知的財産 積極的な出版社はどう考えているか

概要

この一年、電子書籍をめぐり大きな変化が起きています。アメリカでの出来事を対岸の火事のように眺めていた出版業界や端末機器メーカーが、ついに一斉に動き出しました。電子書籍の普及は私たちの生活をどのように変えていくのでしょうか。産業構造にどのような変化が予測されるのでしょうか。ICPFではこの秋、「電子書籍をめぐる動向」と題するセミナーシリーズを開催することにしました。
第3回は出版社の動向をテーマに開催します。電子書籍に対して積極的に動こうとしている出版社もあれば、慎重に臨もうとしている出版社も存在します。そんな中、2010年1月からすべての新刊を書籍版と.book形式の電子版で発売し始めたポット出版の沢辺 均代表に、積極派はどのように考えているかをお話ししていただくことにしました。
沢辺氏は、各出版社がつくった版元がつくった本の情報をインターネット上で公開・提供する版元ドットコムも運営されています。これについても併せてご紹介いただく予定です。皆さま、ふるってご参加くださるようご案内いたします。

議題

テーマ:「電子書籍に対する出版社の姿勢について」
モデレータ:山田 肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
スピーカー:沢辺 均氏(ポット出版代表)

レポート

■まず、はじめに

○電子書籍と電子雑誌をわけて考えている
・ 文字中心 リフロー
・ ビュジュアル中心 レイアウト維持

○電子書籍アプリ(セット)と、アプリと電子書籍(バラバラ)
・ appでは1/3が読めなくなっているという人がいる
・ 10年前のhtmlは、MacOSX+サファリで読める
・ iPadはPCが必要。OSとPC本体が古いと使えない

○電子書籍フォーマット(.book)
・ プレーンテキスト(txt ビューワはエディターソフトがいろいろある)
・ タグ付きテキスト(ttx ビューワはTTime)
・ バイナリーファイル(.book ビューワはVoyagerBooks)

○電子書籍を流通
・ 電子書籍には、販売所(プラットフォーム、データの受渡・決済)
・ 読む機械(デバイス)+読むためのアプリ(リーダーアプリ)
・ コンテンツデータ(バイナリー化されたもの)

○電子書籍を考える前提として、本の商品特性
・ 本の特徴と音楽の特徴の違い レコード+ステレオ装置=本
・ 本という商品の特性(音楽も)=同じものを繰り返し買うことがない+その割には単価が安い

○日本(語)の特性
・ amazonの英語の電子書籍が増えている。
日本語のOCRはまだ実用的ではない/アルファベット言語のOCRはかなり使えるらしい
・ 日本の制作環境を知っているものとしてみると、出版社が電子書籍を簡単に作れるとは思わない。
・ inDesignには、英文スペルチェックがある。日本語の「スペルチェック」はない。誤字脱字などに対する潔癖性

■山田理事長の質問に応える

●一般論として、電子出版を出版社はどのようにとらえているのか
・ ヨクわからないし、中にいて日々感じるムードをつたえるのはとても難しい。
・ DTPを全部下請けに回しているので、社内にデジタルデータ・ネットワークのノウハウがまるでない。

●一般論として、消極派と積極派は何が分かれているのか
・ 同じ世代(例えば中高年)でもワープロから始まって全てのデジタルに後ろ向きな人と、前向きな人がいるのと同じ理由としか思えない
・ 著作権をめぐるパラダイム転換が起きているのに、本質的に考えられていないと思う。編集者も「著者」も
(紙の好きな若い社員/絶版通知/編集者の働きへの無権利/雑誌著作権使用権)

●そんな中で、なぜポット出版は電子出版に積極的に乗り出したのか
・ 技術のデジタル化、インターネットの拡大、という方向に、ほぼ間違えなく進む
・ ポット出版に、電子書籍、ネットワークを使うノウハウを、早くから蓄積しておきたい
・ さまざまなフォ―マットになったとしても対応できるデータを社内に持っておきたい

●ポット出版で電子出版を始めた結果、紙出版に影響が出たのか
・ ほとんど影響ない
・ 電子書籍の売り上げは2桁。紙の本は2000~、iPadの販売は数十万?

●一般論として、電子書籍端末のフォーマット分裂に出版社はどう対応しようとしているのか
・ ほとんど、解っている人がいないので、その意味するところにかんして対応策を持っていないと思う

●ポット出版は、電子書籍端末のフォーマットとしてなぜ.bookを選んだのか
・ 電子書籍アプリはイヤだった
・ .book/XMDF/ePub/AZW、すべて「タグ付きテキスト」をバイナリーデータにしたもの
・ .book(HTMLに近い)のデータを社内で作ることができて、保存しておければ、XMDF(XMLに近い)/ePub(XHTMLに近い)への置換は比較的簡単だと判断
・ DTPを請け負う印刷所と、データの所有をめぐる争いもなくなる
・ DRMをかけるなら、たとえEPUBといえども読者にとって汎用ではないと思う。

●一般論として、映像や音楽、あるいはネットに接続しての情報提供といった電子出版特有の機能を出版社はどうとらえているか
・ よく解らない

●ポット出版では、電子出版のマルチメディア機能を利用する意思はあるか
・ 電子書籍+電子雑誌は、当面これまでの紙の本の姿カタチをまねるところから始まると思う
(リュミエール兄弟「最初の映画」 /メリエスの「シンデレラ」→「国民の創生」(1915年)デイヴィッド・W・グリフィス)
・ 電子書籍などの流通が確立していって、量的に拡大すれば、意味のある「マルチメディア」化が生まれると思う
・ ポットチャンネル+テキスト化+単行本をつくる、も一つのマルチメディアであると思ってやっている。
この先に、意味のある「マルチメディア」を生み出せる可能性があるように思っている

●読者に対する出版情報の提供は、現状どのような形で行われているのか
・ 書籍は年間7~8万点。年間365日として一日200タイトルの新刊書籍が発行されている
・ 読者に対する出版情報の最大の提供の場は、書店の店頭と考えられていると思う。
・ 以下、広告/新聞雑誌書評が伝統的な提供の場。最近はネットワーク、ブログ/ツイッターなどが有力視されている
・ 出版業界では、JPO(日本出版インフラセンター)が中心となって、出版情報提供の仕組みが整備されて来ている。商品基本情報センター(books.or.jpに反映)、近刊情報センター(すでにAmazonは事前予約に活用)

●それに対して、版元ドットコムを始めた同機はどこにあるのか
・ インターネットが普及すると、ネットに本の情報がないことが、存在しないことになると考え2000年に開始
インターネット上に、本の情報を、出版社自身がつくって、配信・送信・公開し、効率化も
・ 版元ドットコムDBに書誌情報登録→業界各所への転送/自社サイトへの反映、などの効率的な情報配信(営業)
・ 出版社(とくに中小)は、書誌情報は取次等がつくればいい、メンドウだと考えていた
・ 近刊情報センター設立に寄与するなどを通じて、業界インフラ整備にたいする中小出版社の発言力の確保

●中期的あるいは長期的に出版に関連する業界(出版・製本・流通・書店)はどのように変わっていくと考えているのか
・ まったくわからない。すべての可能性があると思っている
・ ロボットが、人間が生存するための労働を担って、人間はそれほど働く必要のない社会が到来したとしたら、文化としてのコンテンツや、職業的な情報流通業は無償で担われるかもしれない
・ 短期・中期的には、生存や「豊かな生活」のための稼ぎが必要だと思う
そうしたときに、対価がなければ、コンテンツや情報は薄いものになってしまう
一度、対価が払われずに薄いものになってしまってから再生するか、対価モデルにうまく着地できるか、どちらかだと思う
・ それが広告モデルかもしれないが、対価モデルの可能性が高い気がする
・ 書店は、本+雑誌以外のものを売る店にうまくスライドできれば、少なくなって残ると思う
流通は、本+雑誌以外のものを流通させられるようになれば少なくなって残ると思う。むしろ宅急便との競合か?
製本・印刷は、少なくなりながらも、それなりの期間は残ると思う
出版は、別な業界から参入した「出版」に取って代わられるか、残るかの幅のなかのどこかに
大きな「下克上」の可能性は、それなりに高い

○国立国会図書館と全文検索一部表示システム(Googleブック日本版)への努力
・ 出版業界が、電子書籍状況にたじろぐのではなく、前向きに対応することへの転換点が必要
2010年は、とりあえず団体をつくる/検討会議をつくる、だけ。目標着地点のない団体設立はほぼ意味がないと思う
・ 全文検索と一部表示は、本にたどり着ける経路を拡大させる
・ 「自炊」(所有からアクセス権に/紙で発行されている本を電車でよみたい)に対する出版業界の対応のひとつになる

■質疑応答

沢辺氏の講演の後、以下のような質疑応答があった。

Q:「DRMを何とかしよう」というが、どのようにするのか?
A:コピーペーストしてツイッターに持っていけるようにしたい。そのためにはガチガチなDRM(CDのCCCDのような道)は通りたくない。緩やかにしたい。しかし、完璧な野放図はよくない。個人がコピーするのは仕方がない。一方でネットワーク(P2P)には、多くの本のテキストデータが出回っている。検索ロボットを走らせて、断固取り締まるべきだ。コピーを制限するDRMではなく、違法な状態を見つけたらつぶせるようなのはできないか、とイメージしている。

Q:これからの日本語の文章に縦書きの特性は必須だと思うか? (多くの人は)横書きに慣らされている気がするが?
A:個人的な意見としては横書きになっていくと思う。ポット出版でも横書きを積極的に採用している。例えば、英数字が多いものを無理に縦書きにする必要はない。人間の目の動きは横には楽に動き、縦に動くのはつらい。また、縦書きが言語的に優れている根拠もない。しかし、縦書きが選択できないということはしてほしくない。選択できるようにしてほしい。自由が減ることはダメ。日本語の良い点は許容量の大きさ(英語を取り込んだり、縦書きにすることで読みやすくしたり)であると思う。
コメント:前回のセミナーでも出てきたとおり、自然科学系をはじめ、7割ぐらいはもう横書きである。縦書きはマイノリティになってきている。

Q:図書館で電子書籍を貸し出す事についてどう思うか?
A:議論を起こすために敢えて挑発的に言うなら、「そんなこと言い出す奴は死ね」である。出版も労働である。人の労働に対価を支払えないなら、自分も給料をゼロにすべきだ。それで、初めてそう言うことができる。
とは言え、色々な芽があって、長尾さんの電子図書館構想の中で革命的だったのは、「貸し出すときに利用者から料金を徴収する」と言ったこと。昔はタダで本を貸す事に根拠があった(貧しくて向学心のある人をフォローする等)。しかし、今は全てがタダである必要は無いし、その根拠もないと思う。(タダにするのであれば、)自治体が出版社に税金から対価を支払う等の考え方がある。もちろん、それを公約にして選挙に立候補するのは自由。

Q:ポット出版では、当面、紙による出版をメインストリームにするのか?
A:そうというか、それしかやりようがない。見方を変えると、出版(紙・電子両方)のためのテキストデータ作成費用を紙の側に負担してもらっている形である。紙用のテキストデータを基に電子版を作る。紙で校正等のチェックは終わっているから、電子版を作るときチェックをしなくていい。つまり、紙版があるから電子版が作れる。今、電子版が1000ダウンロード分売れるとしても、一から作ったらコストが全然見合わない。しかも、電子版は「安くないと売れない(買わない)」風潮があり、ポット出版でも紙版より安く売っている。

Q:版元ドットコムの情報は誰向けのものなのか?
A:公式には読者向け。しかし、同時にそれは書店員でも図書館員でも、誰もが必要な情報になると思う。

Q:読者が「本が欲しい」と思って、インターネットでどういう中身なのかを検索しようとしても、なかなか思い通りに本が出てこないと思う。そういう点で国立国会図書館の検索システムを利用して探しやすくしたりする、ということは考えていないのか?
A:繋げたいとは思う。しかし、国会図書館のシステムは、まだ実験段階公開されていない。GoogleBookSearchで本を検索すると結果の横に「この本をamazonで買う」「この本をポット出版で買う」などが出る。国会図書館のシステムでも検索結果が出て、それを借りるというだけでなく、例えば版元ドットコムに飛ばせる、などの形で融合させたい。ひとたびシステムが出来れば色々な融合の仕方、色々な利用の仕方が出来る。そのために、APIを公開してほしい、と国会図書館には働きかけているつもりだ。

Q:APIを公開するには、出版社から許可を得なければならないと思う。出版社は公開についてどう考えているのか?
A:基本は無関心。多くの出版社がこの実験に参加しているが、関心は薄い。しかし、ここで社会に対して、(API公開などについて)積極的な姿勢をみせれば、昨今の出版社への(ネガティブな)イメージが大きく変わっていける気がする。マルチメディア的な出版(ボタンを押すと動画が動く、とか)よりも、そういうインフラ整備こそ大切であると思う。
A:版元ドットコムの最初の4年間くらいは、どこの出版社でも「それで本が売れるの?」と聞かれて「いや、売れませんよ、すぐには」というと、ほとんどが門前払いだった。しかし、それが変わった。amazonが在庫情報を可視化したからだ。その結果、「在庫がない」と著者から文句が来るようになった。それに対する対処として、版元ドットコムではamazonにルートを作って在庫情報を送った。そのうち、著者に文句言われた出版社が困って、170社も宣伝もしてないのに集まってくるようになった。国会図書館のシステムが実現し、それを利用した人たちが「出版社も、やるじゃん」「いいよね」まで持っていければ、ムードはガラッと変わって、色々な出版社が集まってくると思う。是非そうしたい。しかし、「卵が先か、鶏が先か」の議論になる。多くの出版社が集まらないと、システムがおもしろいと評価されない。システムをおもしろくするためには、出版社に多数参加してもらわないといけない。どのようにスタータを機能させるかが課題である。

Q:版元ドットコムの書誌情報は、TRCなどで利用されているのか?
A:出版業界では、書誌情報の収集は断絶されていている。それを一気通貫させたい。パーツはそろってきていて、それを繋げるための作業をしている。TRCでは、見本出しで受け取った本が書店に並ぶまでに、セクションごとそれぞれの項目(たとえば日本図書分類コード)についてデータ入力し、本が書店に並ぶまでに完成されている。そういう作業を様々な組織・場所でやっている。現在は過渡期。それも悪い意味ではなく、パーツはそろっていて、後は橋を通すだけ、というところまで来ている。

Q:アメリカで電子書籍がたくさん売れているという。これは紙の本が高いとか書店がないとかの理由によるものだと思われるか? しかし、日本ではamazonに頼めば3日くらいで届けてくれるし、BOOKOFFなどの古書店があるので、ある程度安く手に入れることもできる。こういう(アメリカとは異なる)環境の中でで、電子書籍の果たす役割がよく分からない。結局のところ、読者が電子書籍に望んでいることとは何なのか?
A:まず、「アメリカで売れている」というのはまともに受け取らない方がいい。日本ではケータイで電子書籍が売れている。(日本の電子書籍の)販売額は500億円前後でほとんどがケータイ。この金額はまだアメリカの市場より大きいはず。そういう意味で、日本が電子出版でアメリカに逆転されている、とは思えない。
A:電子書籍が日本で売れるかということについてだが、電子書籍には魅力はある。例えば、「自炊」。自分も「あんなのめんどくさい」と思っていたが、実際にやってみたら「自炊」に対する見方が変わった。私の本棚は本が溢れていて、整理はしているが、何となく捨てられない、しかし読まないという本がたくさんある。これを捨てるために、「もうひとつの安心感」が欲しくて、それが「自炊」か「電子出版」であると思っている。だから、国会図書館で実験している、全文検索・一部表示の持つ可能性は高く、出版業界が前向きにやる意味がある、と思っている。私は、紙版を購入した人のためにPDFを付けてもいいと思っている。本の保存の代わりに持ってくれればいい。国会図書館の全文検索・一部表示にあれば、そこにある本は捨ててもいい、という選択も出来るようになると思う。それが「自炊」の持つひとつの意味だと思う。もうひとつは、行き帰りに読みたい、ということ。いつでもどこでも持ち歩きたい分厚い本、分厚い中から1項目だけ読みたい本でも、「自炊」すれば持ち歩きやすくなる。
A:電子書籍の役割は「持ち運び」と「保存」の問題を解決する事。それを推し進めるのが出版社としての読者への回答だと思う。今はその過渡期で「自炊」はしょうがない。本を購入してくれた人たちが「自炊」するとしても、それは「どうぞどうぞ」と言うべきだと思う。その手前の「保存」の件でも、「国会図書館にあるのならば、どうぞ捨ててください」と言えばいいし、「また読みたくなったら、買ってください」といえばいい。

Q:紙版を買ったらPDFを利用できることについて。例えばCD-ROMのライセンスコードを持つようなものと考えればよいのか?
A:そう。今は、著作物の利用権のあり方の問題の大きな転換点であると思う。「本を購入することがが」ことから「アクセス権」に変化するということが必要だ。しかし、権利があれば、国会図書館(電子版)で全文読めるようにする、というのは結構大変。著作権データベースを作ったり、管理機構を作ったりしなければならない。(そういった意味で)JASRACの良いところは、対価を支払えば相手の許諾を得る必要なく、誰もが利用できる事。現状、本では無理。紙の著作物でもそうなって欲しい。

Q:電子教科書が電子出版に与える影響は大きいと思う。例えば、電子教科書に採用されたフォーマットがデファクトになる可能性もあるし、デバイスの操作方法だって、子供の頃から慣れ親しんだものがデファクトになる可能性がある。電子教科書に慣れ親しんだ世代が大人になったとき、そういうフォーマットや操作方法に対応しないものは売れなくなるのではないか?
A:それは、半分正しくて半分間違っていると思う。習慣性があるから、それがデファクトになるかということは別問題。例えば、携帯電話は、受け入れられる可能性があったから受け入れられているわけだ。子供の頃に与えられたものを使い続けるのではなくて、新しいものにチャレンジしてくれるのが人間であって欲しい、と思っている。
A:しかし、電子教科書がインパクトを与えることは確かである。一方で、電子教科書に嫌な思いをさせられた子供はどう考えるようになると思いますか?

スケジュール

月日:1月14日(金曜日)
時刻:18時30分~20時30分
場所:東洋大学白山キャンパス6号館1階第三会議室