知的財産 NTTドコモの特許活用戦略

日時:2月4日(木曜日) 午後6時30分~8時30分
場所:東洋大学大手町サテライト(新大手町ビル1階)
東京都千代田区大手町2-2-1
司会:山田肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
共同モデレータ:上條由紀子(金沢工業大学大学院工学研究科准教授、弁理士)
講師:小師 隆(株式会社NTTドコモ知的財産部長)

小師氏の講演資料はこちらにあります。

冒頭、小師氏は講演資料を用いて概略次のように講演した。

  • ドコモは携帯電話オペレータのイメージが強いが、2011年からコンテンツなどスマートライフ領域のビジネスを戦略的に強化してきた。また通信事業では昨年から光ブロードバンドサービスを提供し、NTTグループ内でBtoCのサービスをワンストップでカバーできるようになってきた。
  • こうした中、去年の4月に2017年度に向けての新たな中期計画を発表した。具体的には、通信サービスの強化、スマートライフサービスの拡大、コスト効率化が三本柱となっている。本計画の技術的な裏付けとなっているのがドコモのR&D。ドコモ規模の研究開発組織を持っているオペレータは世界的に少ないが、そうした中、ドコモのR&Dは無線ネットワーク技術等で世界を牽引できる成果を生み出してきている。
  • ドコモが取得している特許のうち、無線ネットワーク系は国内特許の41%、外国特許の60%である。知的財産部としては、①知財の収益化を拡大、②差異化サービスの防衛強化、③量から質への特許管理の徹底、を重点課題と掲げて、会社の中期目標達成へ貢献すべく努力している。
  • 携帯電話は最近30年で成長したサービス。この間、技術的には4回の革新が行われている。技術革新が進むにつれて、各国バラバラの技術が国際標準に統一されていった。ドコモは世界で使えるものをということで早くからW-CDMA方式を提案し、結果的に本方式は第三世代で最も世界に普及した。そして第四世代(LTE)では世界の統一仕様ができた。
  • 標準規格必須特許(SEP)についてみると、通信事業が国営で営まれていた第一世代では無償ライセンスが基本であった。それが第二世代のGSMでは、当初必須特許を有する少数企業間のクロスライセンスで市場の寡占化が起きた。こうした反省からETSIの特許規則でFRANDでのライセンスが義務付けられた。第三世代では有力企業による有償ライセンスが拡大したが、最近は特許で稼ぎ過ぎることについて疑問が呈され揺り戻しが起きている。
  • 携帯電話では標準規格が公開されているので、SEPのライセンスを全部受けなくても規格に従えば実施者は機器が製造・販売でき、こうした運用がかなり常態化している。こうした事情もあって2009年頃からSEP保有企業が訴訟を起こすようになり、所謂スマホ訴訟が頻発するようになった。
  • こうした様々な訴訟の中でSEPの実施者と権利者のバランスをどう取るかが議論されてきたが、各国当局はかなり実施者寄りの判断を示すようになり、全体的にSEPの権利行使が制限されるようになっている。
  • ドコモはグローバル標準の作成をリードしてきた立場から、今の特許宣言とライセンスの仕組みを根こそぎ引っくり返すのではなく、現状を出発点に問題点を段階的に改善していくべきと考えている。その意味で、昨年、欧州司法裁判所が示した判断等は両者のバランスの再構築に向けて有意義なものと考えている。
  • ドコモは、オペレータとしてSEPの実施者であると同時にR&DによってSEPを生み出す権利者でもある。権利者としてはR&Dに対する適正なリターンが必須と考えており、パテントプールや個別ライセンス活動などSEPの活用に力を入れてきている。また、実施者としては、ライセンスのクリアリングを機器調達の必須条件としており、メーカを通じて権利者にも経済的利益が還元されるようにしている。
  • 現在の課題は、権利者の視点からはパテントプールが十分に機能しておらず個別ライセンスも交渉が難航しがちなこと、そして実施者の視点からはパテントトロールへの対応などに多大なリソースが必要になっていることである。
  • 次世代の通信標準(5G)の策定がこれから本格化するが、権利者・実施者のバランスを考慮しながら、効率的な知財エコシステムが構築できるよう、業界関係者全員が開かれた議論を通じて協力していくことが必要と考えている。

講演後、以下のようなテーマで質疑があった。

SEPをめぐる争いの解決について
Q(質問):MGMNはSEPの評価を第三者が行うと提案しているが、中立的な第三者は誰で、だれが費用負担するのか?
A(回答):第三者評価は現在も実施しており、パテントプール等でも活用している。費用については受益者負担が良いのではないかと考えているが、議論の余地は大きい。
Q:パテントプールの実効性は確保できるのか?
A:難しい課題。個人的には、SEP保有企業が分散化されてきているため、5Gではパテントプールが再評価される可能性もあると考えている。
Q:MGMNは業界の賛同を得ているのか?
A:MGMNはオペレ-タの団体であり、その中の議論の結果として先の提言をしたが、ベンダーには異なる意見を持った会社も多い。しかし、提言の1番目、宣言プロセスの改善については問題意識を持っている企業も多く、方向性として合意できるかもしれないと期待している。
Q:SEPでは標準における仕様の定義文がそのまま特許になっているのか?
A:特許明細書の文言と標準の仕様定義文の文言が一致しているほど強い権利となる。
Q:各国バラバラから世界統一に移りつつあるという話だったが、インターネットのように権利は行使しない方向には向かえないのか?
A:移動通信は数兆円規模の投資と長期間に渡る維持管理が必要となり、また世界中で相互接続を保証することが必要。そうした環境の中で今のエコシステムが構築されてきている。インターネットのようにいくつの標準が競いながら、有力なものが勝ち残っていく方式にいきなり置き換えるのはなかなか難しいのではないか。

会社を取り巻く状況について
Q:有価証券報告書に特許のライセンス収入を記載しているか?
A:記載していない。
Q:ドコモはR&Dをやっているけれど、それをやめて、利益を株主に還元してくださいと言われたらどうするか?
A:様々な意見があると思うが、個人的にはメーカ任せではなく、技術の方向性を自社でコントロールできるのがメリット。ネットワークで世界に先駆ける技術力を持つことがドコモの競争力となっており、R&Dの価値であると思う。

ドコモ社内の体制について
Q:サービス面ではIoTが目の前に待っており、第五世代はIoTのインフラになるだろう。これに対しての戦略が今日の講演からは見えない。オープンにするところとクローズにするところを決めておかなければならないはずだ。
A:課題は認識している。ただ通信分野は相互運用などの必要上、SEPを含めて基本的にオープンになるところが多い。一方でアプリケーション領域では差別化できる領域を絞って戦略的にクローズにすることも検討していかなければならないと考えている。
Q:SEPは収益性が下がってきているという説明だった。周辺をやった方が儲かる場合もあるということを聞いた。それでもSEPを取り続けるメリットは何か?
A:知財はR&Dの副産物。第五世代に向けたR&Dの中心は、やはりSEPに採用される標準技術であり、その標準は自分たちで作っていくのだということがR&Dのモチベーションにもつながっていると思う。そのうえで、知財面からはSEPと非SEPのポートフォリオで活用していきたいと考えている。
Q:コンテンツサービスでも特許紛争に備えているのか?
A:サービスの企画段階で必ず特許調査を行い、危ないものに関しては対策を取るようにしている。その中で必要となればライセンス契約するものもある。
Q:キヤノンは、知財と研究開発部隊が蜜に連携を取りながら合同で事業を進めて行くと強調していた。ドコモ社内ではどうか?
A:連携をしながら進めていくという点は同じ。ただし関わり方はR&Dと事業部とは違う。前者は、技術的に深いためアイデアそのものを知財が提案することは難しい。一方で、サービス開発では仕様書などをベースに知財側で提案できる部分もある。そうした意味でアイデア出しに一緒に取り組むことも多い。