主催:ブロ-ドバンド・アソシエ-ション
共催:情報通信政策フォーラムほか
日時2020年10月14日(水) 13:00~16:00
実施形式:V-CUBE本社会議室からのライブ配信
フォーラムの内容は概略次の通りである(文責:山田 肇)。
森川博之東京大学大学院教授と佐藤光史工学院大学学長のあいさつの後、以下の講演があった。
谷脇康彦総務省総務審議官:データが循環することで社会問題を解決していく「データ主導社会」が展望される。高齢者の生活を支えるためには、健康医療介護のデータが連携され、循環することが必要になる。総務省では、その観点に立って、認知症患者をAI/IoTで支えるシステムの研究開発などを進めている。
長澤 泰工学院大学特任教授:COVID-19で病院も個室がよいとなったが、足利赤十字病院などを除き多くは対応していない。患者を大量に押し込む病院という施設設計を見直す必要がある。病院では急性期の治療を行うが、その後は自宅に戻るのがよい。ナイチンゲールも、医師・看護師を頼るのではなく「自分自身で快復する過程を自覚させる」のが重要と言っている。介護も同様で施設介護よりも在宅介護のほうが、対象者は家族や社会とのつながりが維持され、幸せな最期を迎えられる。
秋山弘子東京大学客員教授:人口減少社会はイノベーションの宝庫である。80歳以上の「ちょっとした」支援を必要とする高齢者が増えていき、支援を与えるビジネスに可能性がある。しかし、ICTを押し付けるのは適切ではなく、利用者を中心に据えるべきである。この考えを元に、行政・企業・大学と住民が協力して、住民の問題・行政の問題・企業の問題を解決するリビングラボの仕組みが出来上がった。鎌倉リビングラボはその典型例である。
秋山正子暮らしの保健室室長:訪問介護事業を行ううちに、だれにも相談できず孤立している高齢者が大勢いることに気付いた。そこで、「暮らしの保健室」を作った。「暮らしの保健室」は安心して過ごせる場所、よろず相談所であるが、介護サービスを提供する施設ではない。対象者の力を引き出すのが重要で、それが介護する人を支えるのにもつながる。「暮らしの保健室」は全国50か所以上に広まっている。
羽生和人綜合警備保障株式会社課長:ALSOKではセキュリティに関する多様な事業を実施しているが、高齢の契約者から「ホームセキュリティもよいが自身を見守って欲しい」という意見が出た。そこで、緊急通報サービスと介護サービスを組み合わせ、見守り事業に挑戦することにした。Bluethoothのタグを靴などにつけて居場所を見守る加古川市の実験はその一例である。京都では認知症の人にやさしい異業種連携事業に参加している。将来は、対象者のQoL向上に役立てば成果報酬が得られるといった公民連携モデルも考えられる。いずれにしろ低所得の高齢者が多いので、どのようにしてビジネスとして成立させるかは課題である。
山田 肇日本規格協会フェロー:高齢社会に対応した国際標準化活動が行われている。ISOでは各国共通の政策課題についてガイドラインを作成する活動が進められ、先進国だけでなく、途上国を含めて38か国が参加している。IECでは高齢者の自立生活を支援するシステムの標準化が進められている。この標準化の特徴はまずユースケースを揃えたことである。それを基にアーキテクチャが考えられ、適合性が評価されるといった順番に作業が進んでいる。一部のユースケースに費用対効果があることも分析された。ブロードバンドアソシエーションでは高齢者の生活を支えるICTについて研究会を起こすが、IECが整理したユースケースを起点にするのがよいだろう。
山田氏の講演資料はこちらです。
講演終了後、参加者からの質問に答えて、登壇者が議論した。その結果、高齢者が安心して暮らせるように地域として支えるのが重要という共通意見に達した。また、生活を支えるにはICTが利用できるが、技術を表に出すのではなく、高齢者に受け入れてもらえる形で提供することが重要であり、リビングラボなど生活者中心の実証が大切であるとの結論になった。