概要
情報通信政策フォーラム秋季セミナーシリーズ
『改革を阻む制度の壁』-IEEE TMC Japan Chapter 協賛-
情報社会への移行を阻む大きな障壁の一つが既存の制度です。わが国には情報通信が今のように発展する前に形作られた法律・規則・慣行などの制度が多く残り、それが情報通信技術をフルに活用する社会への転換を阻んでいます。
そこで情報通信政策フォーラム(ICPF)では、『改革を阻む制度の壁』について議論を深めていきたいと考え、この秋冬のセミナーで連続して取り上げることにしました。今回はその1回目です。
<スピーカー>杉原佳克、ジェイムズ・J・フォスター(在日米国商工会議所)
<モデレーター>山田肇(ICPF事務局長・東洋大学経済学部教授)
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レポート
ACCJがこのほど公表したインターネット・エコノミー白書について、冒頭、フォスター氏が基本的な立場を次の通り説明した。
在日米国商工会議所(ACCJ)に集まる有志が研究会を組織して、このインターネット・エコノミー白書を作成した。ACCJはアメリカ人が4割、在日のアメリカ企業に働く日本人が4割といった組織で、日本の状況はよくわかっている。そのような人々が、かつてのような「対日圧力」という姿勢ではなく、友人として日本に提言する立場で作成したのが、今回の白書である。
インターネットの進歩は急激で、今日の正解が明日は不正解になる恐れがある技術である。だからアメリカが正解などとは考えていない。将来を見据えて、日米対話と国際協調の中から、日本にインターネット・エコノミーを育てて欲しい、と提言したものである。
その後、パワーポイントを用いて白書の概要が説明された。説明後の質疑応答の概略は次の通りである。
質疑応答
白書に対する反応についての質疑:
質問:白書作成後、具体的にどのようなところで話をして、どのようなフィードバックがあったのか?
杉原:いろいろなところで話をしている。その中で「内容について見解の相違がある」というコメントを日本企業から得たりしている。これから、もう少し小さな部会を作って白書の内容について詳細を詰めていきたいと考えている。まもなく、オバマ大統領が来日するので、その際、鳩山首相とインターネット白書について話してくれればうれしい。
山田:総務大臣が組織したいわゆる原口タスクフォースで地球的課題を話し合うが、その成果はAPECに持ち込と聞いている。部会でもこの白書を利用して、日米で歩調を合わせるようにしたい。
振興と規制の分離に関する質疑:
質問:日本版FCCについて、規制と振興の分離には賛成する。しかし、米FCCも規制と振興を分離していない。ブロードバンドを普及しようとすれば振興策が必要で、同時に事業者に対する規制も求められる。規制と振興をどこで分けるべきか。米FCCはブロードバンド振興のためのユニバーサルファンドをどのように利用しているのか、実態は?
フォスター:正しい指摘で答えづらい(笑)。アメリカのやっていることから学べばよいというわけではない。アメリカはマーケット競争を通じて振興するのに重点を置いており、規制は少ない。そして、何か問題が起きれば裁判で解決する。しかし、それを繰り返すうちに、制度として複雑なものになっているかもしれない。アメリカも(ガラパゴスと呼ばれる日本と同じように)世界感覚がない。アメリカのものを世界に広めればよい、という考え方が強い。海外のよいものを取り込むということがない。ブロードバンド政策は行き詰まりつつある。
アメリカにも全体を考えられる人材はいない。それだからこそ日米間での対話が必要である。規制と振興をいかに分離できるか、日本政府とだけでなく日本企業と対話したい。民間ベースの対話を促進し民間の知恵を取り込みたい。
杉原:今回の提言の眼目は、規制は技術に中立であるべきということ。政治的圧力からの脱却が必要である。ブロードバンドを普及してインターネット・エコノミーを刑しえしていくために国民負担を求めるなら、規制機関が政府から離れている方が国民の納得を得られやすいのではないか。
山田:2.5GHz帯の周波数配分の時も不可思議な裁量をした結果、国民が不利益を被っている。そういう事態は避けなければならない。それが技術的に中立ということで僕も生成である。しかし、それと規制機関を作るということは別問題ではないか。
周波数規制問題についての質疑:
川端(ACCJ):OECD加盟国中の主要国で周波数オークションを採用していないのは日本だけ。それで周波数の使い方が日本だけ特殊になるケースがある。その結果、日本でうまくいっても、そのまま海外にも通用しないという事態が起きている。
周波数のように希少性があるものを無料で特定の人たちに使わせても、有効活用しようというインセンティブが働かない(タダだから適当に扱う)。電波利用の活性化の手法としてオークションがある。また新しい帯域を確保し、利用できるスペースを広げることも重要である。
質問:アメリカもITU-Rのルールを無視はしているわけではない。各国の裁量に任されている部分もある。空いている周波数を活用するためにアメリカはどのような策を用いているか。そこから日本が学ぶべきことは何か。
川端:使いやすい周波数を有効利用するために取引ルール作りが重要。これはアメリカにとってもそれは大変なことで、様々な検討が実施されている。ルール作りはこれからで、FCCの役割が重要である。
相互理解のための基礎的情報の提供に関する質疑:
質問:対話をするにも、互いの制度(システム)を知らなければならない。しかし、実際はよくわかっていない。アメリカの制度などについて体系的にまとめたりしたのか?
フォスター:白書は、企業間対話を促進するために作成した。共同でWGを創設して、日米事情の比較をする必要もある。政府間対話も重要で、対話がないとそれぞれが別の方向に向かってしまい無駄が多い。
相互理解がなければFTA(自由貿易協定)など実現しない。これからが始まりで、その意味では原口タスクフォースのも重要である。
例えば、グーグルなどの大企業が巨大なインフラを作っているが、それを誰が監視するか。ルールがない方が技術は促進されるが、最小限のルールは必要である。しかし、そのルールが技術発展を阻害する恐れもある。こういったことは民間同士や政府間の対話で結論を得ていくべきである。
杉原:今回の白書では、アメリカの制度などについて体系的にまとめることまではやっていないが、いろいろな人から話を聞いている。アメリカの法体系をすべて日本に適用するのは無理である。アウトカムとしてインターネット・エコノミーを実現するシステムを日米双方で考え出すのは可能だろう。
国際機関の改革に関する質疑:
質問:ITU-Rの中で蓄積されている古い考え方を整理して、現代に対応できるよう変化させるべきではないか。そのために日米で協力すべきではないか。
川端:話し合う必要がある。しかし、すべてうまくいくとも思っていない。
山田:ベルヌ条約を現代に合うものにするための話し合いも必要ではないか?
フォスター:著作権問題は世界的に深刻である。インターネットは著作物の普及・侵害双方にとって最高の技術。官民、国内外で話し合わないといけない。
レポート監修:山田 肇
レポート編集:岡本 基
スケジュール
<日時>
10月28日(水曜日)18:30~20:30
<場所>
東洋大学・白山校舎・5201教室(5号館2階)
<資料代>
2000円 ※ICPF会員は無料(会場で入会できます)