ICPFオンラインセミナー「ここまで来たGIGAスクール」 寺島史朗学校情報基盤・教材課長

開催日時:2025年6月23日月曜日 午後7時から1時間程度
開催方法:ZOOMセミナー
講演者:寺島史朗 文部科学省 初等中等教育局 学校情報基盤・教材課長
司会:山田 肇・ICPF理事長

寺島氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、寺島氏は次のように講演した。

  • 令和元年度にGIGAスクール構想が打ち出された。次いで令和3年に中央教育審議会の答申が出た。一人一人の児童生徒が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることが学校教育の目標であり、そのための基盤的なツールとしてICTは不可欠であると位置づけられた。
  • この目標はGIGAスクール構想による新たなICT環境を活用することで実現に近づく。「主体的な学び」「対話的な学び」、そして「深い学び」に向け、ICTを活かして授業を改善していく。
  • 学習用コンピュータが一人一台を超えて整備されるにつれ、いわゆる一斉学習に加えて協働学習と個別学習が実施され、それらを組み合わせて単元目標(山の頂上)に達する教育が施されるようになった。教壇の前にいる教員の話を児童生徒が並んで聞くという、昔からの教室風景も変わってきた。
  • デジタル学習基盤の整備と共に学びの変革は進みつつあるが、一方で、学校や地域間で活用率や活用方法に格差がある、ネットワークが脆弱である、校務のDXが進んでいないなどの問題も顕在化している。
  • 学びの変革とともに教員の仕事ぶりも変わってきた。教員が個々の児童生徒を個別に回って指導する際、子どもたちの学習状況を教師がクラウドを通じて確認して、必要に応じて個々の児童生徒に介入するといった、いわゆる一斉学習と異なる状況が生じてきている。
  • GIGAスクールは学びの保障にも役立っている。療養中の児童生徒が病室から授業に参加する、養護教師が児童生徒の健康状態を確認して他の教員と共有するといったことが可能になった。学びの多様化という点では、オンラインで外部の人に話してもらう、他地域の児童生徒と交流する、英会話レッスンを受けるといったことも実践されている。
  • GIGAスクールは「自分のペースで学習できる」「わからないことをすぐ調べられる」など児童生徒に評価されている。また、「主体的・対話的で深い学び」の授業で、ICTの活用頻度の高い学校のほうが学力調査の平均正答率が高いという傾向も出ている。
  • GIGAスクールをさらに前に進めるための教員向けの学習会を実施するなどしている。最近は「GIGA×主体的・対話的で深い学び」「GIGA×教師の指導性」をテーマにしており、ここに重点的に取り組んでいきたい。
  • 通常学級にいる多様な個性や特性を有する子どもたちに対しても、意欲を高め可能性を引き出す教育が提供できる可能性がある。
  • 現行の学習指導要領前文には、すでに紹介したように「一人一人の児童生徒が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。」とある。GIGAスクールの導入とともに進む教育の変革は、前文の実現に資する。
  • 今後に向けての課題の一つが通信インフラである。GIGAスクール構想の推進のため、学校のICT環境整備という2025年度からの三か年計画を策定するなど、通信インフラの整備に取り組んでいる。
  • さらに次期学習指導要領に関して、情報活用能力の抜本的な向上を図る方策についても、中央教育審議会での審議が進められている。今後、どのように質の高い探究的な学びと一体的に充実していくかや、生成AIをはじめとする先端技術に関する内容をどのように取り扱っていくかといった具体的な課題についても議論されていくことになる。

講演後、以下のような質疑があった。

教育内容等について
Q(質問):他国と同様に小学校段階にも「情報」科目を導入してはどうか。
A(回答):先ほど説明したように、現在、中央教育審議会において、情報活用能力を抜本的に向上させる方向性については議論が進められているが、具体的な教科や内容等については今後の議論である。すべての教科を通じて情報技術の活用、適切な取り扱い、そして特性の理解を深める教育を充実していく方向性は示されている。
Q:AI活用について、きちんと教えるべきだ。
A: AIの特性を踏まえた上で、AIの活用そのものを目的化するのではなく、AIを活用して、身に付けさせたい資質・能力の育成にどのように役立てるか、ということを見極めるべきということをガイドラインで示している。
Q:通常学級で、ヘッドセットを付けてデジタル教科書を音声で聞く、フォントをUDフォントやじぶんフォントに切り替えて画面表示する、といった対応も認めるべきだ。
A:アクセシビリティの向上はデジタルの強みであり、実際その方向に進んでいる。先日訪問した学校ではポルトガル語が母語の児童が自動翻訳を使って教科書を読み、英語でレポートを書くといった様子も見られた。

教員や保護者の理解などについて
Q:教員の側に変革が求められているのではないか。
A:教職課程でも情報について教育するようになっているが、まだまだ改善が必要。また、すでに教員となっている方々にも研修の機会を提供している。
Q:教員同士がデジタルを活用して教育上の工夫や悩みを交換する仕組みは普及したのか。
A:チャット等で意見交換する仕組みや教材を共有化する仕組みを導入している地方公共団体が増えている。
Q:保護者も、昔のような一斉学習は行われていないという点について理解する必要があるのではないか。
A:授業参観の前に、「今日の授業はこのようなねらいで、こういう活動をします」と保護者に説明している事例もある。短い時間でも、少し説明することで、保護者自身が受けてきたスタイルと異なる授業についてより理解が深まる。課題を設定し、その解決に向けて様々な情報を収集、整理、分析し、子どもたち同士が対話しながら進めている授業を見ると、「会社での情景と同じだね」というような反応が返ってくる。そのようなことで理解が進む。
Q:家庭や学童保育での利用のためにも、デジタル教科書も無償給与の対象とすべきである。
A:デジタル教科書の在り方についても現在検討が進められている。現在の制度では、無償給与の対象となる「教科書」は紙のものしか認められておらず、デジタル教科書はあくまで「教材」という位置づけ。今後、それをどのようにしていくかが現在の議論でも論点となっている。