シンポジウム「高品質なヘルスケアデータとエコシステムの構築」

主催:株式会社国際社会経済研究所(IISE)・アクセシビリティ研究会
協賛:特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム
開催日時:2026年3月16日(月曜)

148名のオンライン参加登録、会場参加登録により、シンポジウムが実施された。

1 基調講演「医療DXの推進に向けた政府の取組」(木下栄作 厚生労働省医政局参事官(医療情報担当))

  • 医療・福祉がより少ない人手でも回るためにはデータヘルス改革が不可欠で、医療DXは医療データの活用により医療自体と人々の生活を変革することである。
  • 政府は全国医療情報プラットフォームを中心に据えて、医療DXを推進している。電子カルテ情報共有サービスについて個人情報保護法の本人同意を不要とする特例法を定めるなどによって、医療DX施策は前に進みつつある。
  • 電子処方箋システムはおよそ9割の薬局に導入され、月に15000件程度も「飲み合わせの警告」ができるようになっている。
  • 電子カルテは診療所への導入率が55%と低い。このため、診療所向けの簡易な医療情報共有アプリも開発中である。また、電子カルテはクラウド型にしてセキュリティを高めようとしている。電子カルテの標準化も進めるように努力を重ねている。
  • 医療機関が遵守すべき情報セキュリティを法律で定め、定期的な検査も実施している。検査で見つけた穴に対策する補助事業も進めている。
  • 医療と介護の連携について質問があり、接続を進めようとしているとの回答があった。

2 特別講演「藤田医科大学が牽引する医療DX・AIの社会実装」(湯澤由紀夫 藤田医科大学副理事長)

  • 藤田系列だけで4病院に185システムが動いており、全部が同一ベンダなのに情報連携できていないという課題を、三年前に見出した。この例が示すように、医療情報システムは部門ごとにサイロ化し、肥大化している。それらを国側の電子情報システムに繋ぐのは容易ではない。
  • 藤田内の情報システムを国側の電子情報システムに繋ぐハブ機能としてFR-Hub機能を開発した。それがMedical Intelligent gatewayである。接続コストを大幅に低減して、様々な情報提供に利用できる。また、大学にある医療DBをLLMに与えて臨床研究に利用するなどのAI活用も進めている。
  • セキュリティのためにはゼロトラストが重要で、ゼロトラストの成熟度を米国CISAで外部監査を受けた。まだ未成熟であることが判明して、費用対効果も評価しつつ、改善を進めている。
    注:ゼロトラストとは「信頼しない、常に確認する」を原則に、社内外のネットワーク境界に関係なく全てのアクセスを一貫して厳格に管理する設計思想
  • カルテは医療について記録するものだが、AIを活用することで「知的カルテ」に昇華できる。たとえばB型肝炎に関わる複雑な検査プロセスをAIに学習させると、肝炎については非専門の医師でも知的カルテから重要な情報を得られるようになる。
  • 藤田の仕組みをオープン化し、さらにブラシアップしていくために、Health Data Architecture Consortiumを立ち上げた。
  • 医療従事者はDXを受け入れているかとの質問。たとえば看護師の退院サマリー作成が効率化するなど、医療従事者も満足している。次には外科手術時の記録負担などを効率化する仕組みを作るなど、医療従事者の負担を軽減していきたいとの回答があった。

3 講演「新さっぽろにおける医療を軸とした新しい街づくり」(下手 彰 大成建設株式会社設計本部建築設計第五部室長)

  • 少子高齢化によって衰退しつつあった新さっぽろに、学校と医療を軸にした新しい街づくりを進めた。駅直結で雪でも外に出ないで済むコンパクトシティの中核に三つの病院を位置付けた。
  • 魅力的な街には公共空間の整備が大切で、複数の事業者で共創するのがよいといった発想で、街づくりを進めた。三病院の敷地それぞれはそれぞれの所有物だが、一部を地域に公開するというハイブリッドシェア型を採用した。これによって、シームレスな公共空間が生まれた。
  • 地域の魅力を高めるために、病院が連携して体のチェック、体づくりを行うイベントなども実施している。これによって地域住民ともつながり、まちなか集積医療の拠点になっている。
  • その他、エネルギーの安定供給を図る施設、検体検査などを共通に実施するセンタなども設けて、三病院が必要とする機能を共有するようにした。北海道ではブラックアウトがあったが、三病院のオペレーションは滞らなかった。
  • 病院が「地域と共に生きる」方向に動くように、ワークショップを開催し、イベントを共催する等を進めた。三病院がもっと連携する方向への仕掛けも進めている。リハビリ担当者による体づくり運動は、地域住民が病院への認知を高めるとともに、三病院の担当者の交流機会にもなっている。看護部長同士の交流も図っている。

4 講演「医療分野と経済安全保障法改正」(遊間和子 株式会社国際社会経済研究所主幹研究員)

  • 国家・国民の安全を経済面から確保するための取組が経済安全保障である。経済安全保障促進法、重要経済安保情報保護活用法などが制定されてきた。
  • 経済安全保障の対象はインフラを主としているが、これに医療も加えようと政府は(今週から)動き出している。
  • 高品質なヘルスケアデータを、セキュリティを確保し、トラストを醸成して活用していくことによって医療DXが進んでいく。
  • しかし厚生労働省の調査によると、Chief Information Security Officerが医療情報に関連した情報を持っているケースは少なく、事業継続計画(BCP)を策定している医療機関も半数にとどまる。ネットワーク機器にセキュリティパッチを適用しているとの回答も100%には達していない。
  • このような状況を踏まえて、基幹インフラの対象に医療機関を加える方向に政府は動いている。経済安全保障の対象となることで、医療機関等がデータ連携していく社会が見えてくる。人々のトラストが醸成されることも、医療データ流通のエコシステム形成に資する。

5 まとめ「ボーダレス連携によるヘルスケアDXの推進」(山田 肇 東洋大学名誉教授/アクセシビリティ研究会主査)

  • ボーダレス連携には法律、業務、組織の壁を越える必要。しかし、それぞれには長い歴史があり、歴史の中で最適化(部分最適化)が図られてきた。部分最適化してきた業務や組織に「連携しよう」と声をかけるだけでは、連携は進まない。
  • 互いの専門領域が混ざり合う学際的なコミュニケーションが重要。異なる組織に属していた構成員の間での相互理解、用語の標準化などを進めよう。
  • 部分最適化された組織のトップの意識変革も大切で、法律的な手当てや外にいる専門家がきっかけを与えることで連携は動き出す。
  • その先で、部分的なシステム間での相互接続性、相互運用性の確立などを進める、ともかく、関係者間での相互理解の促進はすべてのケースで前提である。
  • 全体最適化のための「継ぎ目合わせ」は早ければ早いほど容易で、部分最適化すればするほどハードルは高くなる。細部の連携調整にはデジタル技術が追い風になる。デジタル技術を利用してデータを基に連携するのがよい。ボーダレス連携の評価指標には、デジタルデータから得られるエビデンスが活用できる。
  • 移行に関わる時間と費用への理解:時間と費用への投資について人々の理解を促進し、協力を得る施策が求められている。