ビジネス 情報通信の競争力を考える:OECDのレポートから海外と日本を比較する

特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム(ICPF)主催
IEEE TMC Japan Chapter協賛

概要

情報社会化とともに、情報通信産業の競争力が問われるようになってきました。その中で、わが国の情報通信産業はガラパゴス化している、との批判が繰り返し浴びせられています。一方、国民が情報通信の利便を享受し、新たな産業や文化を興すことのほうが重要で、情報通信産業の輸出動向などマイナーな問題だ、という指摘もあります。錯綜する議論を整理した上で、情報通信政策の在り方について考えるために、ICPFではこの春、「情報通信の競争力を考える」と題するセミナーシリーズを、IEEE TMC Japan Chapterに協賛いただいて、開催することにしました。
5月のセミナーでは、文部科学省科学技術政策研究所の奥和田久美氏に「IEEEに見る電気電子・情報通信分野の研究動向:日本と世界のトレンド」と題して講演いただきした。奥和田氏は、日本の研究開発は世界の潮流から外れており研究開発の段階からガラパゴス化している恐れがある、との厳しい指摘をされました。
第3回のセミナーでは富士通総研の根津利三郎氏と湯川抗氏に「OECDのレポートから海外と日本を比較する」と題して講演いただきます。OECDでは、産業・経済・社会に関わる各国比較のレポートを多数発行しています。その中で日本はどのように位置づけられているのでしょうか。日本の特徴はどこにあり、課題は何でしょうか。
両氏から興味深いお話しがうかがえる機会です。皆さま、ふるってご参加くださるようご案内いたします。

議題

スピーカー:根津利三郎氏、湯川抗氏(富士通総研)
モデレーター:山田肇(ICPF理事長・東洋大学経済学部教授)

配付資料

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レポート

講演の要旨
根津:

OECDが定期的に発行している”OECD Communications Outlook”に基づいて各国の動向を紹介する。各国とも、家計の中での通信費の割合が伸び続けているが、伸びのほとんどはモバイルである。日本と韓国を除けばFTTHは普及していない。各国がFTTHに熱意を持たない中、日本はブロードバンドに政府が巨額の直接投資を行ってきた。これはオーストラリアと日本だけの傾向である。モバイルでも日本と韓国以外では2Gから3Gへの切り替えが進んでいない。FTTHと3Gをあおったが需要が出なかったのが2000年前後に起きた通信バブル崩壊の原因である。

日本は通信機器の輸出が減り続け、ネットでは輸入国と位置付けられている。情報通信産業の競争力は著しく低下している。NTTは依然として大きなR&D投資をしているが、これは各国キャリアの中では特異である。NTTの技術を機器メーカーに移し、機器メーカーが輸出するという構造は崩れている。NTTもメーカーも特許出願では頑張っているが、競争力には結びついていない。

これからはセンサーを多用するスマート技術が重要になるだろう。スマートグリッド、スマートヘルス、クラウドコンピューティング、といった技術が関心を集め、人と人よりもものとものが通信する時代になりつつある。そのようなスマート技術をビジネスにしていく牽引車の一つとしてベンチャー企業に期待したが、日本にはベンチャー資金が圧倒的に少ない。NTTもR&Dに直接投資するよりもベンチャー資金を提供するほうがよいのかもしれない。

湯川:(講演資料のPDFを提供)

日本はインフラで世界一である。しかしインフラは競争力にもイノベーションにも結びついていない。イノベーションはベンチャー企業が起こすもので、ベンチャー投資が少ないのが日本の課題である。とりわけわが国ではITベンチャーへの投資はほとんど行われていない。

今後のインターネットビジネスとして、アメリカの投資家はモバイルインターネットに注目している。その流れの中で、日本のミクシィ、楽天に関心が集まっている。これを産業競争力に結び付けていく政策が求められる。

その観点では、NTT再編や「光の道」に関する政府議論は瑣末なこと、と感じられる。高速モバイルブロードバンド大国を目指すために何を議論すべきかを整理しなければならない。

議論の要旨:

モバイルキャリアビジネスに関わること:

LTEは4Gか3.9Gといった議論もあるが、それはともかく、ほとんどの国は2Gから直接LTEへ飛ぶのではないか。3Gを経て飛んでいくのは日本と韓国くらい。日本はよく言えば順を追った、悪く言えば一歩余分なステップを経ている。違った発展形態をとったことで、ガラパゴスという批判が起きているとも言えるだろう。

「各国で3Gが遅れた原因はオークションか、オークションで資金ショートしたのが問題だったのではないか」という意見と「オークションはそう悪いモノと思っていない。制度が悪かったと考えている人は欧州にはいない。見込み違いが起きただけだ」との意見が交錯。「オークションで疲弊したはずのボーダフォンやTモバイルは成長して利益を一杯だしている一方、DoCoMoは海外進出に及び腰だったが、最近、インドに行ってオークションで電波を手に入れた」との指摘があった。

モバイルへの消費者ニーズについて:

ユーザーニーズ不在で、需要が無い状態でオークションをかけるというのは問題だ。各国ともiPhoneやiPad等の台頭で、今まさにモバイルへのニーズに気付いた。それがLTEへの高い関心にもつながっている。

2000年代前半に、他国の消費者は会話とSMSができれば満足していた。そこに焦点を当てて、発展途上国に最初の通信手段として売ることで利益を得るノキアのような会社もある。日本はそこに対応しなかったが、輸出できない理由である。

DoCoMoの技術は進んでいる。技術は進んでいても世界展開で失敗している。それは経営陣が諸外国での展開を考えていなかったからであり、そもそも日本のマーケットだけで十分と考えていた。国家としてはこれは確かに損失だが、その辺りの意識改革をしない限り、技術論をどうやっても世界展開へ繋がらない。

DoCoMoで、海外での事業はどちらかといえば+αのビジネス。海外投資に対する回収はなされなかったが、経営の問題には問われなかった。ビジネスモデルの問題もある。月1ユーロなら払う、と人に日本のサービスコンテンツが見合うのか。ビジネスモデルも併せて考えなければ失敗する。おサイフケータイのビジネスモデルも日本国内だけで成り立つ。あれだけの投資をする人は欧米にはいない。

アントレプレナーシップについて:

日本にアントレプレナーシップ心を持った人がいるのか。数字以前に、日本の若者と、アメリカや中国の若者を比べたら、マインドは違うのではないか。日本人は目先のことをやっていると評価される。ロードマップがあり、その通りにやっていれば評価される、その中では画期的な技術やサービスは出てこない。日本が成熟してしまった弊害ではないのか。

たしかに、グローバルアントレプレナーシップ調査で日本はきわめて低い。起業と就職が同じリスクなら、起業するひとが多いだろうが。リスクマネーが流れ込んでくれば、変わってくるのではないか。

日本に適した起業方法について:

ビクターは会社に内緒でビデオを、オリンパスは課長が家を売って自分のお金で胃カメラを開発した。今の時代、そうしたことはむずかしいかもしれない。

アメリカではベンチャーやる人は学歴が高い。日本はトップレベルの技術者はトップ企業にいる。だからカーブアウトした方がいいかもしれない。

カーブアウトにも企業がある程度サポートするというのが、日本には適しているだろう。そうでないと、わが国では、無限責任という厳しい条件下で挑戦しなくてはならない。

詳細

月日:6月25日(金曜日)
時刻:18時30分~20時30分
場所:東洋大学白山キャンパス5号館5201教室
テーマ:「OECDのレポートから海外と日本を比較する」
スピーカー:根津利三郎氏、湯川抗氏(富士通総研)
モデレーター:山田肇(ICPF理事長・東洋大学経済学部教授)
参加費:2000円(ただしICPF会員は無料です)