行政 医療分野のICT化 森田博通厚生労働省医療情報企画調整官

日時:1月17日(火曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館2階 5202教室
東京都文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:森田博通(厚生労働省医政局研究開発振興課医療情報企画調整官)

森田氏の講演資料はこちらにあります 

森田氏は冒頭、講演資料に基づき次のように講演した。

  •   本年112日に、厚生労働省内に大臣を本部長とするデータヘルス改革推進本部が設置された。医療分野のICT化の対象は多岐に渡るが、患者・国民を中心に考え、2020年度に医療介護ICT本格稼働を目指すもの。2020年度を見据えて実装を進めていくよう省を上げて検討を進めていく。
  • 医療ICT化については、既に外部有識者会議の提言が出ている。日本再興戦略の中でも医療のICT化は大きな柱のひとつ。①データ活用の前提として医療現場のデジタル化・標準化、②ネットワーク化、③ビッグデータの活用が課題となっている。
  • 電子カルテの普及状況については、400床以上の病院では約8割。一方、診療所ベースでは3割程度。診療所は毎年廃止・新設が多く、新設のうち5~6割は電子カルテを導入しているため、診療所でも着実に導入が進んでいる。
  • 病院と診療所などをつなげる地域医療情報連携ネットワークが構築されており、最近特に増えている。しかし、これらが全国統一のインフラといえるかというとそうとは言い難い。全国規模への普及が課題となっている。
  • NDPDPC等、分析に利用可能なデータの収集は始まっている。データは民間活用も視野に入れており、民間への公表も始まっている。今後は、医療と介護のデータを繋げたり、データの民間活用を拡大したりするための検討も進めている。
  • 地域医療情報連携では、病院から診療所方向へのカルテ参照を可能とするシステム環境は広がりつつあるが、逆方向はまだ限られた地域での取組。双方向にするためには診療所もデジタル化を進める必要がある。
  • レセプトの電子化については、現在は7割強がオンライン請求となっており、電子媒体も含めればほとんどが対応済みと言える。オンライン資格確認も検討を進めており、そのためには全ての病院や診療所がネットワークにつながる必要がある。
  • 「医療介護関係者間の連携(ネットワーク)強化」「地域包括ケアシステムの整備」というのが医療介護提供体制構築の方向性となっている。地域包括ケアは、元々は介護分野から始まったが、今は医療も含めて、基本的な考え方となっている。
  • 平成29年度には医療計画の改定があり、介護保険の計画改定時期とも重なる。医療と介護の計画が同時に改定され、また、報酬も平成30年度は医療と介護の同時改定。医療介護の提供体制を改めて見直す重要な時期であり、このタイミングでネットワークの普及も進めたいと考えている。
  • 地域医療情報連携ネットワークの効果としては、診療情報が関係者間で共有されることにより、多くの情報を活用して適切な医療が実施できるようになる、地域の医療介護の人的ネットワークが広がる、検査・投薬の重複を減らすといった効果がある。ネットワークでの情報連携には患者の同意が前提。
  • ネットワークを継続的に運用していくには、初期投資だけでなく、更新費用、維持費用が問題。国や自治体も初期費用や運営面での支援を行っている。紹介状を電子的に情報提供する場合には、検査結果や画像情報などの情報連携について、診療報酬でも点数を加算するといった評価が今年度改定で導入された。
  • 医療に関するデータはそれぞれの医療機関が分散管理している。これを確実かつ効率的に繋ぐことが、患者に対する診療でも、ビッグデータの視点でも重要。そのために検討しているのが、医療等ID。過去の議論の経緯を踏まえ、マイナンバーとは別の医療に特化したIDを導入することとしている。医療等IDについては、2018年度から段階的運用、2020年からの本格運用を目指し、検討を進めている。
  • マイナンバーカードを使ったオンライン資格確認ではマイナンバーは使わない。マイナンバーカードのICチップの電子証明書の活用を検討している。しかし、マイナンバーが記載されたマイナンバーカードを医療機関に見せることに抵抗感があるのではという指摘がある。医療機関で使用するのはあくまでカードのICチップだけで、マイナンバーそのものは使わないということを理解してもらうことが重要になる。そのほか、AIの医療分野での活用についても検討を始めている。

講演の後、以下のような質疑があった。

電子カルテについて
質問(Q):未知の感染症が発生したときに診療所まで電子カルテが入っていると、保健所が自動的に感知して警告を出すといったことが可能になる。アメリカでは診療所の電子カルテを保健所に繋ぐと費用が補助される。日本でも補助を検討しないのか?
回答(A):電子カルテの運用が始まった頃に補助していた時期もあったが、現在、厚労省として補助はしていない。ただし、情報連携ネットワーク初期費用については財政支援を行っている地方自治体はある。
Q:医療情報カルテの本人開示の予定はないのか?
A:患者自身もカルテそのものを見せられても、その中で何を見たら良いのか分からないと思う。むしろ、必要な情報を整理して希望する患者・国民が確認できるような仕組みを有識者会議の提言も踏まえ検討することが必要と考えている。
Q:データの置場所としてクラウドの議論はあるか? 繋ぐのは簡単だが、セキュリティの問題もある。将来的な連携も考慮して、中核拠点をクラウドにするように政策誘導する予定はあるか?
A:既存の電子カルテや情報連携システムでクラウド型のものもある。セキュリティの確保を前提に、コストを下げられるのであれば選択肢になると思うが、導入に関しては、各病院の判断になる。有識者会議のプラットフォームの議論などはこれからの検討課題。
Q:診療所が10万あり、これからは、地域医療も診療所がメインになると思うが、電子カルテの普及率を上げていくためにどのようなことを検討しているのか。
A:この資料は平成26年度時点での意向なので、次回の29年度の調査では上振れしていると予想される。特に診療所は電子カルテの普及率はまだまだだが、新設の診療所の導入率は高い。なお、情報連携に関しては、レセコンを活用する方法もある。必ずしも電子カルテがマストではない。 

地域医療情報連携について
Q:トップダウンで進めるのか、ボトムアップで進めるのか?ボトムアップの場合、地域空白がたくさんできると思う。厚労省が義務化させるのか?その辺りの関係性について教えて欲しい。
A:ネットワーク構築については、地域レベルのネットワークの普及拡大と、全国規模のネットワーク構築の検討の両面があると考える。オンライン資格確認の本格実施を実現するためには少なくとも審査支払機関との間では全医療機関のネットワーク化が必要。どのように実現していくか検討している。
Q:利用者の利益や国民が喜ぶ話はあるのか?
A:具体的な現場の声を資料にいくつか事例としてまとめているが、例えば佐賀県のひとつの例では、大病院で検査して、結果の説明は、かかりつけ医が担当したという事例もある。大病院では検査して結果説明を受けるのに1日がかりになることから検査を受けることを躊躇していた人が検査を受けてくれたといった例が報告されている。
Q:医療ネットワークは二次医療圏、介護ネットワークは市町村。両者の間の圏域の違いはクリアできているのか?
A:ネットワークがひとつである必要はない。医療と介護が必要な範囲で繋げられるかが重要。例えば、岡山県の例では、医療連携は全県規模のネットワークであるが、在宅医療介護連携は市町村規模で運営され、必要な範囲でそれぞれのシステムの情報が共有される仕組みを構築している。
Q:連携するときに問題になるのがセキュリティ。厚生労働省はガイドラインを出しているのか? ガイドライン遵守を確認するための体制はどうなっているのか?
A:厚生労働省では、情報セキュリティのガイドラインを出しており、経産省や総務省も関連するガイドラインを出している。医療機関がガイドラインに従って個人情報を適切に扱っていただくことが基本だが、システム提供側も適切な対応が必要。 

医療等IDについて
Q:マイナンバーカードを保険証にすると被保険者番号が本人にも見えないことになる。被保険者番号が見えないことについてデメリットはないのか?
A:被保険者番号は残るが、マイナンバーカードでオンライン資格確認を行う場合に、被保険者番号をどのように確認できるようにするかについては、担当部署で検討中と承知している。
Q:今、マイナンバーを隠すように色々な所で言っている。そのため、いざそれを活用しようとしても利用する人が出てこなくて、結局、ほとんどの人が別のカード持ち歩くようになるのではないか?
A:前職(内閣府)でマイナンバーの広報を担当していたが、キャッシュカードの口座番号と同じで、マイナンバーはむやみに見せていいものではないが、必要な手続のみで使用するもので、マイナンバーを他人に「絶対に見せるな」ということは政府としては言っていない。マイナンバーそのものの使用とマイナンバーカードのICチップの使用がまったく異なることの理解を広げていくことが必要と考える。
Q:「医療等ID」の「等」には何が含まれているのか?
A:医療等IDの利活用分野としては、医療・介護、健康分野などを想定してユースケースを整理している。
Q:研究利用について地方自治体の個人情報保護ルールがまとまっていない。そのあたりはどう考えているのか?
A:これは医療だけに限らない話であるが、地方自治体の個人情報保護のルールはそれぞれの地方自治体が条例で決めるものとなっていることはご指摘のとおり。公立病院でも改正個人情報保護法を踏まえた対応が必要と認識。