日時:2018年4月18日(水) 17時~19時
場所:衆議院第二議員会館多目的会議室
主催:情報ネットワーク法学会、インターネット投票研究会
共催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
協力:ヤフー株式会社、株式会社VOTE FOR
登壇者(敬称略)
国会議員:日本維新の会・浦野靖人、希望の党・柿沢未途、自由民主党・鈴木隼人、立憲民主党・中谷一馬、民進党・牧山弘恵、公明党・三浦信祐、自由民主党・山下雄平
有識者:湯淺墾道(情報セキュリティ大学院大学)、河村和徳(東北大学)
ゲスト:大胡田誠(弁護士、日本盲人連合)、妹尾正仁(ヤフー株式会社)、市ノ澤充(株式会社VOTE FOR)
コーディネーター:山田肇(ICPF)
以下の記録の責任は山田肇にある。
湯淺氏は冒頭挨拶で「投票所での電子投票が可能になって以降ICT技術は大きく発展し、セキュアな投票環境実現という課題も解決できる見通しが出てきた」と語った。次いで、鈴木衆議院議員が基調報告を行った。主な内容は次の通り。20代の投票率の低下傾向から将来を予測すると、今の20代が60代になるころには全有権者で計算した投票率が30%台になる可能性がある。組織票の力が強くなり、有権者が意識しないうちに民主主義の根幹が脅かされていく。スタート台となる若者の投票率を上げていくことが大事で、若手議員で検討を進めてきた。主権者教育での「模擬投票」の推奨、スウェーデンの「若者協議会」にならった施策の展開などを提案したが、その中にインターネット投票も位置付けられる。若手議員が提言したのち、総務省にネット投票を検討するための委員会が立ち上がり、自民党でも被選挙権年齢の引き下げの検討が始まっている。これらの一連の活動が、若者の政治への関心の高揚、政治の自分事化につながっていけばよい。
続いてパネル討論が行われた。パネルディスカッションでのネット投票の可能性と課題に関する発言を整理すると次のとおりである。
ネット投票の可能性について
- ネット投票によって全年代で投票率が向上し、高齢者、離島、在外日本人に対しても役に立つ。
- 在外日本人の有権者登録には非常に手間がかかる。まずは在外日本人向けネット投票を始めてはどうか。過疎地でもネット投票となると対象地の選定が困難だが、在外日本人を定義するのは非常に簡単である。
- 東日本大震災の後、体育館に投票所が設置されも、実際に投票できる投票所は元の居住地といわれ投票できない問題が起きた。熊本地震の時には共通投票所を設置したが、その時は誰が投票済みであるかを確認するシステムが問題になった。こういった問題を解決する手段の延長線上にネット投票がある。
- ネットに触ったことがない人も一定数存在する。そのため、当分は併存させる必要がある。しかし、ある程度浸透した段階で将来的にネットに統一する、といったロードマップで考えないといけない。投票所でも電子投票を導入すれば、ネット投票と併存できる。
- 費用面についてネットが高いとする人はハード面の整備を想定していると思うが、それらを整備した上でも圧倒的にコストはネットの方が安い。1回システムを組んでしまえば、その後の運用は安価だ。
ネット投票の課題と解決策について
- なりすましや投票の強要が問題である。これに対して、エストニアでは何度でもネット投票できるようにして、強要されても後でこっそりと入れ直せるようにしている。「なりすまし」については、マイナンバーカードを利用することで技術的・法的な問題はクリアできる。本人確認には顔認証も利用できるかもしれない。
- 改竄の危険性は常に指摘はされているが、改竄で選挙結果が変わるという事例はない。何故なら、選挙予測等の事前情報と大きく違う選挙結果が出れば、その時点で明らかおかしいと分かるし、改竄防止の技術も大きく進歩しているからである。むしろ、暗号化技術などをどう組み合わせて使うか検討する段階にある。
- サイバー攻撃で投票者の投票行動が外部に流出する危険への対応が必要になる。
- 世代間ギャップの検討が求められる。インターネット投票をできない人たちと若者の間にギャップがある中で導入するには、幅広い意見を基に検討し、役所の判断だけで進めないことが肝要である。
- 選挙終盤での候補者の行動がその後の投票行動に大きな影響を与えるという現状があり、情報が少ない段階で投票して情報が集まった段階では変更できないといった問題も生まれる恐れがある。再投票には、本人確認の問題をどうクリアするかという課題がある。
- ネット投票のためのハード面の整備を誰が担当するのか、誰のお金で行うのか。
- 候補者名を筆記する今の方式では読みにくい字をどのように判別するか、という問題があり、投票側、集計側、双方にとって正確な結果を得ることができる方策を検討するべきである。
- 法的には現在でも投票所で電子投票できるようになっている。しかし古いタイプの政治家は投票の際に候補者の名前を書いてもらうことに意義を見いだしていて、「画面にどうやって名前書くのか?」といったレベルから議論をはじめる。全てをネットに移すということは現状不可能だと思う。
- 現在は白票を投票できるが、ネット投票・電子投票にも白票を用意するのか。利便性についても、本当にネットの利便性が高いかどうかはよく考える必要がある。
- 郵便局やコンビニで投票できる環境を整えるべき、という意見もある。郵便局等で皆が遠目で投票を見守るといった体制を整えて、自由意志での投票を担保する案も可能性がある。
- 紙で投票するシステムの効率化も可能である。コンビニ等の投票所も増やしていく必要がある。期日前投票を導入しても長い行列で時間がかかる場合があり、改善しなければならない。
- 少数派の意見をどう取り込んでいくかいう問題がある。例えばネット投票の方式について全国的には賛成が優勢であっても、過疎地等の意見を考慮しないで導入してよいのだろうか。
次にゲストが講演した。大胡田氏は「障害者は総計では約864万人もいるが、様々な理由により投票の機会が奪われている。ネット投票で現行制度の問題を解決できるかもしれない。また選挙公報が画像PDFで、読み上げできないのは改善が必要である。」と語った。妹尾氏は「選挙公報の情報をテキスト化してサイトに掲載する「聞こえる選挙」を提供している。選挙情報の格差を是正したい、という思いから始まった活動である。誤字脱字についてはトリプルチェックする体制を整えた。将来的に公報がテキスト化されれば「聞こえる選挙」の役目は終わる。しかし、ヤフーとしてはそれでよいと考えている。」と語った。市ノ澤氏は、情報の提供の仕方ひとつとっても標準化が重要と話した。氏名と通称をどう表示するかなど、自治体によって方針が異なる。選挙公報をテキスト化すると、公報に記載した文字の大きさによって、音声変換した際の読み上げの時間に差が発生し、公平性の問題がある。公報の作り方(フォーマット)も考えてもらわないといけない、と指摘した。
後半のパネル討論では選挙情報のオープン化について議論した。
選挙情報のオープン化について
- 情報化の進展は公職選挙法の規程をすでに超えている状態にある。法律自体を現在の状況に適合する形に整え直さないと行けない。しかし、公職選挙法の改正は全党合意という政治的なハードルがあり、これはネット投票解禁よりも高いハードルかもしれない。
- フォーマットや字数制限などの条件を付けて、テキスト化に進んでいけばよい。
- 任意でも構わないので、テキストデータの提出を求めてもいいのではないか。さらに画像を入れる場合は説明キャプションのテキストデータを付けてもらうといった工夫である程度はクリアできる。テキスト化を前提とした公報を作る場合にも、世の中には作成を支援するツール・サービスは色々ある。
- そもそも、選挙公報がどれくらい見られているのか、という疑問もある。一方で多くの大学生から「政見放送をみた」という言葉をもらうこともある。公報と放送をどのようにリンクさせていくか、そういうことも考える必要がある。
- テキスト化を全員に強制するのは難しいと思うので、選択肢のひとつとして提供すればよい。障害者へのサポートについては、小さい選挙であればあるほど公報の電子化は効果が高いと思う。一方で、大きな選挙や選挙区については、様々な情報が様々な角度からネット・報道を通じて提供されるので、行政で対応を準備するよりは、メディアが有用である。
- 公報のテキスト化についてだが、現在HPの届け出について任意にしているが、HPを開設している人としていない人の間で平等がある、という意見は出てきていないで、制度的・技術的には問題無いと考える。提出必須化については、アメリカなどではその方向にすすんでおり、日本もいずれはその向になっていくだろう。
- 一連の流れを管理する選挙の現場では、候補者データと投票の連続性の観点から議論することは重要である。ICTの導入は選管毎にバラバラになると、瞬間的にはICTの導入によって不平等が拡大する可能性がある。国全体としての対応も議論しなければならない。
最後に各議員が「ネット投票は誰のために、何のために行うのか?」ということについて短く所見を明らかにした。
浦野:投票の機会を最大化して、民意のあるべきところ正しく知るため。
鈴木:投票機会の平等化、健全な民主主義の維持である。
中谷:現在の選挙制度に不備を感じている人の全てを含め、民意を政治の世界に届けるためム。
三浦:全ての人に投票するチャンスを提供するため。
山下:投票する人が少なくなると代理制の根幹が崩れる。それを改善するために投票のバリアを外していくことが大事である。
柿沢:日本ではネット投票を行うためのインフラは整っている。法定得票数ギリギリで当選していく人も居る現状を打破し、民意が政治に反映される社会を作っていく。