アクセス 情報アクセシビリティをビジネスチャンスに

概要

情報社会から高齢者や障害者が排除されないように、情報通信機器・サービスのユーザインタフェースを改善する、情報アクセシビリティの実現に向けて世界は動いている。すでにアメリカは連邦政府調達について情報アクセシビリティを必須要件としている。ヨーロッパも公共調達の要件とするように動き出した。

情報アクセシビリティとは何か、世界はどう動いているのか、それをビジネスチャンスにするとはどういう意味なのか。セミナーの前週にアメリカ連邦政府で開催される、情報アクセシビリティ要件改定のための諮問委員会の動向を含め、本講演では最新の情報を提供する。

スピーカー:山田 肇(東洋大学経済学部教授 ICPF事務局長)
モデレーター:池田信夫(ICPF代表)

日時:5月29日(火) 18:30~20:30
場所:東洋大学・白山校舎・5号館 5202教室
東京都文京区白山5-28-20

入場料:2000円

レポート

「情報アクセシビリティをビジネスチャンスに」

今日話すことは情報アクセシビリティをビジネスに生かしてはどうかということ。今日は二種類の人々がいる 、情報アクセシビリティのプロと、まったく知らない人。だから最初は基本を話す。

○社会の情報化は進展
インターネット(ブロードバンド)は世帯普及率50%を超え、さまざまな用途で利用が拡大している。政府でも 民間でもネット利用はごく当たり前になっている。

○恩恵にあずかれない人々にどう対応するか
私たち全体の問題でもある。包括的電子行政サービスを利用できない人々の為に既存システムを維持するための二重コストの問題。これは税金の問題なので、恩恵に預けられない情報弱者と呼ばれる人々だけの問題ではなくなる。

○高齢者・障害者が情報弱者にならないためには?
この議論は日本については2000年ごろから社会的関心が高まっているが、情報アクセシビリティという言葉自身がなじめていない人が多いことが現状

○情報アクセシビリティの四つの側面
画面が見えない、音声案内が聞こえないため利用できない→利用可能性(狭義のアクセシビリティ)
知識がない →リテラシー
資金がない→購入可能性
使い勝手が悪く利用できない→使い勝手(ユーザビリティ)

国連では情報アクセシビリティは人権の一環と認知しているが、いざ話題にしたときには、発展途上国ではその知識とコストをどうするのかという問題になる。アメリカではユーザビリティが論じられることが多く、欧州では言語が相互に理解できないことが問題となる。本日の内容は、一つ目の狭義の情報アクセシビリティについて。

○狭義の情報アクセシビリティ問題発生の理由
企業の製品が身体機能の能力の限界線(資料参照)を超えると、開発コストが高騰するが、そこではR&Dコストよりも回収コストが下回る状況になる。経済的に不合理なので、企業は限界線を超えた開発を行うインセンティブがない。政府は支援技術製品の開発や購入に補助金などの予算を使わざるをえない。いかにして限界線を左にスライドさせるか。

○そもそも想像できない
高齢者・障害者のニーズは多様ですべてのニーズの把握が困難である。情報機器の場合デザイナーが若いことが多く、障害や高齢に遠い位置にいる場合、利用状況が想像しにくい。限界線を左に動かすためにはさらなる努力が必要。
そこに対して技術基準を示すことは有用で、以下の三点の価値。情報アクセシビリティのニーズを的確に示す。ニーズに優先順位をつける。若いデザイナーを教育する。

○JIS X8341シリーズの制定
8341→やさしい の語呂合わせ。共通指針・情報処理装置・ウェブコンテンツ・電気通信機器・事務機器の五つからなる。自治体Webサイトの情報アクセシビリティなどはこの規格の影響下にある。

○情報アクセシビリティ標準を公共調達に利用
準拠することを義務付けることで企業に強制。アメリカではすでにそう動いている。欧州では全員参加の情報社会を標榜し、欧州委員会の資金を利用し、欧州の標準化三団体が情報アクセシビリティ標準の作成に動き出す。日本では応札時に準拠することを用件として記載することになっている。

○公共調達での要件化の意義
要件を満たすと、公共調達コストが増加する可能性。しかし、公共調達のコストが増加したとしても政府にとっては社会福祉のコストが減る。
ex)情報通信機器がしゃべるようになった。音声合成のLSIがどこでも組み込まれるようになったが、コストが急騰しているわけではなく、背景には音声合成のLSIのコスト低下。情報通信機器は開発以降のコストが劇的に低廉化されることがありうる。

○アメリカでの改訂作業
改定されれば要件はより厳しくなる。今まで視覚聴覚はカバーされていたが認知障害はカバーされていなかった。リハビリテーション法が戦争で負傷した人々の雇用の補償という背景で生まれており、認知障害になる可能性が低いことから今まではカバーされてこなかったもの。

○去年9月に最初の会合
01年以降の技術進歩を取り入れたい。2001-2006に登場したものでもっともショッキングなものがiPod。音楽はレコード店の購入からネットワークでの購入に。音楽を聴くことは視覚障害者にとっての大きな楽しみの一つ。iPodの操作を目を瞑って操作することが難しい。→ 技術進歩をどのように捕らえるか?
今回は、アメリカにしては珍しく、情報アクセシビリティの技術基準は世界的な発想を取り入れたい という動きに。

○TEITAC(通信・電気・情報技術に関するアドバイザリの為の小委員会)が設置
アメリカ、オーストラリア、カナダ経済省、欧州、日本からの代表で構成。改訂案の調整完了は08年秋まで。

○日本の戦略
日本の消費者がアメリカに行っても困らない、日本の企業がアメリカに輸出しても困らないもの。
このため、アメリカの独自企画の採用を牽制、国際整合性に動いた段階で日本の規格を売り込む。

○日本規格の国際化
共通指針ISOでまもなく完了。情報処理装置JTC1での審議が開始予定。ウェブコンテンツについてはW3Cでの規格作成に貢献する。W3Cが想定しない要素として、「ルビ情報を付加すること」など。
電気通信機器に関してはITUで標準化済み。事務機器JTC1で審議が開始予定。

○TEITAC 07年 五月の会合
今まではテレビやビデオファックスなど製品ごとになっていたものを、製品群で取り扱うことが決定→新製品が生まれても対応できるものに。
これらの基準において、経済的なインパクト、テスト可能性についての言及、関連する国際基準がどこにあるか明記することになった。

○なぜビジネスチャンスなのか?
日本は高齢化の先進国であり、市場テストに最適である。消費者の厳しい声に触れる多くの機会がある。すでに関連の技術を多く有している企業が多い。日本企業のトップは高齢者が多く、トップが問題を理解しやすい。

○まとめ
公共調達の力を利用する方向に各国は動いている。技術基準を決める政治プロセスに日本も参加している。日本の高齢化先進国、日本で成功した機器サービスは世界展開のチャンス。情報通信産業に特徴的なFirst Mover’s Advantageが目の前にある。

質問:

Q:基準が特許と結びつくケース
→ 代替可能な技術の採用。それに特許があるから独占する、ではなく、自社の特許はお金さえ払ってくれれば自由に使ってくれればいい、とオープンなケースが多い。

Q:高齢者にとっては情報機器が使いにくいし、アクセシビリティ以前の問題が多かった。それらの問題を飛び越えた機器が登場する段階になってきたということか
→ パソコンなどでもHELPのオンライン表示の工夫などの取り組みがでてきている。この問題は日本だけでなく、どの国においても問題。ただし、PCキーボードの問題は、日本語との相性もあり難易度を上げている一要因に。

Q:iPodはどうなる?
→ 政府利用のものについては調達されなくなる

Q:お役所はPDFが好きだがアクセシビリティの観点でどうか?
→ PDFは、書き出す(変換する)人の設定・配慮しだいで使い勝手はよくも悪くもなってしまう。問題意識の薄い人が操作すると発生する問題であり、「気づき」の問題。今日の講演をまとめると、社会として情報アクセシビリティに気づこうということだ。