概要
デジタル・コンテンツの流通促進はますます重要な政策課題になりつつあります。情報通信政策フォーラム(ICPF)では、平成20年度第4回・第5回セミナーと連続してこの課題を取り上げてきました。
この課題については財界の関心も高く、日本経済団体連合会でも知的財産委員会著作権部会で検討が進められています。そこで今回のセミナーでは、著作権部会の部会長を務めておられる和田洋一氏に「著作権制度の複線化」と題して講演していただくことにしました。
<講演>和田洋一氏(株式会社スクウェア・エニックス代表取締役社長)
<問題提起>林 紘一郎(ICPF理事長・情報セキュリティ大学院大学副学長)
<モデレータ>山田 肇(ICPF副理事長・東洋大学教授)
配布資料
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レポート
1.提案の本質
・今回の、経団連著作権部会の提案の本質は、具体案を目指すものではなく、今後の検討の方向についての論点整理です。
2.過渡的制度としての複線化
・我々は、当面の過渡的な制度として、現行制度も含め、複線を前提とした制度として検討すべきと考えています。
・現行著作権法が環境に対応しきれなくなっていることは明らかです。しかしながら、あるべき社会の姿が描けていない(社会規範のコンセンサスがない) 以上、いきなり新著作権を制定というのも乱暴です。
・他方、パッチ当てを繰り返した結果、グロテスクな姿になってはいるものの、現行著作権法制度において解決されている事も多くあり(映画制作におけるワンチャンス主義等)、これを全否定するのも同じく乱暴です。
・従って、論点を整理して、当分の間、現行著作権法も含めたところの「複線」で走らせるのが適当と考えています。
・複数の理念を並走させる中で、各々の理念の間の関係を考え、あるいは馴染ませ、その上で新法を議論すべきであると考えます。 パッチ当てが効かないポイントを真正面にとらえようという点で抜本的ですが、新法構想というレベルでの抜本的なものではありません。
2.制度の選択は著作権者に委ねる
・これは、前述の1全体、特に「社会規範のコンセンサスがない」という現状認識と整合しています。
・余談ですが、いわゆるネット法の応諾義務につき、ネット法論者は争点が手法にあると思っていらっしゃるようですが、私の反対理由はここにあります。
・世間を見渡しても、あまりにもネット社会出現の重要性が軽視されすぎていると懸念します。「私有財産が認知されてから世界がどのように変わったか。」「国民国家の形成に義務教育がいかに機能したか。」ネット社会を考えるとき、このレベルの議論が必要だと思っています。
3.原著作者→権利代表者→被許諾者
・コンテンツが原権利者の参加を得て制作される段階と、それが利用・許諾される段階の2段階を峻別して議論すべきだと考えます。この点につき、極めて初歩的な錯綜が見受けられます。
4.その他
・フェアユースは言葉自体の定義をすべきだと思います。そもそも権利制限の議論を丁寧に行った上で尚必要な「フェアユース」とは何かを検討すべきであって、単語が便利すぎるあまり、思考停止を誘発していると危惧します。
・デジタル社会におけるプログラムの強さを認識しておく必要があると思います。DRMに限定するものではなく、原理的にデジタル・フォーマットはプログラムでしか「解凍」できないので、いい加減な立法を行っても、完全に実行されてしまうという危険さを認識した上で制度設計すべきだと思います。
レポート監修:山田 肇
レポート編集:山口 翔
スケジュール
<日時>
1月30日(金)18:30~20:00
<場所>
東洋大学白山校舎 6号館3階 6311教室
東京都文京区白山5-28-20
<参加費>
無料