主催:情報通信政策フォーラム(ICPF)
日時:9月4日金曜日18時30分から20時30分
場所:ワイム貸会議室四谷三丁目
東京メトロ四谷三丁目駅前、スーパー丸正6階
講師:
仁木孝典 情報通信総合研究所上席主任研究員
水野秀幸 情報通信総合研究所主任研究員
司会:山田 肇(ICPF)
仁木氏の講演資料はこちらにあります。
水野氏の講演資料はこちらにあります。
冒頭、仁木氏は概略次の通り講演した。
- 最新のICT事情を分かりやすく解説した季刊誌『インフォコム』を、有識者に配布している。新型コロナ感染症の蔓延という事態を受けて7月号はウィズコロナ・アフターコロナにおけるICT活用について記事を載せた。今日の講演は記事に沿うものだが、5月に執筆したので、執筆後の変化にも言及する。
- 世界的な新型コロナ感染拡⼤への対応を受け、ICTツールやICT環境が、オフィスに集えない状況下での業務継続に重要な役割を担うことが改めて認識された。現場やヒト、モノとの関わりが小さい業務はテレワークが可能で、「要請」に応じて、在宅勤務等に切り替えられた。
- 同期間に、リモートアクセス(会社に置かれたデータやソフトウェアに遠隔からアクセスするツール)、コミュニケーション(多拠点間でコミュニケーションを成⽴させるWeb会議システムやチャットといったツール)、ペーパレス化(⽂書類を電⼦化し、どこからでもその⽂書を参照することを可能にするツール)等、テレワーク⽤ICTツールへの注⽬が⾼まり、利⽤が⼀気に進展した。
- テレワークが難しいとされてきた領域でも新たなソリューション・利⽤シーンが登場。切れ⽬ない事業継続への努⼒の賜物といえる。しかし、ICTツールの選択肢は多数あるため、⾃社にとって最適な製品・サービスを選び、使い慣れておく必要がある。平時から活⽤していたかどうかで、「要請」への対応に差が⽣じた。
- 緊急事態宣⾔解除後、様々な活動は、コロナ以前の⽔準で再開、もしくは、頻度を落として再開中であり、完全⾃粛ムードは減ってきている。しかし、逆戻りはあり得ない。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」としないことが重要になっている。
- 7⽉に閣議決定されたIT新戦略(世界最先端デジタル国家創造宣⾔官⺠データ活⽤推進基本計画)は、新型コロナにより社会のあらゆる⾯で価値観の変容が⾒られていることを前提に、対⾯・⾼密度から「開かれた疎」、⼀極集中から分散、迅速に危機対応できるしなやかな社会への移⾏が必要であるとしている。その上で、「デジタル強靭化社会」の実現を目標として設定し、「業務のデジタル化」は不可逆的な潮流になっている。
- ICTツールは、「どこからでも業務を継続できる」を⽀える存在となり、「その場でなければ業務ができない」領域は減っていく。「リアルに集うこと」に価値をどう⾒出すかで、オフィスの意義は変わり、同時に、⾃宅の意味も変わってくる。事業継続や成⻑には、ICTツールの徹底活⽤、デジタル化を前提とした業務の抜本的な⾒直しが不可⽋である。
続いて水野氏が概略次のように講演した。
- 新型コロナウイルスに対抗する緊急事態宣⾔により、外出⾃粛を余儀なくされた市⺠は、ICTやオンラインの特性を活かした新たなコミュニケーションを消費スタイルに取り⼊れた。
- オンライン動画は、政策の若年層への普及に⼀役買った。4⽉23⽇、⼩池百合⼦都知事は、4⽉25⽇から5⽉6⽇までを「いのちを守るSTAY HOME週間」として、それまで以上の移動や外出の⾃粛に関する協⼒を要請した。東京都サイトの東京動画の閲覧数は少ないが、東京都に協力してSTAY HOMEを呼び掛けるYouTube上のヒカキンの動画は閲覧数が40万を超えた。
- 休業を強いられた各種スクールの新たな展開の場として、オンラインサービスが活⽤され始めた。多様なオンラインイベントとユーザのマッチングを実現するPeatixはこの間に成長した。休業要請を受け、ヨガ教室がオンラインレッスンに切り替える等、多彩なイベントやレッスンのオンライン化が進み、新たなマッチングの機会が創出されている。
- オンラインスクールも広がりをみせ、学校でも遠隔授業が進んでいる。ネット上の中学・高校への進学を考える子供たちも増えている。N高の生徒数は、現在は約1万4700人に増えている。
- 住宅展示場を巣ごもりで内覧できる「VRタウン」など、ARやVRを活⽤することで現地訪問が不要になるような新たな情報提供スタイルも注⽬された。不動産業界では、賃貸住居を中心にオンライン内⾒、オンライン重説(重要事項説明)が進んでいる。
- ⾮接触のフードデリバリーの実現等、キャッシュレス決済も大きな役割を果たした。これらのICTは平常時からの利⽤拡⼤を促進すべきであるといえよう。
講演終了後、以下のような項目を中心に質疑討論が行われた。
- 現場やヒト、モノとの関わりが大きい業務でもこれからはICTの利用が進んでいく可能性がある。遠隔医療では、血圧や脈拍などのバイタルセンサに加え、iPhoneを利用したデジタル聴診器なども生まれている。金沢市の「ケア科学センター有松ステーション」のように人工知能(AI)を活用すれば、介護が効率化し、入居者の満足度が向上し、人手不足が深刻な介護業界の働き方改革につながる。老人ホームでのICT活用は感染症クラスタの発生を防ぐ効果がある。
- シヤチハタが複数のPDFファイルに電子印鑑を自動で連続捺印するアプリを発売した。このアプリはリアルな印鑑(シャチハタ印)の市場を食う。しかし、印鑑をなくそうという動きが高まる中で生き残るために、このようなアプリは不可欠だった。このように、伝統的な企業も変革の波にさらされている。
- 官庁系は、地方公共団体を含めて、ICT利活用に遅れている。旧時代的なセキュリティやICT操作に不慣れな幹部の存在が遅れの原因である。職場からの書類持ち出しを禁じるという理由で、ウェブ会議にも職場からの参加を余儀なくさせられる。セキュリティを確保できるリモートツールの存在などが知られていない。個人情報保護条例にあるオンライン結合の禁止なども、ICT利活用を阻害する。昔の文化、ルールを変えていく必要がある。
- 業務継続のためにはICT活用が不可欠という講演だったが、公私ともに、今後の事業ではICT活用が不可欠と考えるほうがよい。「業務のデジタル化」を不可逆的な潮流にする必要がある。
- 生活系では、VR内覧やフードデリバリーへの関心は薄れつつある。日常生活の中には、コロナ前に戻るものもあり、この半年間注目されてきた新サービスがそのまま成長していくとは限らない。しかし、ネット動画視聴やヨガのようなオンラインイベントのように後戻りしないと考えられるものもあり、どんなサービスが成長してかについては、注視が必要である。