科学技術振興機構社会技術研究開発センター「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域と、同研究開発領域の「高齢者の安全で自律的な経済活動を見守る社会的ネットワークの構築」プロジェクトが共催し、情報通信政策フォーラム(ICPF)が後援して、開催されたシンポジウムの概要は次のとおりである。
日時:9月11日(日曜日) 午後1時~5時
場所:全国町村会館 (東京メトロ永田町駅徒歩1分)
シンポジウムのプログラムなど詳細については、プロジェクトのウェブサイトをご覧ください。
講演者を含め117名が参加したシンポジウムでは、研究発表と総合討論の結果、以下の事項について意見が一致した。
- 判断能力が低下した高齢者の経済活動を支援し、経済的被害を防止するには、事前の対応として判断能力が低下する前に任意後見契約や見守り契約を結んだり、信託を設定し財産を受託者に委ねるのがよい。
- 遺言書を書くことが推奨されているように、事前に契約する必要性について啓発していく必要がある。
- 事前の契約がないままに判断能力が低下した高齢者には、事後の対応として法定後見制度によって対応することになるが、手続きは概して厳格であり、手続きの煩雑さや家庭裁判所の事務処理上の対応に限界がある、などの問題がある。
- 成年後見制度に対しては行為能力を制限するという仕組みについても批判が強い。
- もっと多くの人が簡易に利用できるように、成年後見制度を改善し、あるいは新たに意思決定支援システムを構築しなければならない。
- たとえば、高齢者が締結した契約について、一定の者の同意がなければ本人あるいはその者が取り消すことができる等の見解(高齢者取消権の主張など)があるが、高齢者の契約は、高齢者であるということのみによって取り消し無効にできるというように定める法律を制定するには無理がある。高齢者によって判断能力の状態はまちまちで、未成年者のように年齢で区切ることができないからである。
- なお、子ども(未成年者)の場合は、未成年者の制度(親権、未成年後見)が手当てされている。
- 以上の事前の対応、事後の対応のいずれにおいても、個人情報の共有が必要になってくる場合がある。判断能力が低下した本人がどのような場合にどのような支援を必要としているか、支援者・援助者間の相互の連携が求められる場合には、どのような内容の個人情報を共有することが必要になるかを明らかにすることが急務であろう。
- 個人情報保護法は、個人情報の取得をすべて禁止するものではなく、同意のない第三者提供などを規制するものである。
- そのうえ、緊急時には本人の同意を得なくても第三者提供できるとの例外規定が設けられている。
- ただし、個人情報保護法は民間機関に関するルールのみを示すものであるため、個人情報保護委員会が自治体等でも安心して情報共有できるようガイドラインなどを示すのがよい。
- しかし、例外規定を根拠に規制を逃れていくのは運用上困難な部分が多いことが東日本大震災時にも明らかとなった。
- そのため、判断能力が低下した人々に対する法律を別に制定するのがよい。
- たとえば、高齢者に対する医療介護連携に関する特別法を制定すれば、個人情報保護法の規定を超えることも可能である。
- そのためには、これら個別の事象に関する研究を進め、どのような支援が必要かを明らかにする必要がある。