日時:12月16日(金曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館1階 5101教室
東京都文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:三木浩平(総務省自治行政局地域情報政策室企画官)
三木氏は講演資料を用いて概略次のように講演した。
- マイキープラットフォームはマイナンバーカードを利用するサービスであるが、マイナンバー自体は利用せず、利用者自身が設定したマイキーIDを利用する。
- 既に、マイナンバーカードを利用した各種証明書のコンビニ交付は実施されており、交付できる証明書の種類は各自治体が決定している。
- 2017年7月よりマイナポータルを本格的に開始する予定で、これは国民向けのマイページとなる。国と自治体がオンラインで連携することで、自治体から市民に対するプッシュ型の通知(乳幼児予防接種のお知らせなど)や「子育てワンストップサービス」などが展開される。
- マイナンバーカードのICチップの空き容量部分を「マイキー」と呼び、これを利用したサービスがマイキープラットフォームとなる。
- マイキープラットフォームは3つの要素に利用できる。①マイナンバーカードを公的サービス(自治体の図書館や施設利用など)の利用者カードの代用として使う、②自治体ポイントプログラム(自治体で実施されている子育て支援ポイント、健康ポイント、介護支援ポイントなど)の業務システムとして共同利用する、③全国企業のポイントを自治体ポイントへ交換する。
- マイナンバーカードのICチップには公的個人認証(JPKI)のしくみが搭載されており、署名と利用者用電子証明書の2種類が入っている。利用者用電子証明書のシリアル番号に結びつけられて利用者が任意に登録したIDを「マイキーID」と呼び、このIDで「マイキープラットフォーム」にオンラインでアクセスすることになる。
- マイキープラットフォームには「ID管理テーブル」が作成されており、「マイキーID」を親番として、その利用者が利用している図書館の利用カード番号やその他の自治体施設の利用カード番号、商店街の利用カードの番号などを登録することができる。
- 図書館利用カードに活用するケースを例にすると、まず窓口端末でマイナンバーカードをカードリーダで読み込むと、利用者用電子証明書のシリアル番号が読み取られ、マイキープラットフォームにオンラインで参照をかける。マイキープラットフォームでは、シリアル番号でアクセスされたマイキーIDについて、それに紐づけられた図書館の利用カード番号が検索される。図書館の窓口端末に図書館利用カード番号が通知される。これにより、マイナンバーカードを提示するだけで、登録された様々な図書館が利用できるようになる。
- 図書館には、自動貸し出し機など、さまざまなシステムがあるため、それらでもマイキーを使うことができないか、主要な図書館システムの開発業者数社と協議中である。
- ボランティアポイントや健康ポイントなど、自治体の既存ポイントサービスをポイント管理クラウドで管理できるように準備している。1ポイント=1円は共通ルールにしたいと考えている。貯めたポイントの使い方は自治体がルールを決める。公的サービスに利用できるようにしたり、地元の商店街で商店街ポイントと交換して利用したりといった想定をしている。
- 商店街にポイントカードが無い場合は、二次元バーコードのあるポイント券を印刷するなど色々な方法が取れるように考えている。
- クレジットカードのポイントや航空会社のマイルなど全国レベルで実施されているポイントサービスで、そのポイントを地域ポイントに交換できるようにする。例えば、航空会社のマイレージであれば、航空会社のマイページにアクセスして、ポイント交換をメニューで選択するが、このメニューのひとつに地域ポイントへの交換を出してもらう。
- ポイントの移行時に自治体の経理事務が必要になるが、マイキープラットフォームには決済代行の仕組みも検討しており、カード会社からある自治体に1万ポイント移行された場合は、決済代行サービスがカード会社に請求し、ポイントに相当する金額を自治体が指定する口座に振り込むことを想定している。
- 地域のイベント期間中に交換する(県外から多くの観光客が訪れる祭りなど)とプレミアポイントがつくといった、観光プレミアムポイントサービスも検討している。被災地支援プロジェクトなど寄付に近い形のサービスも検討している。
- 全国ポイントを地域ポイントに交換したいというニーズがあるかという点では、交換レートを良くすることで、地域ポイントへの交換へのインセンティブにしたいと考えており、全国ポイントの事業者にお願いをしているところである。地域側も、魅力あるものを提供するよう検討してもらいたいと思っており、例えば、大規模なイベントでの最前列の席のチケットは、地域ポイントじゃないと購入できないなどといった工夫をすることなどが考えられる。
- 自治体側で準備が必要なのは、パソコンとカードリーダ(タイプBが読み取れるも)。ここに、マイキープラットフォームのソフトをダウンロードしてもらう形となる。自治体のアカウントをマイキープラットフォームに設定することで、利用可能となる。
- 現在、入札公告を準備しており、WTO案件となるため、2.5か月の公告期間となる。2017年2月から実証事業の環境設定を4か月ほどで行い、システムテストを経て、2017年8月より実証実験を展開する予定となっている。環境設定が4か月と短いが、クラウド等の標準パッケージ機能で実施する予定なので、十分な期間と考える。
- 全国ポイントの事業者で実証実験に参加するのは、8社(クレジット会社5社、航空会社2社、携帯電話会社1社)
講演終了後、以下のような質疑があった。
マイナンバーカードを用いる心理的な壁
質問(Q):マイナンバーは人には見せてはいけないと言われてきた。マイナンバーが記載されているマイナンバーカードを市中で利用することへの心理的壁をどのように突破するのか?
回答(A):マイナンバー制度について、あまり理解されておらず、従ってマイナンバーとマイナンバーカードの違いも十分認知されていない。マイナンバーそのものを利用することは制限されているが、この事業では、マイナンバーカードでアクセスできるマイキーIDを利用するということ。現在、各自治体や図書館の担当者に事前に説明に回っている。実証事業が開始される年度に入れば、一般向けに広報する予定である。関心を引くためため、キャンペーンが必要だと思っている。図書館窓口など公的サービスで利用することは心理的バリアが低いため、そこから開始したい。
Q:マイナンバーカードそのものを紛失しても個人情報が流失しまうわけではないことは理解しているが、紛失してから再発行までの時間が問題である。警察への届け出から再発行までの手続きを簡素化すべきではないか?
A:所管が違うためそれについては、コメントはできない。マイキープラットフォームでは利用者用電子証明書のシリアル番号を直接利用せずに、マイキーIDを設定する理由は、証明書は5年ごとに更新するため、そのたびに使えなくなってしまわないように工夫した部分である。つまり、マイキーIDはシリアル番号が新しくなっても引き継げる。また、マイキーID自体は自分で付番する任意の番号であり、変更もできる。
Q:マイキープラットフォームでは、個々のポイント利用の記録は保有できないとなっているが、ポイントの有効期限なども確認できないのか? 情報をビジネスに利用したいのではないか?
A:例えばカード会社から1000ポイント移したなどのポイント移行履歴情報は確認できる。地域ポイントでどの商品を購入したとか、図書館の貸出履歴といった消費や利用の情報は保有しない。
コメント(C):戦前の思想統制から、図書館の貸出履歴も思想に関わるセンシティブな情報と見る人たちがいる。貸出履歴によるリコメンドも問題になった。利用者側が持つカード側に貸出履歴を持たせるのはよいが、図書館のシステム側では貸し借りのトランザクションだけが管理されている。
A:マイナンバーカードに関係する事業なので、過敏に反応されることも想定して、慎重な取り扱いにしている。
Q:ICチップにマイナンバーが入っているのだから、マイキーを利用する際に、マイナンバーのデータを取ろうとすれば盗れるのではないか?
A:アプリを改造して、シリアル番号だけでなく、ICチップからマイナンバーも読み取れるようにすることは不可能ではない。ただし、マイナンバーを法律に指定されている用途以外に取得した場合は罰則が科せられる。しかも、マイナンバーそのものは、何の意味もない数字であり、盗ってもインターネットや個人が所有する情報端末では参照できない。マイナンバーにつながる個人情報(特定個人情報)は、専用のネットワークに接続された専用端末を、利用権限を与えられた職員が認証の元で使用しないと閲覧できない。図書館の端末からではマイナンバーのシステムにつながらないし、図書館職員のIDではアクセスできない。
マイキープラットフォームに対するニーズ
Q:マイキープラットフォームのニーズはどこにあるのか? 全国規模で、税金をかけてやる意味があるのか?
A:マイキープラットフォームは、マイナンバーカードや公的個人認証など既存のしくみをそのまま利用し、その上に構築する。また、個別の自治体用に個別のしくみを構築するのではなく、全国共同利用のしくみとすることで、廉価な利用料金でサービスを利用することができる。
Q:図書館カードを複数所持しているイメージになっているが、多くの人は、一番近い図書館のカードを1枚持っているだけである。図書館カードと体育館カードなら話は分かる。図書館の次のターゲットは何か?
A:博物館や美術館が想定されている。これら施設では、入場料を徴収しているため、ポイント利用も進めることができる。
C:住基カードは国民の利便性向上では評価は低かったが、行政のコスト削減にはメリットがあった。ニーズの話を聞いても、鶏と卵の話しになるのではないだろうか。
Q:民間が既にやっているサービスを国がやるのは民業圧迫ではないか?
A:民間のポイント移行サービスは、全国ポイントから別の全国ポイントに移行するものであり、全国ポイントを地域の商店街などで使えるようなしくみがない。また、この事業では、全国ポイントを自治体ポイントにはできるが、逆はない。民間との棲み分けはできると思う。
Q:マイキープラットフォームは自治体職員でもまだまだ理解できておらず、勉強会などを重ねている状況にある。特に経済課の職員にとっては、地域の商店街にどう説明するかということに頭を悩ませている。商店街にとってもメリットといえば、換金率になるかと思うが、そのあたりはどうか?
A:ポイントの交換率を良いと感じるか、悪いと感じるかは、個人の意識の問題になってしまう。カード会社のポイントをプレゼントに変えるのではなく、地域ポイントに変えたいと思わせることが重要である。また、ポイント制度を運用する場合、ポイント分を負債(引当金)として計上しなくてはいけない。クレジットカード会社のポイントは、一般には4割は使われないままとなっているそうで、このポイントを外に吐き出したいとクレジットカード会社は考えるため、地域ポイントへの交換率を良くしてくれるように協力してくれるのではないか。商店街にとっても、この事業への参加は、カードリーダの購入やインターネット接続料金ぐらいの小さい投資額で参加できる。観光プレミアムポイントやイベントポイントなどで地域経済に効果があることを見せていくことができればと思う。
Q:マイキーIDは民間利用できるのか? 図書館もツタヤが指定管理者をしており区別しにくい。
A:利用できる。基本は、地域の商店街などが想定されるが、それぞれの自治体ポイントの利用ルールを決めるのは自治体である。