知的財産 電子書籍をめぐる動向 EPUB日本語拡張仕様と将来展開

概要

この一年、電子書籍をめぐり大きな変化が起きています。アメリカでの出来事を対岸の火事のように眺めていた出版業界や端末機器メーカーが、ついに一斉に動き出しました。電子書籍の普及は私たちの生活をどのように変えていくのでしょうか。産業構造にどのような変化が予測されるのでしょうか。ICPFではこの秋、「電子書籍をめぐる動向」と題するセミナーシリーズを開催することにしました。
第2回はEPUBの日本語仕様への拡張をテーマに開催します。EPUB形式のファイルフォーマットは、世界レベルではデファクトの地位を占めつつあります。しかしEPUBは日本語特有の組版規則を反映していないため、日本語書籍を表現するには不十分です。これを改善しようとEPUBに日本語仕様を搭載するための活動が進められています。
この活動を積極的に推進しておられる日本電子出版協会(JEPA)の三瓶徹事務局長にご講演いただくことにしました。

議題

テーマ:「EPUB日本語拡張仕様と将来展開」
モデレータ:山田 肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
スピーカー:三瓶 徹氏(日本電子出版協会事務局長)

資料

こちら

レポート

日本電子出版協会事務局長 三瓶 徹氏より講演があった。その様子はビデオ映像として視聴できる。

講演ののち、質疑応答が行われたが、その概要は以下のとおりである。

EPUBがサポートする機能について

Q:EPUBは非言語情報もサポートするのか。たとえば囲碁の棋譜も表示できるのか。
A:言語情報については、全世界の言語をサポートする。非言語情報もSVG(Scalable Vector Graphics)を使えるので問題ない。SVGを使ったコミックはビジネスチャンスと思う。JPEGなどで画像を作って、吹き出しをSVGで作り中味だけ各国語に差し換えれば、電子コミックが一瞬にして世界に提供できる。それも殆ど無料のツールで。

音声読み上げ機能(Text to Speech)について

Q:TTS推進協会が設立されたと説明があったが、電子出版時に必須のものとして読み上げは組み込まれていくのか。
A:これまでも対応すべきことだったが、日本の編集者の不作為で対応してこなかった。TTS必須についてはいろいろ考えているが、出版社の手間が増えてしまうと電子出版が広まりにくくなるので、必須はむずかしいのではないか。
Q:この分野では日本が先行しているのか。
A:TTS機能を先行して搭載したのはIBM等だが、PCの力が上がって日本でもできるようになった。TTSでは、感情がこもった読み上げは聴き手の感情を無視するので不適切で、さらっと読んでくれるものが好ましい。内容的に他人に頼みづらい書籍や、学術書等のようにボランティアがあまり引き受けてくれないものではTTSが重要。だからこそ、電子データで出版作業することが大切である。
Q:出版社はテキストデータを電子データで出すと、それを基にコピーが広まることを嫌がっているのではないか。
A:それは言い訳にすぎない。紙であっても簡単に電子化できる(自炊がはやっている)。コピーを防ぐためにはDRMをかければいいが、使い勝手が悪くなる。がんじがらめにする必要はない。いいサービスならコピーしないで買って使うようになる、というのが、簡単なことではないが望ましい。それでも制限をつけたいなら、出版物にはフィンガープリントを付け、法律でコピーを厳罰化すればよい。
Q:Amazonで著者が売り上げの70%をもらうためには読み上げに対応することが必須となっているが、日本の出版社にもこういったインセンティブを与えてみてはどうか。
三:「読み上げOKラベル」というものを用意している。このラベルを取得しないと選ばれにくくなる等の逆選択的効果を狙うものである。
Q:TTSでは、グラフ・概念図にどのように対応するのか。
A:難しい問題である。出版社にどこまで対応させるか、数式をどう読ませるか。海外でも取り組まれているが、まだまだ不十分で、もっと詰めていく必要がある。

電子出版をめぐる業界の離散集合について

Q:電子出版について複数のコンソーシアムが立ち上がっていて、状況がよく分からない。全体としてまとまってやっていこうというような努力はしていないのか。
A:そのことを話し出すと他の団体の批判になってしまうので、あまり話したくない。ただ、私個人としては情報をオープンにしない団体はいかがなものか、と思っている。

縦書きのサポートについて

Q:古典文学を縦書きで読むことの文化的意味が重要だと思う。日本の文芸書を横読みすることの違和感に対する理解を形成する必要がある。縦読み対応等の意義を、一般人にも分かりやすいインパクトのある形で発信してはどうか。
A:それについても種々考えているが、やりすぎると他の団体の批判になってしまう。
会場からのコメント:縦書きで読むだけなら。今ある書籍を画像として取り込めばよい。読み上げ対応も縦書きである必要はない。電子化するメリットは検索に対応できること。特定の単語が何回出てきたとかの集計にも対応できる。そのためには電子出版しかない。縦書きは瑣末なことではないか。
Q:出版物比率の円グラフをみると、出版されている本の大部分は横書きではないか。
A:確かにその通り。しかし、文芸書や歴史などの分野では、縦書きのものもかなり存在する。

絶版の扱いについて

Q:国会図書館での電子化作業についてどう評価しているのか。
A:出版社は紙であろうが電子であろうが、読み手に届けなければならない。届けきれない部分への対応、たとえば絶版になった明治時代の書籍を電子化することは税金で行うが、それが正しいかどうかはちゃんと考えるべき。例えば、絶版本を他の出版社が復刊したいというと、自分の権利を主張して申し出ても受け入れてくれない場合がある。復刊してもいいという企業があるのに、絶版本の電子対応に税金を使うのはいかがなものか。今後、電子出版が進めばデータを出版社が持つことが出来るのだから、出版社でアーカイブを作成して、絶版した書籍は読者にある程度自由に使わせる、といったこともできるようになるのではないか。
会場からのコメント:書店からの返品はそのままゴミになる、との誤解があるが、出版社では再出荷している。こうしてできる限り書籍が広まるように出版社も努力している。その後、絶版したものは出版社に権利がない。著者がどのように扱おうと自由である。
Q:在庫僅少となっている書籍を注文すると、結局「納期見込みなし」と返事が返ってくるではないか。
会場からのコメント:出版社が絶版にしないのは、絶版というと怒る著者いるからである。繰り返すが、「絶版」というのは出版社が出版の権利を放棄することだと考えている。
Q:しかし、年間約7万点の新刊が発行されており、ほとんどの書籍は実質的絶版の状態といえるのではないか。
会場からのコメント川治:それもよくわかっている。しかし、絶版を通知すると激怒する著者もいるように「絶版」に対する著者側の理解も進んでいない。
Q:過去の本は権利関係が複雑で、日本の著作権法を根本的に変えないと事実上電子化できないのではないか。
A:確かに著者の持つ権利に制限を加えていかないと、活用できないと思う。

EPUBの普及について

Q:EPUBの新しい仕様を利用しようとしている端末メーカーはいるのか。
A:出版大手の何社かは対応していくのでは。
Q:出版社が対応するというが、端末が先かコンテンツが先か、の問題をどう考えるのか。
A:結局は元が取れるかの問題である。端末だけ整えても仕方がない。売る仕組みを考えなければならない。よく読まれる本は高く売り、読み手が限定されるような需要が低い本は安く売る等の対応を考える必要はある。日本の出版社はビッグディールでできないから、例えば電子辞書のように複数の本をパッケージするなどして、低需要本を救済する、などしてみてはどうか。
Q:ケーブルテレビに定額の番組パッケージがあるが、それと同じようなものか。
A:そうだ。日本にも強力なアグリゲーターが必要になってくるだろう。
Q:Kindleの衝撃はすごかった。こういうものが一日も早く日本に入らないと、それだけでディスアドバンテージだと思う。そのためにはベストエフォート的に早く進めないといけない。まずは、横書きでもいいから出して、縦書き、ルビなどは後でもいいと思う。
とりあえずでも出して、世界に追いつこうという発想がないことに苛立ちを感じるが。
A:縦書き対応自体はたいした手間ではないが、先行して横書き端末を出してもいいと思う。しかし、日本人特有のすべて完璧にしてからでないと気が済まないという発想があったりして、端末メーカーも縦書き未対応で出して文句を言われるのを嫌うだろう、といった事情もある。
Q:当社(出版社)でも様々なフォーマット試しているが、どれがベストなのか分からない。EPUBも検討しているが、EPUBを実装した端末がない。先に他の形式で進めて、その後EPUBに変換していけばいいのか。
A:それは出版側の判断になる。これがベストというものはない。

スケジュール

月日:12月10日(金曜日)
時刻:18時30分~20時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館5201教室