イベント「ここまで来たAIロボット」 谷川民生産業技術総合研究所ウェルビーイング実装研究センター長

開催日時:2025年8月29日金曜日 午後2時から2時間半程度
開催場所:産業技術総合研究所臨海副都心センター別館(江東区青海2丁目4−7)
講演者:谷川民生ウェルビーイング実装研究センター長

ICPF会員・非会員18名が参加して実施されたイベントでは、谷川氏の講演の後、研究現場を見学した。谷川氏の講演の要旨は次のとおりである。

  • 2010年ごろには住宅における高齢者の自立生活支援について研究していたが、その後、少子高齢化といった社会課題に資するようにロボットとAIを活用するといった社会システムの研究に移行してきた。
  • 多様なIoTが人間を計測して人間について理解する(わかるIoT)、それをAIに与えて理解させる(考えるAI)、その結果に基づいてロボットが対象者や対象物に働きかける(働きかけるロボット)。人間計測評価、分散クラウド、人工知能、ビッグデータ、ロボットの総合技術が、この研究センターの研究テーマである。

  • 人が存在する実空間(フィジカル空間)のツインをデジタル空間(サイバー空間)に作る。これがサイバー・フィジカル・システムである。フィジカル空間で事故を起こすと実被害が発生する。一方、サイバー空間で事故をシミュレーションすれば、効率よく予防の仕組みが生み出せる。たとえば、こんな研究が行われている。
  • フィジカル空間として工場現場や人々の生活環境といったリアルな空間を対象とする。そのなかに人とロボットを置き、人の安全を確保しつつ人とロボットが一緒に作業するといった、協調安全ロボットの利用技術を開発している。
  • 今は生産現場等における就労の生産性向上に力を入れている。就労現場には、仕事自体は簡単だが多品種対応のためにロボットには難しいであるとか、複雑な仕事でロボットにはむずかしい、といった仕事が多く存在する。サイバー・フィジカル・システムを利用して、そんな仕事ができるロボットを開発する。
  • 遠隔からロボットが操作できれば、就労者の負担は軽減し、高齢者や障害者も就労できるようになる。マニピュレータで操作するだけでなく、自然言語で命令するといったことが可能になれば、ますます負担は軽減されるだろう。ロボットが自律性を高めれば、一人で複数台のロボットを操作できるようになる。こんな目標をもって研究すると、熟練者のノウハウも取得・伝承できるようになる。
  • このような研究によって就労者のウェルビーイングを高めていくのが目標である。

乱雑に箱に入れられた部品をロボットがピックアップする技術、次の工程に必要な、時には重量がかさむ部品を人と一緒にロボットが集める技術、コンビニエンスストアでの商品陳列や在庫管理をロボットが行う技術などについて見学が実施された。

参加者との質疑はおよそ次の通りであった。

質問(Q):人とロボットの協調というのは、ロボットを人に近づけることなのか。
回答(A):人と同じようなロボットを作るのはロボット研究者の夢だが、ロボットを人に近づけるのは今の研究目標ではない。ロボットが人間を理解し、人間と共に協調して作業をするロボットを研究している。
Q:自然言語処理で生産性を向上するという話があったが、その先で何を展望しているのか。
A:Large Language Modelの先には、例えば、種々の品物の形状に関わるLarge Modelも必要になる。例えばコンビニのラーメンをロボットが見分けるのに利用できる。さらにその先にはいろいろな動作のLarge Modelも求められるだろう。
Q:障害者就労というが、多様な障害者のそれぞれのニーズに対応できるのか。
A:研究として発展の途上にある。サイバー・フィジカル・システムを基に研究すると、ニーズに対応できるようになるだろう。