法律 通信・放送の総合的な法体系を目指して

概要

総務省では「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」を組織し、通信法制と放送法制の統合について研究を深めています。この新しい法体系によって通信と放送の融合が促進されるかどうかについて、世の中には賛否両方の意見が存在します。
そこで情報通信政策フォーラム(ICPF)では、今回から数回連続して月次セミナーでこの新しい法体系について議論を深めていくことにしました。
今回はその第一回として「研究会」の事務局を担当されている総務省の鈴木茂樹課長をお招きして、総務省の考え方をうかがうことになりました。

<スピーカー>
鈴木茂樹(総務省情報通信政策局総合政策課長)

<モデレーター>
山田肇(ICPF事務局長・東洋大学教授)

<日時>
10月25日(木)18:30~20:30

<場所>
東洋大学・白山校舎・5号館5201教室
東京都文京区白山5-28-20

<入場料>
2000円

レポート

ICPF第22回セミナー「通信・放送の総合的な法体系を目指して」要旨
講師: 総務省情報通信政策局総合政策課長 鈴木茂樹氏

2007年10月25日に開催された第22回セミナーでは、総務省の鈴木茂樹課長に「通信・放送の総合的な法体系を目指して」と題して講演をいただいた。講演および質疑応答の主要部分は次の通りである。

1. 新しい法体系を提案する理由

情報と通信の融合がこのところ急速に進んだ。2001年に宮内提案が頓挫したことがあるが、そのころとは状況が大きく違う。少子高齢化で縮小しつつある日本で情報通信がいっそう発展し、国民がその利便を享受し、また情報通信産業が国際競争力を強化していくため、新しい法体系を提案することになった。
この間の技術の進歩は急激で、技術的には通信と放送の融合は実現できる状況にある。ラジオ局がインターネットにも番組を同時に送信したい、と考えたとしても、今は総務省に申請が必要だ。そんな手間をできる限り減らし、より自由にビジネスができるようにしたい。
国際競争力に関しては、日本のメディア系企業の中に世界トップ10には入れるような企業が出てくることが、目標である。外資規制が緩和してきたので、外資が日本企業を買収する例が出て来ている。それと逆に日本企業が海外で活躍してくれるようになれば、と考えている。
アメリカはこうしているとか、ヨーロッパにはこんな動きがあるといって、それを受け入れる時代ではない。ブロードバンドでも携帯でも世界的に見て進んだ状況にある日本において、世界で最も進んだ法体系を作っていきたい。

2. 事業者や国会の理解は得られるのか

今のビジネスモデルを続けていくだけでは、明るい未来が展望できないことに事業者は気づき始めている。新しい法体系から生まれる可能性に対して事業者の理解が深まれば、受け入れられていくと思う。
通信と放送の産業では、状況は刻々と変わってきているのだ。放送に持ち株会社制度を入れるといった、制度変更を進めようとしており、環境変化の積み重ねで理解を得るようにしていきたい。
しかし、最終的には立法を決めるのは国会であり、以前と国会の状況は異なるので新しい法体系が成立するかどうかは、何とも言えない。総務省としては、06年の骨太の方針に沿って、07年末までに研究会の報告、その後、審議会への諮問、09年に法律案の準備、10年に国会提出というスケジュールで進んでいきたい。

3. レイヤー型法体系の要点

伝送インフラ、プラットフォーム、コンテンツとレイヤーごとに、必要最小限の規制を行う。たとえば伝送レイヤーを提供するものは、それを通信と放送に利用するというようにしていく。
それぞれのレイヤーで支配的な地位にある事業者があれば、それに対しては必要な公正競争上の規制を行う。またレイヤー間をつないでいくときにボトルネックになる事業者がいるのであれば、それにも必要な規制を行うことになる。プラットフォーム機能を持つ事業者が顧客リスト、課金情報、セキュリティを握って、それにコンテンツやアプリケーションの提供者が不可欠に依存するというようなものがボトルネック事業者の例になる。それらの事業者以外に対しては、規制はできる限り緩和したい。
(コンテンツ提供者に対する規制はアマゾンや楽天にも及ぶのかという質問に対して)今はよくわからないが、できる限り自由なビジネスを妨げないというのが原則である。

4. コンテンツに対する規制に関する危惧について

法執行機関は、たとえば「児童ポルノは見つけ次第、ネットワークから遮断すべし」というようにきびしい規制を要求するところがある。しかし総務省としては「通信の秘密」を守らなくてはならない。違法な情報を提供するものは刑法などで取り締まることが出来る。違法とはいえないが有害な情報に対してプロバイダーがどのように対応するか、といったことについて、プロバイダー責任法などを参考に共通ルールの必要性を検討するという内容になっている。

5. 通信には国境がないことについて

国内だけに閉じた規制ですまないことは承知している。プラットフォームやコンテンツには国際的な広がりがある。だからOECDなどさまざまな国際的な場、あるいは二国間協議を通じて、整合した国際ルールを作っていく必要がある。
その場合には、わが国から新しい法体系を提案して、それへの国際的な理解を深めていくという方向で動きたい。
現実のビジネスの中では、他国の事業者が国外で日本向けに有害サイトを提供する例がある。そんなときにはその国との協力が必要になる。そんな例を積み上げていくうちに、国際的な合意が生まれてくると考えている。
また、外国の事業者が日本でビジネスをするときには、日本のルールを守ってもらう。外国の事業者だから通信の秘密はどうでもよいなどということには絶対にならない。

6. その他

(著作権法の改正が必要になるのではないかとの意見に対して)本当に著作権法の修正が必要なのか、それとも著作権関連事業者のビジネス慣行の修正が必要なのか。後者のほうが、現実には問題と認識している。
(利用者には障害者や高齢者もいる。それらの人の中には、インターネット配信の映像には字幕がないなど困っている人がいるとの意見に対して)パブリックコメントでも出てこなかった。たしかにこれから考えていくべき課題であろう。