日時:11月25日(水曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館1階 5101教室
文京区白山5-28-20
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
講師:佐々木道代(株式会社セールスフォース・ドットコム執行役員)
佐々木氏は、資料を用いて概略次のように講演した。
- わが国の中小企業ではクラウドの利用は進んでおらず、関心がない・知らないが小企業の七割を占める。
- しかし、先進的に導入した企業、流体計画、ツルガ、本川牧場、陣屋などでは、顧客の満足度が上がり業績が向上する、事業に計画性が増す、などの成果を生んでいる。
- 「経営者のIT/クラウドに対する食わず嫌い」は、先進的な成功例を伝えることで、経営者自らが決断するように変わる。総務省には、成功事例の動画を全国に広める必要を訴えている。
- 「ITは金がかかる」という懸念がある。システムを自前でそろえると大きな初期投資が必要になるが、クラウドならスモールスタートで、初期費用は最小限になり、毎月少額の利用料を支払えば済む。経済産業省に、毎月の利用料についても補助対象とするように要望している。
- 上手に使いこなした導入先が、自社開発したアプリをセールスフォースのマーケットプレイスで販売した実績がある。また、IT系の中小企業が帳票管理などのアプリを販売するためにマーケットプレイスを利用している例もある。マーケットプレイスを用いることで、グローバルな市場に容易に進出できる。
講演後、下記のような質疑があった。
マーケットプレイスについて
Q(質問):老舗旅館(陣屋)が導入し成功したことが、陣屋のアプリを旅館業界に売るきっかけになったのではないか?
A(回答):陣屋は将棋名人戦などで有名な老舗旅館である。そこでクラウド導入に成功したということが、全国の旅館での利用につながった。中小企業はたくさんあるが、影響力があるところが導入することで大きく変わる。
Q:マーケットプレイスには全国展開や世界展開が容易にできるという利点があるが、実践例は多いのか?
A:IT系の中小企業がマーケットプレイスに出展した事例はあるが、陣屋のような事例はまだ少ない。
Q:導入が進むと企業の淘汰が起きてくると思う。そのようなころになったら、セールスフォースはどのように収益を上げるのか?
A:グローバル化を目指していきたい。マーケットプレイスでワールドワイドに展開している。また、弊社はいつでも最新の情報や技術を準備している。顧客が新しいことを考えることで、我々も先に進むことができる。
Q:英語がわかれば、マーケットプレイスを通じて、海外と直接ビジネスことも可能か?
A:可能である。
中小企業での導入
Q:営業マンは顧客情報を囲いこみたがるのではないか。それで、クラウド化が進まないということがあるか?
A:それは、現実に問題である。しかし、売り上げが伸びない、販路を開けない、といった背に腹は代えられない事態が起きると、導入しようということになる。トップが号令をかける必要がある。
Q:なぜ、中小企業でも容易に導入できるのか?
A:ASPの場合、導入したらそのまま使うものことが多い。弊社のサービスでは、項目を追加したり、削除したりが容易である。顧客の要件を聞いて、弊社の営業が設定できるといった場合もある。
Q:企業のサポートとは、具体的には何を行っているのか? 具体的にやることが決まっているのだが、どうやってIT化すればよいのかわからないという声があるが?
A:コンサルティングはあまりやっていない。これは、外部のパートナー企業の仕事である。弊社では、実際に使っているユーザを紹介することもある。
A:弊社のサービスは、トライアルとして一月無料使用できる。企業によっては、自らこれに挑戦する。もうひとつはパートナー企業。SIerに初期構築をやっていただく。セールスフォースはツールを提供し、また、問題発生時の対処や保守を中心に行っている。
Q:陣屋以外は、地方のSIerと取り組んでいるのか?
A:地方のパートナー企業育成に非常に力を入れている。近くに相談できる人がいないと、導入支援が難しい。とはいえ、地方にたくさんいるわけではないので、必要に応じて東京のパートナー企業を紹介している。クラウドなので、電話と画面共有でセットアップすることも可能である。
Q:アプリ開発には、どれくらいの労力が必要なのか? ノウハウが必要なのか?
A:セールスフォースの製品を学ぶためのコースを提供している。それを受講してから、作ってもらう。プラスアルファで作るとうことは、また、業務プロセスの中身がわかっていないといけない。凝ったアプリを作れば3か月くらい、シンプルなものであれば3日くらでできる。なお、マーケットプレイスに載せるには、セールスフォース側で審査をし、それをクリアしなければならない。
公共機関での導入
Q:「千葉レポ」のような事例は多いのか?
A(参加した千葉市職員から):「千葉レポ」登録ユーザは3000弱。役所に昼間来るのは、女性が半分、高齢者が4分の1だが、「千葉レポ」は8割が男性。通勤途中で道路の不具合を発見したと送信できる。今まで市政に関わってこなかった人たちが関わるようになったことが最大の効果である。他の市町村でも検討しているところはあるが、多くはない。
A:一時的な給付金の執行のように、特定の短期間に配布するため、その期間のみ用いるといった場合にクラウドを考える自治体は多い。静岡県ではクラウドを防災状況に初めて用いた。道路情報を、GPS機能を用いて管理している。47都道府県の4分の1に広まった。
C(コメント):役所には多くの業務システムがある。それを前提とすると、現状では、クラウドはアディショナルなプラスアルファの業務に利用される程度である。自治体によっても方向性は異なる。関西の政令指定都市は道路管理業務を削減するためのしくみを導入したが、クラウドではなく独自方式で行ったそうだ。
Q:医療介護連携などにも利用できるのではないか?
A:医療介護の情報は機微な情報だが、企業で多くの部門が協力して顧客を管理するのと考え方は同じである。コニカミノルタが弊社のシステムを利用して訪問介護のしくみを作り、既にいくつか利用されている。
Q:行政の縦割りはクラウド利用で改善されるのか?
A(参加した千葉市職員から):業務縦割りでシステム調達がされている。市民目線で見直そうということで、ワンストップ窓口が生まれつつある。千葉市の場合、700のうち140の手続きがワンストップになる。そうなると、それぞれのベンダーで構築したそれぞれの業務システムを横断するシステムが必要になる。