法律 日本の情報通信政策:情報通信法に関わる動向

概要

百年に一度の危機ともいわれる今、経済の建て直しのために改めて情報通信に各国の関心が集まっています。そこで情報通信政策フォーラム(ICPF)では平成21年度上半期セミナーのテーマを「情報通信政策」に定め、連続して取り上げていくことにしました。第2回は進行しつつある『情報通信法に関わる動向』について、総務省の谷脇康彦課長に話していただくことになりました。

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<スピーカー>谷脇康彦氏(総務省国際戦略局情報通信政策課長)
<モデレーター>山田肇(ICPF事務局長・東洋大学経済学部教授)

レポート

PART1 日本の情報通信政策の現状

情報通信産業は全産業の約1割の売り上げを占める。また、景気の良し悪しにかかわりなく経済成長を牽引する効果を持っており、いわば各産業の成長のためのエンジンとなっている。また、図表1の通り、主要各国においても、ICTを経済対策の戦略分野と位置付けている。

図表1 アメリカ、イギリス、フランス、韓国の説明(クリックで拡大)
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1.ICTビジョン懇談会

日本はブロードバンドインフラの整備の面では世界を一歩リードしている。しかし、ICTインフラの利活用は低調。こうした中、地上デジタル放送への移行により「完全デジタル時代」を迎える2011年から2015年頃までを展望し、「ユビキタスネット社会」をさらに発展させていくための総合的なICT政策のビジョンを検討することを目的として、総務大臣の主催により開催されたのがICTビジョン懇談会。

ICTビジョン懇談会ではスマート・ユビキタスネット社会の実現を議論。ICTを意識しない、水や空気のように利用できる利用者本位のICT利活用を強調する意味で「スマート・ユビキタスネット」社会を目指すとしている。

スマート・ユビキタスネット社会実現の上での重点戦略は四つの分野に渡る。

図表2 重点戦略(クリックで拡大)
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2001年に政府として決定したe-JAPAN戦略は、ブロードバンドインフラの整備に重点をあてていた。これに続く2003年のe-JapanⅡはICTの利活用に焦点をあてたものであったが、利活用は依然として進んでいない。医療分野では、7つの疾病しか遠隔医療が行えない。テレワークも労災の適用関係などが明確でなく進んでいない。e-TAXの利用率も、税理士の利用率は上がっているものの個人の利用は低調。こういった実態がたくさんある。ワンストップの行政サービスが提供できるために、原点に戻って取り組む必要がある。改めてICTの利活用を阻んでいる慣行や規制の見直しをやっていくことが必要。

2.霞ヶ関クラウド・ユビキタスタウン構想

電子政府にクラウド技術を適用することを目指す霞ヶ関クラウド。現状の電子政府関連予算は全体で6千億円だが、国民にとっては利便性が実感できないし、無駄も多い。例えば、給与計算の手続きは各省庁同じだが、システムは各省庁で別々というのが実態。これらの共通化による効率性の向上を図るだけでも効果は大きい。また、自治体についても、税制が変わるとなると、すべての自治体でシステム改修が必要だが、これがSaaS※1を活用した自治体クラウドを構築すれば、財政難の地方自治体の効率化が期待できる。今回の補正予算では関連施策で202億円を確保。今年度中に国民電子私書箱※2の構築に向けた基本構想を政府としてまとめる方針。

※1 SaaS…software as a serviceの略、通常のソフトウェアと異なり、利用者が必要な機能だけ、対価を支払いソフトウェアを利用する形式。ダウンロードして自分の端末で利用したり、クラウド上で利用したりする。

※2 国民電子私書箱…政府の電子政府構想における窓口というべきサービス。「希望すれば、国民(及び企業)の一人ひとりに対し、電子空間上でも安心して年金記録等の個人の情報を入手し、管理できる専用の口座(国民電子私書箱)を提供し、幅広い分野で便利なワンストップの行政サービスが受けられる」。政府として今年度中に基本構想を取りまとめる予定。

ユビキタスタウン構想。これまでも地域ごとにICT関連の様々な実証実験が実施されてきたが、どれも面展開が可能な成功例に乏しい。地域の活性化、ユビキタス技術を使ったユビキタスタウンの横展開を行いたい。

3.デジタル放送への移行と空き周波数

アナログ放送の以降完了後の空き周波数の有効活用を考える。地デジへの移行は国民の負担の下で空いた周波数帯なので、国民がその利便を享受できるよう有効活用していきたい。

図表3 デジタル放送への移行完了後の空き周波数の有効利用(クリックで拡大)
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具体的には、空き周波数をデジタル新産業創出へとつなげていきたい。こうした施策展開により、地方の情報発信力の強化、ICT産業の国際展開などに向けた取り組みを実現させていく。

4.IT戦略本部の動き

 

図表4 IT戦略本部の動き(クリックで拡大)
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図表4の通り、国のICT戦略の対象が4分野、7分野、15分野と次第に散漫となってきた印象は否めない。今回の新戦略では重点分野を絞り、ICTの利活用を中心に積極的に取り組みを進めてきたい。

PART2 通信放送の総合的な法体系

 

概要

まずなぜ総合的な法体系を検討するのか、その背景を説明したい。世界最高水準のブロードバンド基盤の整備とブロードバンド加入数の拡大が実現し、コンテンツのマルチユース化も少しずつ拡大、メディア・ソフト市場も1兆円近くまで発展し、コンテンツが多様な配信経路を通じて自由に流通する環境の整備を図ることによりコンテンツ市場の一層の拡大を目指すことが必要。

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市場構造の変化の一例としては、広告料収入の構造変化が生じており、インターネット広告は今後とも大きな成長が期待されるところ。

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市場構造そのものを見ると、IP化やブロードバンド化により、市場の統合化の進展が進んでいる。音声、データ、映像のネットワークが統合化するとともに、FMCに代表されるように、携帯と固定のネットワークの統合化も進展。IP化により通信サービスの距離の概念も失われる方向。このように、ネットワークとサービスの一対一の関係が薄れていく水平的な市場統合が進展。他方、ネットワーク、サービス、プラットフォーム、コンテンツ・アプリケーションの各レイヤーの機能分化とこれらを一体として提供する事業モデルの登場など垂直的な市場統合が進展。

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現在の法体系は、新たなサービスが生まれるたびに新たな法律を措置するという方向で整備されてきた。このため、サービスごとに法律が異なっている。

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先ほど述べたように市場が統合化し、サービスとネットワークの一対一の関係が薄まるのにあわせて、法体系についても大括り化の方向で検討する必要がある。ただし、法体系の大括り化によって全体としての規制水準が上がることは回避すべきであると考える。現在9本の通信・放送関連法が存在しているが、規制緩和、規制の透明性の向上、経営の選択肢の拡大、安心・信頼性の向上、利用者・視聴者の保護といった観点から検討を進める。

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有線テレビジョン放送法などはハード・ソフト一致が前提。だが、電気通信役務放送法で同様のサービスを提供しようとする場合、通信ネットワークを用いて事業展開が可能であり、ハード・ソフト一致ではない。しかし、視聴者からみればどちらも同様のサービスに見える。縦割り型の法律では時代遅れになっていくだろうと考えており、基本的には事業領域を横に分けて大括り化していく方向性を考えている。

通称、竹中懇※3の提言を受け、通信・放送の在り方に関する政府与党合意、総務省の工程プログラムの公表などを経て、平成20年1月から情報通信審議会の下に通信・放送の総合的な法体系に関する検討委員会※4を設け、これまで19回に及ぶ審議を経て、今般、答申案が公表されたもの。

※3 通信・放送の在り方に関する懇談会…平成18年1月より開催され同6月まで、当時の竹中平蔵総務大臣のもと総務省に設けられた、通信と放送の融合時代における情報通信政策の在り方を議論する懇談会。座長の松原 聡氏による、ICPFシンポジウムでの講演レポートはこちら
※4 関連:ICPFシンポジウム「情報通信政策の課題」では同委員会の構成員、中村伊知哉氏による融合法に関する講演が行われた。レポートはこちら

具体的な中身については次図。左上に現在の法体系の抱える課題、右上に新たな法体系で実現を目指す方向性が描かれている。

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今回の法体系の見直しにより、答申案では9本の法律を水平的に再整理し、伝送設備・伝送サービス・コンテンツの3つの事業領域に整理することを提言している。その際、規制緩和によって全体の規制レベルを引き下げることを検討する。ただし、法律を一本にすることそのものが目的ではない。最終的に法律の大括り化がどこまでできるかという点については、立法技術論的な議論を必要とする。

EUの法体系においては、コンテンツ規律に関してリニアサービスとノンリニアサービスに分けられている。リニアサービス、つまり放送番組の提供についてはノンリニアサービスに比べて規律の程度が強くなっている。検討委員会の答申案ではリニアとノンリニアに分けてコンテンツ規律を適用するという手法をとることは想定していない。個人的には、この方法は少々硬直的ではないかと考える。アメリカについては通信・放送の融合・連携に関する法体系の在り方に関する議論はされていない。現在の連邦通信法は「章(title)」ごとに、情報サービス、通信キャリアサービス、放送サービス、CATVサービスなどに分かれているオムニバス法の体裁をとっている。韓国においては、昨年8月に放送通信委員会が法体系の見直しに着手し、放送発展基本法と放送通信事業法という基本法と個別法の2本立てにより、法体系の大括り化を進めていくと発表。国会において様々な議論が行われているところ。

新たな法体系の概要について、伝送設備規律、伝送サービス規律、コンテンツ規律の三つの事業領域に分けて、以下、そのポイントを解説したい。

伝送設備規律

まずは伝送設備規律。現在の制度では放送業務用の無線局を電気通信業務に用いることができないなど、放送用の無線局と通信用の無線局は完全に分かれている。今回の見直しにおいては、通信・放送両用の無線局を認め、柔軟なサービス展開ができるようにすることを目指している。ただし、放送用の無線局で放送をほとんどやらないで通信にのみ用いといった本末転倒な事態を避けるための措置は講じる必要がある。またITUにおける国際的な周波数割り当て規則を破ることは出来ないので、国際法規の範囲内で柔軟な適用を検討していく。

電波利用の柔軟化という観点からは、ホワイトスペース※5の活用についても今後検討していく。本来の目的とは異なる目的にも周波数を活用しようというホワイトスペース。技術的には、移動しながら周波数(チャンネル)を切り替えていくことにより、例えば放送用の周波数の一部を通信サービスに用いることが考えられるところであり、今後、実証実験を重ねていく中で技術的課題の検証を進めていきたい。なお、アメリカにおいては、2008年11月、既にFCCがホワイトスペースの利用を認めるR&Oを採択している。

※5 ホワイトスペース、FCCの見解については平成20年度ICPFシンポジウムKevin Werbachによる講演に詳しいほか、シンポジウム「周波数オークションの制度設計」においてもテーマとして取り上げた

次に技術基準については、事務局である総務省が新たな技術基準の策定を提案し、情報通信審議会において審議する。こうした仕組みの透明性を向上させる観点から、技術基準について広く提案を求める制度の創設や、今後の技術基準策定のロードマップを示す技術基準策定計画の導入を検討する。

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電波の柔軟利用を進める観点から、免許不要局の見直し(規制緩和)を検討し、携帯電話の基地局に包括免許ができないかなどの検討を行うことが提言されている。

伝送サービス規律

伝送サービス規律については、現在の電気通信事業法を核として制度の大括り化を図る。その際、外形的には伝送サービスに該当する受託放送役務、有線テレビジョン放送施設者に対する施設の使用の承諾義務、有線放送電話について、今回の答申案で見直しの方向性を示している。例えば、受託放送事業者は委託放送事業者に対して伝送サービスを提供しているが、公共性のある放送サービスを提供する委託放送として総務大臣の認定を受ける仕組みになっており、委託放送事業者は受託放送事業者に対してのみ役務を提供する義務があるなど、一般の伝送サービス規律のすべての規定を適用することは不適当であり、個々の規律ごとに適用の是非を判断することとしている。

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チャンネルリースについては運用実態が少ないことに加え、同様のサービスは電気通信事業法の枠組みの中で提供可能と考えられるため、チャンネルリースの義務付けを廃止し、電気通信事業法を適用することが提言されている。

有線放送電話については施設数も大幅に減少してきていおり、社会的な意義を果たし終えたと考えられる。このため、有線放送電話についてのみ特別な規律を維持する意義が失われてきていることから、「有線放送電話に関する法律」を廃止し、一般の伝送サービスの規律を適用する方向性が示されている。

CATVの施設設置については許可制が採られている。これはCATVが地域独占を前提として成り立っており、視聴者に広くサービスを提供していくことを担保する観点から許可制によって事前審査を行う仕組みがとられている。しかし、電気津新役務利用放送法の枠組みの下、通信ネットワークを用いて同様のサービスを提供することも可能となっており、地域独占という根拠が成立しないエリアも出てきている。このため、有線テレビジョン放送法の施設設置の許可制は廃止する方向で検討する。

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最近もいわゆる放送中止事故が発生している。放送サービスの安全・信頼性を確保するための制度整備を検討する。具体的には、放送用設備の維持義務を整備するとともに、無線局につちえ技術基準に適合していない場合、技術基準適合命令によって是正を求めるという仕組みを整備することを検討する。現在の仕組みでは技術基準に適合していないと、電波の発射停止や無線局の運用停止命令という制度しかない。こうした制度の見直しを進めていく。

また、公益事業特権の在り方についても見直しを検討する。これまで通信事業については、道路占用の義務許可など公益事業特権が法律上認められている。他方、有線放送については国土交通省の通達レベルで認められている。放送については公益事業特権は認められていない。今回法体系の大括り化を進めるにあたり、こうした公益事業特権を放送・有線放送まで拡大することについても、関係府省と調整をしていくという方向性が示されている。

コンテンツ規律

コンテンツ規律については,メディアサービスという概念を取り下げ、あくまで放送という概念と名称を維持しつつ、放送法を核として放送関連4法の制度の大括りを図ることとしている。また、一定の目的を有する放送には現在の放送普及基本計画のような枠組み(基本計画)の対象とすうこととし、地上放送、BSとCS110度の3つについて、この基本計画の対象とすることが提言されている。

放送事業における経営の選択肢の拡大を図る観点から、すべての放送において、放送施設の設置と放送の業務の両方を一の事業者が行うか、複数事業者で分担して行うかについて、事業者が選択して申請できる制度を整備する。

その際、地上放送については、放送施設の整備等のインセンティブが損なわれることを防ぐ観点から、放送施設の設置者(あるいはそれと一定の関係を有する者)が放送の業務を行うことを希望する場合には、他者への放送施設の提供よりも、その希望が優先されるよう、放送施設の設置者と放送の業務を行う者との関係に配慮した措置を講ずる。

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放送事業者には番組調和原則が適用されているものの、番組の種類分類の情報開示については、報道、教育、教養、娯楽、広告などの番組分類ごとにどの程度の番組が流されているのかについては、一般の視聴者に情報開示がなされていない。このため、今回の答申案では、番組種別の考え方と実際の番組種別ごとの放送時間・比率を開示する義務を課す方向で検討することとされている。そこで議論になってくるのがショッピング番組。あくまで放送の自主自律の原則に基づき、放送事業者の間で検討を深めていただく必要があると考えている。

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マスメディア集中排除原則については、関係者の意見などをよくお聞きしながら、その見直しもありえるというスタンスで臨んでいきたいと考えている。

放送番組をCATV事業者が再送信する制度については、難視聴地域を総務大臣が指定し、そこで義務的に地上放送をCATV経由で視聴できるようにする「義務再送信制度」がある。これまで適用された事例はないものの、この制度が存在することで難視聴解消に向けた自主的な取り組みが進んでいる面もあることから、引き続き維持する。また、放送事業者とCATV事業者との間で同意に基づき再送信する「同意再送信制度」の中で、総務大臣による裁定制度についても、引き続き維持する。

インターネット上の掲示板などの公然性を有する通信コンテンツ(オープンメディアコンテンツ)について、規制を行うのか否かについての議論があった。しかし、違法・有害情報対策については、本年4月から施行された「青少年インターネット環境整備法」において民間部門の自主的な取り組みを尊重し、国はこうした民間部門の取り組みを支援するということとなり、また、この法律施行の状況をみて3年後に見直しを行うこととされている。

したがって、オープンメディアコンテンツに関する規制については、あくまで民間部門の自主的な取り組みの進展およびその成果を見守っていくこととし、新たな規制を導入するという方向性ではない。

特殊会社に関する規律を総合的な法体系の中でどう位置づけるかという議論については、NTTに関していうと、2010年にNTTの在り方について改めて検討を行うこととされており、NTT法は大括り化の対象とはしていない。

また、NHKについては、ハード・ソフトの手続きを別々にするという流れの中で、ハード・ソフト別々の行政手続きを行っていただく。ただし、放送用の無線局の通信への利用などの業務拡大の在り方については。公共放送としてのNHKの位置付けに関する議論が必要であり、慎重に検討することが求められよう。なお、NHKに関する規律をNTT法のように単独で外に出すのかという議論もあったが、現在も放送法の中に存在している規律であり、放送法を核とするコンテンツ規律からあえて外に出す必要はないという方向性が示されている。

質疑応答

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質問者:最初に融合法制が議論されていたこと、言われていたことは、通信と放送の区別がなくなる、といった融合のニュアンスが強かったように思うが、現在の議論では放送も残るという形なのか

谷脇氏:放送の概念と名称は残す方向性。将来のことはわからないが、少なくとも現時点で見通せる範囲において、放送という概念は残る。ただし、通信・放送の両用的、あるいは境界領域的なものが市場の統合化の中で多数出てくると考えられることから、法体系の大括り化を進めることとしている。

質問者:同じく以前の議論では、コンテンツ規制について、(規制の有り無しは)社会的な影響力を尺度とするという融合的な議論だったが

谷脇氏:過去にはそういう議論もあった。しかし、今回の答申案では「メディアサービス」という概念を取り下げ、既にある「放送」という枠組みを核として考えるという方向に軌道修正している。

質問者:NTT法と放送法は残る?

谷脇氏:放送法を核としてコンテンツ規律を再統合していくので、放送法は残る。NTT法については大括り化の対象ではないので、これも残る。

質問者:NTT法について残すということは決まりと考えていいか?

谷脇氏:今回の総合的な法体系の見直しは来年の通常国会に法案を提出することとしている。他方、NTTの在り方については2010年の時点で検討することとされているため、法案提出のタイミングと合わない。

質問者:つまり、9本をなくした上で新たな法律を作るというわけではなく、変えていく、ということか

谷脇氏:あくまで9本ある法律を可能な限り大括り化していくということ。

質問者:中村伊知哉氏が一番最初に提言した話(9本を1本の法律とする、といった最初期の案)とは違うが

谷脇氏:法律を一本にすることが目的ではない。あくまで水平的に事業領域を再整理し、それを法律としてどこまで集約できるかということ。

質問者:法律は一本にまとまらないということか?

谷脇氏:現在の9本よりは確実に減ることになる。放送関連4法だけでも、大括り化によって1本になる。繰り返し申し上げるが、1本にするかどうか、あるいは何本になるのかというのは本質的な議論ではない。1本だときれい、というだけでは議論にはならない。

質問者:コンテンツ規制について、総務省が皆を規制する側に機能していいのかという視点があり、民放連にコンテンツの割合について決めてもらいたいとあったが、その辺りを、民間でもってやっていいのか否かは大事なところではないか。公共の尺度と営利の尺度は大きく違う中、どういう形でバランスをとるのか、そのなかで制度に盛り込まれていかないと偏りが出るのではないか。民間だけ、総務省だけでなく、どの辺りを落としどころとしてやっていくのか、その辺り、議論はどのようなものがあるか伺いたい。

谷脇氏:民放連では作業部会を作ってショッピング番組の取り扱いについて検討を進めていると聞いている。他方、消費者団体の話を聞くと、放送局がやっている番組だから安心して買ったがとんでもないものが届いた、そこで苦情を言ったら放送局は私たちがやっているのではない、と言われたという苦情もある。関係各方面の幅広い意見を踏まえて、かつ放送の自主自律の中で結論を出していただきたいと考えている。総務省がこうすべきと決める問題ではないと思う。

質問者:かつて光公社という考え方があったと思うが、NHKについても、そういう構想があってもおかしくない、そうすればユニバーサルサービスも提供できるはず。今までのNHK、NTTとは変わるかもしれないが。

谷脇氏:90年代後半に光公社の議論があったが採用には至らなかった。市場メカニズムとの関連で様々な議論があった。ユニバーサルサービスをどのような形で確保していくのかというのは大変大きな問題。しかし、今回の総合的な法体系に関する検討ではあくまで制度の大括り化を目指すものであり、ご指摘の点までは踏み込んでいない。

質問者:ハード・ソフト分離のコンセプト、配信する側は光ファイバーが普及すると乗り入れしやすい。経営形態として成り立つのかがベースとしてあって、公共放送の経営の基盤を失う恐れがあるのではないか。ただ単に技術論で分けられるという話ではなく、国民の資産としてある仕組みと、技術論と、将来的に日本という国の議論の中で成り立つ話としなくてはならないのではないか

谷脇氏:ハード・ソフト分離で光を使いコンテンツを流していくというのは、現在の枠組みでも可能。従って、今回の法体系の見直しでさらにブロードバンド網を介した放送コンテンツ配信が促進されとは必ずしも言えない。ただし、ハード側が定額料金制をとっている中、ブロードバンド加入者の数が一定の水準に達すると収益の向上は見込まれなくなる。また、放送コンテンツは電波で流すより有線で流す方が経済理論的には効率的であるというネグロポンテ・パラドックスがどこまで実現するかも今後の検討課題の一つだろう。

質問者:地方の情報力発信。たとえば熊本県の放送局が熊本にしか番組を提供できない。IPマルチキャストを地デジに準じて県域で縛る矛盾もある。

谷脇氏:現在のIPマルチキャスト放送では、IPには本来ない制約を課している。これは、様々な調整の過程の中でそうなっているもの。今回の答申案でも放送対象地域、すなわち県域放送の在り方についても必要に応じて見直しを行うという提言になっている。ケーブルテレビが自分の局でお祭り情報を流す場合を考えてみると、自局エリアの地域住民には全然珍しくない。そこで、ネットワークを通じて全国にコンテンツ配信すれば観光客の誘致などにもつながるだろう。県域免許に加えてとマスメディア集中排除原則についても、具体的な要望などがあれば検討していくという方向は答申案にも書かれてある。

質問者:通信と放送の枠組み、これは歴史的経緯でそうなっているだけで、現状の法律体系が適切とはいえない。現在のせっかくのチャンスを利用し、電波で流したからこう、資源が限られているからこう、といった、そもそも現在カテゴライズされるに至った根拠まで遡った形でやらないと、やはりこの先登場するであろう、新しい技術の登場に結局対応できないのではないか。将来登場するであろう技術に対する法律を作る姿勢として、基本的な哲学はこうである、ということを言って頂きたい

谷脇氏:基本的にはどこまで将来を見通すのかということかと思う。あくまで現時点で見通すことができる技術の可能性を下に、こうした技術を用いたサービス実現を阻害しないような柔軟な法制度にしていくということが必要であると思う。将来想像もできなかったような技術やサービスが出てきて、法制度を見直す必要が出てくるとすれば、それはそれで、その時に必要な見直しをすればよいと思う。

質問者:放送の定義だが、「公衆によって直接受信されることを目的として、無線通信または有線電気通信の送信を行うことをいい」といった公衆送信の定義、これは変える?

谷脇氏:変えない前提で議論している。

質問者:著作権の議論については別途に行う?

谷脇氏:放送の概念については維持するが、放送コンテンツなどの著作権法上の取り扱いについて検討が必要になる可能性があるが、この点はまだ文化庁とも話を始めていない。

質問者:電子政府がこれまでにうまくいっていない理由は?

谷脇:電子政府が実現する中で既得権益が失われる事に対するおそれがあると思う。電子政府を実現する上で必要なのは、こうした既得権益を廃し、推進する強力なリーダーシップだろう。各国とも電子政府でよいサービスを提供できているのに、日本はブロードバンド基盤はあるのに何も電子政府で便利になった実感がないというのでは恥ずかしい。これが最後のチャンスだという意気込みでやらなくてはと考えている。

質問者:お役人の方々がすべき仕事に集中して達成感を味わえる環境をつくらなくては。電子化で余った人材を切るのでなく、日本のためにこういった仕事をするという絵を描いてそこに携わるという環境作りも併せて考えていくべきではないか

谷脇氏:電子政府の構築・運営には年間6千億円もの予算をつぎこんでいる。我々の試算では、年間約3割、つまり1千8百億くらいはコスト削減できると考えている。政府がクラウドの世界で本気でやるんだということを見せることが肝心。国民電子私書箱構想とあわせて年度内に基本構想をまとめたい。

質問者:電子政府のラストチャンス、という言葉は非常に興味深いが、法人コードを合わせるというのは各種手続きの中では非常に有効と考える。たとえば電子メール、スケジューラ、こういうエリアもクラウドの活用としてある。ただ、今のアメリカの連邦政府CTO(最高技術責任者)にGoogleといった企業の人間を引き入れコストを削減できたという議論がある中で、政府がやることの効率性などの議論はどうか

谷脇氏:米連邦政府全体のCTOに就任したアニーシュ・チョプラ氏、彼に強力な権限があることは大きな意味がある。日本でも政府全体のCIOを速やかに設けて、そこに権限を集中させるべきだろう。また、ワンストップ行政サービスを実現するためには番号制度についても避けて通れない。アメリカには社会保障番号(SSN)が存在している。日本の場合、住基ネットを使ってどこまでいけるかということがある。しかし、オーストリアは総背番号がないにもかかわらず電子政府が実現している。住民が個別に持っている番号をハッシュ関数で暗号化して各システムと紐付けする仕組みであり、これは日本でも利用で可能な考え方ではないかと思う。

質問者:国際競争力、世界に先駆け何かをやる中で、無線の利用を自由にするとかホワイトスペースの議論も正しいと考えるが、一点、ITUのルールを守る、この観点だけ引っかかる。ITUのルールに対しすべて従順になるのではなく、一部ではITUのルールをこう変えていくべきだ、と提言をしていく勢いが必要なのではないか。

谷脇氏:ITUで決まっているのは国際的な周波数の割り当て。もちろん必要ならルールを変えていくということも必要だろうが、ルールを破ってでも自由にするという考え方は採れない。他国からの電波干渉に対して国際法規を遵守することで国際的な紛争解決が可能。ルールを破るとこうした法益を失うこととなり、結果として国益を損なうと思う。

質問者:電波利用の柔軟化。オークション、用途を決めないで自由に使ってくれ、というアプローチ、この辺りに関する記述がない。周波数オークションについてはなくなったと考えていいか?

谷脇氏:無くなったというか、総務省としてはオークションについてはかなり否定的。経済産業省さんなどはやりたいと考えていると思う。(会場より笑い声)アメリカでもオークションをやっていない周波数について電波利用料を導入する検討を開始した。電波オークションの是非そのものも含め、電波の経済的価値をどのように算定し、その負担をどのように担うことがもっとも経済的にみて合理的であり、また、その手続きはどのような方法が効率的かつ現実的なのかという議論は、引き続きしていく必要があると考える。

質問者:毎年電子政府6千億、昔からクラウドやSaaSはあったわけで、最初からそれをやらず、今回またクラウドに移行するに際しお金がかかるといった話は、如何なものか

谷脇氏:クラウドをベースとした電子政府の実現で3割程度の経費削減が可能となる。クラウドへの移行は十分に予算を講じるだけの根拠があると思う

質問者:今回の一連の話で、イメージする端末は何か?PCか?オープン化が進んで日本のガラパゴス携帯、日本独自、世界で通用しない実態、オープン化が進む、アンドロイドなど、そうした中で、電子政府にアクセスする端末がPCであるのであれば、通信会社が収益を高めたいと考える中で、通信事業者が、若者はPCを使わないで携帯を使うという文化がある中で、何で利活用をすすめていくか

谷脇氏:垂直統合や水平分離の議論の中で、端末のあり方も今後大きく変わっていくだろう。iPhoneの事業モデルはネットワーク中抜きの垂直統合モデルであり、キャリア主導のかつての垂直統合モデルとは違う。端末とプラットフォーム・コンテンツの一体型のモデルだろう。通信ネットワークはある意味何でもよいという世界、さらに上位レイヤーからクラウドサービス事業者が収益を獲得しようと攻め込んできているというのが実態。通信事業者の狭い社会に閉じてプラットフォームをクローズにしていくのは得策ではない。むしろ、通信キャリア間で手を組んでプラットフォームの連携強化を図ることが必要なのだが、なかなかそういう動きにはなってこない。我々も実証実験などを通じて、こうした動きを促していきたい。

質問者:ネットワーク中立性の議論は?

谷脇氏:ネットワークの中立性の議論は各レイヤー間の公正競争を確保していく上で重要な考え方であり、ICTビジョン懇の報告書で競争政策の基本原則として記述している。なお、法制度の答申案はあくまで法制度についてのものであるので、ネットワークの中立性の議論は出てこない。上位レイヤーにドミナンスが発生した場合にどこまで規制が必要かという点についても考える必要があり、その際、独禁法の領域となるかどうかの検討も必要になる。しかし、独禁法の世界では市場画定をまず個別事案ごとに行うことが必要だが、上位レイヤーの市場画定はとても難しい。しかし、それがドミナント指定の最低条件であるので、勉強は続けていかなくてはならないだろう。

レポート監修:山田 肇
レポート編集:山口 翔

スケジュール

<日時>
6月25日(木曜日)18:30~20:30

<場所>
東洋大学・白山校舎
<資料代>
2000円 ※ICPF会員は無料(会場で入会できます)