共催:情報通信政策フォーラム(ICPF)、ウェブアクセシビリティ推進協会(JWAC)
日時:5月30日木曜日18時30分から20時30分
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
講師:
デジタル活用共生社会実現会議報告と実現への道筋 犬童周作総務省情報流通振興課長
討論:情報受発信でのウェブアクセシビリティの課題 渡辺隆行東京女子大学教授(JWAC理事長)
司会:山田 肇(ICPF理事長、JWAC理事)
定員:40名
冒頭、犬童課長は資料に基づいて次のように講演した。
- わが国は高齢化が進行しており、高齢化率は2065年に4割に近づくと予想されている。多くの高齢者は就業意欲が高くこれに応えていく必要がある一方、虚弱化が進行していくとともに、その高齢の期間もより長期に及ぶようになる。障害者総計860万人と高齢者等を合計すると日本国内でUD(ユニバーサルデザイン)を求める人々の数は膨大である。
- 男女共同参画が推進されて女性就労M字カーブは解消されつつあるが、課題は残っている。在留外国人は増加する一方で、彼らをいかに社会に包摂するかも課題になっている。
- 他方、猛烈な速度で情報通信技術は革新を続けている。ウェアラブル端末(IoT)を使って高齢者の心拍などをモニターし、適切に介護することも可能になってきている。関連のベンチャー企業も生まれている。さらに、第五世代移動通信がサービスイン直前だが、超高速・低遅延・多数同時接続性を活かして多様なサービスが提供できるようになると期待されている。
- このような中、AI(人工知能)の進化も著しい。人間が画像を見ると脳が活動するが、脳活動を解析してどんな画像を見ているかをある程度は再現できるようになってきた。遠隔ロボット等を利用すれば、寝たきりの人も店頭で接客できるサービスも出始めてきている。めがね型のカメラをかけ、カメラで通行する人や車、自転車等を検出し、その情報を視覚障害者に伝え視覚障害者が自律的に外出できるようにする実証も行われている。
- 高齢者、障害者、女性、外国人などの課題を情報通信技術で解決し、多様な人々が共生する社会を作りたい。そのため、総務省と厚生労働省の大臣政務官が共宰して「デジタル活用共生社会実現会議」が昨年11月に設置され、3月に報告がとりまとめられた。なお、同会議の下に設置された電話リレーサービスWGだけは継続検討中である。
- 報告の主なポイントの一つが「デジタル活用支援員」である。地域のNPOやICT企業の退職者などが高齢者や障害者に寄り添って、例えば、高齢者であれば移動弱者、交通弱者、オンライン行政手続きなどの各課題に応じ、スマホ等のICT活用して解決していくための支援を考えていきたい。教室で教えるだけではなく、顔見知りになった地域の支援員が対象者の自宅で教えるといったことも共助の世界としてつながっていくことを期待している。技術進歩が急速なので、最新動向を支援員の間で共有できるポータルサイトも構築したい。
- AI活用は個々人の状態に応じた機器やサービスの提供を可能にする。今まではサンプルの平均値を出して、それに合う機器やサービスしか提供されなかったため、たとえば折角の補聴器も人によっては使いにくいといった事態が起きていた。これからはIoTやAIで一人ひとりの聴力(音の強度だけではなく、周波数感度なども含めて)に合わせた補聴器が提供できるようになるし、海外では開発も行われている。
- しかし、そのためにはAIが学習するデータが大量に蓄積されていなければならない。そこで、様々な障害者等の障害の状況や困りごとを共有できる障害情報共有プラットフォームの構築を構想している。企業はこれを閲覧することで個別の事情がより深く理解できるようになり、新製品やサービスの開発の気づきにつながっていく。製品のよい点・悪い点も共有プラットフォームに掲載され、個々人が自分に合った製品を選択する際に参考にできる。これが、報告の第二の主要点。
- 第三は、個々の機器サービスがアクセシビリティ基準のどの内容に対応しているかを共通のテンプレートで自己宣言する仕組みの構築。政府調達の要件にもこの自己宣言の仕組みを参考にしていくことも考えている。
- 報告には、このほか、地域ICTクラブの全国展開、多様な人々の就労支援、多言語対応とオープンデータ化などが盛り込まれた。
講演後、次のような質疑があった。
デジタル活用支援員について
Q(質問):支援員を資格化してはどうか。それによって支援員も技術知識をアップデートするだろう。
A(回答):資格化までは念頭にないが、地域ごとのルールは作る。それも併せて支援員制度への認知を高め、支援員を利用する障碍者・高齢者等を増やしていく。
Q:字幕で教える支援員も生み出していただきたい。
A:その通りである。支援員は多様なコミュニケーション手段で支援するべきだ。
実現への道について
Q:机上の空論にならないか心配だ。大風呂敷を広げるのではなく、少しずつ機動的に(アジャイルに)進めてほしい。
A:今日話したことを一気に実現しようとは考えていない。少しずつ進めて社会に定着させていきたい。
Q:今日の話は総務省だけでは実現しない。
A:経済産業省、厚生労働省などとも協力して報告を実現させていく。
Q:データの共有化は極めて重要で、是非進めてほしい。
A:視覚障害者団体は視覚障害者のニーズしか知らない、というような状況を変えていきたい。他の障害を重複して持っておられる方もいるし、他の障害者のニーズを知ることで相互理解が進むのも大切である。
中長期的な課題について
Q:政府調達でアクセシビリティ対応を強制するといったところまで進まないと状況は改善されないのではないか。
A:会議でも法整備を進めるべきという意見が出た。議員立法という話も聞くが、実効性を伴うには閣法も政府全体で検討していくべき。ただし、閣法を提案するには社会の意識を変革していく必要があり、今はそれに向かっているところ、と理解して欲しい。
Q:障害者自身が権利を強く主張しなければ法整備は進まないのではないか。
A:その通り。一方で、講演したように多様な機器が利用可能になり、ベンチャー企業も誕生している。これらを使いこなすことで、障害者の権利が満たされていくという側面もある。実現会議は報告の中で後段を強調している。
第二部では渡辺氏の司会でウェブアクセシビリティについて討論が実施された。