メディア Media Concentration around the World:Analyses towards Conclusions Eli Noamコロンビア大学教授ほか

情報セキュリティ大学院大学、Columbia Institute for Tele-Information主催
公益財団法人情報通信学会協賛
特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム(ICPF)共催


月日: 1月21日(土曜日)
場所:情報セキュリティ大学院大学
参加費(会場費):無料
司会:山田肇

発表資料

こちらからご覧になれます。

セッション1:Media Concentration around the World

インド(Anuradha Bhattachrejee):

1991年以前に民間がビジネスを許されていたのは、新聞・雑誌・映画だけだった。このように政府の規制が強いというのがインド市場の特徴だった。
一方で市場の成長は急速である。1984年に280万世帯がテレビを所有していたのが、2008年には1億1800万世帯(普及率60%)に伸びている。またインドは多言語国であるため、たとえばIndia Todayという雑誌は英語のほか、Hindi、Tamil、Telugu、BengaliとMalayalamの5言語で出版されている特徴もある。
その結果、市場の開放とともにメディアの多様化が進行した。それを受けて、いずれも2008年に、新聞のHHIは500以下、雑誌は100前後、ラジオは2000以下、映画は3000弱いう状況にある。固定通信は6000。移動通信は1500。ISPは3000。
テレビ(地上、ケーブル、衛星の合計)は例外で、HHIは2004年には3500だったが、2008年には5500まで大きくなっている。無料放送は1チャンネルだけで、有料よりも人気があるからだ。
Media Metrics企業は1社しかなく、そこが、どのメディアに広告を出すか、コンテンツを流すかなどをコントロールしている。BCCL社などによるクロスメディア所有も顕著である。メディア規制には数多くの政府官庁が関わっている。

ポルトガル(Paulo Faustino):

市場規模は全体で671百万ユーロ。このうちテレビは356百万ユーロと半分を占めている。メディアを所有しているのは主に国内企業だが、Bertlemannなど例外もある。
新聞のHHIは3139(2009年)で非常に集中している。書籍も3017(2009年)。テレビでは国家が2チャンネルを保有、視聴者数の36%を合計で集めている。このためHHIは3435。有料放送のHHIは4342(2010年)で4社による寡占状態にある。ラジオは3726(2009年)。ISPでは3409(2010年)。メディアグループに分けて広告収入を元にHHIを計算すると、2010年で2272ということになる。
規制は三つの官庁で行われているが、Authority for Communications and Media Regulation Entityの集約化される可能性がある。これは市場の動向を考慮したものである。
質疑:HHIがインドよりもなぜ大きいかという質問に対して、ポルトガルは小さな国家であり、競争が成立するためのクリティカルマスに市場規模が達していないためではないかという回答があった。

タイ(Graham Watts):

予定されていたWongkitrungruangが欠席のため、急遽口頭で概要を説明。タクシン政権は国営放送を通じて、国民をコントロールしていた。東洋のベルルスコーニといってもよい。タクシン後の党派対立はメディアにも影響を与えている。国営放送も存在するが、軍の力が増し、今は軍保有のテレビ局が多く視聴されるようになっている。メディア企業の経営について透明性がなく、実際にだれが保有しているかわからないのが問題である。規制も政権の混乱を反映して揺れ続けている。

セッション2:International Summary and Interpretation

国際プロジェクトリーダ(Eli Noam)

国際プロジェクトでは28カ国の状況を調査してきた。データは収集されたが相互に整合性がない部分があり、まだ修正が必要である。とりわけ企業グループ(たとえばBertelsmannとRandom Houseを一社とするデータと別々に計算しているデータがある点)の扱いなどには問題は多い。しかし、各国それぞれで集中度を求めた結果から、世界レベルでの傾向が分かる。
世界レベルでのMajor Playerの力を示す指標(Corporate Global Power Index)として「国ごとのシェアの二乗を集計した値」を用いると、Google、News Corp、Time Warnerなどが影響力の強い企業とわかる。
外国企業がシェアを取っている国(foreign owenership)はアイルランド、アルゼンチン、エジプトなどで、公共(国営を含む)による支配(public ownership)は中国、エジプト、イスラエル、フランス。日本もNTTとNHKが存在するために第5位である。
総合的なHHIが高い国は南アフリカ、エジプト、中国、ロシア、メキシコ。HHIが低い国はスウェーデン、フィンランド。次いでイギリスとアメリカ。その理由を明らかにするのが課題である。
ISPでは日本やフィンランドが競争的。オンラインニュースは新聞市場よりも競争的。しかし、収益規模は新聞の数分の一。アナログで回っていた「かね」がデジタル産業に回るようにはなっていない。
3層構造モデルが全体を説明するには適切だろう。インフラは独占的でコンテンツは競争的。その間の二番目の層に、コンテンツアグリゲータ・ディストリビュータが存在。コンテンツアグリゲータ・ディストリビュータが大きなメディア企業である。ハリウッドですでに何十年も前から存在していた3層構造モデルが世界に広まりつつあるようだ。

セッション3:The Great Earthquake and the Media

Media Pluralism and Great East Japan Earthquake: from the perspectives of the functions of Public Service Broadcasting(市川、慶應義塾大学・NHK):

東日本大震災のメディア政策に対する教訓について、公共放送の機能の観点から提起した。まず、震災時のNHKの報道内容及び現場での取材者たちの対応を映像つきで説明した。次いで野村総研、受信料制度調査会等が実施した評価結果を紹介し、国民の間でNHKへの信頼度が向上したこと等を説明。この結果を支えたものはジャーナリストの熱意だけではなく、制度的にどのようにリソースを保障するかにもかかっていることを指摘した。
この事実を踏まえてメディアの多元性確保を議論した。関東ではテレビが非常に多く見られ、「テレビ市場」を画定したくなるところであるが、被災地ではラジオやネットの役割も大きく、単純に決められない。NHKではネットへの番組の同時配信等も行い、新しい媒体での機能発揮が観察された。ネットを主たる情報源とする人々も、「議題設定」と「世論認知」という伝統的なメディアの役割を認めており、ただ「民間放送と公共放送の二元体制の終わり」を主張するだけでは不十分で、どのようにその機能を担保するか、という議論が必要となる。この震災は、それを如実に示すものであった。
加えて、表現の自由に依拠する権利論的なアプローチ、人々をつなぐ社会関係資本的な要素も観察されており、今後の公共放送の機能が現出されているとも考えられる。

NAB-Japan’s Report on the Role of Broadcasting in the Great Earthquake(木村、民放連研究所)

震災時、民間放送は広告なしの放送をテレビでおよそ5日間、ラジオでは1週間から2週間近く継続し、人々に情報を提供し続けた。
被災地で実施した調査結果によると、ラジオと地域無線システム(防災無線)が震災発生当初の主な情報源だった。津波からの避難指示もラジオと地域無線システム(防災無線)から入手し、ネット利用は少ないかほとんどなかった。
避難所では口伝えの情報入手が多かった。ラジオは心理的な負担を解消するのにも貢献したと評価されている。1週間後でもネットはうまく利用されていないし、信頼されていない。ラジオへの接触時間と信頼度は震災の前後で両方とも明らかに増加したが、ウェブやSNSをはじめそれ以外のメディアについてはそういった傾向は見られない。
被災地で役に立ち評価されたラジオをより多くの世帯、事業所が保有するということが、防災という観点から重要である。

Yahoo Japan!’s Crisis Response to the Great Earthquake(別所、Yahoo Japan!)

Yahoo Japan!では、メディア企業としての社会的責任と考え、311の前から地震警報などはすでに提供していた。
震災直後から関連情報を集めたページを作成して情報提供に努め、同時にインターネット募金のページを作り6日間で10億円以上の寄付を集めた。翌日には社内にタスクフォースを組織し、4月初めまで70人が24時間体制で働いた。
13日からは節電、計画停電に関する情報を提供。また、NHKニュースの同時放送を開始した。
Yahoo Japan!はオリジナルコンテンツを作る会社ではなく、ネット上にあるコンテンツを編集し使いやすい形で提供するという方針に徹して情報の整理と発信に努めた。その結果、3月14日には一日の総ページビュー数が2365百万に達した。
また、ガソリンスタンドの営業箇所や携帯電話の開通地点の表示といった編集コンテンツ中心のサービスを追加に加えて、ショッピングサイトから被災地に商品を届けるボランティア購入、少年ジャンプの無償提供、チャリティオークションなども提供し、震災からの復旧に役立つサービスを提供する努力をしている。
被災地に関する情報提供については、官邸ホームページに直結するバナーをトップページに置いた。また、単に官邸ホームページに接続するだけでなくキャッシュすることの許可も得て官邸ホームページのアクセス負荷の軽減にも協力した。他の公共機関のサイトのキャッシュも積極的に進めた。被災地からのアクセスとそれ以外からのアクセスに対応してトップページの表示を変える仕組みも導入した。
これからも復興に役立っていきたい。被災地の中小企業がショッピングページを作る際の負担を軽減する。被災前・被災後の写真を収集し、記録として残す。そのほか、出来る限りのサービスを提供している。
ネットは震災時に一定の役割は果たしたが課題も多い。ネットは万能とは考えてない。何にどう役立ったのかをきちんと分析して今後の参考にしてもらいたいと考えている。

まとめ(山田、東洋大学)

震災時、被災地ではテレビとラジオ(電力が遮断された地域)で役立った。しかし、市民一人一人の個別のニーズに応えるには不可能で、それはネットが補った。
テレビ・ラジオといった個々のメディアにおける多様性と、テレビとネットといったメディア間での多様性の両方が、膨大な情報が求められているときには必要である。

国際会合と公開セミナー全体の総括(林、情報セキュリティ大学院大学)

サポート組織に感謝する。
国際会合のタイトルには当初は「結論」という言葉があったが「まとめに向けての解析」に変更した。Noamの講演にあったような解析を進める最後の一歩が重要である。これからも国際プロジェクトメンバーは努力しなければならない。

内容:

Saturday, January 21st, 2012
Room#303/304, 3rd Floor, Institute of Information Security
Chair: Hajime Yamada (Toyo University)
9:30-11:00 Media Concentration around the World:
(1) India, Anuradha Bhattacharjee (Mudra Institute of Communications, Ahmedabad)
(2) Portugal, Paulo Faustino (Portuguese Catholic University)
(3) Korea, Daeho Kim (Inha University)
(4) Overarching Observations Eli Noam (Columbia University)
11:00-11:10 Break
11:10-12:40 The Great Earthquake and the Media
(1) Media Pluralism and the Great East Japan Earthquake – from the perspectives of public service broadcasting, Yoshiharu Ichikawa (Keio University)
(2) NAB-Japan’s Report on the Role of Broadcasting in the Great Earthquake, Mikio Kimura (NAB-Japan Research Center)
(3) Yahoo Japan!’s Crisis Response to the Great Earthquake, Naoya Bessho (Yahoo Japan!)
12:40-13:00 Closing Remarks

Thursday, January 19th, 2012
15:00~17:00 Visit to Newspark (The Japan Newspaper Museum) (optional)
Adjoining to Nihon Odori Station (Minatomirai Line)
18:00~20:00 Welcome Reception at Gaiety Hall, Iwasaki Museum
Fashion Show by the Yokohama f College
Aperitif & Refreshments

Friday, January 20th, 2012
Room #303/304, 3rd Floor, Institute of Information Security

9:00~9:15 Welcome and Opening Remarks
Koichiro Hayashi (IISEC), Kiyoshi Nakamura (JSICR) and Eli Noam (Project Leader)
9:15~10:45 Country Report Update by New Faces
Moderator: Patrick Badillo (Universite de la Mediterranee-Aix Marseille)
Australia: Rodney Tiffen (University of Sydney)
Netherland: Joost van Dreunen (Columbia Univ.) by video
South Africa: George Angelopulo (University of South Africa)
10:45~11:00 Break
11:00~12:30 Regional Trends: Presentation and Discussion
Moderator: Dominique Bourgeois (Universite de Fribourg)
Europe: Patrick Badillo, Jean-Baptiste Lesourd (Universite de la Mediterranee-Aix Marseille) and Dominique Bourgeois
Asia-Pacific: Kiyoshi Nakamura (Waseda Univ.) and Koichiro Hayashi (IISEC)
Western Hemisphere: Eli Noam, Liwei Wang and Jason Buckweitz (Columbia University)
12:30~13:30 Lunch
13:30~15:00 Overarching Observations 1: Concentration and Regulation; A Chicken or Egg Problem
Moderator: Daeho Kim (Inha University)
(1) Media Concentration and Ownership Issues from Western Perspective: Robert Picard (The Reuters Institute, Department of Politics and International Relations, University of Oxford)
(2) Mergers, Ownership and Regulations in Asian Perspective : Yu-li Liu (National Chengchi University)
15:00~15:30 Break
15:30~17:00 Overarching Observations 2: Media Concentration and the Impact of the Internet
Moderator : Koichiro Hayashi
(1) Large v. Small Countries : Min Hang (Tsinghua University) and Alfonso Sanchez-Tabernero (Universidad de Navarra)
(2) Developed v. Emerging Economies : Giuseppe Richeri (University of Lugano), Anuradha Bhattacharjee (Mudra Institute of Communications, Ahmedabad) and Nagla Rizk (American University, Cairo) by video
(3) Supply v. Demand-side : Kiyoshi Nakamura and Rodney Tiffen
17:00~18:00 Wrap-up and Beyond
Project Leader : Eli Noam (Columbia University)
18:30~21:00 Conference Dinner at the Yokohama Bay Sheraton Hotel and Towers
Dinner Speech: Dr. Yoshiyuki Koseki, President and CEO, NEC BIGLOBE, Ltd