オンラインセミナー「デジタルでアップデート:スタートアップを世界の主役に」 木村康宏freee株式会社執行役員

開催日時:2024年6月27日木曜日 午後7時から1時間程度
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:木村康宏 freee株式会社執行役員社会インフラ企画部長
司会:山田 肇・ICPF理事長

木村氏の講演資料はこちらにあります。

木村氏の講演ビデオ(一部)はこちらにあります。

冒頭、木村氏は次のように講演した。

  • freeeは「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げている。スピード感をもってアイデアを具現化できるスモールビジネスは、今までにない多様な価値観や生き方、新しいイノベーションを生み出す起爆剤だと考え、後押ししている。
  • 2013年にクラウド型会計ソフトの提供を開始し、日本でのシェアは第1位である。クラウド型会計ソフトを使用すれば、請求書、経費精算、決算書、予実管理等が実行でき、内部統制にも活用できる。2014年にはクラウド型人事労務ソフトの提供を開始した。勤怠管理、入退社管理、給与計算、年末調整からマイナンバーの管理まで実行できる。
  • 最近では、受取請求書の管理を行うSweeep、アカウント管理をサポートするBUNDLE等を経営統合して、事業の規模を拡大している。
  • 会社としての発展を考え、法人設立を支援するアプリを開発することにした。これを利用した顧客が、その先、会計ソフトや人事労務ソフトを継続して利用してくれるからである。
  • 法人設立支援アプリに必要項目をステップに沿って入力すれば、定款を含む各種書類が一括作成される。このアプリが、公証役場や法務局への申請もサポートする。法人設立後は、銀行口座の申請等にも利用できる。
  • しかし、法人設立はアプリだけでは貫徹できないアナログの壁が存在する。公証人に定款を確認してもらう面談が一つ。かつては顔を合わせての面談が不可欠だったが、コロナ禍での規制改革の流れの中でオンライン面談でもよいことになった。法務局での登記手続きにも時間がかかる。法務局事務を改革してスピードアップする必要がある。
  • 政府はスタートアップ育成5か年計画を推進している。その中で、上述のアナログの壁を改善すべく、会社として政府に働きかけており、政府も問題と認識している。
  • Freee請求書アプリは、総務省より「情報アクセシビリティ好事例2023」に選定された。同アプリは文字サイズの変更、スクリーンリーダでの操作、ダークモードでの操作など、主に視覚障害者による操作が可能になっている。
  • アプリ開発の際に参照する社内向けのアクセシビリティガイドラインを作成し、公開もしている。全職種・全メンバーに向けてガイドラインについて研修を実施するほか、開発職などにはより具体的で詳細な研修を実施し、開発する製品がアクセシビリティに対応するようにしてきた。
  • アプリ開発のデザインシステムを、モバイルアプリ用にも構築した(MoVibes)。MoVibesによって社内UIライブラリが利用できるようになり、UIが統一される等の効果が出ている。
  • しかし、創業期に開発した機能や製品ではアクセシビリティの考慮がまだ不⾜しているという課題が残っている。アクセシビリティの⾼い製品がより⾼く評価される社会になってほしいと考えており、また、アクセシビリティのスキルをもつことが採⽤市場で価値となるようにしたい。

講演後、以下のような質疑があった。

法人設立支援について
質問(Q):かつて開発した製品のアクセシビリティ対応が不足しているという話だったが、法人設立支援アプリの場合には同じ人が繰り返し使うわけではないので、アクセシビリティに対応してUIを変更しても問題は起きないのではないか。また、より多様な人が創業するという点でも必要ではないか。
回答(A):どこまで対応できているかはすぐには回答できない。開発の優先度の課題はあるが、アクセシビリティ対応に進むのは当然である。
Q:NPO設立の場合、モデル定款が存在しており、あっという間に定款ができる。起業の場合も当然できるのではないか。
A:モデル定款自体は存在する。作成した定款について公証人が面談して確認するプロセスが阻害要因である。モデル定款に沿った定款を公証人が確認する必要があるのか大きな疑問である。ここを解決するように働きかけている。

アクセシビリティ対応について
コメント(C):視覚障害があるが、管理職として部下の勤怠管理をしている。勤怠管理ソフトがアクセシビリティに対応しているということは大変にありがたい。障害者雇用の法定雇用率が上がっているが、従事者として働くだけでなく、管理者として働くことができるようにすべきである。勤怠管理のような社内システムにもアクセシビリティ対応を進めてほしい。
A:応援コメントでありがたい。社会全体としては、アクセシビリティ対応についての専門家を育成していくことが重要だと思っている。
Q:そもそもFreeeではどうしてアクセシビリティ対応を重視しているのか。創業者のトップダウンの方針があったのか。
A:最初に一人アクセシビリティに熱意があり、専門性のある人が採用された。その人の熱意が社内で賛同を得、創業者が認めたというのが経緯である。世の中をよくしようと思って創業した人であれば、アクセシビリティに対応することを否定する人はいないのでないか。突き詰めれば、アクセシビリティに熱意のある人が入社したかどうかで、繰り返し話しているように専門家の輪が広がりつつある点からも、今後、他の企業も深めアクセシビリティ対応は進んでいくのではないか。また、総務省が輪が広がるように支援する施策を打つのがよい。
Q:アクセシビリティ対応について、主に視覚に注力していることは理解できた。他の障害にも対応していきたいと考えているか。
A:優先順位の問題だが、次のスコープは外国語対応と考えている。必要な画面で英語対応ができるようにする。あるいは、ブラウザ側で英語に変換する場合に、それを阻害しないようにアプリを作っておくということである。
Q:税務申告書類が英語で書かれていたら税務署が受け付けないのではないか。
A:税務申告ではなく、外国人を雇用する際の労務関係の処理が対象である。

アクセシビリティ対応製品の開発について
Q:アクセシビリティ対応製品の開発でどこに苦労しているのか。
A:開発者が使うライブラリがすでに対応していることで自然に対応が進む。また品質保証の時点でアクセシビリティへの対応を確認する。そのような意識で、デザインシステムの構築と、ガイドラインの社内展開を進めてきた。アクセシビリティ対応の専門家は、我流ではなく、アクセシビリティ専門家のコミュニティに所属しており、業界標準の指針に基づいて社内を指導してくれている。
C:デザインシステムという考え方が重要なのか。
A:デザインシステムは、顧客に提供したい製品の特長を表現するものである。ガイドラインを実装に落とす際には、アクセシビリティに対応したコンポーネンツを利用する。それでも不足する部分は、ガイドラインに沿って開発する。

AIの利用について
Q:システム開発においてAIはどのように利用されるのか。
A:今のAIはマルチモーダル(音声でもテキストでも)で出力できる。翻訳によって言語の壁も突破できる。AIはアクセシビリティ対応に利用できるようになると考えている。他方、自然言語のやり取りで人間は思考を深めていく。会話の中で「ああ、これがやりたかった、これを聞きたかった」と気づくことがある。自然言語で会話するAIは、ソフトウェアのサポートにも利用できるだろう。