情報通信政策フォーラム(ICPF)は、情報通信学会平成25年度学会大会シンポジウムを協賛した。約100名が参加したシンポジウムの概要は以下の通りであった(文責:山田肇)。
月日:6月22日(土曜日)
時刻:14時20分~17時40分
場所:東洋大学白山キャンパス2号館16階「スカイホール」
塚田祐之氏(NHK専務理事)が「NHKテレビ放送60年とこれから」と題して基調講演を行った。
- 戦前計画された東京オリンピックがテレビ放送研究のきっかけであった。戦争によりオリンピックは中止となったが、1964年の東京オリンピックからテレビ放送が発展した。
- 東日本大震災は情報伝達メディアとしてのテレビの価値を明らかにした。NHKでは今、震災等の際に放送が中断しないように、東京と大阪放送局が互いを代替できるように、といった機能強化を進めている。
- 視聴者の視聴習慣が変化している。週に1日以上録画再生する割合は30代女性では60%に達している。放送時刻に合わせるのではなく時間を有効に利用するためであって、保存をするためではない。インターネットで動画を見る人もほぼ半数、若い層では8割を超える。見逃した番組を見るという理由のほか、検索してみられるというのが36%となっている。自分の都合がよい時間に「カスタマイズ視聴」するのが最近の視聴者である。
- テレビに関する情報や感想を読んだり書き込んだりする人が22%、若年層では4割である。同じ好みや趣味の人と情報を共有でき、みんなでテレビを見ている気がするといった理由である。テレビがコミュニケーションの『ネタ』になっており、これを「つながり視聴」と呼ぶ。
- NHKではハイブリッドキャストとスーパーハイビジョンに取り組んでいる。ハイブリッドキャストはHTML5コンテンツを同時に連携して提供し、ネットと融合してテレビを楽しむものである。これが進めば、テレビは単に放送番組を楽しむものではなくなる。横の画素数は現状1920(2K)で、これを4K/8Kに伸ばす技術開発が進んでいる。放送だけでなくデジタルシアターでも利用できる。日本が先行している技術である。
- インターネット配信が自由でないというのが制度上の課題である。ネットで提供できるのは既放送番組等だけであり、ハイブリッドキャストも今の制度では実現できない。NHK on Demandも既放送番組等だが、別勘定(利用者負担)で提供している。この費用には放送とは別扱いの権利処理費用も含まれる。
次いで、三氏がそれぞれショートプレゼンテーションした。
田村和人氏(フォアキャスト・コミュニケーションズ常務取締役)
- 高精細度化(4K・8K)と放送通信同期方式(ハイブリッドキャスト)が今後の技術の焦点。4K・8Kについては楽観的にみている。パナソニックからは20インチの4Kタブレットも出てきており、いろいろな分野で応用がある。
- ハイブリッドキャストはHTML5。Internet of thingsが進む中でテレビも無縁ではいられない。通信との連携は止めようがない。Engagement(番組との結びつき)が重要でソーシャルテレビ(視聴者発の情報)が動き出す。今の地デジでもソーシャルテレビへのトライアルが出てきている。つながり視聴は顕著である。
- テレビ視聴は主として受動的で専念度を求めないということはこれからも不変だが、端末はモバイルに拡大し、プラットフォームも動画サイトに拡大してきている。番組というよりもファイルとして扱われ、ネットサーフィンのように動画を消費する時代である。
建山雄旗氏(ヤフー株式会社 メディアサービスカンパニーユニットマネージャ)
- 映像配信サービスGyaOは広告主、権利元、利用者などの協業の仕組みであり、その仕組みのうえで無料、有料コンテンツを提供している。テレビドラマの無料配信(課金VODの販売促進が目的)などをトライアルしてきた。GyaOはテレビ視聴を補完し、視聴を促進するものである。
- リアルタイム検索とは、TweetとFacebookへの投稿をリアルタイムで検索できるサービスで、世界中のつぶやきを2秒後に表示できる、ハイコストのサービスである。Buzz度でランキングを提供する。テレビ視聴と同時に、セカンドスクリーンでその瞬間の感動と盛り上がりを共有する利用が増えているがリアルタイム検索からわかってきた。今Buzzっている番組が可視化され、見に行ける、といった利用が出てきている。
岡本成男氏(総務省情報流通行政局放送政策課企画官)
- この数年、総務省は放送政策に関する諸課題(認定放送持株会社制度等)、放送コンテンツの海外展開、4K・8K、ラジオネットワークの強靭化について検討してきた。
- 認定放送持株会社制度はマスメディア集中排除原則の特例として導入されたものだが、ローカル局を傘下に収めている事例はない。そこで、1/3と1/2の間の議決権保有を12の枠内で可能にするといった、ローカル局を傘下にできる方向での見直しを進めている。
- インターネット配信、ハイブリッドキャストの制度整備を進めるべきという方向である。しかし、NHKの法人としての性質から、無限定というのは適当ではない。
その後、三友仁志氏(早稲田大学教授)をコメンテータとして迎え、山田肇氏(東洋大学教授)をモデレータとして議論が行われた。主要な意見を示す。
ネット配信について
- カスタマイズ視聴が進む中ではフルにネット配信が利用されるようになるべきだし、そのような方向になるのは時間の問題である。
- テレビの持つ、電波で、かつ同報という性質は、特に報道では大切である。生のものは生で伝えるべきであり、そのような視点ではテレビ放送の主な形態は不変である。
- 受信料支払い者の立場からは、受信料の一部がネット配信に使われるのはおかしくない。受信料制度との整合が問題で、放送の定義そのものを今後見直せばNHKに許される範囲も拡大していくだろう。しかし、法制度は保守的という側面もある。
- 若者のテレビ離れを防ぐという点ではネット配信を進めるべきであり、受信料ではなく負担金と考えるという案もある。
つぶやきを放送することについて
- 放送の中に自由な言論空間を入れるのは無理である。そういう意味でソーシャルテレビには限界がある。ツィッターから、放送できるメッセージを選択するのは緊張感のある仕事である。テレビの外で勝手に盛り上がるのとはわけて考えるべきである。
- それでも放送の中でつぶやきを表示するのは、多様な意見を紹介するという側面があるからだ。
- 公共性・同報性はYahooトピックスのようなネットメディアでも重要である。ログに忠実にサービスを提供すればよいわけではなく、フィルタリングには人的コストをかけている。
- ソーシャルメディアでは、フィルターバブル(近い人の意見しか聞かない、同じ主張が繰り返されるなど)が起きる。これも、放送の中に自由な言論空間を入れるのが難しい理由である。
- ネットで、リコメンドサービスを徹底していくとフィルターバブルになる。公共性・俯瞰性・検索性をどう加えるかはネットでも課題である。
放送の中立性について
- テレビが基幹メディアと見なされている状況では中立性を守るべきである。
- 総合編成は6系列あるが、実際の放送内容には偏りが感じられる場合もある。法制度でがんじがらめに規制しているわけではなく、放送事業者の自律に委ねているのである。
- オルタナティブであるネットでは、右も左も全部載せるのが原則である。一方で、ユーザの反応のよかったものを一番上に載せ、それ以外は新着順するなど、編集者としての意図も入っている。
- 政府による規制を求めるのは消費者団体である。もっと言論の自由と多様性を求める方向に社会を変えていく必要がある。
シンポジウムの模様(正式版)は、情報通信学会誌に掲載されます。