知的財産 電子書籍をめぐる動向:政府の動き

概要

この一年、電子書籍をめぐり大きな変化が起きています。アメリカでの出来事を対岸の火事のように眺めていた出版業界や端末機器メーカーが、ついに一斉に動き出しました。電子書籍の普及は私たちの生活をどのように変えていくのでしょうか。産業構造にどのような変化が予測されるのでしょうか。
ICPFではこの秋、「電子書籍をめぐる動向」と題するセミナーシリーズを開催することにしました。
総務省・文化庁・経済産業省が共同で組織した「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」(三省懇談会)は、2010年6月末に報告を公表しました。その中には出版物の利活用のあり方や技術的課題の解決に関する、政府による具体的施策の方向性とアクションプランが記述されています。そこで、本セミナーシリーズの皮切りとして、この三省懇談会報告をもとに政府の動きを伺うことにしました。

議題

モデレータ:山田 肇(東洋大学経済学部教授、ICPF理事長)
安藤英作氏(総務省情報流通行政局情報流通振興課長)
川瀬 真氏(文化庁長官官房著作物流通推進室長)

資料

総務省資料
文化庁資料

レポート

安藤英作氏(総務省情報流通行政局情報流通振興課長)

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三省懇談会に至った過程、背景的事情についてお話させていただく。

米国において大変大きな動き、Googleブックサーチ訴訟やKindle、iPadの世界的な発売などがあった。ある人は強い勢いを感じ、ある人は取り残され感をお持ちになられたのではないか。内藤副大臣は新聞などで黒船問題にたとえて、出版システムがどうなるのか、どう対抗していくのかと危機意識を表明された。ただしそれだけであれば、総務省は出版ビジネスを所管しているわけではないので、議論にはならない。

もう一つは、「アナログ」で作られている知的資産、文化資産を遺していく、デジタルに移していく、という指向性がある。総務省は文化庁と一緒に美術館博物館の収蔵品アーカイブをつくった(文化遺産オンライン)他、国立国会図書館と「ポルタ」やインターネット資料の収集「ワープ」など、総務省としてのサポートをやってきた。

国会図書館には自民党最後の補正予算で127億円がつき、書籍のデジタル化が進められてきた。 国会図書館との連携の中で、「長尾構想」が発表された。誤解を生みやすいが、長尾先生は電子納本をどう進めるかという観点で述べられていると認識している。この長尾先生の構想から総務省としての対応も求められてきた。なので、かなり、ある意味では限定的な動きに対応した、というのが最初のきっかけといえる。

総務省は、文部科学省に、一緒にやりませんかと、協力を昨年、二回お願い申し上げた。中川副大臣は、電子出版をいかに振興するか、権利問題も含めて非常に強い問題意識をお持ちだった。私どもでは権利だけではなく技術的な問題もあるはずということでお話をさせていただいた。中川副大臣のリーダーシップで経産省にお話しいただき、三省での検討となった。
経産省の思惑はどこにあるのかは、ここに経産省はいないのでわたしからは述べない。経産省としての思惑があったのだろう。

そういった動きの中で、総務省として携帯電話事業者や、検索サービス、文芸家協会、書協、雑協、印刷協会などを中心にヒアリングを実施した。経産省も自分の所管を中心として、文科省も同じく、ヒアリングを行われていた。私どもとしては「前向き」という印象を持った。しかし、「慎重に」という面や、混乱などは避けたい、という感触も。

出版業界は、Amazonのビジネスモデルのように価格決定権を持たれることに対する危機感、ICTの業界に対する非常に強い警戒感を感じた。また、公共図書館に対する非常に強い不満、かなりの冊数が公共図書館を通じて読まれていることが売り上げに対して悪影響を及ぼしていること、それが、長尾先生の構想に対する反発に繋がっているという正直な印象を持った。

携帯電話業界のスタンスは、出版社への理解を示しながら、Amazonのような垂直統合型の、自分のリスクで価格も決めリテールを行うモデルを志向せず、市場全体が大きくなることを志向しているということだった。総務省へのリップサービスかも知れないが。全体的には、方向性があってないわけではない、と感じた。

印刷業界(凸版と大日本の大手二社)は、出版社の意見を尊重したいと一歩引かれている。しかし、自分たちが書籍のデジタルデータを持っており、寡占的な資源を持っていると言うことで、出版業界の動きが鈍ければ、印刷業界がイニシアチブを取って行くのではないか、という印象を持った。

書店については、時流から外れたくない、ということ。懇談会が開かれれば参加したい、というものだった。ある意味、皆様の方向性は一致していた。懇談会の企画自体は比較的容易だったといえる。

スライド3にある懇談会の、背景・目的・メンバーから、今私が述べたことを読み取っていただけるのではないか。基本的には過去から未来にどう繋げていくかというサイクルの話。構成員をご覧になっても権利者、出版社、印刷会社、書店と、基本的には既存の出版に関わっているプレイヤーのみが参加をしている。

出版社は4千社あると聞いている。ある意味では多様性を担っている。それが、寡占的な印刷と寡占的な取次が存在する中で、1万、2万ある書店に本が届く。寡占が間に挟まっているにも関わらずどこの書店でもどこの出版社の本を購入できる環境が構築されてきた。そのような環境を電子出版の中に入れていくという強い眼目があった。

総務省は技術ワーキングチームの活動に関与した。何を実現したいのかというアジェンダを設定して議論を行った。従って、P.5に掲げられているリストは技術ワーキングの方々の実現したいこと、また、総務省も実現したかったことと考えていただいてよい。アジェンダ案を設定し、実現のための技術的課題を取りまとめていった。

アジェンダの1番と2番はどの様な小さな出版社でも参入できるようにしたい。どんな書籍でも手にはいるようにしたいという点。垂直統合で市場が分断されると言うことではなく、様々なプラットフォームで配信される上で、コンテンツが囲い込まれることなく市場が成立するイメージ。出版社も、携帯業界もこれを受け入れ、市場が拡大することが優先だ、と一致した。海外に日本の情報を発信していきたい、国としては「ソフトパワー」といわれる部分もあり、日本で培われた知的資産をデジタルの時代に移し替えていくことで、人類の歴史にどう影響を与えていけるか。もう一つはデジタルアーカイブの話。これも同様にアナログの資産をどう移し込んでいくのかという話。これらが3番と4番。もう一つは、書籍というパッケージを解体してWeb・デジタルの情報環境にとけ込ませていけるかという観点。5,6番などがそれにあたる。その他、出版社や著者の方が拘られたのが、8番、9番。逆に、7番が入ることには警戒感があった。実際に、報告には殆ど入っていない。以上を元に報告が作られていった。

報告書とりまとめ後、総務省が担当している技術的な課題について、新ICT利活用サービス創出支援事業8.3億円で取り組むこととなった。一つは国内ファイルフォーマットの共通化に向けた環境整備、或いは検索技術、アクセシビリティ、書店を通じた電子出版と紙の出版物のシナジー効果。EPUB日本語拡張は山田先生にも高く評価いただいた。その他電子図書館など、計10が採択された。

「これまでの書籍の資産をデジタルの資産に移し替えやすくする」という観点で懇談会報告書は作られている。電子書籍がビジネスになる、ということで新たに参入される企業は増えるはずだが、今後の新規参入者には、懇談会にお入りいただいていない、ということが懇談会の限界でもある。

この懇談会はタイミングがとてもよく、その後の動きに繋がっている。陣営が出来ているようにも見えるが、市場が分断され、コンテンツが分断されるようにはならない、ということになっている。そこは心配していない。

以上が総務省の認識だが、これで懇談会は閉めた、というわけではなく、今後も継続していく。新たな参入される方や著者自身が直接出版していくことが現実になっていく中で、逆にその動きをどう加速していくのかが、三省懇談会の次のテーマになっていくのだろう。今後のお話としてお聞きいただきたい。また、EPUBの日本語対応の必要性もあるので、これも実現していきたいし、この場で議論していただければと思うがデジタル教科書の問題にもとりくんでいく。

川瀬 真氏(文化庁長官官房著作物流通推進室長)

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懇談会の背景についてはお話があったので省略させていただく。我々としてはどの様なことを考えているのか、これからどうしていくのかをお話しさせていただく。

まず言っておかなくてはならないのは、電子書籍は今まさに様々なビジネスモデルが構築され、プラットフォームも提供されていこうとしている。私どもとしてはそういうものについては、基本的には民間のビジネスに任せていく。その上で、懇談会で課された我々の課題に取り組もうと考えている。
デジタル化され流通する著作物は、最新の文藝書から、それこそパブリックドメインのものもあり、学術書籍、実用書と様々な知的資産が膨大にある。

それらを最もアーカイブ化しているのは国会図書館。昨日出た最新の文芸書から、明治・大正・昭和初期の様々な書籍まで保管されている。昨年著作権法が改正され、国立国会図書館は、納本された書籍を納本された瞬間からアーカイブ化できるようになった。普通の図書館ならぼろぼろにならないとだめなのに、国会図書館の場合には、誰も観ていない、新刊書籍も可能となった。

そうすると、当然ながら、アーカイブ化した書籍の利活用の促進がもとめられてくる。

電子書籍ビジネスは民間で行われる。官業が民業を圧迫するのはよくないが、図書館がアーカイブ化された書籍を国民に提供することが全てに渡って民業を圧迫するかと言えばそうではない。国会図書館、公共図書館におけるアーカイブ化・提供と、民間ビジネスとが競合しないように、関係者に集まっていただき検討することが第一の課題。

次に今の出版社のビジネスは、作家の先生の了承を得て出版することが前提。出版社と著者の契約の際に、これからは紙の媒体による提供と電子による提供の両方の了解を得ることになると思われるが、場合によって紙だけ、電子だけという契約もありうる。しかし過去の資産、例えば著作権はパブリックドメインになっていないが、明治・大正・昭和の書籍の利活用をどうするのかという問題がある。作家の了承を効率的に得るには、集中的な権利処理というものが必要だろう。一方で権利制限という方策もあるが、現行法制では権利処理が必要。また権利者不明の場合は裁定制度の活用も必要である。つまり、権利処理の円滑化の在り方というのが第二の課題である。

3点目は出版社に対する権利付与の検討。出版社は著作権法において固有の権利はない。著作権法というのは著作者の権利を定めているが、他にも著作隣接権制度があり、レコード製作者などの作品の伝達者はそれぞれ固有の権利を持っている。実は伝達者として一番伝統的な業種である出版社は固有の権利がない。出版社の方々はそのような権利を様々な機会を通じて要望されている。

日本だけが出版社の権利を認めていないのか、といえばそうではない。固有の権利を求めているのはごくわずか。昔から、出版社は著者との契約で出版社の利益を確保するということをやってきた。日本の場合には、著者と文書契約をするという慣行がつい最近まで無かった。有名な先生と出版社の間でも口約束だった。これからは違う。これからは契約書を交わす。しかし、これまでは欧米とは環境が異なるから、日本では固有の権利がほしい、という声がある。

これについて、私どもとしては権利を付与することを前提に検討するわけではない。権利を認めるのか、認めないのか、仮に認めるとすればどの様な権利を認めるのか、白紙ベースで検討したい。隣接権のような固有の権利を認めるということもあるだろうし、出版契約に関する契約規定を整備するという方法も考えられる。例えばいま出版権の設定契約という制度があるが、著者と出版社が出版に関する独占契約を結ぶと、出版社が第三者の利用者に対して権利を主張できる、物権的な権利を持つ。これは不動産の所有権と地上権の関係に似ている、特許権者と専用実施権者との関係にも似ている。出版権の設定契約は紙媒体に限定されているが電子媒体に拡大する、という方法もある。

諸外国では契約法制が整備されていることも多く、契約法制の整備の中で著作者を保護すると同時に、ライセンシーである出版社も保護するというオプションもあると思われるので、固有の権利というのが出版社のご要望であるが、私どもとしてはそこに拘らず検討していきたい。

最後に、3つの検討事項について、私どもとしては一つの検討会で検討した方が効率的とということで、中川前副大臣、いまの笹木副大臣とも相談して「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」という会議で集中して検討することにした。

法制度について、出版社固有の権利を認めているのはイギリス、オーストラリアなど世界の中でも非常に限定されている。ドイツはパブリックドメインの作品を出版すると出版社に権利が認められるという特殊な制度。こうした諸外国の事例も調べていきたいと考えている。また、内外の契約実態。契約による処理が欧米で出来て日本で何故出来ないのか、そうした契約の実態調査も行いたい。検討会の結論は来年度の早い時期にとりまとめたい。

質疑応答

Q:
安藤課長の説明にあった「新ICT利活用サービス創出支援事業」の中で、図書館デジタルコンテンツ流通促進プロジェクトがあるが、電子化された書籍を図書館から借りて見るとすると、利用者からするとありがたいと思うが、現実的に考えると広く使われると本を買う人がいなくなるのでは?

A(安藤):
まず、本事業は、電子図書館にかかる技術的課題の解決に取り組むもの。その課題が解決された後の、権利処理やビジネスモデルについては、また別問題であるが、さまざまなビジネスモデルが考えられる。単純に本が売れなくなるということはないのではないか

コメント(山田):
大学は学会誌を買っていたが、電子サービスで有料契約形態が登場し、結果として電子サービスの権利料が毎年値上がりしている、という事例もある。

Q:
三省懇談会に取次が入っていないのは?

A(安藤):
この懇談会はあくまで電子書籍をどの様に促進していくのか、というものであり、影響をうける人をどう救うのか、という話題は対象となっていない。それに電子書籍の取次は、凸版なり大日本の系列・子会社がやっており、彼らが意向を代弁できる、と理解している。また、「誰を入れるか」というのは、それぞれの所管省庁の意見が重視されるが、取次を所管している経産省でもご推薦はなかった、と記憶している。

Q:
そういう点ではなぜ書店が入る?

A(安藤):
店はどう救うかという観点で議論が進められたわけではなく、「書籍に出会う場所」として、電子書籍にふれあう場としての可能性もあるだろう、ということだろう。紀伊国屋、丸善さんと書店組合に入っていただいた。

コメント(山田):
本屋に行くと「この本が面白い」という店員による推薦コメントがある。彼らが何故それをやるかというと、それをやると売れるから。かれらがネットでそれをやっても、アフェリエイトなら別だが収益が出ない。推薦コメントで書籍を購入する人が多くいる現状を考えると、書店も電子書籍ビジネスに関係する。取次よりも関係が強い。

Q:
文化庁は三つの課題を抱えているが、これからの議論の進め方の優先順位は。

A(川瀬):
私どもでは、今年度は、図書館の公共サービスのあり方について検討しようと考えている。他の2点については、今年度は文化庁の予算でシンクタンクに委託し、海外の法制度の調査を実施したいと考えている。出版契約の国内外の実態調査については、出版社の団体にお願いする予定。したがって、順番としては,図書館の公共サーブスのあり方と先行させ、海外の調査、契約の実態調査ができた段階で出版社の権利の問題について取り組んでいこうと考えている。

Q:
文化庁の課題の中で出版権のように両論併記されている事項は、私的録音録画補償金制度を巡る議論のように、いつまで経っても結論は出ない、というおそれは無いか?

A(川瀬):
「いつまでも結論が出ない」、ということは「現状から何も変わらない」ということ。議論の目的は今後のデジタル出版事業・流通を前向きに進めるためなので、「良い方向」があるはず。出版社の要望としては固有の権利。一方で法制度として対応できないとしても契約システムで対応できる場合もある。そこは両にらみ。三省懇談会では時間もなかったので、踏み込んだ提言を行うことは、時間的余裕・マンパワーの問題があり、できなかった。

Q:
確かにフォーマットは統一されたらいい。しかしAmazonやAppleが垂直統合でバラバラにやってくる。ある意味で便利だがある意味で不便だが、消費者が選んでしまうかもしれない。コンセンサスであっても、供給側の論理では失敗する。

山田:
一生懸命こうした話を進めても、消費者がKindleやiPadを選んでしまうこともありえるのではないか、という話ですね。

A(安藤):
配信プラットフォーム、端末が一つに限られるといった独占が心配で、それは避けたい。だが、だからといって、Amazonの参入を阻止したいと考えることはない。

Q:
しかし市場がAmazonを選べばフォーマットを作る意味は無い。

A(安藤):
競争していただければいい。それで市場が選ぶ結果ならば、EPUBでもAZWでも問題ない。なぜ中間フォーマットについて議論があるかといえば、書籍があって、書籍を作るときの副産物がたくさんある、閲覧フォーマットがたくさんあったら提供する上では大変、という問題に対応するため。別に端末のフォーマットを1に限る、ということではない。将来どの形式が普及するにしても、閲覧フォーマットへの変換が楽であればいい。Amazonにも話を聞いているが、日本の書籍データを誰が持っているのかさっぱり解らないし、どのフォーマットで持っているのか解らない、と聞いた。だから、Amazonの参入のためにも、中間フォーマットができて、わかりやすくなっている方がいいのではないかとも思う。Amazonは本の販売で日本最大の書店となっているが、電子書籍において同様であっても、競争の結果ならば仕方ない。独禁法に引っかかることがなければ問題ない。

Q:
Googleもあるので、Amazonの端末だけで独占にはならない。

A(安藤):
アメリカも複数、日本も複数、中国も入ってくるかも知れない。端末は複数で、コンテンツの囲い込みでなく、価格やサービスで競争して貰う分にはいい。

Q:
電子書籍への移行はソフトランディングが一番良いが、今は強い力でハードランディングさせられる恐れ。中国のサーバーにある村上春樹の電子書籍データに日本は手が出せない。やろうと思えばYouTubeに違法にアップするように、それが書籍においても行われ、皆が使えるとなると、ここまでの議論がどうなるか、という感もある。そんなことはありえないと考えるのか?

A(川瀬):
今回の話と、違法流通対策は別の話。違法流通対策は絶対にやらなくてはならない。しかし、日本だけ徹底的にやっても他の国で違法流通をやられたら意味がなくなる。その国で対策を進めてもらうしかない。中国も民間レベルは兎も角、政府レベルではやってくれている。例えば3ストライク法の導入など新たな流れもある。電子による正規の流通についてちゃんとした枠組みを作るのが今回の検討である。電子書籍はすでに600億の市場といってもモバイルによるコミック市場が主。市場はこれから、様々な基準を定めることや、権利関係の解題を解決するためには、タイミングとしてはよい。

Q:
米の音楽市場では違法が蔓延する前にiTunesが普及した。だから成功している。わが国の電子書籍で違法データが蔓延してしまったら手遅れになるのでは?

A(川瀬):
評価は色々あるだろう。私は違う評価をしている。あくまで個人の意見だが、アメリカのレコード業界が衰退したのは、海賊もあるがiTunesに提供したことが大きいと思う。Appleが提示する条件を丸呑みしたことと、iTunesの独占を許したことが問題だった。一方日本は米国に比べれば上手くいっている。今、日本の電子配信市場には、競争がある。日本のコンテンツホルダーは価格決定権にこだわり、また、モバイルへの提供にこだわり、特定のプラットフォームの独占を許していない。従って、日本のレコード産業は、米国と比較しても、ビジネス規模へのダメージはすくない。

Q:
しかし、力でねじふせられるのでは

A(川瀬):
日本の音楽は、ねじ伏せられていない。一番強い人はコンテンツを持っている人、その人がどうするかで決まってくる。

Q:
コンテンツを持つひとがコントロールでき無くならないか。

A(川瀬):
ならない。

Q:
その場合のコントロールする主体は「著者」か?

A(川瀬):
日本の音楽産業・出版産業には著者を育成するという機能がある。音楽プロダクションはトータルで商売している。トップの人が稼いで、次のアーティストを育てる。出版社も、新人で才能がある人に目をつければ、最初は赤字かも知れないが、出版の機会を与え大きく育てていく。日本の出版社と著者の関係は米国ほどドライでない。

Q:
そうした環境が今後も続く?

A(川瀬):
そんなに簡単に、著者と出版社、プロダクションとアーティストの関係は潰れないと思う。

Q:
音楽にはインディーズがあるわけで、書籍にも自費出版がある。それらは今後も「マイナー」か?

A(川瀬):
世の中の常で、インディペンデントから出発し、まずは出版の機会、配信の機会を求めて、ただでも良いから読んで欲しい、聞いて欲しいと願う、そのようなことは出版の歴史でもずっとある。ではそうした人たちは「メジャー」になっても一生涯、無料でいいとはならない。著作を趣味にしている人やサラリーマンなら良いだろうが、会社やめてそれで食べていこうとなれば対価が必要となる。インディペンデントにはその売り方があり、考え方もあるだろうが、それはネット時代だから、というものではない。
A(安藤):違法流通対策だが、総務省では放送番組について業界と協力しようとしている。投稿サイトの影響で放送業界は経済的損失を被っているといっている。しかし財務省に話をすると、権利者に負担して貰えばいい、となる。この対策をどの省庁が所管してしっかりやるのかというと、正直良くわからない。少なくとも懇談会の時には全く議論にあがらなかった。

Q:
コンテンツを持つ人が強い、という話は確かだと思う。権利者、と呼ばれる方々が、技術やシステムの整備について、どの様な要求を述べられているのか。

A(安藤):
詳しくは議事録をご覧頂ければおわかり頂けるのではないか。出版社の権利付与については権利者の間でも割れている。「作家の意図」をしっかり表現してくれること、これは出版社も言っていた。統一フォーマットについても、シャープとボイジャーの統合の実現性に議論があった。

Q:
EPUBの拡張は非常にいいな、と思った。この国際化はどの様に考えられているのか。また、中国語、アラビア語等、の関係者との新しい技術の議論は無いのか。

A(安藤):
異字体、外字については出版社、作家の方が強く主張されていた。「外字・異体字が容易に利用出来る環境の整備」として課題となっている。国際標準化は、経済産業省が担当することになっている。英語以外の他の国については、台湾との連携なども聞いている。

A(三瓶、次回講師):
日本だけでやっていく、ということはもちろんない、単純な物だけでなく漫画などを含めて、来年の5月ぐらいには成果としたい。ドラフトは11月から何度か出すし、W3Cにもリンクして動いている。

Q:
自炊の話があったが、ヨドバシカメラのスキャナーコーナーで、裁断機が横に置いてあった。横にiPhoneでの自炊のやり方の本がおいてあった。自炊を代行する会社も存在する。それらは、電子媒体にして携帯したいというニーズではないか。

A(安藤):
ロングテールの部分は自炊もあるだろう。一方で、電子書籍でのヒット作は紙でも出版するなどシナジー効果も期待できる。音楽でもあるようだが、実際にそれがおこるかはわからない。

Q:
著作権の集中管理は、JASRACを目指すということか?

A(川瀬):
そこはまだ白紙。個人の意見としては、おそらくJASRACのような団体をつくるのは難しいと考えている。放送事業者が放送番組を二次利用するときに俳優の権利処理をする際、アルマという団体を通す。そこは実演家団体等に所属している、また所属していた俳優の権利処理を代行する。
もう一つの機能は、権利者不明の調査を代行することである。過去の作品を国会図書館がデジタルアーカイブ化して、一般に提供しているシステムがあるが、この例を見ると膨大な不明な権利者が存在しているのが分かる。不明権利者であっても文化庁の裁定を受ければ使えるが、膨大な事務処理が必要となる。そういうときアルマと類似の機関があれば、出版社が独自に面倒な処理をするということはならない。
権利者から権利を預けて貰い、権利を集中化して処理をするという機能、不明権利者を探索する機能があれば、直ぐには難しいとしても、ある程度実績を積めば,権利処理の円滑化にとってかなり大きな戦力になるだろう

Q:
電子書籍を出てきて、どこにどう影響していくかという議論を聞いてきた。しかし、現状の紙での出版について考えると、例えば学術書については出版が非常に難しくなっている。単価1000円だと1万部ないと出版できない、など。また非常に高い返本率、いったん返本されるとマーケットに出ない。そういう、紙の出版の現状の問題という物を捉えた上で、電子出版はどうかという問題は考えないのか。電子化で出版はしやすくなる。ダウンロードについては返本・在庫0で、価格は中抜で安くなる。今の問題を解決できるではないか、という発想にはならないのか。
さらに質問。紙から電子となっていくときに、どこに、スポットをあてるのか。著者と読者の権利が守られ、そこでWin-Winの関係が成り立てばいいのか。それで良いと思うのか、それとも、中抜によって影響をうける要素に配慮しないといけないと思っているのか、それとも思わないか。

A(安藤):
出版業界の経済的状況等々をレビューした上で議論したというわけではない。勿論、印刷業界、出版業界の方々はそれらをふまえて議論されている。前向きに捉えて、というスタンスで報告書はまとまった。スポットをどこに当てるのか、懇談会が行われた段階では具体化していない。従来のシステム、多様な書籍がどこに住んでいる読者にも提供される、ということが電子書籍でも実現するかが最初に設定した課題。値段については、検討外においた。Amazonの価格の話もあったので、あえて一切触れていない。しかし、ユビキタスな環境という点について異論はなかった。今後、中抜の影響で斜陽産業をどう救うかという課題にあれば、それは総務省の所管ではない。経産省が関わる中で、総務省がお手伝いしていく形になるのではないか。悪影響を誰が受けるか。印刷会社は膨大な設備を抱えている、この稼働率が下がった時に被るかも知れないが、むしろ、今、印刷会社には積極的な動きが見えている。書店も、強くファイティングポーズを示している。どこが勝って、どこが負けるのか、という面はまだ言えないのではないか。

A(川瀬):
産業を所管していないので、個人の意見を言う。電子出版は、紙の出版そのものに大きな影響を与えてくる。新しいビジネス、たとえばAmazonのように電子データから印刷して紙媒体で顧客に提供するビジネスが盛んになるかもしれない。流通形態そのもの、あるいは再販をどうするかの問題もあるが、そこはともかく、基本的には紙媒体による流通も作品の電子化が進む中でビジネスのあり方が変わっていく。個人的には、紙の流通と電子配信が相互に補完し合うのがいいのではないか。消費者は、一つの流通では、満足しないだろう。出版者が介在しない著作者と読者の関係がいいということであればだれもとめられない。しかし、著作者と読者の関係の中に出版社が介在することは意味があると思う。
作家にとって出版社のプロデュース機能も重要だ。出版社はどうなってもよいが、編集者はいて欲しい、という著作者側の意見も強い。アーティストは創作に集中してビジネスはわからないので信頼できる編集者・出版社にビジネスの部分を任せればいい、という方もたくさんいる。作家の先生自らが会社を興し、作品の利活用を自らの判断で行いたいという方もおられる。音楽の世界でも、アーティストでありプロダクションの会社の社長である人もいる。
しかし、今の出版社をどうするか、というのは別の話。かつてレコード会社のもっていた機能を、今は音楽出版社や芸能プロダクションが機能を担っているように、プレイヤーが変わる可能性はある。既存の出版社がうかうかしていられない状況になりつつあるのは事実だ。
著者の側に立って著作物が最大効率で利活用されるためのプロデュースをする、そういう能力に対するニーズはあるだろう。しかしそれが既存の出版社とは限らない。

スケジュール

月日:11月12日(金曜日)
時刻:18時30分~20時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館5201教室