オンラインセミナー「デジタルでアップデート:町会ツールで圧倒的な情報伝達力を実現しよう」 薮野 繁 株式会社シーピーユー執行役員

開催日時:2024年7月23日火曜日 午後7時から1時間程度
開催方法:ZOOMセミナー
参加定員:100名
講演者:薮野 繁 株式会社シーピーユー執行役員
司会:山田 肇・ICPF理事長

薮野氏の講演資料はこちらにあります
能登半島地震時の町会ツールの利用状況資料はこちらにあります
講演ビデオ(一部)はこちらにあります

冒頭、薮野氏は概略次のように講演した。

  • 株式会社シーピーユーは1982年創業で、パソコン用建築CADソフトを始めとする、ソフトウェアパッケージの制作・販売が主な事業である。
  • 新規事業開拓の過程で取り組んだのが「結ネット」である。町内会加入率は低下傾向にあり、役員のなり手は不足している。共働きをしている若年層世帯は町内会の伝統的な運営に大きなギャップを感じており、このままでは加入率はますます低下する。
  • 自然災害は増加し、線状降水帯などが多発している。それに関わる情報はネットにあふれているが、本当に必要な「近くの情報」を探すのはむずかしい。
  • 今こそデジタルを活用して「時代に合った」地域組織運営に変革する時である。そのために、「結ネット」を開発した。
  • 最初は石川県野々市市のある町内会に導入された。町内会の意見で「結ネット」を改善していった。その結果、口コミで隣の町内会でも利用されるようになるというように、ボトムアップで普及していった。今では28都道府県の945の団体で、10万人以上に利用されている。
  • 「結ネット」は自治会等地域組織の運営支援を目的に開発したクラウドサービスである。平時には、回覧板に変わる情報伝達手段として町内会の運営に利用される。災害時には安否確認に利用できる。「日常あっての非常」をコンセプトに、日常は自治会活動に、いざ非常時には安否確認に使うことで地域内共助を支援するサービスで、特に町内会役員の負担軽減を主目的に開発された。
  • 徹底的に地域組織に特化し、それぞれの地域組織が自らの運営に合わせるカスタマイズができる。しかし、基盤は全国共通で全国で利用できるシステムとして開発された。地域組織には、町内会、地区連合、市役所等があるが、それぞれが、それぞれの「結ネット」の管理責任を担うボトムアップ型分散システムである。利用者からのフィードバックで継続的に改良していることで、全団体で利用可能な状況を作り出している。
  • 「結ネット」は「個人」ではなく「組織」を基点とすることで。責任ある情報発信と共有を実現している。「個人」を基点とするLINEとは大きく違う。主要四機能は、連絡網機能、グループウェア機能、一斉配信機能、災害時機能である。これら機能を横断的に搭載するからこそ、地域におけるワンストップアプリを実現できる。
  • 日常は町内会から行事案内を送り、住民が参加登録するといった使われ方をする。災害時には住民の安否情報が一元的に集約される。責任者の「非常事態宣言」で、利用者の画面が安否確認画面に自動に切り替わる。平時には世帯単位で利用するが、災害時には利用者個々が本人の安否を発信し、「安否状況確認」画面で利用者相互の状況をリアルタイムで確認できるようになっている。高齢者や子供は家族や支援員、見かけた方が代理で発信する。発信場所は地図で確認できる。
  • いざというときに困らないように、災害訓練を想定し、個人情報の表示を調整できる「訓練モード」を搭載している。災害訓練の状況はNHKのニュース「クローズアップ富山」でも紹介された。
  • 能登半島地震の際には「結ネット」安否確認モードが石川県、富山県で利用された。「元日ということもあり、災害対策本部を設置できない状況であったが、結ネットを活用し校下住民の安否確認はスピード感をもって行えた。その後に未読・未回答者だけを抽出することで、その方たちへの個別対応もスムーズに行えた。」といった感想も得られている。
  • 発災後は、地震に伴う被害状況の把握や、危険な箇所の写真/地図を周知し二次被害を未然に防止するといった活動に「結ネット」が利用されている。また、相互に町内会と住民が情報を共有することで、迅速かつ確実に被災者がサポートできるようになった。地震に伴う避難所の開設・変更・閉鎖の案内も簡単にできた。
  • 以上説明したように、「結ネット」はデジタルの力で町内会活動をアップデートし、若い世帯の加入にも役立っている。そして、能登半島地震の際には発災時から発災後まで多様に活用された。

講演後、次のような質疑があった。

質問(Q):「結ネット」では個人情報はどのように管理しているのか。
回答(A):その質問は、「結ネット」を説明する際に必ず受ける。先ほど説明したように「結ネット」は町内会が自らの運営方針に沿って利用するものである。したがって、個人情報管理方針は導入する町内会が決めるものである。
Q:今日の講演で印象深かったのは、町内会だけでなく、地区連合、市役所、あるいは社会福祉協議会というように階層を超えて情報が共有できる点である。しかし、市役所や社協の職員はITリテラシーが低い。ITが使えない人にどう対応するのか。
A:全く使えない方は「要支援者」として扱う。スマホは持っているが、ログインやパスワードが理解できない人にはそれらの情報をQRコード化して紙で渡し、QRコードでログインできるようにした。社協の職員の場合には、多くは日常にLINEを使っているので、抵抗感なく利用できている。
Q:見守り等にも利用する場合、個人名はどのように扱っているのか。
A:「結ネット」管理者はだれがアクセスしたかわかる。高齢者に興味深い情報を送れば、それを閲覧した高齢者がわかり、見守りにつながる。通常「結ネット」では世帯主が家族を登録するが、民生委員は担当している住民を家族として登録するといった使い方もできる。そうすれば災害時には家族として安否確認できる。さらに、イベントへの参加登録などでは誰が申し込んだか管理者はわかるが、住民相互には申込者の一覧は見えないような設定もできるようになっている。
Q:「結ネット」はいろいろなことができるが、そのために導入を検討する人々が途方にくれるのではないか。
A:「結ネット」で重要視しているのは管理者である。「町会長が管理者というのはやめてほしい」と伝えている。デジタルにくわしい人、少なくとも嫌いではない人を管理者にしてもらう。導入時には必要最低限の機能にしておく。使うにつれて、たとえば「子供会活動も加えたい」というような要望がでてくる。そのような要望に沿って機能を追加していく。管理者の意思で機能を追加していくと、管理者は「自分のもの」として「結ネット」を扱うようになっていく。
Q:高齢者が「結ネット」で集会を知り、家から出るようになったというような話はあるか。
A:細部までの把握はしていないが、回覧板よりも発信数が増えていく傾向がある。発信数が増えていくということは、「結ネット」の価値が町内会で認められたということだから、イベントへの参加も増えていると想定できる。
Q:安否確認の盲点は不在の人。離れた場所で働いている、家族で外出したといった人たちは、自宅に訪問しても安否はわからない。「結ネット」には遠隔でも安否がわかるという価値があるのではないか。
A:その通りである。それに加えて、能登半島地震の際には帰省した家族にも役立った。出勤をせざるを得ない市役所職員の家族の見守りにも使われた。「結ネット」は多様な利用方法が可能である。
Q:「結ネット」はどのようにして普及していっているのか。導入をどのように支援しているのか。
A:コロナ後は市町村からの相談が増えたが、コロナ前から町内会からの相談が続いている。「結ネット」の広報宣伝はしていない。1日に2件ほどの相談が来る。相談に応えていくうちに実験しよう、利用しようということになって導入に進んでいく。