々が生活に注意するようになり、脳血管障害が減少してきた。これと同様に、IoTを用いたデジタルモニタリングを基に、AIが生活指導して行動変容を促す在宅健康サービスを構築しようとしている。
AIによる生活指導は、糖尿病の予防などについて、ヒトが介入するのと同等の効果があることを実験的に示すことができた。AIがフレイルの高齢者に介入したところ、状態を改善できた。
参加者より「予防は重要だがなかなか行動変容しないのが人間の常である。どのようにしたら行動変容に結びつくか。」という質問があり、米田氏はVRを活用して病気を仮想体験させるといったことも可能になっているので、仮想体験がトラウマに至らないように注意しつつ利用するといった技術的可能性も生まれているという回答があった。

峯 啓真(株式会社シェアメディカル代表取締役):カメラのフィルムを受光素子に変えるのはデジタル化だがDXではない。デジタル写真をSNSにアップするといった新しい利用法・新しい文化が生まれるのがDXである。聴診器のDXも同様。コロナ禍の中で、医師ではなく患者が自ら胸に聴診器を当てる、同時に聴診音を聞いた医療関係者の間でディスカッションするといった新しい使い方が生まれてきた。デジタル聴診器の新しい使い方は自分たちだけで考えるのではなく外部リソースを活用する、自社だけではエコシステムを組まないという基本方針でビジネスしている。
参加者から「電子カルテに接続する、AIで分析するといった実例はあるか。」といった質問があり、峯氏は「利用方法は利用者側に考えてもらうのが基本方針だが、AI分析等にはパートナーと組んで研究所を作り乗り出そうとしている」という回答があった。

川添高志(ケアプロ株式会社代表取締役):新型感染症は在宅介護に大きな影響を与えた。訪問介護絵は看護師の直行直帰、訪問看護計画書の電子契約などを進めた。在宅での療養者が増え、治験も在宅で行われるようになった。これには、遠隔診療と連携して遠隔サポートした。コロナ下ではあるが、外出できない方(交通弱者2000万人)の同行ケアはマッチングアプリなどを活用して継続した。外出自粛で生活習慣が悪化する人向けにフレイル検査等を出張して実施した。スポーツイベントについても、安全安心の確保とコンプライアンス対応に協力した。

千田一嘉(金城学院大学教授):人生の最終段階に関する希望を、本人と家族、医療とケアの関係者が繰り返しコミュニケーションすることで作り上げていくのがACPである。ACPは構造化されたプロセスで、意向は常に再評価され更新されていくようになっている。医療とケアが多職種連携して、ACPを基に本人への対応が行われる必要がある。そのために、情報共有システムを組み、一部地域で利用が始まっている。

遊間和子(株式会社国際社会経済研究所主幹研究員):デンマークではデジタルヘルスが進展している。デジタルヘルスは単にデジタルにするものではなく、変革(DX)が伴っている。それが新型コロナ感染症への対応でも役立った。医療のIDは他の行政サービスのIDと同一で、相互にデータ連携できるようになっている。行政に一度データを提供すれば、他の行政機関も含め同じデータを再要求されることはない、一回限り原則も徹底している。

山田 肇(東洋大学名誉教授):シンポジウムのベースとなる調査研究を進めてきた研究会の成果を説明した。その上で、ヘルスケアのDXは今までのヘルスケアの延長線ではなく、新しいヘルスケアを提示するものでなければならない。DXに取り残される人が出ないためにアクセシビリティ対応を始め、利用者中心のきめ細かな施策が求められる、などの提言を発表した。
研究会の報告書は国際社会経済研究所より公開される。

ZOOMセミナー「行政DXに猶予はない:日本維新の会に聞く」 音喜多駿日本維新の会参議院議員ほか

開催日時:3月16日火曜日午後5時30分から1時間
開催方法:Zoomウェビナー
参加定員:100名
セミナーの内容:
音喜多駿日本維新の会参議院議員「日本維新の会のデジタル政策」(20分)
山田肇ICPF理事長(東洋大学名誉教授)「今こそ行政業務の改革を」(20分)
登壇者による討論・ウェビナー参加者からの質問等(20分)

冒頭、音喜多氏は資料を用いて次のように講演した。音喜多氏の資料はこちらにあります。

  • 2013年に都議会議員に選出されて以来、ブログを365日更新し、「ブロガー議員」と呼ばれるようになった。2019年に参議院議員に選出され、現在、一期目である。参議院議員になってからはYouTubeの毎日更新も始め、ブログとあわせて現在も継続中である。理系の出身ではないが、ICTを使い慣れているので、日本維新の会ではデジタル政策を担当している。
  • 日本維新の会では、新型コロナウイルス感染症の蔓延以来、会議はGoogleMeetを活用した完全オンラインで開催し、ペーパーレス化も政党一進んでいる。国会質問に先立つ行政からのレクもオンラインで受けている。国政報告会もオンラインで開催するなど、日本維新の会はデジタル活用に積極的な政党である。
  • マイナンバー法を改正して使途を拡大し、マイナンバーの「フル活用」を推進するべきと考えている。銀行口座と紐付けすることで、収入と資産を捕捉するとともに、税の徴収、給付等の迅速な行政施策の実施が可能になる。ワクチン接種と紐付けすることで、接種状況の迅速な把握や副反応時の迅速な対応が可能になる。
  • ブロックチェーンを用いた公文書管理を推進すべきと考えている。これによって改ざんが防止できる。わが国では公文書の保存期間が有限で、かつ作成元が保存か破棄かを判断しているが、デジタルにすれば永久に保存できる。国立国会図書館や国立大学に所蔵されている貴重図書・資料等のデジタル化を推進し、アーカイブの積極的な活用を図るとともに、デジタルアーカイブを担う人材の育成を実施する。
  • 中央銀行デジタル通貨や仮想通貨の導入を支援する必要がある。特区を用いた実証実験を行うなど中央銀行デジタル通貨の研究開発を進め、諸外国に遅れないようにする必要がある。仮想通貨にかかる税制を改正し、また、暗号資産を利用した資金決済分野の革新を後押しする。
  • 「デジタル庁」などといった外形的な組織・役所の看板にとらわれるのではなく、デジタル時代に相応しい調達制度や人事制度を構築する必要がある。特にキャリアパスは重要であり、デジタル専門職として「情報(デジタル)司」制度の創設を検討し、政府と社会のデジタル化を短期間に達成するべきだ。

続いて山田氏が講演した。山田氏の講演資料はこちらにあります。

  • 菅内閣が押印廃止の方針を打ち出したら、委員就任承諾書に署名したのちPDF化して送付するよう求めてきた行政機関があった。「押印廃止」には対応しているが業務改革が伴っていないので、これは「偽のデジタル化」である。
  • 政府が進めるGIGAスクール構想でも、自治体独自の情報セキュリティ規則により検索サイト・動画サイトにアクセスできない、市の備品としての取扱いを重視するあまり自宅持ち帰りをさせないなどの問題が生じている。これも一人一台端末を「机の上の文鎮」にする「偽のデジタル化」である。一方で、業務改善を伴わないRPA(Robotics Process Automation)の導入には、行政機関は積極的である。
  • 農林水産省の「農業競争力強化基盤整備事業」が行政事業レビューにかかった。耕作を放棄した小規模な農地を集約し若い農業経営者に大規模な耕作を委ねる制度であるが、相続登記がなされず所有者不明となった農地の扱いの問題があり、事業の進行は遅い。これは、不動産登記簿と住民基本台帳の「データ連携」で解決できるが、2021年2月法制審議会答申(所有者不明土地問題)には言及がない。
  • 厚生労働省の「低所得者に対する介護保険サービスに係る利用者負担額の軽減措置事業」では、共にマイナンバーに紐付けされている介護サービス利用者と住民税非課税世帯を「データ連携」して対象となる可能性のある人を洗い出せば、申請を待つ必要はないのだが、これが実現していない。
  • 利用可能な事務が限定されているのが、マイナンバー最大の課題である。第1次安倍内閣当時(2007年)、社会保険庁のオンライン化した年金記録にミスや不備が多いこと等が明らかになり、国民から批判された。そこで、2011年に民主党が「社会保障・税番号大綱」を決定。2012年に関連法案を提出し、2013年に自由民主党政権が民主党案ベースで再度関連法案を提出し、番号法が成立した。
  • しかし、日本弁護士連合会などは「コンピュータで簡単にデータ検索ができる時代に、個人情報を集めやすくするキー番号を作ることが問題だ」「政府が個人情報を管理しやすくなり監視社会につながるおそれがある」といった批判を行った。そこで、「番号法別表」で利用可能な事務(法定事務)を限定したことが「真のデジタル化」を阻む理由になっている。
  • ワンストップサービス・ワンスオンリーは「データ連携」で初めて実現する。大分県別府市「おくやみコーナー」は死亡に関する市役所への申請書を一括して作成してくれると、前回のセミナーで関根千佳氏が講演した。どんな申請書があるかチェックしたところ、世帯主変更届、マイナンバーカードの返還、国民健康保険、後期高齢者医療、年金受給、軽自動車、市県民税、固定資産税、市営住宅、介護保険、高齢者福祉サービス、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、ひとり親家庭医療受給者証…と膨大だった。これらの中から必要な書類だけを作成するには「データ連携」が不可欠である。
  • 「データ連携」は行政を変える可能性がある。不動産登記と住民基本台帳の「データ連携」は、洪水の原因となっている放置林対策にも、空き家対策にも共通の解決策であり、行政の有効性・効率性を高める。介護サービス利用者データと住民税非課税世帯データの「データ連携」は申請主義からの脱却の第一歩であり、マイナンバー導入の目的として謳われた「本当に困っている方へのきめ細かな支援」を実現する。
  • 日本弁護士連合会などの「過剰な懸念」は社会の発展を止めるもので、それが特別定額給付金の支給などにも悪影響を及ぼしている。古い逸話になるが、1865年に成立した法律に基づき、英国では蒸気自動を人が先導する時代が続いた。これが社会の発展を阻害し、同国では自動車産業が発展しなかった。
  • 「真のデジタル化」へのきっかけとなるのが、「デジタル社会形成基本法案」「デジタル庁設置法案」及び「関連法の一括整備法案」であり、成立に期待する。「真のデジタル化」には「データ連携」による業務改革が求められる。そのほかデータの二次利用なども進める「真のデジタル化」の実現に政治の主導を期待する。

二つの講演の後、質疑が行われた。その概要は以下の通りである。

三法案について
三法案は「一歩前進」であり賛成するが「真のデジタル化」には遠く不十分であると、音喜多氏は発言した。批判や懸念に配慮してマイナンバーの使用範囲を絞っているが、全面展開するのがよい。そこで、賛成はするが今後の改善を求めるというスタンスで審議に臨むつもりである。

遡及的なデジタル化について
既存の銀行口座へのマイナンバーの紐付けや、過去の公文書のデジタル化には費用がかかるがどう考えるかと山田氏が質問し、音喜多氏は次のように回答した。国会図書館の蔵書をすべてデジタル化するには200億円かかるそうだ。公文書も数百億円でできるはずである。これが無駄遣いではないという理解を国民から得る必要がある。
さらに、山田氏は国民に費用対効果を示すのが大切だと指摘した。音喜多氏は、費用対効果を示すには特区で実証実験するという案を示した。

デジタル化が国民にもたらす利益について
マイナンバーの銀行口座の紐付けなどには中身を知られるのではないかとの抵抗が大きいことについて、困っている人に迅速に手を差し出すためにはデジタル化によって申請主義から脱却する必要があるとしたうえで、音喜多氏は政治への信頼が大切であると強調した。

デジタル時代にふさわしい調達について
音喜多氏は、縦割りを排除して一元調達に進むルールを作るべきという考えであると説明した。国と地方の間の行政システムの標準化は地方分権に影響するし、システムベンダーにも影響は大きいが、メリハリをつけて進めるべきというのが音喜多氏の考えであった。

高齢者や障害者への対応について
デジタルデバイドやアクセシビリティには対応しなければいけない。一方で、今のアナログでは情報が届かない人たちにデジタルが救いになる場合もある。そのためには、デジタルシステム開発工程に障害者等を入れることが重要であるということで、議論は一致した。
デジタル化が進行する中でアナログをいつまで残すのかも議論になった。過渡期にはアナログ行政とデジタル行政が併存するのでコストがかかるという点について、音喜多氏はアナログ中止のタイミングを見定めるのは政治家の責任であると強調した。

個人情報保護法について
デジタル化の足かせになっているという側面がある。一方で「デジタル時代の人権法」をきちんと作って国民の納得が得られるようにすべきと、音喜多氏は主張した。

ZOOMセミナー「行政DXに猶予はない:公明党に聞く」 濱村進公明党衆議院議員ほか

開催日時:2月22日月曜日午後5時30分から1時間程度
開催方法:ZOOMウェビナー
参加定員:100名
セミナーの内容:
濱村 進公明党衆議院議員「公明党のデジタル政策」(20分)
関根千佳同志社大学大学院客員教授「誰一人取り残さない行政DX」(20分)
登壇者による討論・ウェビナー参加者からの質問等(20分)

冒頭、濱村氏は次のように講演した。

  • 衆議院議員になる前には野村総研でシステム開発をしていた。その経験もあり、公明党ではデジタル政策に関与している。
  • 接触通知アプリCOCOAの不具合が問題になっている。COCOAは、保健所が濃厚接触者を調査する(積極的疫学調査)から外れた、他の人々に感染の可能性を連絡する補助ツールである。COCOAはCode for Japanが手掛けたものを政府が引き取り利用したものであり、オープンソースを政府が活用した先行事例である。COCOAの不具合を「人の命がかかっている」と批判するよりも、不具合は直せばよいので、政府システム開発に新しい在り方を示すものとして前向きに評価したい。
  • デジタル庁には様々な期待があるが、まずは「国民がデジタルの恩恵を実感する」ことを実現するようにすべきだ。そのためには、国民が日常利用する地方公共団体のシステム標準化には大きなインパクトがあると考えている。
  • 公明党は昨年11月13日に政府に提言を提出している。そこで強調したのは「豊かな国民生活と誰一人取り残さない社会の実現」であり、そのためにはユニバーサルデザインが前提として盛り込まれているのが重要と考えている。
  • あらゆる方々にとって使いやすいことが大切である。大半の方々がデジタルの恩恵を実感できるようになれば、その先で個別に対応するというのも可能になっていく。デジタルの恩恵を授かれない人にもいろんな方がいる。使い方がわからない。障害などが理由で使えない。デジタル環境がない。これらの方々に対応していく必要があるが、今の使いにくいシステムを使うように押し付けるのは適切ではない。また、代理申請の活用もあるのではないか。また、そもそも申請するよりもプッシュ型の行政サービス提供もあり得る。これらを突き詰めていくことで「誰一人取り残さない社会」が実現すると考えている。
  • プッシュ型行政サービスのアーキテクチャとして、マイナンバーとベースレジストリは必須である。このアーキテクチャが社会的に認められるためには、政府への信頼が必要不可欠である。そのためにも行政データへの適切なアクセスコントロールが重要である。
  • 行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)も重要だが、経済社会全体のDXはもっと重要である。民間のDXに注力するためにも、日本が保有するデジタルリソースを民間の経済成長に投資しなければいけない。だからこそ、行政DXは猶予がないということだ。経済社会全体のDXはトップラインの拡大をもたらすものでなければならない。守りのIT投資から、攻めのIT投資に切り換えるべきである。

次に関根氏が資料を用いて次のように講演した。関根氏の資料はこちらにあります。

  • 1993年に日本IBMでSNS(Special Needs System)センターを開設し、障害者・高齢者のICT利用を推進する仕事を始めた。1998年に株式会社ユーディット(UDIT)を創業したが、この会社は障害者、育児・介護中、高齢者など、全員がテレワークで、ICT、Webサイト、家電、オフィスなどをUD視点で評価し、改善を提案する企業である。
  • ユニバーサルデザイン(UD)とは、年令、性別、能力、体格などに関わらず、より多くの人ができるだけ使えるよう、最初から考慮して、まち、もの、情報、サービスなどを作るという考え方と、それを作り出すプロセス(過程)のことである。バリアフリー(障壁除去)でなく、設計時から多様な市民の利用を前提としている。すでに、多くの企業や地方公共団体で基本理念になっている。
  • ユニバーサルデザインの二大要素はアクセシビリティ(Accessibility)とユーザビリティ(Usability)である。アクセシビリティ、すなわち「使えるかどうか」では、障害や年齢、環境に関わらずその情報に接近できるか、目的へ到達できるかを評価する。ユーザビリティ、すなわち「使いやすいかどうか」では、ストレスなく目的が達成できるかの有効性、効率、満足度を評価する。
  • 別府市に「おくやみコーナー」がある。親族が亡くなったときの手続にワンストップサービスで対応する。氏名等を職員が入力すると、関連する部門のデータや書類に一気に反映される。市民満足度90%以上で、職員のワークロードも改善し、政府も全国展開を支援している。これは、アクセシビリティとユーザビリティに優れた、市民目線のDXの良い例である。
  • 各国ではICTのUDは大前提である。米国にはリハビリテーション法508条があり、ICT機器、ソフトウェア、Webサイト、アプリなどはアクセシブルなものしか公的調達できないし、違反すると担当者が提訴される。ADA(障害のあるアメリカ人法)と合わせて、企業に対する訴訟が頻発している。欧州にはEAA(European Accessibility Act、2019年)があり、EU各国に508条と同様の国内法整備を義務化する。SDGsの考え方では、環境と人間に良くないものは罪であり、「誰も残していかない」が基本ルールである。
  • 日本にも技術基準は存在する。しかし、電子政府・自治体は使いにくい。国民目線で作られていないし、国民の声も届かない。「電子政府ユーザビリティ指針」も2014年に廃止されている。行政にもSI企業にもUDの専門家がいない。
  • このような折に、「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」を政府が閣議決定した。「国民の幸福な生活の実現:「人に優しいデジタル化」のため徹底した国民目線でユーザーの体験価値を創出」「誰一人取り残さない」デジタル社会の実現:アクセシビリティの確保、格差の是正、国民への丁寧な説明」と書かれている。
  • 実際にはどうすればいいのか。システムのアーキテクチャを整備する必要がある。総務省提唱の「都市OS」で共通化することも解決策の一つではないか。マイナンバーをすべてのシステムの基礎にすべきであるし、ユニバーサルデザインを義務化しなければならない。
  • 建築や公共交通では法律でUDを規定している。ICTのUDも法律で規定すべきである。
  • DXは多様な市民の存在を前提として推進すべきである。技術の進化で、誰もが使える状況が近づいている。ノルウェーでは特別養護老人ホームでネット銀行講座を開いている。これもネット銀行が誰もが使えるようになっているからだ。世界最高齢国家日本のDXはUDを前提にすべきである。使えること、使いやすいことは「きほんのき」である。ユーザーによる評価を義務化し、BPRや業務改善とセットでデジタル変革を進めよう。
  • 最後にデジタル庁に何を望むか。第一は、電子政府・自治体は「サービス産業」であるという意識を、明確に持つことである。アクセシビリティの確保、ユーザビリティの向上は義務と心得よ。第二に、高齢者の存在を、DXが進められないという免罪符にしないことだ。最初からシニアも使えるUDなDXをめざせば、誰にとっても使いやすくなる。また市民のITリテラシーを教育で底上げする、地域に使い方を教える場を増やす、このような施策も並行して進めてほしい。

二つの講演の後、参加者からの質問も含め、以下のような討論があった。

行政サービスのユニバーサルデザインについて
「行政はサービス産業である」という点で登壇者は一致した。濱村氏は、政府調達はUDが原則であり、デジタル庁を作る際にはUI/UXの専門部署を設置すべきであるという意見を表明した。
今はデジタル庁に障害のあるエンジニアを雇用するというような具体的なフェーズではないが、法案が通った後は、障害のあるエンジニアを雇用するのも進めるべきだというのが、濱村氏の意見であった。関根氏も、他国では当事者参加は当たり前のことであり、進めるべきとの意見であった。

高齢者に対する教育について
教育が必要なシステムよりも、教わらなく使えるシステムが求められるという点に登壇者は合意した。ヒトが自然な形で使えるのがUDである。その上で、濱村氏は「とはいっても、最初の入り口については、行政窓口で教える必要があるのではないか。」と発言した。

プッシュ型の行政サービスについて
マイナンバーをすべての行政で利用し、プッシュ型の行政サービスにするかということについて、住基ネットについて最高裁が一元的に管理することができる主体は存在しない、と判決したのが影響している。マイナンバーにも適用されるというのが今の解釈である。
マイナンバーに対する国民の漠然とした不安を解消するように努め、情報にはアクセスコントロールされているということなども、単にマイナンバーを使うと利便が向上するというだけではなく、説明するべきというのが、濱村氏の意見であった。

DXによる経済発展について
欧米のアクセシビリティ規制は日本企業にとっては非関税障壁であり、ユニバーサルデザインのDXは競争力の強化に役立つと、関根氏は説明した。また、障害者が自立するのも、経済が発展するのに役立つ。
濱村氏は、国内企業が生き残れる程度の規模を日本市場が有していたのが日本企業の海外進出の遅れにつながったとしたうえで、誰一人取り残さず、豊かさが実感できる社会目指すべきとして、デジタルでできることを経営者が理解しトップラインの拡大のため「攻めのIT投資」をお願いしたいと発言して、セミナーをまとめた。

シンポジウム「電波改革~帯域開放は動くか?」 経営評論家山田 明氏ほか

主催:情報検証研究所
共催:情報通信政策フォーラム(ICPF)、アゴラ研究所
日時:1月27日(水曜日)18:30-20:00
方式:オンライン(Zoomウェビナー)
登壇者:
原 英史 株式会社政策工房 代表取締役
山田 明 経営評論家
池田信夫 アゴラ研究所所長
山田 肇 ICPF理事長
加藤康之(進行)

冒頭、原氏と山田明氏が講演した。原氏は規制改革会議での2017年当時の議論を中心に、山田明氏は著書「スマホ料金はなぜ高いのか」(新潮文庫、2020)に基づいて講演した。

その後、登壇者四名による以下のような討論が行われた。以下、文責は山田肇にある。

  • SFN(単一周波数ネットワーク)の技術を用いれば、テレビ帯の周波数を集約できる。それによって、100メガヘルツを超える周波数が移動通信に提供できるようになる。したがって、問題は技術ではなく、テレビ局の経営である。
  • テレビ帯の周波数を集約しても、電波を使って放送番組を届けるというビジネスモデルには何の影響もない。しかし、視聴者、特に若者のテレビ離れによって、現行のビジネスモデルは存続できない恐れがある。
  • テレビ番組の品質は、Netflixなどのサブスクリプション型ストリーミングサービスと並び、YouTube動画などよりも勝っている。テレビ番組をネット配信するのは、テレビ離れした視聴者を引き付けるチャンスであり、広告スポンサーも付く可能性がある。
  • 在京キー局はすでにこれに気付き、各社それぞれネット配信を始めている。配信に伴う個別の映像などの許諾取得を一部不要にして、権利処理を簡単にする著作権法の改正も予定されている。
  • しかし、日本民間放送連盟は、ネット配信は放送区域に留めるべきとの立場を取っている。これは、連盟の構成員の大半を占める地方局がネット配信に乗り出す経営体力がないことに引きずられた結果である。しかし、その間にも広告スポンサーのテレビ離れは進行するから、このままでは地方局はじり貧に陥るだけである。
  • 地方局の中にはネット配信に乗り出す例も出てきている。たとえば、広島県域のRCC中国放送は「RCC PLAY!」で放送番組を全国に配信している。
  • RCC中国放送のような好例が増えていくためには、政治がトップダウンで放送改革の声を上げるのが適切かもしれない。次回のシンポジウムには有力な政治家に登壇していただこう。